【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第032話】握られる心理、信頼と待機(vsMA-Ⅰ)

 観客席にて。

いきなり劣勢に追い込まれたお嬢を案ずるハオリとジャックは会話を交わす。

 

「……やはりこのジムのルールはお嬢様には不利に働くようですね。」

「そうだね。アタシは最初に『アタシの言うことを聞くな』ってポケモンたちに言っておいたから切り抜けられたけど……多分トレちんのポケモンにそれは酷だろうね。」

 

 ハオリの言う通り。

確かにお嬢のポケモンもある程度は戦況の自己判断が出来るが、やはりトレーナーの指示なしでは限界があるだろう。

よく言えば彼らの間には信頼が築かれている……悪く言えば依存しきっているのだ。

果たしてこの大きな足枷がどう働いていくのだろうか。

 

「行きなさいッ……ラビフット!」

「みみみっ……!」

お嬢が2匹目のポケモンとして選出したのはラビフット。

相手がはがねタイプであることを考慮すれば当然の選択と言えよう。

『……次ハホノオタイプノポケモンデスカ。相性デハ大幅ナ不利デス。』

MA-Ⅰは駆動音を鳴らしつつ、悩むような動作を見せた。

 

 しかし実際に劣勢なのはお嬢の方である。

残りポケモンはまだ3匹いるが、うち1匹は相性で大きく不利なマネネ、もう1匹はほぼ戦力外のカジッチュである。

つまりこのラビフットは願わくば3匹……最低でも2匹以上を倒さないとこの勝負はほぼ負けが確定してしまうのだ。

速いところギギギアルと決着を付けなくてはマズい。

 

 逸るお嬢はすぐにラビフットへ攻撃の指示を飛ばす。

「よし……ラビフット、『エレキボール』ッ!」

「みみっ……!」

ラビフットは足元に電気を帯びた光弾を生成すると、ストレートキックでギギギアルのど真ん中にシュートを決める

あのギギギアルの中でも動きが機敏なのはヘッドギアのみ……本体の動きはそこまででもない。

つまり、ヘッドギアの攻撃の射程外から本体を狙撃すれば安全にダメージを与え続ける事ができる……お嬢はそう考えたのだ。

事実、その考えも悪いものではなかった。

 

 だが残念、このギギギアルも近接攻撃しか出来ないわけではないのだ。

『……間合イノ外カラノ攻撃ヲ確認。ギギギアル「ギアチェンジ」デス。』

「Kililili!」

『エレキボール』がギギギアルの中心部に着弾しようとするその間際。

なんとギギギアルは全身のパーツを全てキャストオフしてしまったのである。

ギギギアルの身体があちらこちらに霧散して弾け飛ぶ。

 

「なっ……!?」

回避行動としてはあまりにも奇抜過ぎる。

霧散したギギギアルは高速で飛翔してラビフットの周囲に集まると、やがて彼を挟み込むようにして再集結しようとする。

スムーズな流れで『ギアソーサー』に持っていこうとしているのだ。

「みみっ……!?」

このままでは挟み込まれて大ダメージを受けることは必至である。

しかしお嬢の回答は早かった。

 

 すぐに彼女はラビフットに簡潔な指示を飛ばす。

「左水平方向に『ブレイズキック』ッ!」

「み……みみっ!」

指示のとおりにラビフットは水平に『ブレイズキック』を打ち込む。

その先にあったのは最も小さなギギギアルのパーツ……そう、ヘッドギアである。

ギギギアルは多くのパーツを所持するが、その中でも攻撃に用いられるのはヘッドギアと本体のギアのみ……うち軽量なヘッドギアの方のみを止めれば一気に攻撃の威力を殺すことが出来るのだ。

「Kilili……!?」

「み……みっ……!」

ラビフットの右足とヘッドギアは鍔迫り合いをするが、相性の効果も相まって押し切れたのはラビフットである。

 

 ヘッドギアは再び遠方に吹き飛ばされる。

これにてギギギアルは再び隙を見せる運びとなったのだ。

『……質問デス。次二アナタガラビフット二取ラセル行動ハ?』

ここでMA-Ⅰからの質問が投げかけられる。

しかし答えはこの最適解一択……変更の余地も沈黙の必要も無い。

 

「行くのよラビフット!コアの部分に『ブレイズキック』ッ!」

「みみっ!!」

ヘッドギアを蹴り飛ばしたラビフットは、その反作用を生かして流れるようにコアへと左の膝蹴りを叩き込む。

『……受ケ止メナサイ。「ダメおし」二ヨル反撃デス。』

「Kililili!」

ギギギアルは本体をラビフットに向けるようにして防御の姿勢を取る。

当然大ダメージを受けてしまうが、弱点であるコアの部分を攻撃されるよりはマシ……といった感じだろう。

「Kilili……!」

「みっ……!」

本体にはダメージが入ったが、コアに届いていないため決定だとは言い切れない状況だ。

ラビフットは再び左足を鍔迫り合いに使うこととなる。

 

 ……しかしラビフットには脚は2本ある。

そう、右足は自由なのだ。

『……!』

「行くわよラビフット!『エレキボール』ッ!」

「みみーーーーッ!」

ラビフットは左脚を支点にした状態で右足に『エレキボール』を装填し、直後に発射する。

この至近距離で『エレキボール』を回避することは不可能だ。

至近距離で放たれた光弾は見事にギギギアルのコアを撃ち抜いた。

 

「Kililili!?」

『……ギギギアルガ、ヤラレタ……?』

そう、ギギギアルの戦闘不能だ。

流石に弱点攻撃を2回と急所ヒットがあればいくら頑丈なポケモンでも倒れずにいるのは難しいだろう。

 

「……っし!よくやったわラビフット!」

MA-Ⅰはボールにギギギアルを戻す。

握られたボールを見つめると独り言をつぶやき始めた。

『……ナルホド。持テル力ヲ最大限二発揮スルニハ全身ヲ無駄ナク使ウコト……良イデータガ得ラレマシタ』

MA-Ⅰは駆動音を鳴らし、先程までの戦闘データを自身の脳内に記録する。

そしてセーブを完了すると、すぐに次のボールを懐から取り出して遠投した。

 

『デハ、オ願イシマス……レアコイル。』

「Mgnnnn!」

MA-Ⅰ側の2匹目のポケモンはレアコイル……電磁気の力と3つのユニットを操り戦う無機物系のポケモンだ。

ギギギアルに続いて独特の体型を持つポケモンであり、お嬢にしてみれば戦いづらいことこの上ないだろう。

 

 だが相性上は決して不利な戦いはならない。

先に動き出したのはMA-Ⅰ側である。

『コチラガ待ツ道理ハ有リマセン。先制デス。レアコイル、「ロックオン」デス。』

「Mgnnnn!」

レアコイルはユニットを分離すると、耳障りな高音を鳴らしながら視線を動かす。

眼球の照準をラビフットへと合わせる動作……誰がどう見ても明らかに攻撃をする構えだ。

 

『発射デス。「でんじほう」。』

「Mgnnnn!」

『でんじほう』は砲撃系の遠距離攻撃……喰らってしまえば大ダメージは必至の遠距離攻撃だ。

であればラビフットがとるべき適解は1つだ。

「ラビフット、『あなをほる』で地中に逃げなさい!」

「みみっ!」

自身に狙いが向けられたと察知したラビフットは直下の床にドロップキックを食らわせ、すぐに地中へと退避する。

 

 レアコイルからは巨大な電磁気を帯びた砲弾が放たれたが、着弾までかなりの大きな時間の余裕を持った上でラビフットはそれを回避する。

流石に地中にまで砲撃系の攻撃が届くことはない。

 

 ……そのお嬢の考えは完全に誤算であった。

なんと砲弾は通常ではありえない軌道を描きながら曲がっていき、ラビフットが掘り進んだ穴を追尾していったのだ。

「なっ……!?」

そして閉鎖空間の地中にて、『でんじほう』は無情にもラビフットへ直撃する。

「みみっ………!?」

高威力の攻撃の直撃……ラビフットに大ダメージだ。

 

「『ロックオン』からの『でんじほう』とは……エグいことするねぇ。」

「えぇ。『ロックオン』は相手に照準を合わせ、次の攻撃を状況に関わらず必中させるわざです……高威力の『でんじほう』を確実にヒットさせるためのムダのないコンボと言えるでしょう。」

外野の2人は状況を整理する。

そう、このレアコイルの驚異はそこである。

どのようにしても不可避の攻撃を仕掛けてくる点だ。

 

『サテ……ラビフットハ穴ノ中二居ルヨウデスガ、果タシテドコカラ仕掛ケテクルノデショウカ……』

MA-Ⅰとレアコイルはフィールドの床を注視する。

『ロックオン』の効力は一回きり……つまり次の攻撃を仕掛けるためにはもう一度ラビフットを視認する必要があるのだ。

『……ソウデスネ、トレンチ様。今ラビフットガドコニイルカゴ存知デスカ?』

「……知らないわよ!」

MA-Ⅰの質問に対し、お嬢はやや不機嫌な声で回答する。

 

 しかし直後、お嬢の座っている椅子には高電圧の電流が流れたのである。

「がっ……ぐああああっ!」

『知ッテイルケド答エナイ……ト。』

そう、お嬢はラビフットが潜んでいるであろう場所は把握していたのだ。

それでいて反撃を警戒し攻撃を渋っていた……という状況である。

 

 だがここで情報を吐いてしまってはレアコイルを倒せなくなる……そうお嬢は判断し、虚偽の回答をしたのである。

しかしこの電流を食らうのも2回目……決して身体の強くないお嬢に対しては大きな負担となる。

全身の動きが止まる時間も、先程と比べてかなり長い。

それでも尚ラビフットは、お嬢を信じて穴の中で待機し続ける。

 

『埒ガ明キマセン。レアコイル、『きんぞくおん』デス。』

「Mgnnnn!」

レアコイルの周囲から、不快なノイズが入り混じった金属音が大音量で放たれる。

聞くもの全ての耳を劈くほど醜悪な音だ。

特に閉鎖空間の地中ではその不快さは乗算的に増加する。

 

「みっ……みみみっ……!」

だがラビフットは耐える。

耳を折りたたみつつ、それでも尚反撃のチャンスを伺う。

しかしその間にもラビフットの身体には耐久力ダウンのデバフが蓄積され続けるのだ。

今は睨み合いの状態だが、この戦況がどちらかに傾けばひっくり返るのは一瞬……そのトリガーはお嬢の手に握られているのだ。

 

「………ッ!」

『オ目覚メデスカ。サテ、ドノヨウニ動クノデショウ……』

お嬢は痺れで震える右手を動かしつつ、次の指示を出す。

「……ら……ラビフット……そこよ、地上に出なさい!」

「みみっ!」

待ちかねたラビフットは頭上を蹴り破って地上へと浮上する。

その場所は………

 

 なんとレアコイルから大きく離れた場所……フィールドの端の壁際であった

「なっ……!?」

「そこは足元じゃないんですか!?」

外野の誰もが驚く。

当たり前だ。

定石どおりであればレアコイルの真下から蹴破って攻撃を仕掛けるものである。

しかしラビフットが現れたのは思いっきり蹴り攻撃の射程外……一切のアドバンテージが取れない場所だ。

 

『……理解ガ出来マセン。コレデハ格好ノ的デス。レアコイル、「ロックオン」。』

「Mgnn!」

レアコイルは再度、遠方のラビフットへ照準を合わせる。

これで次の攻撃はラビフットに対して必中……敗北はこれにて決まったようなものだ。

 

 しかしそのような状況であるというのにお嬢の表情は変わらない。

お嬢は飛び上がったラビフットに次の指示を飛ばす。

「そこの壁に『ブレイズキック』!」

「みっ……!」

ラビフットは右足に炎を充填すると、真後ろの壁を真横に蹴り飛ばす。

炎をエンジンのようにして、空中を飛ぶように直進していく。

だがこのような動きをした所で『でんじほう』を回避する事はできない。

 

 やがてラビフットは減速し落下していく。

そこへお嬢から立て続けに次の指示。

「……そこよ!地面にもう一回『ブレイズキック』!」

「みみっ……!」

2段キックの2発目を、落下した地面に叩きつける。

そして方向転換によって立ち向かっていくのは……そう、レアコイルの方角だ。

「Mgnn!?」

まさか自分の方に攻撃が飛んでくると思っていなかったレアコイルはやや反応が遅れる。

 

『……怯エテハナリマセン。「ブレイズキック」ヲ短時間デ放テル回数ハ2段ガ限界デス。ツマリラビフットはレアコイルに攻撃デキナイ!』

まさにMA-Ⅰの分析どおりだ。

このままラビフットがレアコイルに立ち向かった所で攻撃を加えることは出来ない。

その前に自身を追尾している『でんじほう』が直撃してダウンしてしまうのが関の山だろう。

 

 ……そう、『自身を追尾しているでんじほう』に。

ラビフットはレアコイルに飛びかかると、ユニットの1つをホールドして大事そうに抱える。

「Mgnn!?」

「あ……まさかッ!?」

ジャックはその行動を見て、お嬢の取ろうとしている策に気づいた。

「そのまさかよ!ラビフット、絶対レアコイルを離すんじゃないわよ!」

「みみみっ……!」

そしてその直後であった。

巨大な『でんじほう』がラビフットに炸裂する。

凄まじい破裂音を鳴らしながら、周囲に電気を帯びた火花が散らばる。

 

 高電圧の電磁気は耐久力の大幅に下がったラビフットを貫通し、抱きかかえられているレアコイルにも大ダメージを与えたのである。

「みみっ……!」

「Mgnnn……!」

ラビフット自身が『ロックオン』で追尾されていることを逆手に取ったお嬢の作戦だったのだ。

両者は多大なダメージを受け、戦闘不能となってしまった。

『ナルホド……追イ詰メラレタガユエノ自爆攻撃……実二合理的デス。戦況ヲ冷静二分析シ策ヲ講ジルソノ無情サ、素晴ラシイ!』

「っ……!」

MA-Ⅰはあくまで純粋に褒め称えるが、お嬢にはそうは聞こえなかった。

彼女とて、好き好んで自爆的な戦法を敢行したわけではないのだ。

 

 だが、何度も電撃を浴びているせいで思考力が落ち、そこに言い返すほどの気力は残っていなかったのである。

「サテ、試合モ既二折返シデス。更ナル境地ヲ私二見セテ下サイ……。」

「ッ………」

ラビフットとサダイジャを失ったお嬢は顔を曇らせる。

それもそのはずだ。

もう既に残っているのはマネネとカジッチュのみ。

数の上ではイーブンだが、相性のせいで事実上お嬢がチェックメイト一歩手前なのだ。

大きく不利に傾いたこのバトルの後半戦。

果たしてお嬢はどう動くのか……。

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