【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
「ほぉ……やっぱあのマネネで間違いないようだな。ダフっちの言うとおりだ。」
物陰からお嬢とMA-Ⅰのバトルを見つめる者は独り言をつぶやく。
「良いねぇ……俺は結構気に入ってるぞぉ、トレンチちゃん。」
暗闇に浮かぶのは、薄気味悪い笑みである。
ーーー一方で件のバトルは既に終盤に差し掛かっていた。
「最後ノポケモンデス……オ願イシマス、ジュラルドン。」
「ガギーーーン!」
MA-Ⅰが最後のポケモンとして呼び出したのはジュラルドン……軽く且つ硬い身体を持つポケモンだ。
手首を回転させ、顎を鳴らしながらマネネの方を見つめている。
当然だがこちらもはがねタイプのポケモン……マネネにとって天敵であることに変わりない。
やはり早期決着を心がける必要がある。
お嬢はそう考え、先手を取るべくマネネに攻撃の指示を飛ばす。
「行くわよマネネッ、『サイケこうせん』ッ!」
「まーーーねねっ!」
再度正面からの砲撃……最もシンプルな攻撃で相手の出方を伺う。
『コノ攻撃ハ受ケラレナイ……避ケナサイ、ジュラルドン。』
「ガギギ!」
ジュラルドンは図体に見合わぬほど高くジャンプし、『サイケこうせん』を回避する。
「……ライトメタルでしょうか。にしても身軽です。」
そう、ジュラルドンの特性は自身の体重が大幅に軽減される『ライトメタル』……約1.8mの体長に対してなんと総重量は20kgにも満たなくなるのだ。
そして飛び上がったジュラルドンは空中にて1回展をすると、足をマネネの方に向ける。
『攻撃デス、「ボディプレス」。』
「ガギーーーン!」
ジュラルドンはマネネの方を目掛けて一直線にドロップキックを仕掛けてくる。
「マネネ、避けっ……」
だが残念、間に合わない。
重力よりも速い『ボディプレス』は無情にもマネネに直撃する。
「まねっ……!」
メタングのパンチのときよりも高度があったはずなのに、それより圧倒的に早くジュラルドンは落下してきたのだ。
『ボディプレス』は重力や揚力などの外的な力に影響されずに自身の防御力を速度に変換して突撃するわざ……ゆえに鋼鉄の身体を持つジュラルドンにとっては凄まじい速度を持つシールドバッシュと化すのだ。
幸いマネネには相性の関係でそこまでのダメージは入らない。
しかしマネネは物理的にジュラルドンに押しつぶされた……そのことが問題なのだ。
これは事実上の拘束状態、つまり移動は一切させてもらえないのである。
だがマネネの腕は運良く自由な状態にある。
おまけにジュラルドンはマネネを足で押しつぶしたまま動き出そうとしない……加えてコレは『サイケこうせん』で『こんらん』を誘発できる射程圏内だ。
これは反撃のチャンスだ。
お嬢はすかさずマネネに攻撃の指示を出す。
「行くわよマネネ!ゼロ距離で『サイケこうせん』!」
「ま……ねねーーーーっ!」
マネネはジュラルドンの足に触れると、再び『サイケこうせん』を接射する。
だがそこまで事が上手くいくわけがない。
MA-Ⅰが敢えて待ちの構えでいたのには理由がある。
『掛カリマシタネ……ジュラルドン、「ミラーコート」デス。』
「ガッギーーーーン!」
マネネが『サイケこうせん』を撃った直後、ジュラルドンの全身が紫色の光に包まれる。
そしてなんと、その直後にマネネがダメージを受けたのだ。
「ま……まねっ!」
「マネネ……!?」
確かに攻撃を撃ったのはマネネだが、ダメージを受けたのもマネネだ。
そしてジュラルドンは全くの無傷である。
「お兄さん、これって……」
「えぇ、『ミラーコート』は相手の特殊わざを反射するわざです。待つことで敢えてマネネに『サイケこうせん』を撃たせ、そのダメージをそのままマネネに与えたのでしょう。」
ジャックの推測通りである。
加えてコレを接射に対して行うことは最も効果的だ。
なぜなら対象であるマネネはこの反射された『サイケこうせん』を避けることが出来ない……加えて著しい近距離での被弾だ。
至近距離で『サイケこうせん』を食らうとどうなるか……既に読者諸兄はご存知だろう。
そう、『こんらん』状態を罹患する。
それはマネネとて例外ではない。
「ま……まねねねっ!」
「マネネッ!?」
マネネは錯乱し、自らを攻撃し始める。
千鳥足でふらつき、何かを薙ぎ払おうとするように自身の頭を床に叩きつける。
完全に自傷行為に走り出してしまっているのだ。
『次ハアナタガコノ罠二陥リマシタネ……』
「くっ……」
ただでさえ不利な対面なのに、『こんらん』状態になってしまったとあらば最早どうしようもない。
『サテ、ソロソロ終ワリニシマショウ……ジュラルドン、「てっていこうせん」デス。』
「ガギギ………」
ジュラルドンは顎を開くと、銀色の光を集めて攻撃の準備に入る。
『てっていこうせん』ははがねタイプ最強の奥義とも言われる大技……マネネが喰らってしまえば当然だがひとたまりもない。
お嬢は必死の呼びかけでマネネを呼び戻そうとする。
「マネネッ、お願い!目を覚まして!あんなの受けたらタダじゃ済まないわよ!」
「まねっ……まねねーー!まね?ねね……!」
マネネはなんとか身を起こしてふらつきながら歩き、お嬢の言葉を耳にしつつ周囲を駆け回る。
しかしやはりというか、完全には目が覚めきっていない。
挙動の一つ一つが危なっかしいことこの上ない。
『……装填完了、発射デス!』
「ガギーーーーーーン!」
ジュラルドンの口から凄まじいエネルギーを含んだ光線が放たれる。
光線は一筋の直線を描いてマネネに向けて飛んでいく。
「マ、マネネーーーーッ!」
万事休す………!
その時だった。
お嬢は声の限りに叫びだした。
「私はッ!!!!!!この勝負に負けたいッ!!!!!!!」
その叫び声はスタジアム中に響く。
「……は?」
「ちょ……え?」
『……ハイ?』
その声を聞いた誰もが困惑する。
いきなりお嬢が負けたい、などと素っ頓狂なことを言い出したからだ。
当然だがお嬢はこの勝負を勝利のために行っている。
つまりこれは虚偽の発言だ。
虚偽の発言……ということは……
「があっ……ぐあああああッ………!」
そう、お嬢の椅子に電流が流れ出す。
今まで以上に激しい電流が流れ、お嬢は苦悶の声を上げた。
「ま……まねっ!?」
その声に呼び起こされ、マネネは目を覚ます。
そして目が覚めたマネネは、自身の眼前に迫っている『てっていこうせん』の存在に気づく。
「ま、まねっ!」
危機を察知したマネネは即座にサイドジャンプで光線を回避する。
そしてマネネの背後で凄まじい光を伴った爆発が発生する。
間一髪ではあったがマネネの『こんらん』状態は治り、ギリギリで攻撃の回避に成功したのだ。
コンマ1秒前までマネネがいたその床は真っ黒に焦げ落ち、硝煙の香りと白煙が立ち上る。
「なっ……!?」
一瞬の間に起こった一連の事象は、お嬢以外の全ての人物の理解を置き去りにした。
そう、お嬢は自ら嘘を吐いて電流を受けに行くことでマネネを『こんらん』から正気に引き戻したのだ。
文章で書くと簡単そうに見えるかもしれないが、ハッキリ言って狂気の沙汰と言う他無い。
お嬢が苦痛に喘いだからといってマネネが正気に戻る保証はどこにもないし、仮に戻っても瞬時に回避の判断が取れるとも限らない。
加えて彼女は既に電流を食らうのは3回目……まともな人間が普通に精神を保てる限界はとっくに超えている。
事実、お嬢は全身の筋肉の殆どが硬直しかけており、言葉を紡ぐのもやっとという状況だ。
総じて言えることは、お嬢の狂気が凄まじいものだ……ということだ。
『考エラレマセン……何ガ一体アナタヲ……!?』
「っ……アタシは負けらんないのよ……ジャックのためにもッ……!」
お嬢の身体は殆ど動いていない。
それでもその目線だけは、確かに目の前のジュラルドンとMA-Ⅰをにらみつけるように見つめていたのだ。
「ほぉ……言うねぇあの子。」
「……え?」
ジャックははここで初めて知ることになった。
彼女が一体何を背負って戦っているのか、と。
瞬間、ジャックの表情が少しだけ曇る。
しかしその顔が誰かの目にとまることはなかった。
そしてお嬢は強張る全身に鞭を撃ち、マネネにわざの指示を出す。
「行くわよマネネ……『ものまね』ッ!」
「まねっ……!」
マネネはジュラルドンが直前に出したわざを習得する。
直前に出されたわざ……そう、『てっていこうせん』だ。
お嬢らがここまで『ものまね』を封印して待ち詫びた念願のビーム系攻撃……しかも大技のだ。
マネネは全身に力を込め、『てっていこうせん』を装填する。
その威力の凄まじさは先程攻撃を受けかけたマネネが一番良く分かっている。
『ッ……マズイデス、ソノ攻撃ハ……!』
「『てっていこうせん』ッ!行っけぇええええええええええええッ!」
「まーーーーねねーーーーーーーーーー!」
マネネがすべてを掛けた全力の砲撃が、ジュラルドン目掛けて放たれる。
光が空気を呑みこむほどの凄まじい攻撃が……。
「ガギーーーーーン!?」
『ジュ……ジュラルドン!』
ジュラルドンは飛び上がったものの回避が間に合わず、正面から『てっていこうせん』を受けてしまう。
これには流石に大ダメージを免れらない。
銀色の光が通り抜け、遅れて爆発音と爆炎が上がる。
やがて煙は晴れ、ダメージを受けて落下したジュラルドンの姿が現れる。
「ガ……ガギ……」
しかしなんとジュラルドンは傷だらけになりながらもギリギリの所で耐えていた。
攻撃を受ける直前で『ミラーコート』を貼ることで、ダメージの一部を軽減したのである。
しかしボロボロなのはマネネも同じだ。
『てっていこうせん』はその凄まじい威力の代償に、己の体力の大半を削ってしまう。
互いに捨て身の砲撃を1発ずつ撃ち合ったため、互いに満身創痍だったのだ。
『……教エテ下サイ、トレンチ様。アナタガソコマデシテ戦ウ理由ハ……?アナタガ言ウジャックトハ?』
MA-Ⅰはお嬢に問う。
彼女には理解できなかった。
ここまでして折れないお嬢のことが。
ここまでして諦めないお嬢のことが。
この質問に、お嬢は不敵な笑みとともに答えた。
「……っ、ジャックはアタシにとって大事な存在、目標であるチャンピオンよ!」
感電で固まった表情筋を無理やり動かし、お嬢は笑いかける。
何よりも確かで強かな笑顔であった。
……その直後。
お嬢の椅子に再び凄まじい電流が流れ出したのだ。
「がっ……ああああっ!?」
「まねねっ!?」
お嬢は嘘を吐いたわけでもないし、もちろん黙っていたわけでもない。
『ッ……ドウイウコトデスカ!?マサカココニキテ嘘ヲ……!?』
MA-Ⅰも困惑する。
彼女が電流を流したわけでもないようだ。
「……………。」
お嬢は俯いたまま動かなくなった。
「お、お嬢様ーーーーーッ!」
「トレちんしっかり!まだ勝負は終わってないよ!」
外野からジャックとハオリが語りかけるが、お嬢はうんともすんとも言わない。
だが彼女の意識はハッキリとしていた。
電流による限界を迎えたわけではない。
そう、ここで折れたのだ。
ここまで気丈に振る舞っていたお嬢の心は、この最後の電流で折れてしまったのである。
自身の感情を、意思を、『嘘』だと断じられたことで、脆く揺れていた彼女はついに崩れてしまったのである。
「ま……まねねっ……!?」
マネネが呼びかけるが、もうお嬢が口を開くことはない。
『……モウイイデス。私ニハアナタガワカリマセン!ジュラルドン「ボディプレス」デス!』
「ガッ……ガギーーーーンッ!」
ジュラルドンは飛び上がり、マネネに攻撃する。
困惑するマネネは回避が遅れ、そのままジュラルドンの下敷きとなってしまう。
「ま……ねね……」
体力の限界であったマネネは、ここで戦闘不能となってしまった。
「………。」
しかしお嬢は何も言わない。
文字通り、心ここにあらずだ。
やがて、動かなくなったお嬢の鞄からボールが転げ落ちて割れる。
中から出てきたのはカジッチュだ。
「りゅ………りゅっ!?」
カジッチュは当たりを見渡し、ここが戦場であるということを理解するとすぐさまリンゴの中に引っ込んでしまう。
そして一切動かなくなった。
『……モウ駄目ソウデスネ。戦意喪失デショウカ……。』
MA-Ⅰは勝負の実質的な終わりを悟ると、ジュラルドンに『ボディプレス』の指示を飛ばす。
「ガギーーーン!」
その場を一切動かない無防備なカジッチュは、一瞬にしてジュラルドンに押しつぶされる。
一発KOだ。
「そ……そんな……」
「お嬢様……!」
接戦を繰り広げたフウジジム戦は、一瞬にして決着が付いたのであった。
そう、お嬢の敗北という形で。