【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第037話】投げ込まれた虎口、のしかかる名誉

 昨晩のフウジジムでの一戦から一夜明けて。

スモック博士の車の中で一晩を過ごしたお嬢は、車窓から差し込んできた朝日によって目を覚ます。

「………っ此処は?」

「……まね?」

「おっ。おはようトレンチちゃん。」

お嬢たちが眠気眼を擦って外を見渡すと、そこは或るレジャー施設の広大な駐車場であった。

まだ早朝であるというのにも関わらず、多くの自動車が所狭しと詰め込まれている。

 

 

 

 更に遠くを見渡すと、観覧車や巨大なタワーマンション、ドーム状のバトルスタジアムがそびえているのが見える。

加えてネオンまみれのカジノの看板が昼間から煌々と輝いており、如何にも金持ち達が訪れそうな街……といった雰囲気だ。

周囲には見るからにナリの良い富豪や無駄に露出度の高い女性、他には素寒貧になったのか死んだ目で街を彷徨う人まで様々だ。

ここが欲望と退廃の街、ロメロシティである。

当然だが未成年のお嬢が来るような場所ではないし、ジャックがいれば絶対に足を踏み入れさせないだろう。

こんな場所までお嬢を連れてきて、果たしてスモック博士は何をさせようというのか。

 

 

 

「さて、行こうかトレンチちゃん。」

そう言うと博士は運転席から降りていってしまった。

「えっ……行くってどこに?」

「まね?」

お嬢の問いかけに、博士は少し間を開けて答える。

「ここで今日は小規模なバトルの大会があるんだ。トレンチちゃん、アレだろ?ずっと自分自身がバトルをしてきたけど、他人のバトルを客観的に見たことはないだろ?」

博士の言う通り。

お嬢はわずか2週間足らずの日数で、ほぼ休みなく多くの経験をしてきた。

しかしそれらは全て実戦であり、俯瞰的な視点でバトルに関わったことはあまりなかったのだ。

 

 

 

「でもアタシ……」

「ま、騙されたと思って見てみるといいさ。」

そう言って博士はスタスタと会場の方へ歩いていってしまった。

「え……えぇ……」

「まねぇ……」

その場に取り残されたお嬢は戸惑う。

しかしこんな危ない場所でひとりきりになるわけにもいかない。

お嬢は急ぎ足で博士の後を追うことにした。

 

 

 

 この後彼女が見るものが有意義か否かは誰にもわからない。

だが確実に、お嬢を驚嘆させるものとしては十分であった。

 

 

 

 

 

 ーーーさて、時を同じくして。

お嬢を追ってこの街にやってきたジャックは街中を捜索する。

流石にこの街に未成年のハオリを連れてくるわけには行かないので、ここから先は彼とそのポケモンたちで頑張らなくてはならない。

彼はポケモンたちの力を総動員してお嬢の居場所を捜す。

「……どうですかパルスワン、イエッサン。」

「くぅーーん……」

「みわ……」

残念ながら嗅覚には反応なし。

イエッサンもお嬢が歩いていた形跡などは発見できなかった。

 

 

 

 だがここでアーマーガアが帰還し、持ち帰った情報によって事態は進展する。

「アァッ、グアアアアッ!」

アーマーガアが指し示しているのは街の南東部にある『サボネアドーム』と呼ばれる建物……そう、本日バトル大会が開かれる施設だ。

この施設にてアーマーガアは、お嬢と思しき人物を見たのである。

「サボネアドーム……何故ここに?」

ジャックは慌てて走りだす。

何故ならそこはただのスタジアムドームではないからだ。

観客たちが優勝するトレーナーを予想して掛け金をつぎ込み、結果に寄ってその金が再配分される遊戯……つまりはギャンブルのための施設である。

当然だが治安がいい場所とはとても言えず、お嬢の身の安全は保証しかねる場所だ。

だからこそジャックは大急ぎで会場へ走らなくてはいけなかったのである。

 

 

 

 さて、なんとか会場にたどり着いたジャックは、ロビーや別フロアをくまなく走り回ってお嬢を捜索する。

彼女の身柄確保まであと一歩……とにかくお嬢に何かがあってからでは遅い。

気を揉まれながらジャックは奔走する。

 

 

 

 だがあまりに夢中になって走り回っていたからだろうか。

彼は廊下の曲がり角にて、メタボ体型の大男に衝突してしまう。

ぶつかったジャックはそのまま弾き飛ばされるように転倒してしまった。

「痛ッ……ハッ、申し訳ありませんッ!」

「ったく痛ぇな、気をつけ……ん?」

 

 

 

 大男は倒れたジャックの顔を見るなり、驚いたような様子を見せる。

「お……アンタはジャック選手じゃねぇか!随分久しぶりじゃねぇか!」

「あ……もしかしてセイタさん?」

二人は顔見知りであった。

この男の名前はセイタ、このサボネアドームのオーナーにして大会の主催者だ。

 

 

 

 ジャックはトレーナー時代、何度かこのドームで大会に出場したことがある。

その戦績は生涯無敗で、出る大会全てにおいて優勝をかっさらうほどのものであった。

それゆえ、主催者のセイタ氏もジャックのことはよく覚えていたのである。

 

 

 

「どーーこ行ってたんだよジャック選手!アンタがいなくなってから大分シケてたんだぜこの大会!」

「は……はは……それはそれは」

ジャックは苦笑いを浮かべつつ、なんとかこの場を立ち去ろうとゆっくりと後ずさりをする。

多少の懐かしさはあったものの、彼にはお嬢の捜索という急務が控えていたためだ。

だがそれを逃すまい、とセイタ氏はジャックの両肩をガッツリと掴む。

 

 

 

「いやいや分かってるぜ。アンタ、この大会で戦いたくなったんだろ。」

「え、ちが……」

「分かるぜぇ。チャンピオンの血が騒ぐ、って奴だろ?よしキタ。特例でアンタの飛び入り参加を認めよう!」

「あ……あの……」

セイタは一切ジャックの話を聞かずに事を進めようとする。

「そうと決まれば早速待合室にレッツゴーだ。さ、こっちだこっち!」

そしてジャックには弁解の余地すら与えられず、流れるようにセイタに連れ去られてしまったのである。

 

 

 

 

 

 ーーーそして更に時間は経過し、時刻は朝も遅い時間となる。

大会の開始まであと30分。

お嬢とスモック博士は椅子に座りつつ大会の開始を待っていたのであった。

「……スモックおじ様、なんだかここにいる人……怖いわ。」

「まね……。」

「まぁ元々脱法気味の賭博施設だからねここ……でも集まるトレーナーのレベルは確かだと思うから、見て損はないと思うよ。」

スモック博士はお嬢が誰かと視線を合わせないように細かく動きながらそう答えた。

 

 

 

 ……確かに博士の言う通り、この大会はそれなりの実力者が集まってくるアマチュア大会だ。

しかし『それなりの実力』とはいえ、大半の参加者は今のお嬢にかかれば大した事のない敵になるだろう。

それほどにはお嬢にはトレーナーとしての実力がついている。

絶対的な基準として、それは確かなことであった。

そのことを理解させる目的でスモック博士はこの大会をお嬢に見せに来たのである。

それで少しは自信を取り戻すだろうと。

少なくとも前よりは己の実力を客観視出来るようになるだろうと、そう考えて。

 

 

 

 だが博士は手元のケータイを見た瞬間、瞬時に青ざめる。

「……え!?」

「ど、どうしたの?」

彼が驚くのも無理はない。

気づいたら公式サイトの参加者名簿に、見知ったジャックの名前が追加されていたのだから。

 

 

 

 ここで同じように、サイトを見ていた会場の人々が徐々にざわめき始める。

「ちょ……これって……」

「どういうことだ……?」

「ジャックってあの『無敗のジャック』?」

 

 

 

 そして偶然上がった『ジャック』という単語はお嬢の耳にも飛び込んできた。

「え……?ジャック……?」

彼女は少し怯えたような様子でジャックの存在を探し回る。

しかし当たり前だが彼はどこにもいない。

 

 

 

 やがて巨大なスピーカーがキーンと鳴り、会場に実況者のアナウンスが流れ出す。

『えーー、チケットをご購入の皆様に緊急連絡です。なんと本日、飛び入り参加者がおりますため、特例でチケットの払い戻し・買い直しを認めます!なんとその参加者は10年ほど前にイジョウナ地方で圧倒的な強さを誇ったトレーナー・ジャック氏です!』

その音声が流れると同時に、会場からは物凄い声援が湧き上がる。

「うぉおおおおおおおおおおお!」

「ジャック!?嘘でしょ!?」

「唐突だな!だが構わん!」

あっという間にこの空間はジャックという過去の英雄に対してのコール一色で埋め尽くされてしまったのだ。

「ジャックだ!ジャックに10万賭けるぜ!」

「私は50……いや100万出す!もうこの大会の結末は決まったものね!」

観客たちは伝説に語り継がれる『ジャック』の存在に、既に理性を失いきってしまっていたのである。

 

 

 

「………ッ」

お嬢は改めてジャックの存在の大きさを知ることとなる。

彼女が背負おうとしていた名前の重みは、これまでに想定していたものよりも遥かに重いものだったのかもしれない。

「(……これはとんだ誤算だな。まさかこんな所でジャックさんの名前が出るとは……)」

博士はそう考えながら渋い顔を浮かべる。

 

 

 

『さてお待たせしました!早速ですが選手の入場ですッッ!まずは白コーナー、今大会は初出場、その実力は全くの未知数、レイン!』

会場からは再び歓声が上がり、その声に包まれながら青銀髪の少年が現れる。

お嬢もご存知のSD適合者の少年、レインだ。

「嘘ッ……レイン!?」

「……ご存じの方ですか?」

「えぇ………」

そう、よりにもよって彼女が悩む原因の一端となった人物・レインである。

 

 

 

「はぁ……僕に賭けた人が大幅に減ったらしいですね。まぁ良いですけど。それより……」

レインは目前の赤コーナーを凝視する。

そう、彼の目的はこの1回戦の対戦相手だ。

『さぁーーーーていよいよ本大会の大目玉!突如乱入してきた過去の英雄!ジャーーーーーック!』

そこから現れたのはスーツ服の銀髪の青年……そう、主催者の独断で強制参加させられたジャックだ。

彼は完全に困惑した表情で舞台へと上がる。

 

 

 

 ……が、目の前にいたレインの顔を見るやいなやその表情は一変する。

「れ、レイン様!?どうしてここに!?」

「………はぁ、それはこっちのセリフだよ。何?今更現役のトレーナーたちを蹂躙しに来た……って腹でもなさそうだな。」

彼らはスタジアムの上にて会話を交わす。

この当人のどちらも予想外であっただろう。

まさかこんな形で適合者同士の戦いが発生してしまうなどとは。

 

 

 

「……まぁいいや。大したこと無い雑魚ばっかでそろそろうんざりしていた所だ。アンタとなら楽しい勝負ができる……!」

レインは腕をまくり、意気込んでボールを構える。

その威信は若くして、それでも凄まじいものであった。

あまりの勢いに、目の前のジャックでさえ息を呑む。

この勝負……油断したら負けるッ!

 

 

 

「……わかりました。全力でお相手させていただきます。」

「ふふふ……さて、どんな勝負ができるかなッ!?」

2人はボールを構え、それと同時に実況者の合図が鳴り響く。

『それでは波乱の予想される1回戦ッ!ルールは3on3の勝ち抜き戦!レディ、ゴーーーーッ!』

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