【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
「ッ………」
観客席にて、お嬢は顔をしかめたまま観戦していた。
彼女の胸は痛む。
試合が進めば進むほど、得も言われぬ苦しみはその大きさを増すのだ。
それもそのはず。
ジャックが勝てば自分の背負った大義の大きさは更に増す。
レインが勝てば自身の目の前の脅威の大きさは更に増す。
どう結果が出たとしても、お嬢が救われることはないのだ。
ーーーーさて、一方で此方はスタジアム。
1ラウンド目が終わり、会場の歓声は徐々にヒートアップする。
そんな熱くなる会場と対照的に、優勢のはずのジャックの顔はひきつったままであった。
しかしレイン側は寧ろ勝負を本気で楽しんでいるかのような、薄い笑顔を浮かべている。
果たして追い詰められているのはどちらなのだろうか。
「ここからは僕も本気だ……行って来い、ジメレオン!」
「みゅいっ………!」
『白コーナーから登場したのはジメレオンですッ!レイン選手のめメンバーの中でもかなりの実力派だとお聞きしてますが果たしてッ!』
レインの次のボールから登場したポケモンはジメレオン……お嬢が以前苦しめられたポケモンである。
スピード勝負においてはかなりの実力者……同じく遠距離攻撃をメインとするイエッサンにとっては中々苦しい相手だろう。
2ラウンド目が始まるやいなや、レインはすぐに指示を飛ばす。
その動作には少しの迷いもない。
「先制で仕留めるぞ。ジメレオン、『みずでっぽう』だ。」
「みゅいっ!」
ジメレオンは膝を折り、指を前方に構える動作を見せる。
……そしてその僅か0.2秒後。
指から放たれた水圧銃弾がイエッサンに着弾した。
そう、一瞬にも満たないほどの僅かな時間で攻撃に成功したのだ。
その速度は、撃ち抜かれた本人の痛覚すらも置き去りにした。
「みわっ……!」
「は……速いッ!」
イエッサンは膝を折る。
既にダイオウドウとの戦いで傷ついていたイエッサンはここで力尽きたのだ。
初撃の防御すら間に合わなかったため、すげなく貴重な1匹を失ってしまったのであった。
『速すぎるぞジメレオンッ!あのチャンピオンのイエッサンを一撃で葬ったーーーーーーッ!』
「ッ……お疲れさまです、イエッサン。」
ジャックは唇を噛みつつ、イエッサンをボールに戻す。
目の前のジメレオンに対する打開策がまるで見当たらないのだ。
彼は悩む。
「……恐らく速さでの勝負は無謀でしょう。ならばッ……!」
そして編み出した結論はこれだ。
「グアアアアッ!」
投げられた2つめのボールから登場したのはアーマーガアだった。
速さで勝てないのであれば硬さで……というのがこの短時間でジャックの導き出した結論である。
「なるほど……確かにアーマーガアは厄介かもしれないな。」
そう呟くとレインはすぐに腕をかざす。
やられる前にやれ、という発想だろう。
クールな彼は意外なほどに逸っている。
レインの指示の直後……
「みゅいっ!」
ジメレオンは瞬時にアーマーガアの眼前に移動する。
初撃限定の超高速攻撃『ふいうち』だ。
回避は超困難……スピードが並のアーマーガアであれば当然、避けきることは不可能だ。
ジメレオンの拳がアーマーガアの腹部を直撃する。
『あーーっと有無を言わさぬ「ふいうち」がアーマーガアを襲ったーーーッ!』
「………!」
しかしアーマーガアはびくともしない。
確かに攻撃はヒットしたはずだが、ダメージが一切入っていない。
ジメレオンの手に返ってきたのは鋼鉄の冷たい感触だけだ。
「……そうか、『てっぺき』っ!」
レインの考察通り。
ジメレオンが高速で攻撃を仕掛けてくれることはアーマーガアも把握済みであった。
だからこそ、場に出てすぐ……そう、唯一の隙に『てっぺき』を使用することで受身の態勢を取っていたのだ。
先手を仕掛けていたのはジメレオンではない、アーマーガアの方だ。
「そこで反撃ですッ、『ボディプレス』ッ!」
「グアアアアアッ!」
『ふいうち』の直後でわずかに硬直するジメレオンの元へ、アーマーガアの弾丸の如き突進が直撃する。
この『ボディプレス』は自身の防御力の高さが推進力に変換される攻撃……『てっぺき』を使用した直後に当てれば絶大なダメージを叩き出せるのだ。
「みゅり……ッ!」
「ジメレオンッ……!」
ジメレオンは『ボディプレス』の攻撃を喰らい大きなダメージを受ける。
しかし吹っ飛ばされた直後、自身の尻尾を軸にしてバランスを取り、遠くに着地する。
身軽なジメレオンならではの、ダメージを軽減する防御術だ。
おまけに、あえて自ら飛距離を稼いだことで再度、一方的なジメレオンの間合いを作り出すことにも成功する。
近~中距離の攻撃手段しか持たないアーマーガアにとって、敵に遠方へと逃げられることはあまり好ましくない事態だ。
その上相手はジメレオン……遠距離からの狙撃であれば最強クラスのポケモンである。
「そこだッ……『みずでっぽう』ッ!」
「みゅい……!」
ジメレオンは再び膝を折り、指をかざす。
何が来るかが分かっていてもこの攻撃を避けることは出来ない。
速度差の限界上、これは揺るぎない事実なのだ。
なんとも歯がゆいものである。
しかし冷静なジャックは、そのことには開き直っている。
避けられないものを無理に避ける必要はない……と理解しているのだ。
「アーマーガア、『はがねのつばさ』で突撃ですッ!」
「グアアアアアッ!」
アーマーガアは翼を広げて前縁を硬化させると、真正面に向かって滑空しだす。
当然だが正面にはジメレオンの放った『みずでっぽう』攻撃がある。
ここに真っ向勝負で突っ込めば勿論アーマーガアは無事では済まない。
事実、風を切る音に混じり、高圧の水が弾け飛ぶ音が聞こえる。
突撃していくアーマーガアに『みずでっぽう』がヒットした合図だ。
「グアアアアアッ!」
だがアーマーガアの勢いが衰えることはない。
被弾したことを全く恐れずに突っ込んでいるのだ。
「バカな……当てたはずだろッ……!?」
レインは予想以上に勇猛な相手に驚く。
しかしアーマーガアが止まらないのにはちゃんとした理由があった。
『みずでっぽう』が貫いたのはアーマーガアの中でも最も弱点から遠い部位……そう、翼の前縁だ。
硬化させた非弱点の前縁を敢えて差し出すことで、『みずでっぽう』の威力を軽減させたのである。
「グアアアアアアアッ!」
被弾と引き換えに相手の間合いに突撃したアーマーガアは、ジメレオンを翼で斬りつける。
「みゅい……!」
「チッ……手強いッ……!」
レインは顔をしかめる。
どうやらジャックの読みが当たったようだ。
予想通り、アーマーガアはジメレオンが苦手とする相手である。
攻撃が当たったとしてもダメージがほぼ入らないのだ。
ダメージを受けたジメレオンはすぐさま距離を取る。
近距離戦ではアーマーガアに対して勝ち目がないからだ。
被撃からすぐに復帰し、遠距離から再びジメレオンは攻撃の構えに入る。
「行けジメレオン……水平に『みずでっぽう』だ!」
「みゅい………っ!」
ジメレオンは腕を同様に構えると、発射の間際に腕を真一文字に切った。
するとどうだろう。
『みずでっぽう』が空中で刃のようになって真正面へと飛んでいったのである。
速度をやや殺した代わりに弾のサイズを大きくし、広域に攻撃がヒットするようにアレンジしたのである。
「フフッ、アンタのイエッサンのマネさ。これなら本体への被弾は免れないッ!」
「ッ……!」
ジャックは焦る。
この短時間でレインは天敵に対する対策をしっかりと編み出しているのだ。
ただでさえ驚異的な敵は今この瞬間にも更に強大になっているのだ。
もう同じ手は通じない。
だが迷う時間はない。
ジャックはすぐに指示を出す。
「……アーマーガア、『ぼうふう』ですッ!」
「グアアアアアアアッ!」
アーマーガアは大きく羽ばたき、自身の周囲に高速の気流を発生させる。
その風邪が含む力は圧倒的であった。
『ぼうふう』は正面から水の刃を受け止め、更には正面方向に押し返したのである。
この刃が飛ぶ先は……そう、ジメレオンの方角だ。
「しまっ……」
レインはジメレオンに回避の指示を出そうとしたが遅かった。
巻おこった風のせいで、体重の軽いジメレオンは思うように動けなかったのだ。
「みゅいっ……!」
水の刃を受けた上に『ぼうふう』による追い打ちを食らったジメレオンは後方へ大きく吹き飛ばされる。
やがて壁へと叩きつけられたジメレオンはその場で気絶……戦闘不能となってしまったのだ。
『ジメレオンッ、敗れました!圧倒的だチャンピオンのアーマーガアーーーーーーッ!』
会場は更に盛り上がる。
トップクラスの実力を持つレインを相手取り、押しているジャックは誰の目から見てもまごうことなき強者であった。
誰も嘗てのが伝説の再来に湧き上がったのだ。
「いいぞジャックーーーーーッ!」
「流石よーーーッ、チャンピオン・ジャック!」
「「「「ジャック!ジャック!ジャック!」」」」
「……す、凄い……!」
お嬢はただただ驚嘆する。
あのジメレオンを、普段見知ったジャックとアーマーガアがほとんど一方的に倒してしまったのである。
自らが実力を知っている相手だからこそ、その凄さは身を持って知ることが出来たのだ。
……だからこそだろう。
どこかジャックが遠くに居るような気がしたのは。
盛り上がる会場を他所に、試合はいよいよ後半戦へと突入する。
「……フフッ、分かってはいたけど、どいつもこいつもジャックの名前ばかりだな。」
レインは鼻息混じりに笑う。
決して嫉妬や悔しさなどからくる笑いではない。
寧ろその顔は以前にもまして不敵なものとなりつつあったのだ。
そしてジャックの表情は更に青ざめていく。
この後の展開が予想できたからだ。
レインの切り札となるようなポケモンは別にいる。
彼は本気で自分に勝負を挑んできている……とあれば、最後のポケモンは自ずと決まってくるだろう。
レインはジメレオンをボールに戻すと、その笑顔を崩さずに最後のボールを構えた。
「……さて、ここからが本番だ。行けッ、ピカチュウ!」
「ジジーーッ!」
中から登場したのはやはりというか……そう、件のピカチュウだ。
お嬢の時と同じく、身体のサイズに見合わぬほどの威圧感を放っている。
「ッ……」
「グアッ……!」
ジャックもアーマーガアも、その存在に圧倒されて息を呑む。
そしてレインはシャツの右袖をまくり、迷うことなく自身の歯で噛みちぎった。
傷跡からは青白いスパークが破裂音とともに火花を上げ、ピカチュウも青白い光に包まれる。
両者は瞬く間に姿を大きく変えた。
切り札であるSDをレインは開幕でいきなり切り出したのだ。
『なんとッ、ピカチュウの姿が変わりました!コレは一体どういうことでしょうかーーーーーッ!?』
「なっ……何だよアレ……」
「メガシンカ……でもキーストーンがない……?」
先程までジャック一色であった会場は一気にざわめき、姿の異なるピカチュウに注目しだす。
誰もが前代未聞の現象だ、無理もない。
「や、やはり『適合者』というのは本当だったんですね……。」
「そうさ。この力の凄さはアンタ自身も良く分かってるだろ?……さて、行くぞピカチュウ。」
「ジジーーーーッ!」
ピカチュウの起こしたスパークが開戦を告げる。
ここから勝負は動き出すーーーーーー!