【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第040話】突き破った虚像、身勝手な偶像(vsレイン)

「……さて、行くぞピカチュウ。」

「ジジーーーーッ!」

ピカチュウが火花を散らし、完全に臨戦態勢となる。

 

 

 

 ジャックはこれまでで最も殺気に満ちた顔を浮かべる。

目の前に立ちはだかる敵……SDを発現させたトレーナーとポケモンの恐ろしさは嘗て同類であった自分自身がよく分かっているからだ。

生身で戦うには、まさしく殺しにかかる程の覚悟を抱かなくてはならない。

ジャックは強い意志と共に唾を飲む。

「……行きますよ、アーマーガア。」

「グアッ……!」

アーマーガアの一声が、開戦のゴングとなった。

 

 

 

「っ……。」

レインは首を軽く捻る動作をする。

すると直後、ピカチュウは短く電流を放ち、アーマーガアへと飛ばす。

目視を許さぬ猛スピードの電撃……『10まんボルト』だ。

一切のムダがない動作であり、そこに付け入る隙はほぼ無い。

お嬢のラビフットは以前、この攻撃にてノックアウトした。

 

 

 

 しかしそこは百戦錬磨のジャックとアーマーガア。

タダでやられるわけにはいかない。

「グアアアアッ!」

アーマーガアは目の前の空気を薙ぎ払うように左翼を大きく広げる。

すると前方目掛けて飛んでいった電流は、わずかに左側へと逸れる。

 

 

 

「っ……!?」

「ジジッ!?」

それを見ていた者からは、まるでアーマーガアが電流を払い除けたかのように見えただろう。

然し実際にはそうではない。

「……『はがねのつばさ』か。」

レインの推測通り、これはアーマーガアのわざ『はがねのつばさ』によるものだ。

金属のように硬化させた翼を払い、幾つかの羽根を遠方に飛ばすことでそれに避雷針の役割を果たさせた。

つまりは即席でデコイを作り出す、高等な防護術だったのだ。

 

 

 

「SDが発言するとポケモンとトレーナーは意識がシンクロします。つまり言語による指示を必要としない……!」

そう、だからこそジャックとアーマーガアは先に『はがねのつばさ』を装填しておくことで相手の攻撃を回避したのだ。

言語による回避指示では間に合わない……SDの脅威を知っていたからこそ出来る戦法である。

「ほう……分かってるじゃないか。流石は元『適合者』。」

レインは素直に感心する。

が、その表情から余裕が消えることはない。

当然だ。

相手の強みが分かったからといって、それが圧倒的なものであれば戦況が有利になることはない。

ピカチュウが圧倒的に強い、という事実は絶対に揺らがないのだ。

 

 

 

 おまけにこの回避術もネタが割れてしまえば同じ方法は使えない。

「どれ……もう少し派手なものを使うか。」

レインは再び、軽く首を傾ける。

するとピカチュウは今度はその場で飛び上がり、長く伸びた2本の尻尾を大きくスイングさせる。

 

 

 

 生成されたのは水の刃……みずタイプのわざ『なみのり』だ。

ジメレオンの使ったものよりもサイズが大きく、スピードも段違いに速い。

「避けてッ……!」

「グアアアッ!」

『ぼうふう』による防御は不可能と判断したジャックは、すぐにアーマーガアへ回避の指示を送る。

アーマーガアはすぐに真上に飛び上がり、ギリギリのところで水の刃を回避する。

 

 

 

 しかし水の刃はアーマーガアの真下にて破裂した。

そう、羽ばたきに寄って発生した風圧で砕け散ったのだ。

そしてその直後……

「グアアアアアアッ……!?」

「アッ、アーマーガアッ!?」

なんとアーマーガアはどこからか、謎の攻撃を受けたのだ。

まるで雷に撃たれたかのような……本当に突然の硬直と悲鳴であった。

ピカチュウ側も追加の攻撃をした様子はない。

となると導き出される結論はただ一つ……

 

 

 

「そうか……あれは『なみのり』だけじゃない!『10まんボルト』と同時に打ち出された攻撃……!」

「ふふっ、流石の彗眼だな。」

ジャックの推察通り。

『なみのり』の刃を『10まんボルト』で帯電させて発射することで、破裂時に多量の電気が放出されるように仕組まれた攻撃……いわば電圧爆弾とでも言うべきものだろう。

加えてわずかにでも濡れてしまえばより多大なダメージを受けてしまう……まさしく鬼のコンボと言うに相応しい技だろう。

 

 

 

「ガッ……グアッ……!」

墜落したアーマーガアはふらつく身をなんとか起こしつつ、まだ倒れまいと踏ん張る。

しかし先の攻撃は紛れもなく重症……ひこうタイプのポケモンが受けたでんきわざなのだから尚更傷は深い。

そしてアーマーガアが顔を上げると、目の前には……

「ジジーーーッ!」

全身に電気を帯びた状態で突撃してくるピカチュウの姿があった。

自らが多量の電気を放出しながら突撃するダッシュ攻撃……『ボルテッカー』だ。

 

 

 

「ア……グアッ……!?」

アーマーガアがピカチュウの存在を認知した時には、既に相手は脇腹を叩きつけて走り去った後だった。

地を駆けるピカチュウに遅れて音が鳴り、そこに被さるようにアーマーガアは気絶する。

アーマーガアは自身が倒されたことすら知覚できなかったのである。

 

 

 

「ッ……やはり強いッ……!」

『アーマーガア敗れたァーーーーーーッ!ジャック選手が現役時代から共に戦ってきた彼女がッ、敗れました!なんだこのピカチュウッ!?』

ピカチュウの強さは圧倒的であった。

分かっていたことではあるが、ジャックは改めてその身で恐ろしさを感じ取ったのだ。

何も出来ずに喰らい尽くされるような、そんな恐怖を……。

アーマーガアをボールに戻すその手は、震えて止まらなかった。

 

 

 

「ふふ……やはり僕とピカチュウのSDはチャンピオンにも通じる……間違いない、僕は強いッ……!」

レインは本気のジャックを圧倒したことで、満足げに口角を上げる。

湧き上がる高揚感……それは圧勝続きであった彼が、今まで感じたことがない感情であった。

彼は初めて、義務感とは別に本気の勝負を楽しんでいたのだ。

 

 

 

 しかしそれでも、会場の声援は相変わらずジャックを応援するもので埋め尽くされていた。

「負けるなジャックーーーーッ!てめぇに何万つぎ込んだと思ってんだ!!」

「そうだそうだ!チャンピオンの威信を見せやがれーーーーッ!」

勝手な怒号混じりの声援があちらこちらから飛び交ってくる。

『さて、これで両者残りポケモンは1匹ずつです!ジャック選手、ここからどのように逆転するのでしょうか!?』

実況の声も、最早ジャックの勝利を疑わない。

この勝負の高度さ、そして恐ろしさは既に常人の理解を超えている。

故に凡人の観客、第三者には全く伝わっていないのであった。

 

 

 

 その声はジャックに降りかかるプレッシャーをより強くした。

「……ッ」

だが彼とて1人のトレーナー。

一度引き受けた勝負を降りるわけにはいかない。

それに、ジャックは目の前の『適合者』レインの破滅を止めたいと願う者である。

故に彼は最後まで戦う。

 

 

 

「……ッ、行きますよ、パルスワンッ!」

「わわんッ!」

ジャックが最後のポケモンとして選んだのはパルスワン……ピカチュウと同じスピード自慢のでんきタイプだ。

相手のでんきわざのダメージを軽減させるためにも比較的賢明な判断と言えるだろう。

ピカチュウに比べればどのスキルも型落ちするが、果たしてそこをどう埋めるのだろうか。

 

 

 

「先制ですパルスワンッ、『ニトロチャージ』ッ!」

「わわんっ!」

パルスワンは身を縮めると、瞬間的に加速しフィールド中を駆け巡る。

自身の後脚の筋肉を激しく加熱し、爆発的な速度を生み出しているのだ。

 

 

 

「ジッ……ジジッ……!」

「チッ……」

ピカチュウは何度も『10まんボルト』を発射するが、全てギリギリのところで回避される。

電撃を当てようにも、対象が激しく動き回るせいで上手く照準が定まらないのだ。

ジャックの錯乱作戦がうまく行っているのである。

「わわわんッ!」

パルスワンはピカチュウから一定の距離を保ちつつ、フィールドを走り回り続ける。

 

 

 

 そしてパルスワンが空気の壁を突破し、衝撃波が走った時であった。

「わわんっ!」

パルスワンは急に右折をし、瞬間的にピカチュウの眼前へ走り抜ける。

長時間の助走によって音速を超えたパルスワンは、ついにピカチュウへ近接攻撃を仕掛けたのだ。

「ジジッ……!?」

「は……速いッ……!」

ピカチュウは一手遅れる。

サダイジャの奇襲すらも回避できたあのピカチュウが……だ。

 

 

 

「そこですパルスワンッ、『サイコファング』ッ!」

「わわーーーんッ!」

ピカチュウの喉元を、パルスワンの強靭な牙が捉える。

深く深く牙は食い込み、決してピカチュウを離そうとはしない。

「ジッ……ジジッ……!」

ピカチュウは藻掻いてパルスワンから逃れようとするが、残念ながら逃げること叶わない。

パルスワンの特性は『がんじょうあご』……顎を使った攻撃を使ったが最後、相手の事を何が何でも捉えて離さなくなるのだ。

 

 

 

「ピ、ピカチュウッ……くっ……あっ!」

レインは喉元を抑える様子を見せる。

それは明らかに苦痛に悶える人間の反応のソレであった。

そう、これがSDの弱点……トレーナーはポケモンと痛覚を共有しているため、負担もそれに伴って大きくなるのだ。

 

 

 

 当然、それは大きな隙となる。

「ッ……」

SDを起動させている時の苦しみを知っているジャックは、この状態のピカチュウを攻撃することを憚られる。

しかしこの好機を逃してしまえば、もうこの相手に勝てるチャンスは訪れない。

己の心を鬼にし、ジャックはすぐさまパルスワンに追撃の指示を出す。

「ピカチュウを離さないでッ……そのまま『ほうでん』ですッ!」

「わわーーーーんッ!」

パルスワンはピカチュウを捉えたまま、その場で体内の電気を全放出してピカチュウに接射する。

 

 

 

「ッ……さ……させるか……ッ!」

しかしレインの復帰は早かった。

……否、正確には復帰ではない。

ただただ自らの苦しみを抑えて立ち上がっているだけだ。

要するに彼は、己の意志によるやせ我慢のみで勝負をしているのである。

 

 

 

「ッ……!」

「……レ、レイン様ッ!」

ジャックは驚く。

それもそのはず。

目の前に立つレインはなんと口から多量の血を吐き出していたからだ。

加えて目も虚ろで顔色も青い……明らかにSDの悪影響が出ている。

誰がどう見てもまともな勝負が続行できる状態ではない。

ジャックはすぐにフィールドから大きな声でレインに告げる。

 

 

 

「レイン様、勝負は中止ですッ!今すぐ降りて下さいッ!このままでは……」

「黙れッ!!」

しかしレインはジャックの忠告を聞き入れようとはしない。

血走った目で、ただただ目の前の敵を睨みつける。

 

 

 

「これは僕とアンタの戦い……いや、その先のトレーナのための戦いだッ!ここで逃げるだと?ふざけるなッ!!」

「ッ………!」

レインのその強固な意志、最早『狂気』と呼ぶに相応しいものであった。

ジャックの背筋を走ったソレはは恐怖心を通り越し、悲しみにすら変わる。

何故だ、何故そこまで彼は戦おうとするのか……

ジャックには全くわからなかった。

 

 

 

「オラ何やってるんだジャックーーーーッ!」

「やっちまえーーーーッ!あと一撃だっ!」

おまけに観客は目の前で重症化するレインには一切目もくれず、己が欲に駆られるまま声を上げる。

「ッ………!」

取り残されたジャックは、ただただ自分の無力さに絶望するしか無かったのだ。

 

 

 

「僕は勝つ……勝つんだッ!………行くぞピカチュウッ!」

レインは大きく腕を振りかぶり、ピカチュウに思念で指示を送る。

僅かに動いたレインの口からは多量の血が吹き出るが、そんなことは最早本人ですら気にしない。

 

 

 

「ジッ……ジジーーーーーッ!」

ピカチュウは大きくしっぽを振り回す。

すると尻尾の先端はパルスワンの首筋をクリティカルに貫き、大きな水しぶきを上げる。

至近距離で放たれた『なみのり』……それは大ダメージを叩き出す凄まじい攻撃だ。

 

 

 

「わ……わんっ……!」

「パ、パルスワンッ!」

思わずパルスワンは捉えていたピカチュウを離してしまう。

その一瞬を突いて、ピカチュウは遠くにダッシュで逃げてゆく。

 

 

 

 そしてフィールド端の壁を蹴り上げると、その勢いで再び電気を纏い加速する。

離脱からのムダのない『ボルテッカー』への移行が、恐るべきスピードで繰り広げられたのである。

「ジジーーーーーーーッ!」

ピカチュウの全身が、鋭くパルスワンの喉元を貫く。

「わわっ……!」

先程の恨みを晴らすかのごとく、同じ部位を攻撃する周到さ……そのピカチュウの狂気はトレーナー以上のものだった。

 

 

 

 大ダメージを受けたパルスワンは、その場に倒れる。

「わわ………」

「パ……パルスワンッ!」

ジャックとレインの勝負はここに決着した。

結果は接戦の末、レインの勝利となったのだ。

 

 

 

『なっ……なんと、ピカチュウ!パルスワンをも倒しましたッ!この勝負、まさかのチャンピオンの敗北ッ!誰が予想したかーーーーーーーッ!?』

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……ど、どうだ……僕の………勝ちだッ……!」

レインは己の口元の血を拭いつつ、勝利の喜悦に笑顔を浮かべる。

しかしその表情はすっかり青ざめており、とてもじゃないが笑っているようには見えなかった。

その場に立つレインの脚はわなわなと震えていた。

 

 

 

「ふ……ふざけんなテメェーーーーーーッ!」

「負けてんじゃねぇよジャック!何がチャンピオンだクソがッ!」

「お前のせいで大損だーーーーーーーーーッ!」

会場からはジャックに賭けていたトレーナーたちの怒号が飛ぶ。

自らが盲信していた伝説の綻びに、無責任な怒りを顕にするのであった。

座席のあちこちから様々な物が投げ飛ばされ、スタジアムのジャックを攻撃する。

 

 

 

「…………ッ。」

その批判を浴びつつ、ジャックは言葉を紡ぐことが出来なかった。

自分の実力では、レインを止めることが出来なかったのだ。

ジャックは己の無力さを痛感しつつ、ただ黙ってその場を去るしか無かった。

 

 

 

 遠ざかるジャックの背中に向かって、レインが告げる。

「はぁっ……ど、どうだチャンピオン!僕は……僕は強いだろッ!」

全身の苦痛を抑えつつも、彼は勝ち誇ったように告げる。

それを聞き届けたジャックは歩みを止め、軽く振り返る。

 

 

 

 

 

「……レイン様。残念ながら私はチャンピオンではありません。」

ジャックは一言、そう告げた。

その一言はレインにとってあまりにも衝撃的であった。

「………ッ!?おい待てッ、確かにアンタはチャンピオン・ジャックだろう!?どういうことだ……おいッ!」

「……言葉のとおりです。『ジャック』は確かにチャンピオンです。が、私は違います。」

「……ど、どういうことだよ!?」

レインは全く理解が追いついてなかった。

目の前のジャックが告げた言葉は、あまりに頓珍漢で突拍子のないものあったからだ。

 

 

 

「それと、アナタはたしかに強い。ですがはっきりと分かりました。あのお嬢様が恐れるほどの敵ではない、ということも……。」

それがジャックの最後の言葉であった。

「………ッ!?」

その一言はレインの記憶にくっきりと刻み込まれ、一生離れることのない傷跡となった。

 

 

 

「ど……どういうことだよ……何で……何でアイツの名前が出てくるんだよ……ぐふっ!」

取り残されたレインは困惑し、戸惑い、そこでようやく己が吐き出した大量の血の存在に気づく。

無敗のチャンピオンに勝利するという快挙を成し遂げたはずの彼は、訳の分からない感情にまとわりつかれて動けなくなっていたのだった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー一方の観客席。

ここには試合の結果を見届けたお嬢がいた。

「………。」

彼女は震えている。

それは恐怖からか、絶望からか……本人ですら上手く表現するのは難しいものであった。

どのような結果で終わっても彼女が救われることはない……それは最初から彼女自身もわかっていることだった。

 

 

 

 だが、彼女が怯えていたのは勝負の結果に対してではない。

観客に対してだ。

盲目的にジャックを応援し、負けた途端に罵声を浴びせ始める……そんな身勝手な振る舞いを平然とやってのけるたちに対してだ。

「なんで……なんでよ……」

肩を震わせ、彼女は小さく膝の上で拳を握る。

「勝手に期待して……………駄目なら捨てられるなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………一体どうしろっていうのよ……ッ。」

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