【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第043話】先立った対処、自らの罠(vsセラ)

 甘美なる臭気が漂う地下の空間にて。

簒奪のジムリーダー・セラとトレーナー・トレンチ嬢のバトルが始まろうとしている。

勝てばお嬢は己のポケモンを奪還し、負ければ己の地位全てを失う……まさにデスマッチである。

しかしどのような結果に終わるにせよ、これがお嬢にとって最後の勝負になることには変わりない。

……少なくとも彼女の中では。

 

 

 

「………。」

「ふふ……怖いなぁ。ほら、ただのバトルだよ?肩の力を抜いて楽しまなくちゃ。」

フィールドの向かい側でソファにふんぞり返る彼女はクスクスと笑う。

全てを背負ったお嬢の険しい顔とは対照的に。

 

 

 

 部屋の隅からこの勝負を観戦するスモック博士とジャックは小声で会話を交わす。

「(……ジャックさん、この勝負ですがどう見てます?)」

「(……私は厳しいと思います。お嬢様の手持ちはマネネとカジッチュ。前者はともかく後者は現状ほぼ戦力外です。)」

彼らの言う通り。

形式上は2on2の試合ではあるが、お嬢側でまともに戦えるポケモンはマネネのみ。

事実上のサドンデスだ。

つまりこの勝負、勝利にはマネネの逃げ切り短期決戦以外はありえないのだ。

 

 

 

「……あら?どうしたのかしら、トレンチちゃん?」

目の前をにらみ続けるお嬢に、セラが話しかける。

「どうもこうもないわよ。アンタがボールを構えないからバトルが始まらないんじゃない。」

お嬢の言う通り、セラはソファに座ったまま試合開始の体勢を取ろうとしない。

ポケモンバトルの鉄則だが、『最初のボールを投げるのは原則同時』というものがある。

後出しによる戦況の変化を鑑みれば当然のことだ。

 

 

 

「んー……。そういえばそっか。ポケモンバトルにはポケモンが必要だものね。」

「……は!?」

セラはサラッととんでもないことを口走る。

『バトルにはポケモンが必要』など、仮にも今からバトルをしようと言う者が口にするセリフではない、大前提の常識だからだ。

あまりの舐めきった態度に、流石のお嬢も開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 セラは一呼吸を置くと、軽く両手を叩く。

すると裏口の扉から、ガラの悪そうな大柄の若い男が現れた。

「……何だ。」

「ねぇ『パパ』。私、今からバトルするんだけどポケモン持ってないの。だからね、ちょっと『パパ』のポケモン貸してくれない?」

ソファの後ろに立つ大男の身体をベタベタと触りつつ、セラは猫撫で声で言う。

男の方もニヤニヤと気色の悪い顔をしながら、自身のポケットからモンスターボールを2つ………とよくわからない道具2つを取り出した。

「くく……この報酬は高く付くぜ。」

「ふふっ、ありがと、『パパ』。」

セラは男に顔を近づける。

そこから先のやり取りは薄暗さのせいで誰の目にも入らなかった。

「……さて、それじゃあ準備オーケーよ。」

男が去っていくとセラは正面を向き、いよいよボールを構える。

ジムリーダーともあろうものが自分のポケモンを使わないのは大層疑問ではあるが……果たしてどう展開するのだろうか。

 

 

 

「……行くわよマネネッ!」

「まーーねねっ!」

「んじゃ、私はこっちの子から。」

両者のポケモンは同時にフィールドへ登壇する。

お嬢側はマネネ……前述の通り当然の選択だ。

対するセラ側は……

 

 

 

「めーーの!」

ユキメノコ……マイナス50度の冷気を放つ俊敏でトリッキーなポケモンだ。

タイプはこおりとゴースト……エスパータイプのマネネにとっては不利なポケモンと言えよう。

開幕から大きなディスアドバンテージを握らされたことになる。

しかしそうは言っても退くという選択肢はありえない。

今ある手札を最大限に活用して勝利を手繰り寄せる以外に出来ることはないのだ。

 

 

 

「行くわよマネネッ、『サイケこうせん』ッ!」

「まーーーねねっ!」

お嬢は先手を取る。

相性が不利である以上、後手に回るわけには行かないからだ。

虹色の光線は直線を描き、ユキメノコに飛んでいく。

 

 

 

 しかし相手はスピード自慢のユキメノコだ。

そう容易く攻撃を許してくれる相手ではない。

「めのっ!」

ユキメノコは身体を左に傾けると、『サイケこうせん』をひらりと回避してしまったのだ。

 

 

 

「ふふふ、焦り過ぎよトレンチちゃん。何事も準備が大事なものよ。」

そう言うとセラは指を鳴らし、ユキメノコにわざの指示を出す。

「めーーーの!」

すると、ユキメノコはその場で舞のようなものを踊りだした。

徐々に室内の気温が低下していく。

「……これは!?」

やがてフィールドの上空に暗雲が形成され始め、小粒の氷塊が降り注ぎ始めた。

床に降り積もる氷塊は靄と鳴って消えていき、部屋中の空気を凍てつかせる。

この現象にはお嬢も見覚えがある。

 

 

 

 そう、天候の変化だ。

ノロジムで戦ったカブトプスの使用した『あまごい』と大きく類似ている現象だ。

そしてこれは『あめ』ではなく『あられ』。

こおりタイプのポケモン以外にじわじわと負担を掛けていく厄介な天候である。

 

 

 

 しかし天候の変化に対する対策であればお嬢は既に知っている。

『あられ』も所詮は変化わざ……であればマネネのあのわざで対処可能だ。

お嬢はすぐさまマネネに指示を飛ばす。

「行くわよマネネッ、『ちょうはつ』ッ!」

「まねねっ!」

マネネは腕を前に突き出し、手繰り寄せるような動作を見せる。

そう、『ちょうはつ』は相手の使用した変化わざを全てリセットし、今後使用をさせなくするというギミックブレイカーの役割を果たすわざ……ユキメノコのようなトリッキーな戦術を組んでくる相手には有効な手段だ。

 

 

 

だがここで再びマネネに違和感が。

「……ま、まねっ?」

そう、思うように『ちょうはつ』が発動しないのである。

『攻撃が当たらない』ならともかく、『そもそも技が出せない』など前代未聞である。

「そ、そんな……!?」

焦ったお嬢とマネネは前方のユキメノコを注視する。

 

 

 

 するとどうだろう。

なんと目の前のユキメノコもマネネと同じポーズを取っていたのである。

「……まさか、ユキメノコの『ちょうはつ』!?」

「あら、よく分かったわね。」

そう、これはユキメノコの『ちょうはつ』……奇しくもマネネの使おうとしたわざと同様のものだ。

このわざの効果は前述の通り、相手の『変化わざ』を封印するもの……それは『ちょうはつ』自身も例外ではない。

ユキメノコはマネネよりも先手で『ちょうはつ』を打つことで、天候ギミックを壊す隙すらも潰したのである。

更に言えば最大の武器である『ものまね』も変化わざなので、マネネは主力すらも封じられた事になる。

 

 

 

「ッ………!」

「ふふ、だから言ったでしょう?何事も楽しむためには準備が必要なのよ。」

戦況のアドバンテージを握ったセラは、相変わらず余裕のある表情で笑う。

こうなってしまえば最早セラの掌の上だ。

「さて……そろそろ攻め時かしら。行くわよユキメノコ、『トリプルアクセル』。」

「めーーの!」

セラの指示の直後、ユキメノコはふらりと揺らいで消える。

サダイジャやジメレオンのような瞬間的な消滅ではなく、『あられ』の靄に飲まれていくような……そんな動きであった。

 

 

 

「まね……まねっ?」

マネネは周囲を見回し、神経を尖らせて警戒する。

消えたユキメノコはどこからか奇襲をかけてくることは間違いない。

果たして右か、左か、それとも正面か……

 

 

 

 次の瞬間。

マネネの脳天に鋭い衝撃が走る。

「ま……マネネッ、上!」

お嬢の言葉が届いた頃にはもう遅かった。

なんとユキメノコはいつの間にかマネネの真上を取っていたのである。

「めののっ!」

「ま……まねっ!?

上から現れたユキメノコに、マネネは驚く。

それもそのはず。

相手は音も気配も一切発さずに迫ってこられたのだから……。

そして動揺したマネネは瞬く間に、3連続のキック攻撃を喰らってしまったのだ。

あまりに手痛い一撃だ。

「そんな……どういうことッ!?」

同じ奇襲でも『ふいうち』や『はいよるいちげき』でさえ、音や気配くらいは存在する。

誰にも認識されずにここまでの接近が出来るのはなにか別のギミックがあると考えて然るべきだろう。

 

 

 

 そんな中、外野のジャックはいち早くその正体に気づいていた。

「(……特性ですね。ユキメノコの『ゆきがくれ』は『あられ』の最中の存在感を極限まで小さくする特性です。恐らく、これで一方的な接近を仕掛けているのでしょう。)」

そう、ポケモンバトルにおける定石……『天候』と『特性』のあわせ技だ。

今回のユキメノコは『あられ』を活用することで戦況を有利に傾けたのである。

 

 

 

「ふふふ、この程度で果ててしまうのではつまらないわ。次はもっと凄いの、お見舞いしちゃうんだから。」

セラが笑いかけると、ユキメノコは再び靄の中へと消えていく。

再び遠くから奇襲の機会を伺っているのだろう。

マネネは再度、その場で周囲を警戒する。

 

 

 

「(……ねぇジャックさん。マネネは動き回ったほうが攻撃を避けやすいのでは?)」

スモック博士が耳打ちするが、ジャックは首を横に振る。

「(駄目です。こおりタイプのポケモンは『あられ』の影響を受けません。つまりマネネが動き回った所で、一方的に視認されて攻撃を食らうのがオチ……ならば待機して防御の姿勢を取ったほうが合理的でしょう。)」

ジャックの分析は相変わらず正確で的を射ているものであった。

スモック博士は感心する。

ジャックにだけでなく、同様の判断を瞬間的に下せているお嬢の手腕についてもだ。

 

 

 

 マネネが立ち止まって周囲を警戒していたその時……

「……めーーのっ!」

ユキメノコがおもむろに姿を表し、マネネの方へとキックを繰り出す。

今度は右前方上部……先ほどとは違い真上からの攻撃ではない。

 

 

 

「受け止めてッ!」

「ま……まねっ!」

お嬢は咄嗟にかなりの難題を指示するが、マネネはこれに答える。

なんとマネネは素手で、白刃取りのごとくユキメノコのキック攻撃を受け止めたのだ。

「め……めのっ!?」

これには流石のユキメノコも驚愕する。

 

 

 

「あら、随分早い反応ね。こおりタイプでも無いのに……。」

セラは素直に褒め称える。

然し一方で、不審な顔をする人物が一人。

そう、ジャックだ。

「………。」

彼は不審に思う。

明らかにノーヒントで『あられ』下のユキメノコに対する反応が早すぎる。

おまけにマネネは先程から『あられ』による負荷を一切受けていないのである。

まるでマネネがこおりタイプである……とでも言わなければ説明のつかない現象であった。

当然そんなことはないので、ジャックは更に困惑するのであった。

 

 

 

 さて、ユキメノコを素手で受け止めたマネネは一気に形勢逆転。

近接攻撃を仕掛ける手段を得たのである。

ここで取る手段は唯一つ……

「行くわよマネネッ、ゼロ距離で『サイケこうせん』ッ!」

「まーーねねっ!」

ユキメノコの脚を掴んだまま、マネネは『サイケこうせん』を接射する。

ゼロ距離の『サイケこうせん』はマネネの最大の攻撃手段……これにてユキメノコには手痛いダメージと『こんらん』状態が発生する。

 

 

 

「めっ……めののっ!?」

ユキメノコは錯乱し、自らの顔を殴りつけて自傷行為に走り始める。

こうなれば暫くユキメノコは思うようには動けない。

マネネ側の反撃のチャンスである。

 

 

 

 ……が、ここで再び信じられないことが起こる。

ソファの方でふんぞり返っていたセラは、なんとスプレー状の薬をフィールドに向かって散布しだしたのだ。

「え……ちょ!?」

飛んできたスプレーはユキメノコの身体を覆う。

そして次の瞬間、なんとユキメノコの目つきが元通りになる。

「めーーの!」

「なっ……!?」

先程まで自傷行為に走っていたユキメノコは、一瞬にして正気に戻ってしまったのだ。

 

 

 

 この現象の説明は至極単純である。

セラがたった今散布した薬『なんでもなおし』による回復だ。

 

 先ほど真後ろの男から受け取った道具はこれである。

当然だが普通であればポケモンバトルにトレーナーが介入することはタブーだ。

「ちょ……何よソレ!反則よ反則ッ!」

お嬢はブーイングを飛ばす。

正々堂々戦っているトレーナーとして至極真っ当な意見だ。

 

 

 

 しかし一方のセラは涼しい顔で笑い続けている。

「あら?誰もトレーナーの介入禁止なんて言ってないじゃない。使えるものは全部使って勝負するのは当然のことよ。」

「くっ……!」

お嬢は唇を噛む……が、反論をするだけの材料は無かったのだ。

なにはともあれ、この一手に寄ってマネネが掴んだアドバンテージは一気に崩れ去ることとなる。

 

 

 

 セラは使い終わった薬の入れ物を投げ捨てると、次の技の指示を出す。

「ふふっ、さて……一休みして元気になった所で、『ポルターガイスト』よ。」

「めーーーののっ!」

回復したユキメノコは両腕を上げ、次の攻撃を構えに移行した。

そして次の瞬間……

 

 

 

 なんと、部屋中に散乱した物が空を飛び出したのだ。

脱ぎ捨てられた服や散らばったガラス片が空を飛び、マネネの周囲上空に集まりだす。

やがて集まったものは、マネネを目掛けて飛んできたのだった。

「ま……まねっ!?」

最も軽いYシャツの残骸がマネネの視界を覆い、冷静さを着実に奪う。

 

 

 

 しかしお嬢の声が、そんなマネネを導いた。

「落ち着いて避けてッ!右からガラス片とアルミ缶が飛んでくるわ。それさえ避ければあとは大丈夫!」

「ま……まねねっ!」

マネネはお嬢の指示通り、右側に意識を集中して正面上部へとジャンプして攻撃を避ける。

それと同時に目の前を遮るYシャツを薙ぎ払ったのだ。

 

 

 

 しかしその直後、ユキメノコはマネネの目前に立ちはだかる。

『ゆきがくれ』を利用して再びマネネに近づいたのだ。

「めーーーのっ!」

ユキメノコの『トリプルアクセル』が2発、マネネの腹部を直撃する。

危うく3発目の攻撃を回避したが、それでも痛い攻撃であることには変わりはない。

 

 

 

 展開は再びユキメノコの優勢に傾き始めたのだ。

セラは舌なめずりをする。

「さて……そろそろフィニッシュかしら。ユキメノコ、『ポルターガイスト』よ。」

「めーーーのっ!」

ユキメノコは再び腕を上げ、周囲に散乱した物品を浮上させる。

 

 

 

 今度はさらに多くの道具が飛び交う。

中には崩れ落ちた部屋の壁すらも混じっており、その重量は最早鈍器といえる。

これを避けきることはいくらなんでも無理だろう。

「ま……まねっ……」

おまけにマネネは既に満身創痍……事実上のチェックメイトである。

「ふふっ、行きなさい。」

「めーーーのっ!」

マネネの周囲に浮き上がったものが攻撃を始めた。

 

 

 

 ……が、攻撃をしたのはマネネではない。

ユキメノコの方だ。

持ち上がっていたはずの道具は、次々とユキメノコを攻撃し始めたのである。

「めっ……めののっ!?」

「なっ……!」

誰一人として何が起こっているのか理解できなかった。

 

 

 

「……まねっ!」

その元凶であるマネネを除いて。

この道具を操っている犯人はそう、他ならぬマネネだ。

 

 

 

「あら……これはどういうことかしら……?」

「……そうか、『ものまね』ッ!」

ジャックの考察通り。

これはマネネが『ものまね』によって取得した『ポルターガイスト』だ。

では封じられていたはずの『ものまね』が使えるようになっていたのはなぜか。

 

 答えはそう、『単純に時間切れ』になったのだ。

『ちょうはつ』には制限時間があり、序盤に使用してしまうと中盤以降で効力を失ってしまう恐れがあるのだ。

反撃はありえない、とセラが舐めきっていたゆえに手首を噛まれたのがこの結果、というわけである。

『ポルターガイスト』はゴーストタイプの攻撃わざ……ユキメノコに対しては効果抜群だ。

 

 

 

「めのっ……めののっ……」

壁の破片に押しつぶされたユキメノコは、脱出のために藻掻く。

しかし軽量の彼女がそこから逃げることは残念ながら叶わない。

 

 

 

 マネネはフィールド外にあった『なんでもなおし』の容器を浮かせると、下敷き状態のユキメノコに対して照準を合わせる。

「……これでトドメよッ……『ポルターガイスト』ッ!」

「まーーーねねっ!」

空の容器は風を切り、ユキメノコの脳天を貫いた。

 

 

 

「め……の……」

これにてユキメノコは戦闘不能。

危うくお嬢は1戦目に白星を上げたのである。

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