【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第044話】破滅と愉悦、俯瞰の既知感(vsセラ)

 ギリギリの所で『ポルターガイスト』を奪い取り、白星を1つ勝ち取ったマネネ。

勝利に必要な最低限のタスクはこなしたと言っていいいだろう。

「ま……まねっ……!」

しかし体力は底を尽きかけており、このまま勝ち逃げることはかなりの困難を極めそうだ。

お嬢の残りのポケモンがほぼ戦力外のカジッチュのみであることを考えると、依然として背水の陣……喜ばしくない状況である。

 

 

 

「ふふ、良いわねアナタ。タダでは果てない相手は好きよ。」

相変わらず、セラはクスクスと笑みを浮かべながら言葉を述べる。

『あられ』が降り止んだおかげでその見下した表情は、お嬢の目によりハッキリと映ることとなる。

数の上ではセラのほうが追い詰められているはずなのに、その顔から余裕の色が消えることはない。

「でも違う。アナタはまだ大事なものを捨てきれていない。全てを諦めているようでまだ何処かに縋り付いている……」

「………ッ。」

それもそのはずだ。

背負っているものの重さが、彼女らでは違いすぎる。

セラはそれを見越しているからこそ、この態度なのだ。

「黙りなさいッ!アタシのポケモンがそこにいるのよッ!」

神経を逆撫でされたお嬢は声を荒げて激昂するが、それでも尚セラは薄く嘲笑う。

「ふふふ、怒った顔は本当に素敵よ。私の好みかも。」

何を言っても動じず見下ろし続けてくるその態度は、悍ましさすら感じさせる。

 

 

 

「さて……それじゃあ次のポケモンを出そうかしら。」

セラは最後のボールを投げる。

「でへへ!」

現れたのはレンガ状の肌と長い腕を持ったポケモン……デスバーンだ。

呪術的エネルギーで動く、タフな相手である。

ユキメノコと同じくゴーストタイプのポケモンなので、やはりマネネにとっては不利な相手である。

 

 

 

「でもゴーストタイプってことは、弱点は突ける……!行くわよマネネ、『ポルターガイスト』ッ!」

「まーーーねねっ!」

マネネは腕を大きく上げ、周囲に散乱した道具を遠隔操作で持ち上げる。

先程ユキメノコを潰した物も含めた、限界寸前のありったけの量だ。

お嬢はこの一撃でデスバーンを沈めるつもりなのだ。

 

 

 

「行きなさいッ!」

「まねーーーっ!」

浮遊した無数の道具が、一斉にデスバーンに襲いかかる。

この威力ならば並のポケモンであれば致命傷は免れないだろう。

 

 

 

 しかしそうは問屋が卸さない。

「ふふっ、デスバーン。『てっぺき』よ。」

「でっへへ!」

デスバーンは腕を引っ込めると、そのまま防御の体勢に移行する。

全身を鋼鉄のように硬化させて受け身を取り出したのだ。

するとその身体にヒットした道具は全て、逆に粉々に砕け散ってしまったのである。

デスバーン本体には一切の傷がついていない。

痛恨のノーダメージだ。

 

 

 

「な……ッ!?」

「まねっ……!?」

『てっぺき』の有用性はお嬢も既に知ってはいたが、全力の『ポルターガイスト』までもが完全に弾かれてしまうことは流石に考慮していなかったのだ。

それもそのはず。

デスバーンの長所は圧倒的な防御力。

並以下の物理攻撃ではびくともしないのである。

 

 

 

「ふふっ、素直に攻めすぎよ。切り札を切るならもっと焦らさないと……。」

彼女の言う通り、お嬢は不利盤面故に最初から全力を出しすぎたのだ。

そこに肩透かしを食らったため、大きく出鼻をくじかれることになったのである。

アドを取れたセラは指を鳴らし、次のわざの指示を出す。

 

 

 

「でへへーーーッ!」

デスバーンの腕が大きく伸び、直下の床を叩きつける。

瞬間、軽い地響きが鳴り出し、部屋全体が揺らめき出す。

じめんタイプの攻撃わざ『じならし』だ。

その場に立つものは例外なく、バランスを崩しよろめいてしまう。

「わっ……ちょっ……!」

お嬢でさえも立っているのが困難、という状況だ。

危うく転倒する所でなんとか立ち上がる。

 

 

 

 しかし体力が少ないマネネはそうは行かない。

「ま……ねっ!」

普段であれば地面の揺れ程度でバランスを崩すことなどありえない。

が、疲労が祟ったせいで大きく後ろ向きによろけてしまったのであった。

「マ、マネネッ!」

 

 

 

 マネネは両手を突いて立ち上がろうとする。

なんて事ない動作……完遂するには数秒と要しないだろう。

加えてデスバーンは鈍足のポケモン……相手の反撃までに体勢を立て直すことは十分に可能である。

……可能なはずなのだ。

 

 

 

 しかし現実に、デスバーンの腕は立ち上がったマネネの眼前に立ちふさがっていた。

彼の視界に最後に飛び込んできたのは、ワイヤーのように投げ飛ばされた腕であった。

「ま……まねっ……!?」

「でへへへっ!」

デスバーンは立ち上がったばかりのマネネに爪を突き立てて攻撃する。

『シャドークロー』の一撃がマネネを正面から切り裂いたのであった。

ゴーストわざはマネネに効果抜群……この攻撃が決定打となり、マネネはついに戦闘不能となってしまったのだ。

 

 

 

「ま……ね……」

「ッ……!」

このマネネの不可避化のギミックは、攻撃を受けたマネネ本人以外はみな理解していた。

誰の目から見ても明らかだ。

マネネの速度のみが大きく低下していたのである。

これが『じならし』の効果……相手をよろめかせることに加えて敏捷性を奪い去る効果だ。

そこに隙をついてデスバーンは攻撃を加える……ということである。

マネネのような既に疲労状態の相手には痛いほど突き刺さるわざだったのだ。

 

 

 

 

 

「っふふ、文字通り足元を救われたようね。」

「ッ………!」

セラは笑う。

勝ちを確信しているのだ。

当然、彼女はお嬢の残りのポケモンが誰かなど知らない。

しかしお嬢の顔色が明らかに変わったことで、勝ちを確信したのだ。

 

 

 

 先程まで意気込んでいたお嬢の顔は、明らかに血色が失われていた。

状況が一気に悪化……もといチェックメイトに等しい状況に追いやられたからだ。

「ッ……行きなさいッ!」

だが、それでも彼女は次のボールを投げる。

最後の僅かな可能性に期待し、カジッチュを場に呼び出す。

 

 

 

「…………。」

しかしカジッチュは何の反応も示さない。

相変わらずリンゴの中に閉じこもったまま、顔すら出そうとしない。

彼女は分かっていたのだ。

『窮地に投げ込まれた』のだと。

それでいて分からなかったのだ。

『なぜ無力な自分を戦わせるのか』が。

しかしもうお嬢にとって頼れるのはカジッチュしかいない。

彼女が最後の頼みの綱なのだ。

 

 

 

「……あら?攻撃してこないのかしら?」

セラはいつもどおりの意地の悪い笑顔で問いかける。

しかしそれは質問の意味をなしていない。

彼女もまた理解していたのである。

カジッチュは酷く臆病なポケモンで、自らの攻撃手段をほとんど持たない。

バトルには大きく不向き……デスバーンに勝てる道理など微塵もないのだ。

 

 

 

「ふふ……じゃあ、楽しく遊んであげましょう。デスバーン、行きなさい。」

「でへへへっ!」

デスバーンは腕を大きく伸ばし攻撃を仕掛けてくる。

メインウェポンである『シャドークロー』だ。

飛んできた爪の攻撃は、リンゴの上部のみを削り取る。

そして往復でもう一撃……カジッチュの隠れているリンゴは徐々に削り取られていく。

 

 

 

「ッ……!」

お嬢は青ざめる。

自身が窮地に追いやられているからではない。

相手の性格があまりにも悪すぎるからだ。

デスバーンが本気を出せば、カジッチュなど一捻りで倒せるはず……だが相手は敢えてそうしない。

わざと致命傷を免れるように攻撃をして甚振っているのだ。

それで掌の上で転がされるお嬢やカジッチュの反応を見て楽しもう、という魂胆である。

勝ちを確信しているからこその余裕……否、侮蔑と言っていい。

 

 

 

「か、カジッチュ!避けなさいッ!」

「…………。」

お嬢はカジッチュに回避の指示を出すが、肝心のカジッチュは丸まって閉じこもったまま一切動こうとはしない。

事実、手抜きをしている相手の攻撃を避けることならそこまで難しいことではない。

だがそれでも、カジッチュは決して避けようとはしない。

それはなぜか。

 

 

 

 ……完全に萎縮してしまっているのだ。

度の過ぎた臆病が祟り、逃げることすら慮外になってしまうほどに追い詰められてしまっていたのだ。

それを理解した上で、セラとデスバーンはカジッチュを弄び続ける。

わざと軽い爪攻撃を与えつつ。満面のしたり顔を浮かべている。

 

 

 

「………。」

それを見ていたお嬢は考えた。

目の前で無慈悲にすり減っていくカジッチュを見ながら、そこに自分の姿を重ねていた。

逃げずに中途半端に向き合った結果、耐えきれずに潰れていく……そんな自分の姿を。

そして思う。

そんなことになるなら逃げてしまえばいいのに、と。

このカジッチュだって、逃げ回ればまだ多少は延命出来るかもしれない。

少なくとも、こうして一方的に痛めつけられるよりは遥かにマシだろう。

 

 

 

 ……そして答えにたどり着く。

そうか、逃げてしまえば良いのか……と。

もうこんなトレーナーなんて責務から逃げてしまえば、こんなに悩み苦しむこともなくなるのか、と。

期待して捨てられる事に怯えるくらいなら、全部投げ出して逃げれば良いのか、と。

矜持だ責任だ、なんて……どうしてそんな下らないことを考えていたのだろう、と。

 

 

 

「………。」

こうしてお嬢の目から光が消えた。

彼女はここで全てを諦めた。

 

 

 

「………!そうよ、その顔よ!諦観の色に染まったその顔ッ……!」

セラの表情が今までにないくらいハッキリとした笑顔に変わる。

その顔色はまさに、愉悦……絶望した相手に対してのみ彼女が感じることが出来る極上の感情だ。

この瞬間のため、彼女は生きている。

持つ者が、背負う者が……持たざる者に、背負わざる者に変わり果てるその瞬間のために。

 

 

 

「ふふふっ、最高よトレンチちゃん!アナタは今まで私が奪ってきたどの男よりも素敵な顔が出来るのね!」

「………。」

いつもなら一言噛み付くお嬢が、何の反応も示さない。

既に全てを諦めてしまった彼女は、そこに怒りも悔しさも、無力感さえも感じることはないのだ。

 

 

 

「………ッ!」

あまりの外道ぶりに、外野のジャックらは言葉を失う。

だがこうなってしまえばもうお嬢は救われない。

何を言おうと彼女らは勝者と敗者、持つものと持たざるもの……揺らがぬ事実なのだ。

 

 

 

 やがて一方的に痛めつけられ続けたカジッチュだが、ついに自身を守るリンゴが全て削り取られてしまった。

緑色のか細い本体が露出し、文字通り無防備な状態となってしまう。

「りゅっ………!?」

「でへへ……」

次の攻撃を食らってしまえばゲームセット……正真正銘お嬢側の負けだ。

 

 

 

「ふふっ……もう十分に満足したわ。デスバーン、全力でフィニッシュしちゃって。」

セラは腰元から薬品の瓶を取り出し、デスバーンに投げつける。

ポケモンの筋力を瞬間的に増大させる『プラスパワー』という薬だ。

当然ルール的にはグレーだが、今更これを咎めるものは誰もいない。

 

 

 

「でへぇーーーっ!」

パワーの増したデスバーンは凄まじい雄叫びを上げる。

セラは次の一撃で、カジッチュをオーバーキルする勢いで叩き潰すつもりなのだ。

まさに外道……その一言に尽きる残忍さである。

 

 

 

デスバーンは最後の一撃を繰り出すべく、大きく腕を振りかぶった。

「りゅ………」

カジッチュは相変わらず相手の脅威に萎縮し、動けずにいる。

こうなれば最早ただの処刑……お嬢というトレーナーの生命の最期である。

 

 

 

「行きなさい、『シャドークロー』よっ!」

「でっへへーーーーーーッ!」

 

 

 

 

 

 ーーーーこれはもうダメだ。

どう考えてもここからアタシが勝てる未来は見えない。

だってしょうがないわよ。

アタシがトレーナーとして弱いんだから。

こんな所に、戦いが苦手なカジッチュを立たせたアタシの責任よ。

彼女は悪くないわ。

トレンチというトレーナーの命はここで終わり。

アタシはあの女に全てを奪われて終わるんだ。

 

 

 

 ここまでごめんね。

あの女に盗られちゃったサダイジャとラビフット、ずっと一緒にいたマネネ、そして無理に突き合わせちゃったカジッチュ……

アタシたちはここまでよ。

………それとジャック。

期待に応えられなくてごめん。

アナタの願いを背負うほどの力はアタシにはなかったみたい。

でもアナタに見放されて、捨てられるくらいなら……アタシは自分から逃げ出すわ。

そんな事耐えられないもの。

 

 

 

 ……あれ?見放して、捨てる?

期待して、応援して、最後には諦めて……

あら、偶然かしら。

気のせいかしら。

なんだかアタシが今していることそのものな気がするんだけど。

 

 

 

 アタシは今、目の前のカジッチュを見放してない……?

勝負を諦めて、ただ突っ立って負けるのを待っていない……?

ハハッ、何よソレ。

笑えるわ。

とんだ笑い草よ。

アタシはいちばんされたくないことを、自分のポケモンにしていたんじゃない。

 

 

 

 だったらそうね。

せめてアタシだけでも一緒にいてあげなきゃ。

一度勝手に期待しちゃったんだから、せめて最後まで……

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーデスバーンの攻撃は確実にヒットした。

振り下ろした爪には確かな感触があったのだ。

そしてこれは当然致命傷である。

最大限の攻撃を至近距離で当てたのだから、それもそのはずだ。

……ただし攻撃が当たったのはカジッチュではない。

 

 

 

「なっ………!」

「でへっ……!?」

「お……お嬢様ッ……!?」

 

 

 

 そう、トレーナーのお嬢だ。

お嬢がカジッチュに覆いかぶさり、デスバーンの攻撃から庇ったのだ。

彼女の背中は爪の攻撃で引き裂かれ、鮮血で真紅に染まっていた。

 

 

 

「りゅ……りゅっ!?」

「ふふっ……結構痛いじゃない。そりゃ怖くもなるわね……。」

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