【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第047話】独り立ちの試練、寒空に見る面影

 ーーーー廃れた礼拝堂にて。

暗い廊下を歩み進むは赤と銀の長髪をなびかせる男……エンビ。

彼が目線を向けた椅子に座るのは、椅子に座り込んで読書に耽り待機する1人の少女だ。

彼女は菖蒲色のポニーテールをなびかせ、エンビの方を振り向く。

「……貴方だけ?クランガとダフは?」

「ダフは例の祭典の下準備で忙しいようだ。クランガは……よく分からんが機械の備品がどうこう言ってまだ帰ってきてない。」

「……ふーん。ま、煩いのが居なくていいけど。」

彼女は読んでいた本をそっと閉じると、エンビの方を向く。

 

 

 

「で、この数日でそちらに進展はあったか?スエット。」

スエットと呼ばれた彼女はため息を挟んで会話を切り出した。

「……こっちはてんでダメ。適合者に成りえそうな人物は見つからない。」

「そうか。此方は『扉』の準備はほぼ完了した。『凍雪』の『器』も目処が付きそうだ。」

「……そう。じゃあ、『万象の真理』への到達ももうすぐね。」

訳の分からない言葉を並べつつ、彼らの会話は続く。

全くと言っていいほど彼らの会話に感情はこもっていない。

その平坦さがより一層不気味さを増していたが、こんな会話を聞く者は誰ひとりとしていない。

 

 

 

「時にスエット。恐らくここにいずれそいつは来るはずだ。その時にお前の目で見定めてほしい。奴が『器』足り得るか。」

「……その『トレンチ』とかいう奴?私はいまだに信じられない。」

ここで彼らの口からお嬢の名前が上がる。

果たして彼らはお嬢に何を見出そうとしているのか。

お嬢を待ち受けているものは何か。

「……いいわ。私が確かめてやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、時を同じくして、ロメロシティでの出来事から一夜明けた朝。

お嬢とジャックの一向は次のジムが存在すると言われるスネムリタウンを目指していた。

しかしこのジム、まぁ距離が相当にあるのだ。

ただ距離があるだけではない。

途中で長い氷河地帯を抜けなくてはならないと言うのだから骨が折れる。

 

 

 

 そんなこんなで彼らはこの地方最大の氷河地帯『アックビー氷河』に来ていた。

温暖化の影響で規模が縮小気味ではあるが、それでもこの地球に置いて貴重な巨大氷河である。

「わぁ……凄く綺麗……!」

「まね……!」

生まれて初めて氷河を見るお嬢とマネネは完全に興奮しきっている。

一面が青と銀に染まったその世界は、彼女らの人生を確実に鮮明な色で塗り替えたことだろう。

 

 

 

 久しぶりにお嬢の笑う顔を見たジャックの顔には、自然と安堵の表情が浮かぶ。

いつもはやかましすぎるくらいであったが、それでも今はこの懐かしい顔が何物にも代えがたい。

「あ、見てジャック!あそこの氷山、完全にう○こよ!」

……良くも悪くもいつもどおりである

ジャックの顔は笑ったままその場で引きつった。

 

 

 

 しかしお嬢の興味は、すぐに別の方向に向いた。

「あ、あそこ!ポケモンよ!」

「まねね!」

そう、ポケモンの群れが遠くに見えたのである。

水棲のこおりポケモンの数少ない生息地として、保護区域にも指定されているのだ。

故に珍しいポケモンが多く見受けられる。

 

 

 

 左手に見えたのはタマザラシ。

丸々とした身体で、氷河の上を転がって進むポケモンだ。

その可愛らしいフォルムは人の目を釘付けにして離さない。

右手に見えるのはクマシュン。

鼻水にエネルギーを貯蔵するポケモンだ。

今は夏なので、鼻水のサイズは一回り小さくなっている。

 

 

 

 お嬢はそんな珍しいポケモンたちを遠目に眺めていたが、そんな中でふと目に止まったものがあった。

小さなポケモンが群れを形成し、大きな1匹のポケモンの後に続くようにして歩いているのだ。

お嬢はジャックに尋ねる。

「ねぇジャック。あのポケモンの群れは何?」

「まね?」

「えーっと………ポッチャマとエンペルトですかね。」

そう、ここに居たのはエンペルトが率いるポッチャマの群れである。

氷の上をゆっくりと歩んでおり、その光景は遠目に見ればなんとも愛らしい旅団に見える。

 

 

 

 ……が、実情はもっと酷なものであった。

群れのリーダーと思われるエンペルトは突然立ち止まったかと思うと……

「ふぇるるーーーッ!」

「なっ……!?」

なんとその場で足元の氷に穴を開けて、何処かに去ってしまったのである。

そこから1分ほどの時間が経過するが、エンペルトは一向に戻ってくる気配がない。

 

 

 

 傍観していたお嬢は心配になり、ジャックに問う。

「ね……ねぇ、これってポッチャマたちは置いていかれたの?」

ジャックは頷く。

しかし彼はこの一連の行動の原因を知っており、心配する様子は一切ない。

 

 

 

 そして数秒後。

今度はポッチャマ達が一斉に、遠方の氷山を目指して進みだしたのである。

先程のようなゆっくりとした歩みではなく、腹這いの姿勢で繰り出される全力のスライディングで動き出したのだ。

その速さは、お嬢が今まで戦ってきた数々の強敵に匹敵するほどの凄まじいものだった。

「は……速ッ!?」

「まねッ!?」

やがてポッチャマたちは地平線の彼方に消えて見えなくなる。

 

 

 

「こ……これって何が起こってるの?」

「まね?」

「これはポッチャマの群れで行われる『独り立ちの試練』です。あのエンペルトから課された試練をこなせたポッチャマのみが、晴れて群れから独り立ちすることが出来ます。」

独り立ちに試練が要る……というのはポケモンの中でもかなり珍しい風習だろう。

しかしポッチャマの場合はコレが特段大きな意味を持つ。

彼らは『誰かの下につく』ことを酷く屈辱的なことだと考えており、大人にも関わらず群れの一員であるということは恥ずべき事実なのだ。

だからこそ、この『独り立ちの試練』は彼らからしてみれば、なんとしてもクリアしなくてはならない死活問題なのである。

 

 

 

「群れによってルールの形態は様々ですが、恐らく『あの氷山の向こう側まで所定の時間内にたどり着ければクリア』とかじゃないでしょうか。」

ジャックの言う通り。

この群れの試練の内容は、月の南中までの時間に山を超えること……である。

先程の群れの移動は、スタート地点にリーダーのエンペルトが引率していたのだ。

そして指定の時間は非常にシビアなものだ。

だからこそポッチャマたちはこぞって氷山に向かって全力で走り出したのである。

「へぇ……ポッチャマも随分と大変なのね。」

「まねね。」

お嬢は遠く彼らのことを見送った。

 

 

 

 しかしお嬢たちだって他人事ではない。

次のスネムリタウンに行くためには、件の氷山を越えていかなくてはいけないのだ。

それに夜になれば、気温が急激に冷えて移動どころではなくなってしまう。

日の出ている今のうちに、ある程度の距離を進んでおかなくてはいけない。

それを思い出した彼らは少し早足で氷山の方角を目指して歩いていったのだ。

 

 

 

 

 

 ……………が、現実は甘くない。

真夏の氷河は、地表から日光が苛烈なほど反射される。

そのため、思った以上に体力が削られるのだ。

結局彼らは日没までに、氷山の4合目までしか進むことが出来なかったのである。

 

 

 

「だ……大丈夫よジャック。アタシはまだ行けるわ……!」

「まね……!」

お嬢はまだ進める、と豪語する。

以前は地べたに座り込んで駄々をこねていたことを考えると、著しい成長である。

が、それでもジャックは首を縦に振らない。

「お嬢様。ここから先は氷点下-30度を超える極寒の世界となります。流石に命に関わるので今日はここまでです。」

彼の言う通り、いくら何でも生身の人間がこの気温に耐えられるわけがない。

それにこの周辺は目に見えぬ氷河の割れ目……所謂クレバスが多い。

足場は最悪。

夜闇の中で移動するのは危険極まりないのだ。

事実、お嬢だって寒さでガタガタと震えており、物を持つことすらままならない。

ジャックのパルスワンの『ニトロチャージ』で暖がとれなければ今頃凍死は確実だっただろう。

「くぅーーん……。」

 

 

 

 そんな中、お嬢はある違和感を覚える。

「……しかしマネネ、アンタ全然寒そうにする気配がないわね。」

「まね?」

脚を加熱したパルスワンですらわずかに震えているのに、マネネは寸分たりとも寒がる様子を見せないのだ。

こおりタイプでもないマネネがそこまでの耐性を持つことに、流石に不自然に感じたのである。

 

 

 

 そしてそれを見ていたジャックもだ。

先日のセラとの戦いでもそうだったが、全体的にマネネはこおりタイプに類似した行動が多いように見受けられる。

しかしマネネのタイプはエスパー・フェアリー。

こおりタイプとは少しも関係ないのだ。

 

 

 

 ……そしてジャックは思い出す。

同じようなポケモンが嘗て一緒に居たことを。

何故かこおりタイプでも無いのに、寒さに強かった彼のことを。

そして一瞬、マネネの居場所にそのポケモンの影が映る。

 

 

 

「………サンド?」

「え?」

何かを呟いたジャックの声に、お嬢が反応する。

が、彼はすぐに視線を逸らして「聞かなかったことにしてくれ」と言わんばかりの仕草を見せた。

お嬢もそれ以上、ジャックに対して言及するつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 その時………

「ん……?」

お嬢とジャックはなにか違和感を感じる。

僅かながらに地面が縦方向に揺れた気がしたのだ。

が、揺れはすぐに収まる。

「じ……地震かしら?」

「まね?」

「それにしては短すぎるような……」

彼らは一瞬の揺れに戸惑う。

 

 

 

 更に次の瞬間。

「………っ!」

「……待って、なんか声が聞こえない?」

「え?」

お嬢は耳を澄ます。

「……ぴっ!」

すると彼女にのみ、僅かに何者かの声が聞こえたのだ。

まるで何かに苦しむような、そんな声である。

 

 

 

 お嬢はすぐにその声の方へと駆け寄っていく。

手元の懐中電灯を照らしつつ進んでいくと、そこには……

「ぴぴっ……!」

「え、ポッチャマ!?」

なんとポッチャマが居たのだ。

しかもクレバスに落ちかけている状態の……危機一髪な状況のポッチャマだ。

恐らく先程の揺れで、運悪く足を滑らせてしまったのだろう。

氷の出っ張りに両翼を引っ掛けて必死で耐えているが、それでもあと一歩間違えば落下してしまうことは確実だ。

 

 

 

 

 

 お嬢は手を伸ばして助けようとするが、とても彼女の腕の長さではポッチャマの居場所には届かない。

しかし時は一分一秒を争う。

ジャックを呼んでも、恐らくすぐには駆けつけられないだろう。

「……迷ってる暇はないわ!行きなさいサダイジャ!アップリュー!」

「みしゃーーり!」

「ふりゅっ!」

お嬢はすぐにボールを投げ、2匹のポケモンを呼び出す。

 

 

 

「ポッチャマを助けるわよ!ふたりとも、よろしく!」

「みしゃ!」

「りゅっ!」

手短な指示を飛ばすと、両者は各自持ち場へと移動する。

サダイジャがお嬢の腕に巻き付くことでマジックハンドのような役割を果たし、アップリューはポッチャマの下側に回り込んで彼を支えようとする。

「お……お嬢様ッ!」

更に駆けつけたジャックが、お嬢の胴を後ろから引っ張る。

それを更にパルスワンとマネネが引っ張る体勢だ。

まさに、ポッチャマを救助するための総力戦である。

「みしゃり……!」

サダイジャがポッチャマのマントを食み、いよいよ後は上の人間たちが引き上げるだけとなった。

 

 

 

 しかしここで最大の障壁が立ちはだかる。

「ぴっ!ぴぴぴっ!」

なんと、ポッチャマが暴れだしたのである。

ヒバニーのときのようなパニックではなく、明白な敵意を持ってサダイジャやアップリューを攻撃し始めたのだ。

「しゃりっ!?」

「ふりゅっ……!」

「なっ……こ、コラ、落ち着きなさい!落ちちゃうでしょ!」

お嬢は揺さぶられるサダイジャを必死に掴みながら説得する。

しかしそれも虚しくポッチャマはずっと抵抗し続けるのだ。

 

 

 

「こっちは助けようとしてるのに……どういうことなのよッ……!?」

「ポッチャマは大変プライドが高いポケモンですから!人から助けられることを屈辱に感じるんですッ……!」

暴れまわるポッチャマのせいで、彼らの体に掛かる負担はより大きなものとなる。

谷の内側ではサダイジャとアップリューがなんとか説得を試みるが、それでもポッチャマは一向に大人しくならない。

 

 

 

 そして悪運は更に追い打ちをかけるように彼らに襲いかかる。

なんと、先程と同じような揺れが彼らを襲ったのである。

しかも今度のは人が立っていられないほどの凄まじい縦揺れ……モノを引き上げている人間に対しては致命傷にすら成りうる揺れであった。

 

 

 

「わっ……!」

「あうっ……!」

お嬢とジャックは思わずその場でバランスを崩す。

ただでさえ氷の上で足場が悪いのだから無理はない。

しかし悪いことはそれだけにとどまらない。

 

 

 

 お嬢とジャックの間に、僅かな亀裂が走る。

そして次の瞬間、亀裂は大きな崩落音を立てて広がりだしたのである。

そう、クレバスの形成……地割れの形成だ。

この大きな地震のせいで、この山はグズグズに崩壊しようとしていたのである。

地面は大きく傾き、やがて2つのクレバスはそれぞれ別々にジャックとお嬢を飲み込んでしまったのだ。

「お……お嬢様ーーーーッ!」

「ジャーーーーック!」

「まねーーーーっ!」

「みしゃーーー!?」

「ふりゅーーー!」

「ぴぴーーっ!」

彼らの声は虚しく崩落音の中に消えてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー「痛ッ……」

ジャックは目を覚ます。

随分と深いところまで転落してしまったようである。

だが幸い、大きな怪我は一つもない。

「わんっ!わんっ!」

「……そうか、貴方のおかげですね。感謝します。」

ジャックはパルスワンの顎を撫でた。

「くぅーーん。」

パルスワンは喉を鳴らして答える。

 

 

 

 しかし状況は最悪だ。

クレバスの底は、いつ氷河に潰されてもおかしくない空間だ。

幸いジャックの落ちた場所は広い空洞だったためその心配はないが……それでも地上への脱出を急いだほうが良いことは確実である。

「……それにお嬢様とはぐれてます。あの方の安否が心配です。」

「わんっ!」

パルスワンはすぐに鼻を鳴らし、お嬢の居場所を嗅覚で探ろうとする。

 

 

 

 その時だった。

「おっ……アンタもしかしてジャック?」

「ッ……!?」

聞き覚えのある声に、ジャックはすぐさま振り返る。

人を小馬鹿にしたような、不快感を伴う軽い声……その声の主は明らかだった。

 

 

 

「貴方は……クランガ!」

「おー、覚えててくれたんスか!いやぁ嬉しいなぁ……」

ヘラヘラと笑いながら近づいてくるクランガに、ジャックは嫌悪感を感じて後退りする。

「……どうしてアナタが此処に?」

「いやぁ、ちょっとここらへんでしか採れない鉱石が必要でさ。発掘作業に来てたんスよ。」

その言葉を聞いた瞬間、ジャックの表情は険しくなる。

「がるぅ………」

パルスワンも唸り声と共に目の前のクランガを威嚇する。

どうやら考えていたことは同じようだ。

 

 

 

「……もしかしてさっきから発生している揺れはアナタのせいですか?」

「お、ビンゴ。そうっスよ。やっぱ爆破掘削が一番効率がいいッスからね。」

笑うクランガを見たジャックは、腕を振りかぶる。

『攻撃しろ』の指示だ。

「わんッ!」

直後、パルスワンの放った電撃がクランガの顔の脇を掠めていった。

 

 

 

「おぉ!?ビビったぁ……何するんスか!?」

甲高い声を上げるクランガを無視し、ジャックは威嚇の意図を含んで腕を鳴らす。

「……アナタを野放しにしておくとこの氷河が危ない。悪いですが此処で大人しくしてもらいましょうか。」

「おっ、バトルのお誘いか?いやぁ、アンタとはいちどやってみたかったんスよねぇ!」

 

 

 

 そう言うとクランガはヘラヘラと笑ってボールを構える。

怒りと殺意に満ちたジャックの表情とは対照的に、軽率な笑みを浮かべる。

「……んじゃ、胸を借りるとしますか。『チャンピオン』さん。」

「……二度とその口、聞けないようにして差し上げましょう。行きなさいパルスワン。」

「わわんッ!」

 

 

 

 望まぬ戦いが、ここに開幕する。

 

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