【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第048話】氷点下の密室、耳障りな音(vsクランガ)

「まねっ!まねねっ!」

「……ん……あれ?ここは……?」

お嬢はマネネに揺さぶられて目を覚ます。

彼女もジャックと同様、氷山の崩落に巻き込まれたのである。

それでも彼女もまた、奇跡的に無傷であった。

 

 

 

 しかし彼と違う点が2つ……ひとつはジャックよりも深い場所まで落ちてしまったということ。

そしてもうひとつは……

「って、出口がないじゃない!」

そう、周囲を見渡しても一面の雪と氷で覆われている。

抜け道のようなものすら一切なく、完全な密室状態となってしまっているのだ。

 

 

 

「………ッ!不味いわね。このままじゃ生き埋め確実よ!ジャックもいないならアタシがなんとかするしか……」

お嬢は暗闇で目を凝らしつつ、空間のありとあらゆる場所を手探りする。

なんとか別の出口に繋がりそうな場所を探しているのだ。

 

 

 

 そして目が慣れてくると同時に、ついに空間の壁際に僅かな違和感を感じる場所を発見する。

叩いてみると僅かに音の跳ね返り方が違う。

「……!地下水脈!」

お嬢の推察通り。

この空間のすぐ近くに地下水脈が通っているのだ。

件の場所に何かしらの手段で穴を開ければ、出口が見つかるかもしれない。

 

 

 

「よしっ!みんな、協力してここを抜け出すわよ!」

お嬢は振り返り、同じ空間に落とされているポケモンたちに声をかける。

しかしお嬢の望んだ返事は誰からも返ってこない。

「まね………」

マネネが申し訳無さそうな声で、お嬢のスカートの裾を引っ張る。

そしてお嬢の目に飛び込んできたのは燦々たる光景であった。

 

 

 

「み……みしゃ……」

「ふりゅ………」

「さ、サダイジャ!?アップリュー!?」

瀕死の状態でサダイジャとアップリューが倒れ伏しているのだ。

2匹とも寒さには特に弱いポケモンである。

この極寒の空間に長時間耐えることは難しい。

おまけに彼らは、落下するお嬢をなんとか庇いつつここまで来たのだ。

おかげで全身は傷だらけ、体力もほぼ底を尽きかけていると言っていい。

「あ、ありがと……ごめんなさい……」

お嬢は申し訳無さそうに声をかけ、すぐに彼らをボールの中に戻した。

 

 

 

 そして他にも同じ空間に居るポケモンが1匹。

「…………ぴっ。」

クレバスでお嬢らが救助を試みていたポッチャマだ。

彼は腕を組んでそっぽを向いている。

大変プライドが高いポッチャマは、先程助けられたことを大変不服に思っているそうだ。

 

 

 

「ちょっとポッチャマ!アンタは元気でしょ?この部屋を出るのに協力して頂戴!」

お嬢はポッチャマも声をかける。

が、答えは当然NOだ。

「……ぴぴっ。」

ポッチャマはお嬢の方を向くことすらなく突っぱねる。

「ま……まね……」

マネネも追って説得しようとするが、返事は同じであった。

 

 

 

「ほら、ね?こんなところに居たらエンペルトのとこにも帰れなくなるわよ?」

「………」

「食べるものもないし、このままだとアンタも凍え死んじゃうわ?」

「………」

「まねね。まーーねね。」

「………」

その後も彼らは説得を試みるが、ポッチャマは相変わらず此方を向こうとすらしない。

こんな窮地だと言うにも関わらずヘソを曲げているポッチャマに、いよいよお嬢も堪忍袋の緒が切れる。

 

 

 

「ア・ン・タ・ね・ぇ!助けたことに感謝しろとは言わないけど、今は皆が命の危機なのよ!!ちょっとくらい手を貸してくれてもいいじゃないの!」

お嬢は後ろ向きのポッチャマの頭を抱え、両手で拳を作りグリグリと攻撃する。

「……ぴっ。」

それでもなお、彼は話を聞き入れようとしない。

ポッチャマとしては、『俺は自分の責任でここに落ちた。こんな所で醜く足掻くくらいなら潔く息絶えてやる。』ぐらいに思っているのだろう。

「ホンッット強情ね!この石頭!分からず屋!う【自主規制】れ!」

「………ぴっ。」

その後も暫く彼女らの口論は続いた。

お嬢としても、ここまで説得に骨の折れるポケモンの相手は初めてだっただろう。

 

 

 

 と……その時。

大きな音が鳴り響き、激しい縦揺れの振動が発生する。

「わっ………!?」

「まねねっ……!?」

お嬢らはバランスを崩し、その場で転倒する。

先程までの揺れに比べてもサイズの大きい揺れだ。

おそらく震源……もといクランガが仕掛けた爆弾の爆心地が近いのだろう。

近くで氷が崩れる音が重々しく響く。

しかし幸い、彼らのいる部屋は崩落しなかった。

 

 

 

「……ッ!だ、大丈夫?マネネ?ポッチャマ?」

お嬢は2匹の安否を確認するために声をかける。

それぞれが空間の両端に転倒して倒れている。

「………」

「………」

しかし彼らの返事はない。

打ちどころが悪かったのかもしれない、と焦るお嬢はまずポッチャマの方に歩み寄る。

「……ちょっと、ポッチャマ!?返事を……」

お嬢が彼に声をかけた……その直後であった。

 

 

 

「……!ぴっ!」

ポッチャマがお嬢の脇腹にヘッドショットを食らわした。

「がっ……!?」

お嬢は壁際に吹っ飛ばされる。

「ちょっ……何すんのよ!?」

彼女は憤慨するが、すぐに違和感に気づく。

強情で人嫌いのポッチャマとは言え、お嬢を攻撃することはなかったはずだ。

 

 

 

 それに攻撃するにしても、脇腹をわざわざ狙うのはおかしい。

ポッチャマお嬢から向かって正面にいたのだから、腹部を殴ったほうが簡単なはずだ。

もしかしたらポッチャマは何かからお嬢を庇ったのかもしれない。

しかしこんな状況で何から庇うというのか。

氷塊が落ちたわけでもない。

「……ま、まさか……?」

お嬢はゆっくりと振り返る。

 

 

 

 

 

 ーーーーー一方、こちらは別の場所。

アックビー氷河の地下深くにて、2名の男が対峙する。

片や元チャンピオン、ジャック。

この氷河を傷つける爆破を繰り返すクランガを止めるべくして戦う。

対するは謎のメカニック、クランガ。

勝負を受ける理由はただの興味のみだ。

 

 

 

「んじゃ……俺もポケモンを出すか。行ってきな、サンダー!」

「ギャアアーーーッス!」

クランガが呼び出したポケモンはサンダー……エンビのファイヤーと同じくガラルの辺境に住む希少なポケモンである。

その太い脚で駆けると時速は300kmを越え、蹴ればトラックをスクラップにするほどの威力が出る。

パワーもスピードもトップクラスの強敵だ。

 

 

 

 しかしスピードだけならパルスワンも負けていない。

先手必勝、と言わんばかりにパルスワンは先に攻撃を仕掛ける。

「行きなさい、『サイコファング』ですッ!」

「わわんっ!」

牙に念動力を宿し、サンダーの首元を狙って飛びかかる。

 

 

 

 だがクランガもすぐに指示を出す。

「素直には喰らわねーッスよ!『らいめいげり』ッ!」

「ギャーーッ!」

飛びかかって来たパルスワンの眼前に、サンダーの振り上げた脚が炸裂する。

雷鳴を切り裂くほどの速さで相手を蹴り抜く攻撃だ。

当然、顔面などという急所で喰らってしまえばひとたまりもない。

 

 

 

 ……が、そこはジャックのパルスワンだ。

タダでやられることはない。

攻撃を食らう直前、パルスワンはサンダーの脚に食らいついたのだ。

「がるるるぅ………!」

『らいめいげり』と『サイコファング』は互いに正面からぶつかりあい、その威力を相殺する。

 

 

 

「へぇ……俺のサンダーの蹴りを顎で受け止めるとは。流石は『チャンピオン』のポケモンッスね!」

「ッ……!」

特性『がんじょうあご』があるからこそ実現する競り合いだ。

しかしジャックには分かっていた。

この睨み合いも長くは持たない、と。

 

 

 

「ギャーーーッ!」

サンダーは膝を思いっきり伸ばし、パルスワンを上部へ蹴り飛ばす。

「わんっ……!?」

「焦らないでパルスワン!『ニトロチャージ』装填ッ!」

飛ばされたパルスワンはジャックの指示を聞き取ると、後脚の筋肉を瞬時に加熱する。

そして4つの脚で天井に着弾すると、重力に逆らう勢いでドーム状の壁を爆走していったのだ。

一度『ニトロチャージ』を装填すれば、何かにぶつかるまでエンジンのごとく加速を続ける。

それは重力や音速の壁を突き破っても尚止まらないのだ。

 

 

 

「うおっ、やるなパルスワン!」

クランガはわざとらしい驚嘆の声を上げながら拍手をする。

しかしこれが並のポケモンに出来る芸当でないことは確かだ。

走るパルスワンは更に加速していく。

「……うーん、これは直で攻撃するのは難しいッスね。よし、サンダー!『じだんだ』攻撃ッ!」

「ギャーーーッ!」

サンダーはその場で足踏みをし、激しい振動を引き起こす。

地面が大きく揺れ、床の氷に大きな亀裂が入る。

足元から攻撃をすることで、パルスワンの機動力を削ぐ作戦だろう。

 

 

 

 しかしパルスワンはこの程度では止まらない。

「わんっ!わわんっ!」

目の前に生成される亀裂も、壁から剥がれ落ちる氷塊も、パルスワンは全てを跳躍で正確に避けきったからだ。

やがて衝撃波を貫いたパルスワンは、サンダーの目の前に躍り出る。

 

 

 

「今ですッ!『じゃれつく』ッ!」

「わおーーーんっ!」

パルスワンは豪速の助走に身を任せ、全身をサンダーに叩きつけるようにして飛びかかる。

「蹴り……じゃ間に合わないッスね。行けサンダー、『ダブルウィング』ッ!」

「ギャーーーッス!」

サンダーは身をよじって大きく翼を広げ、パルスワンの攻撃を正面から受け止める。

両者の力はほぼ互角だ。

どちらも己の力の全てを叩きつけ、一歩たりとも退こうとしない。

 

 

 

 が、残念ながら体格でも筋力でも軍配が上がるのはサンダーの方だ。

パルスワンはあくまでも加速に任せた瞬間的な火力しか生み出せない。

競り合いが長引けばやはりパルスワンに勝ち目はない。

「ギャーーーーーッス!」

「わんっ……!」

押し切られたパルスワンは再び壁際まで飛ばされ、叩きつけられる。

先ほどと同じような受け身を取ろうにも、後脚が急速な加熱のせいですぐには動かない。

『ニトロチャージ』は強力な加速手段であるが、何度も連続して使用することは出来ないのだ。

 

 

 

「っし、いいぞサンダー!そのまま『らいめいげり』ッス!」

「ギャーーーー!」

倒れ伏したパルスワンの脇腹に、再びサンダーの蹴りが炸裂する。

「わんっ……!」

「パ、パルスワンッ!」

 

 

 

 このサンダー、攻撃を撃った後の復帰があまりにも速い。

本来ならば『じゃれつく』を食らった直後は攻撃が緩慢になるはずなのに……だ。

しかしこのサンダーの特性は『まけんき』……相手から不都合な効果を付与されるほど筋力が増大する特性である。

復帰が速いのもそこに起因する。

ゆえに近接戦においては最強クラスの性能で、一切の小細工は通じないのだ。

 

 

 

「っし!もういっちょ『らいめいげり』ッ!」

「ギャーーーーッス!」

サンダーは再び脚を振り上げ、攻撃の体制に入る。

……が、やられっぱなしのジャックらではない。

「させませんッ!『ほうでん』で反撃です!」

「わ……わわんっ!」

瞬間的に上半身に電気を貯めると、パルスワンは正面に向かって一気に放出する。

至近距離で撃たれた電撃を避けることは、いかなるスピードを持ってしても不可能に近い。

「ギャアアアッ!?」

サンダーにでんきわざは効果抜群……大きなダメージを与えることに成功する。

攻めに転じすぎたがゆえに、サンダーは思わぬ反撃を食らったのである。

 

 

 

「へぇ、やっぱ強いッスね『チャンピオン』。……いや、こう言ったほうが良いかな?『チャンピオンのそっくりさん』と。」

「……その挑発には乗りません。」

ジャックはクランガの耳には言葉を貸さない。

すぐに腕を振り上げ、パルスワンに体勢を整えさせる。

 

 

 

 ……その時だった。

大きな爆発音が遠くで鳴り、大きな縦揺れの振動が発生する。

今までのものよりも大規模な揺れで、爆心地の近さを伺わせる。

「おぉ……こりゃ派手に飛んだッスねぇ。」

クランガは音のした方へ目を向け、他人事のように呟く。

この爆発の張本人であるにも関わらず、だ。

 

 

 

 直後、遅れて低い音がガラガラと虚しく響く。

なんてことはない、氷山の一部が崩落した音だろう。

だが、この音がいけなかった。

 

 

 

「ッ………!」

ジャックは咄嗟に頭を抱える。

まるで己の内から湧き上がってくる何かを抑え込むように、突然襲ってきた痛みに堪えているのだ。

「お、どしたどした?」

クランガはほんの少しだけジャックに近寄る。

すると彼には分かったのだ。

ジャックがどうしてこうなったか……が。

 

 

 

「あ、分かったッス!さては昔の雪崩の音を思い出してるんじゃないッスか?」

「ッ………!」

「いやぁ、さぞショックだっただろうしなぁ。うんうん、怖いッスよね。で?どうッスか?『あのジャック』が出てくるんスか?」

「……黙れ……黙れ黙れ黙れッ!」

ジャックは焦り、錯乱し、そして憤慨する。

 

 

 

 そんな彼をヘラヘラとあざ笑いつつ、クランガは再び先程の爆心地の方へ目を向ける。

「ジャックがこの調子かぁ……もしかしたら『凍雪の秘鍵』も?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーポッチャマに脇腹を蹴られたお嬢はようやく気づいた。

彼が一体なぜ自分をいきなり攻撃してきたのか。

お嬢はゆっくりと後ろを向く。

「う……嘘でしょ……?」

答えは何となくわかっていたが、それでもそれは受け入れがたき事実だった。

 

 

 

 彼女の後ろにいたのは起き上がったマネネだった。

いつもの表情ではない、殺意に満ちた顔で此方を向いている。

「ね゛ッ……ま゛ね゛ッ……!」

「ま……マネネ?」

 

 

 

 先程ポッチャマがお嬢を攻撃したのは、彼女を庇うため。

何から庇っていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは紛れもない、マネネの攻撃からであった。

 

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