【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第049話】望まぬ討伐、再度の崩落

「ま゛……ね゛……ね゛っ……!」

「そんな……マネネ!?」

いつものつぶらな瞳とは打って変わり、マネネは殺意に満ちた乾いた目をお嬢に向ける。

「マネネがアタシを襲うなんて……」

お嬢は困惑する。

ポケモントレーナーとして一番長く一緒に旅をしているマネネが、自分に向かって攻撃をするなど信じられなかったからだ。

しかし事実として、マネネは明らかに敵意を剥き出しにしている。

 

 

 

「なんでこんな………?あ、雪崩……!」

お嬢の推察通り。

マネネが豹変したトリガーは間違いなく先程の崩落音だ。

そして雪崩によって豹変したポケモン……に関しての話はお嬢にも聞き覚えがあった。

「……ジャックのサンド!まさか……!?」

そう、ジャックがサンドに襲われた時と非常に酷似している。

癇癪持ちだったサンドは、雪崩の音を聞くことで錯乱してジャックの腹を貫いてしまったことがある。

このマネネは件の出来事とほぼ同じ状況と言っていいだろう。

「ま゛……ね゛ね゛……!」

 

 

 

 そんな二人の間に立ちはだかるのはポッチャマだ。

「ぴ……ぴぴ……!」

先程までお嬢と衝突していたが、それでも彼はお嬢を庇う。

それほどまでに目の前のマネネの状態は異常というほかなかったのだ。

ポッチャマの本能が警鐘を鳴らしていた。

このマネネとお嬢を放っておけば、下手すれば全滅しかねないと。

恐怖心が自らのプライドを上回る……それほどの緊急事態だったのだ。

 

 

 

「ま゛……ね゛……!」

「ぴぃっ……!」

狼狽えるお嬢の方を振り向き、ポッチャマは指示を仰ぐ。

彼には分かっていたのだ。

目の前のマネネは一人の力で勝てる相手ではない、ということを。

「………ッ、………ッ!」

お嬢は腹を決める。

マネネを傷つけることは、当然彼女としては断腸の思いである。

しかしそれでも、あの状態のマネネを放っておくことはもっと出来なかったのだ。

 

 

 

「……マネネ、ちょっと待ってて。」

そう言うとお嬢は、足元のポッチャマにアイコンタクトを送る

「ま゛……ね゛ッ………!」

マネネから虹色の光線……『サイケこうせん』が放たれる。

タガが外れているからだろうか、いつもの数倍以上の速度と威力である。

 

 

 

「ぴっ……!」

しかしこれをポッチャマはスライディングで回避する。

ポッチャマは決して機敏なポケモンではないが、氷の上となれば話は別だ。

腹這いの姿勢で『サイケこうせん』をくぐり抜けると、すぐにマネネの眼前に躍り出た。

「ぴぴっ……!」

「そこっ!『ダブルアタック』ッ!」

そして下側から這い出て、マネネの喉に2撃のビンタを喰らわせる。

 

 

 

「ま゛ね゛ッ………!」

マネネは苦悶の声を上げた。

痛烈な翼のビンタは大きなダメージを与えたのであった。

「ッ……!」

お嬢は目をそらす。

自らの指示でマネネを傷つけている、という事実が遅れて彼女の理解に追いついてしまったのだ。

 

 

 

 しかしそんな躊躇いはすぐに別の驚嘆で上書きされてしまうことになる。

「ま゛っ………ね゛ね゛ッ!」

「!?」

『ダブルアタック』を受けた直後のマネネは、すぐにカウンターで差し込むように『サイケこうせん』を打ち返したのである。

 

 

 

 なんとマネネの復帰が凄まじく速いのだ。

攻撃を受けた直後であれば、当然だが多少なり硬直が発生する。

しかし今のマネネにそんなものはない。

痛みに対する恐怖心を上回るレベルで、攻撃性が増しているのだ。

自らを危険から守る理性すらも失われているのである。

 

 

 

「ぴぴっ!?」

「ポ、ポッチャマ……!」

ポッチャマは自身の頭をその場で床に打ち付けはじめる。

至近距離での『サイケこうせん』……その被弾による『こんらん』の罹患だ。

 

 

 

 この状態異常の発症は、戦況を大きく不利にしうる。

ましてや相手が狂化状態の格上であれば、最早そこから先の勝利は絶望的だ。

「ま゛ね゛ね゛っ!」

マネネの腕が追い打ちをかけるようにポッチャマの頭部に狙いをつけて『サイケこうせん』を発車する。

 

 

 

「ふ……伏せて避けて!」

「ぴ……ぴぴっ!」

しかしポッチャマは非常に理性的であった。

お嬢の声をわずかに聞き届けると、すぐに腹這いのスライディングで攻撃を伏せて回避する。

パワーの底上げされたマネネの攻撃を、『こんらん』のハンデを背負いながら避けきったのである。

しかも速度は先程の倍にも及ぶほど……身体能力が底上げされたとしか説明がつかないのだ。

そしてマネネの背後に回り込み、迅速に死角に回り込む。

 

 

 

 何故ここまでの機敏な動きができるのか。

それはポッチャマの特性が『まけんき』だからだ。

前話でも解説したとおり、『まけんき』は自身に不都合な効果が発生すると筋力が増大する特性だ。

それは『こんらん』ですら例外ではない。

ポッチャマはこの『こんらん』を、逆に自身の加速源として還元したのである。

 

 

 

「ま゛………」

マネネが振り向くより先に、お嬢はすぐに指示を出す。

「ポッチャマ!マネネの足元に『バブルこうせん』ッ!」

「ぴぴっ!」

ポッチャマはすぐに下を向くと、マネネの足元を重点的に攻撃する。

「ま゛ね゛っ……!?」

 

 

 

 マネネの足元で泡が弾け飛ぶ。

泡……つまりは水を多分に含むものだ。

そしてここは氷点下を下回る氷山の空洞である。

と慣れば何が起こるか。

そう、破裂した泡は瞬間的に凍りつく。

マネネの足元に生成された氷は徐々にその大きさを増し、やがてマネネの下半身を腕ごと地面に縛り付けた。

機動力を完全に奪い去り、マネネを拘束することに成功したのだ。

 

 

 

「ま゛ね゛………ッ!」

「ふぅ……。」

お嬢はほっと胸をなでおろす。

マネネを必要以上に傷つけることなく沈静化することに成功したからだ。

「……ありがと、ポッチャマ。アンタ強いじゃない。」

「……ぴっ。」

戦いが終わると、ポッチャマは再びぷいとそっぽを向いてしまった。

どうやら誰かに褒められることも本人的にはあまり気に食わなかったようだ。

 

 

 

「ま゛……ね゛……!」

「……落ち着いて、マネネ。」

マネネはなんとか逃げ出そうと全身をよじって藻掻く。

そこにお嬢は歩み寄り、触れることでなんとか落ち着かせようと試みる。

「大丈夫……もうこれ以上アナタを傷つけたりしないわ。」

「ま゛……ね゛ね゛ッ!」

お嬢は説得を試みるが、マネネは一向に冷静になる気配がない。

寧ろその表情の殺意は徐々に増していき、今にもお嬢に襲いかからんとするほどの勢いであった。

 

 

 

「ほら……これ。アナタに最初にあった時に教えた変顔………」

「ま゛……!?」

お嬢の見せた懐かしい顔芸に、マネネは突如何かを思い出したように止まる。

一縷の兆しが見えたお嬢は、必死に声掛けを続けた。

「ほら、そう。落ち着いて。息を整えて。大丈夫、ここにアナタの敵はいないわ。」

お嬢は腕を伸ばし、マネネの頭をそっと撫でる。

マネネは息を整え、歯を食いしばり、なんとか湧き上がる殺意を押し殺そうと奮闘していた。

彼もまた、己の中の衝動と戦っているのである。

「そうよ……その調子。大丈夫よ。大丈夫だからね……」

「ま……ね……」

彼女の必死の声掛けはやがて功を奏し、マネネの表情もいつもどおりのものに戻りつつあった。

 

 

 

「………!ぴぴぴっ!」

突如、何かに気づいたポッチャマが大きな声を上げる。

その気配に気づいたお嬢は振り返る。

僅かな振動音が遠く何処かから聞こえてくるのだ。

「これは……上!?」

音源を察知したお嬢は真上を見上げる。

直後、空間の天井に僅かなひび割れが走り始める。

「……!」

すぐに危険を察知したお嬢はポッチャマを引き寄せ、マネネをあわせて2匹に覆いかぶさる姿勢を取った。

その後間もなくして……

 

 

 

 天井の氷が全て崩れ、真上からお嬢たちを押し潰すようにして降り注いできたのである。

何らかの原因でこの氷山の空間が形を保てなく成り、崩落してきたのである。

「……ッ!マネネ!ポッチャマ!ちゃんと捕まってなさいッ!」

「ぴっ……!」

「ね……!?」

お嬢は背中に落下してくる氷塊を受け止めつつ、ポケモンたちに怪我をさせまいと必死に庇う。

「ッ……!」

当然、彼女の背後には凄まじい激痛が走る。

が、それでも彼女は悲鳴の一つも上げずに耐え続けたのだ。

 

 

 

 やがて音は徐々に収まり、氷塊の崩落は止まる。

無事ではないが、ひとまず息はあった。

「ッ………!」

お嬢は安全を確認すると、自力で氷礫の下から這い上がる。

ポケモンたちの安全を確認したお嬢は、その場で力が抜けたようにへたり込む。

彼らを守らんとする義務感で押さえつけていた恐怖心がどっと溢れ、それは怖がる暇すら与えずにすぐに疲労へと変わったのだ。

彼女は肌寒さの中、徐々に意識が遠のいていくのを感じていた。

 

 

 

 しかし直後に聞こえた音が、すぐに彼女の意識を現実に引き戻す。

なんと彼女のすぐ足元で、別のポケモンが倒れ伏していたのだ。

「わ………わん……」

「パ、パルスワン!?」

そこに居たのはパルスワン……そう、お嬢も見知ったジャックのポケモンだ。

まさかの形で彼女らは小一時間ぶりに再開したのである。

おそらく先程の落下で上から落ちてきたのだろう。

パルスワンは全身がボロボロの状態で、見るからに満身創痍の状態であった。

 

 

 

「パルスワンがいるってことは……まさか……!?」

お嬢はすぐに周囲を見渡す。

するとそこにいたのは彼女の予想通り、トレーナーのジャックであった。

先程の崩落に巻き込まれたのか、彼も相当に全身を痛めている様子だ。

 

 

 

「ッ………!?お嬢様!?」

ジャックは全身傷だらけのお嬢に気づくと、すぐに立ち上がって駆け寄る。

「お嬢様っ……!?ご無事ですか!?」

「これが無事に見える?……ってジャックこそ何があったのよ。」

ジャックはお嬢の問いかけに対し、上を見上げてそれに答える。

追ってお嬢が上を見上げると、そこは上層の地面がまるごと抜けて吹き抜け状になっていた。

そして底から見下ろす人影がひとつ……そう、クランガだ。

自身のポケモンであるサンダーとともに彼女らを覗き込む。

 

 

 

 先程までジャックはクランガと戦っていたが、一瞬の動揺に漬け込まれたせいでパルスワンは惨敗。

とどめの『らいめいげり』が床まで衝撃として浸透し、崩落した地面がジャックとパルスワンを下層まで叩き落としたのである。

これが先の崩落の原因であり、そして偶然にもお嬢の居場所へと彼らは落下したのだ。

 

 

 

「いやぁ随分派手に抜けたッスねぇ……にしてもアンタ動揺しすぎッスよ。ま、おかげで俺は勝てたんスけどね。」

クランガはヘラヘラと笑いながらジャックの方を向く。

彼の顔にはお嬢も見覚えがあった。

「アンタ……フウジジムの入り口にいたエンジニア!」

「おっ、覚えが良いッスねぇ!俺嬉しいッスよトレンチちゃん!」

クランガは調子のいい高い声と共に親指を立て、お嬢の方へ差し向ける。

 

 

 

 お嬢は苦虫を噛み潰したような顔でクランガを睨み返す。

彼女もまた、彼の声に得も言われぬ不快感を感じていたのだ。

「……気安く名前を呼ばないで頂戴。だいたいアンタ、なんでアタシの名前を知ってるのよ。」

いつになく彼女は最初から嫌悪感に満ちた態度で問いかけた。

それにクランガはニヤついた顔で答えた。

「まぁ、キミはウチの『バベル教団』の間でも有名ッスからね。適合者として将来有望な人類の星!ってね!」

「……バベル教団?」

「おっと、口が滑った。」

彼はわざとらしく口元を抑える動作を見せる。

 

 

 

「ま、今日俺が此処に来てるのもそこの仕事なんスよ。教団はいつでもアンタを待ってるぜ!」

クランガはお嬢にウィンクの動作を見せると、そのままサンダーに乗り込んだ。

「んじゃ俺はお先ッ!鉱石探しに行くぜェ!」

「ギャーーーーーッス!」

そうしてサンダーは足元を蹴り上げると、そのまま遠くまで飛び去ってしまったのであった。

 

 

 

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