【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

50 / 134
【第050話】再起する痛覚、課された追試

「バ……バベル教団?」

「………」

ジャックは口を噤む。

バベル教団……その名前には彼も聞き覚えがあった。

なんせあのエンビが入信している宗教団体だからだ。

その実態や活動内容、発症に至るまでは謎に包まれている。

が、少なくともいい噂を聞いたことはない。

 

 

 

「……ッ!それよりお嬢様!お怪我の方は!?」

「……平気。なんかアイツと言い合ってるうちに痛みも引いたわ。」

お嬢は背中を擦りつつ立ち上がる。

その様子を、ジャックは戦慄しながら見守っていた。

先日のセラ戦後の入院時もそうだったが、お嬢の身体の丈夫さや回復の速さはハッキリ言って常軌を逸している。

普通の人間であれば2回も雪崩に巻き込まれて無事で済むわけがない。

これは元々か、それとも旅を始めてからか。

箱入り娘であったゆえ、お嬢自身が怪我をすること自体今までなかったから誰にもわからない。

 

 

 

「アタシのことは良いわ。そ、それよりマネネとポッチャマが……!」

お嬢はぐったりとしている2匹を抱きかかえてジャックの方に差し出す。

唐突なパニックの発症と戦闘に加え、先程の崩落に巻き込まれたのだ。

既にその体力は限界に近い。

「わ、わかりました。只今応急処置をします。」

ジャックはすぐに鞄からスプレー薬を取り出し、ポケモンたちの傷に吹き付ける。

 

 

 

「ぴ……ぴっ!」

「はい、おとなしくして下さいね。いい子ですよ。」

他人の施しを受けることを酷く嫌うはずのポッチャマだが、今の彼にそこまでの体力は残っていなかった。

不服そうではあったが、大人しくジャックの治療を受けていた。

やがてポッチャマの傷はふさがり、ひとまずの処置は完了した。

「さて……次はマネネです。」

ジャックはお嬢の抱えているマネネを受け取ろうと腕を伸ばす。

 

 

 

 その時だった。

マネネが身を起こし、薄っすらと目を開く。

「ま……ね……?」

「ちょ……マネネ!動いちゃダメよ!」

上半身をのけぞらせるマネネを落とさぬよう、お嬢は両の腕で抱きかかえる。

が、次の瞬間……

 

 

 

「ま゛……ね゛ね゛っ……!」

マネネの表情が一変し、腕を振り上げる。

間違いない、攻撃の合図だ。

「お、お嬢様ッ!!!」

気づいたジャックがすぐに飛びかかり、マネネを取り上げた。

その直後コンマ1秒。

発射された『サイケこうせん』は天高く飛んでゆき、お嬢の耳元数センチを掠めていく。

 

 

 

「ッ……!?」

お嬢は身震いし、驚愕する。

マネネの顔をよく見ると、殺意に歪んだ表情をしている。

目は乾いて血走り、何かを噛みちぎるかのように歯をむき出しにしている。

間違いない、先程の症状と全く同じだ。

「ま゛……ね゛ね゛ッ……!」

「ッ!こ、これはッ!?」

ジャックは両腕で暴れるマネネを抑えつける。

 

 

 

 彼はその腕で、かつて味わったことのある感覚を味わっていた。

肌にまとわりつく冷え切った空気、腕の中で激しく動き回る小さな身体の感触。

彼はあの時の事を思い出す。

雪山でサンドが狂ったあの日のことを。

その記憶は自身の表層に這い出るとともに、凄まじい頭痛を引き起こす。

 

 

 

「ッ………!」

ジャックは脳の奥から刺してくるような痛みに耐えながら、それでも決して腕を離そうとしない。

此処で少しでも力を抜けば、またあの時の悲劇を繰り返しかねない。

「ま゛……ね゛ね゛ッ!」

「お、落ち着いて下さいマネネッ!」

ジャックはマネネをなだめるが、彼の声は届かない。

マネネも連戦で消耗し、自身の衝動を抑えるほどの精神を保てなくなっているのだ。

「マネネ!駄目っ……攻撃しちゃダメ!お願い!」

「ね゛ッ……ま゛……!」

お嬢の必死の訴えも、マネネには聞こえていなかった。

最早完全に発狂状態……話し合いによる制止は不可能だろう。

 

 

 

 おまけにジャックの身体に走る痛みが徐々に悪化する。

「………ッ、腹の傷がッ!」

そこはかつてサンドに深く貫かれた傷であった。

何故か今になって、この傷が何かと共鳴するように痛むのだ。

 

 

 

 ジャックの腕が自然と緩んでいく。

それにつれてマネネの腕に大きく力が籠もり、わざが装填されてしまった。

「こ、これは……!」

再び『サイケこうせん』の構え……しかも最大級の威力の貯めだ。

ジャックはマネネを抱えたまま、お嬢と距離を取ろうとする。

が、全身の痛みが邪魔をして体が思うように動かない。

「ま……まずい!間に合わ……」

 

 

 

 その時。

ジャックの胸の前を、真横文字に何かが掠めていく。

横切ったソレは確実にマネネの急所……首裏を正確に射抜いた。

「…………」

先程まで狂ったように暴れていたマネネは、ピクリとも動かなくなる。

まるで死んだように……否、息はあるのでそんなことはないのだが。

 

 

 

 あまりにも速いその出来事は、ジャックとお嬢の理解を置き去りにした。

「……!?」

急に動かなくなったマネネに気づいた2人は、ようやく今起こったことを飲み込む。

そして、ソレが飛んできた方向を見合わせた。

そこにいたのは……

 

 

 

「ふぇるるるっ……!」

見覚えのある黒色で大型のポケモン……そう、エンペルトだった。

あのポッチャマたちを率いていたエンペルトである。

マネネの首を射抜いたのもこのポケモンだ。

「………ふぇるっ!」

「ッ………!」

威厳ある一声はその場にいる者を震え上がらせ、それと同時に錯乱していた者たちを正気に引き戻す。

その存在感はまさに群れのリーダー……否、「王」そのものであった。

 

 

 

 ようやく息を整えたお嬢は、気迫に気圧されつつもエンペルトに問いかける。

「ま……マネネはどうなったの!?」

「ふぇるっ……」

エンペルトは小さく首を縦に振る。

そこに、痛む腹部を押さえつつ立ち上がったジャックが続ける。

「『命に別状はない』という意味のジェスチャーです」

マネネの無事を知ったお嬢は、ひとまず胸をなでおろす。

 

 

 

「………。」

お嬢らを見ていたエンペルトは、くるりと右を向く。

その目線の先に居たのは……

「ぴっ……」

ポッチャマだ。

彼が此処に来たそもそもの原因……それはこのポッチャマが指定時間を大幅に超えても目的地に着かなかったからだ。

エンペルトはゆっくりとポッチャマの方に歩み寄る。

次の瞬間……

 

 

 

「ふぇるるッ!」

エンペルトはポッチャマを蹴り飛ばした。

「ぴっ………!」

蹴られたポッチャマはバランスを崩し、摩擦のない氷の地面を滑って近くの壁に激突する。

その移動距離が、蹴りの凄まじさを物語っていた。

 

 

 

「ちょ……ちょっと……!何すんのよ!?」

お嬢はエンペルトを止めにかかろうとするが、ジャックが後ろから引き止めた。

そして首を横に振る。

「……ダメです。アレは独り立ちの試練を成せなかったポッチャマが受けるべき罰なんです。」

「でも……ポッチャマは……!」

お嬢の言いたいことはジャックも分かっていた。

傷こそ処置したものの、ポッチャマはマネネと戦って満身創痍の状態だったのだ。

確かに試練をクリアできなかったかもしれないが、それでも蹴り飛ばすのはやりすぎだ……と、強く感じていた。

 

 

 

「ふぇるっ……!」

エンペルトは大層怒っている様子であった。

今までこれほど悪い成績で試練に落ちたポッチャマは居なかったからだ。

「ぴ………!」

それはポッチャマ自身も分かっているようで、何の反抗もなく己の罰を受け入れていた。

エンペルトはポッチャマに近づくと、次の蹴りを入れるべく脚を再び振り上げる。

 

 

 

「ッ………させないッ!」

お嬢は全身を捻り、ジャックの腕を強く振りほどく。

「ちょ……!お嬢様!?」

そして腹這いスライディングで飛び込み、エンペルトの脚を素手で掴み取ったのだ。

 

 

 

「………ふぇるっ?」

直前でお嬢の気配を察したエンペルトが脚の攻撃を止めたため、彼女は無事であった。

が、当たり前だが彼はお嬢のことを疎ましそうな目で上から見下ろす。

その恐ろしさはお嬢が今まで会ったどんな鬼教師よりも凄まじいものだった。

「ッ………」

彼女は息を呑むが、それでも言いたいことがあった。

だからこそ、彼女はエンペルトに直談判する。

 

 

 

「その……この子はアタシのマネネと戦っていたの!このアタシのマネネと戦って勝ったのよ!凄いポッチャマなんだから……だから……だから!」

お嬢は目をそらさず、エンペルトに訴え続けた。

事実、このポッチャマは試練こそ間に合わなかった。

が、それでも基本的な戦闘力・判断能力はずば抜けていると言っていい。

「それに、この子は氷山の崩落に巻き込まれてクレバスに落ちたの。あのクランガとかいう奴のせいで……だから………!」

震える声で訴え続けるお嬢を、エンペルトは黙って見下ろし続ける。

 

 

 

 が、やがてエンペルトは脚にしがみつくお嬢を振り払った。

彼の力を持ってすれば、か弱い少女を投げ飛ばすことなど容易いことだった。

「お嬢様……!?」

「……ま、待って!」

お嬢は手を伸ばしたが、ついにその手はエンペルトに届かなかった。

彼は早足でポッチャマに更に歩み寄る。

そして……

 

 

 

 

 

 彼はポッチャマへの攻撃をやめた。

「………ぴ?」

「ふぇる……。」

エンペルトはポッチャマを見下ろしながら少しかがみ、自身の翼をポッチャマの背中にあてがう。

そして押し出すように、ポッチャマをお嬢の方へとスライドさせたのだった。

「ぴ……!?」

「あうっ……!」

ポッチャマはお嬢の顔面に激突する。

その様子を見たエンペルトは、直後に短く言葉を述べる。

 

 

 

「ふぇる……ふぇるるる!」

彼は翼を高く掲げ、様々なジェスチャーを示す。

ジャックには何となく言っていることが分かるのか、随時彼の言葉を意訳していった。

「……ジャック、何て?」

「『……そこまで言うならお前がコイツの強さを示せ。』ですかね。」

つまりエンペルトはこの試練の追試として、お嬢にこのポッチャマを預けることを選んだのである。

彼女の旅の中で、このポッチャマが独り立ちに相応しいかどうかを証明しろということだ。

 

 

 

「………!」

ポッチャマを否定されずに済んだお嬢は、表情を明るくして立ち上がる。

そして傷だらけでぐったりとしているポッチャマを抱きかかえると、エンペルトの方に歩み寄った。

「ありがと、エンペルト!アタシ達は来月のリーグに出るの。そのときにはこの子、絶対アナタの目に叶うポケモンになるわ!」

「………ふっ。」

エンペルトは少しばかり顔を緩ませる。

彫りが深いためよく分からなかったが、少なくともお嬢には笑っているように見えていた。

 

 

 

 お嬢との話し合いを終えたエンペルトは、そのまま床の氷を蹴破って何処かへと消えてしまった。

そこに残されたのは、ジャックとマネネ……そしてお嬢とポッチャマだけであった。

「ふふっ、だってポッチャマ。アンタ、これから頑張らないとね。」

「ぴっ……!」

ポッチャマはそっぽを向く。

エンペルトの決定ではあるが、それでもやはり誰かに付き従うことにはまだ抵抗があるようだ。

お嬢はボールを軽くポッチャマにあてがう。

案外彼は素直にボールに入ることを許諾した。

これにてお嬢はパーティメンバーに、新しくポッチャマを加えることに成功したのだった。

 

 

 

「ふぅ……これで一段落かしら。」

お嬢は天井のはるか遠くに見える夜空を見上げつつ、息をついた。

 

 

 

「…………」

しかしその一方、ジャックの表情は曇ったままであった。

「バベル教団……マネネの暴走……まさか……?」

なんとなく、彼の中で点と点が繋がりかけていた。

そしてその絵が描くものは、決して喜ばしいものではなかったのだ。

 

 

 

 果たして、バベル教団とは。

そしてマネネに隠された秘密とは。

それらは間もなく明かされることになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。