【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第051話】凍雪の秘鍵、神話の起源

 アックビー氷河での出来事から一夜明けて。

朝日を背に彼らは次の街、スネムリタウンに到着していた。

本来ならば到着予定時刻はこの日の夕方になるはずだったが、それよりも大幅に早い時間での到着である。

それはなぜか。

どんな症状を抱えているかわからないマネネを連れた彼らは、一刻も早くポケモンセンターへと行くためにアーマーガアの背中に搭乗していたのだ。

アーマーガアは2人と1匹を背に乗せたまま、全力でこの街まで飛ばしてきたのである。

 

 

 

「ガァッ……グアァ……!」

アーマーガアは激しいスタミナ切れのためか、肩で息をしている状態だ。

真っ暗で極寒の大地を飛んでいったのだから、こうなるのも無理もない。

「お疲れさまです、アーマーガア。感謝します。」

「グ……グアッ……!」

ジャックはアーマーガアに謝辞を述べ、ボールに戻す。

 

 

 

 やがて日の高さが増していき、真っ暗だった街の全貌が明らかになっていく。

レンガ造りの洋風な建造物がまばらに並ぶ、山岳地帯の街だ。

氷河に隣接している寒冷地帯ゆえ、民家の屋根も独特のM字型の物が多い。

それよりも目立つ特徴は、皆家の玄関や塀に『Babel Cult(バベル教団)』と書かれた旗を掲げている。

「こ……これって……?」

「このスネムリタウンは『バベル教団』の信者が多い街なんです。たしか本拠地もこの街だったような……」

「ねぇ、昨日もクランガとかいう奴が言ってたけど……『バベル教団』ってなんなの?」

「………。」

問われたジャックは少し遠くを見た後、息を挟んで答える。

 

 

 

「『ポケモンとの共存』を掲げる新興宗教団体です。ポケモンとトレーナーは支配的な関係にあるべきではない、というのがその宗教の教えです。」

「……?別にいいことじゃない。ポケモンとトレーナーは協力する関係でしょう?」

「ですがその実態は『ポケモンのモンスターボールへの収容の禁止』を強要する、他にも活動資金と称して信者から多くの金銭を受け取っている……などまぁかなり危ない団体という噂です。」

ジャックの顔は渋くなる。

なんせこの宗教にはあのエンビも入信しているのだ。

彼の人間性について割とよく知る人物である彼だからこそ、その宗教の異常性を疑っている。

 

 

 

「……ひとまず今はポケモンセンターに行きましょう。マネネの容態がいつ悪化するとも分かりません。」

「……そうね。」

そう言うと、お嬢とジャックは駆け足でポケモンセンターへ向かう。

まだ早朝で人通りの少ない路地を抜けつつ……。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー時刻は朝も中頃。

ポケモンセンターの待合室にて、お嬢とジャックの番号が呼ばれる。

「はい、お預かりしておりましたポケモンたちは元気になりましたよ。」

受付の女性の手から、ジャックのボール2つとお嬢のボール4つが返却される。

そこに遅れるように、抱きかかえられたマネネが元気そうな声で受付卓の上に立ったのだった。

 

 

 

「まーーねね!」

マネネはいつもどおりの明るい表情をお嬢の方に向け、軽快なポーズを決める。

「マネネ!もう……どうなるかと思った!」

お嬢はマネネをかかえ、大事そうに抱きしめる。

今回の氷河での一件は、今までにないほど彼女の気も揉まれたことだろう。

感じた安心感は人一倍あるに違いない。

「大丈夫?どこか痛くない?」

「ま……まね……」

お嬢のホールドのほうが苦しい、と言わんばかりにマネネはすこし絞られたような声を上げる。

 

 

 

 しかしそんなお嬢の方に、受付のお姉さんが少し申し訳無さそうに問いかける。

「……あの、一つお伺いしたいのですが。トレンチさんのマネネって、何か手術とかされました?」

「しゅ……手術?」

「えぇ。胸の当たりが普通よりも紫色というか……まるで後から埋め合わせたかのような違和感があるんですよね。もしかして心臓の手術とか……?」

お嬢は女性の言葉を聞くと、近い記憶に引っかかるものがあることを感じる。

それは遡ることつい先週あたり……ソロポートから乗り込んだ暴力団一味の船でのことだ。

その親玉に当たるボアが、マネネの胸についての言及をしていたのだ。

 

 

 

 その時にボアが言っていたフレーズが、ふとお嬢の口から溢れだす。

「『凍雪の秘鍵』………?」

「!?」

受付の女性の顔が、明らかな動揺の色に染まる。

『凍雪の秘鍵』というフレーズを聞いた瞬間に、あからさまな驚きを見せたのだ。

 

 

 

 そしてそれはジャックも同じであった。

「凍雪の……秘鍵……!」

彼の中で今までバラバラになっていた点が、大きく繋がる。

同時に、今までマネネに対して感じていた違和感の正体にも気づいたのである。

 

 

 

 訳の分からないうちに勝手に理解を進めてしまう女性とジャックに、お嬢はおずおずと問う。

「えっと……結局『凍雪の秘鍵』って何なの?」

「あ……この村に来られるのは初めてでしたっけ。でしたら2つ隣の建物にある図書館を利用されては?そちらに文献があると思います。」

女性はそう言うと、手元のホロキャスターで地図を提示する。

小規模な街にしてはかなり広く充実した図書館のようだ。

 

 

 

「……行きましょうジャック。なんかアタシ、このことについて知らなきゃいけない気がする。」

「同感です。私も少し調べ物をしたかったので。」

というわけで、2人はポケモンセンターを後にした。

来た時は早朝だったため人通りがなかったが、朝のこの時間帯には住宅と職場を行き来する人々がまちまちと見受けられる。

それらの人々に共通する特徴は、みなポケモンをボールに入れていないという点だ。

つまるところ、みなバベル教団の信者なのである。

改めて、この街における教団の影響力の大きさを認知することになる。

 

 

 

 さて、そんな人々を尻目に彼らは図書館へと足を踏み入れる。

そこは3階建てのかなり大型の図書館であり、幅広いジャンルの本が並んでいる。

流石に何でも、とまではいかないが直近でお嬢が欲する情報程度はほぼ全て網羅されている。

入り口では司書と思わしき人物が、ケーシィとともに受付で昼寝をしている。

朝方だからか人もそこまでいないのだろうか。

 

 

 

 ジャックは小声でお嬢に耳打ちする。

「(……1階の奥『宗教』の項目の本棚にあると思います。私は2階の方に行きますので何かあれば。)」

「(わかったわ。)」

お嬢は軽く頷き、図書館の奥へと足を踏み入れる。

 

 

 

 そこにあった幾つかの本を見繕い、机の上に積み上げて片っ端から目を通していく。

元々実家で猛勉強を強いられていた身であるゆえ、速読は最早慣れたものである。

「…………。」

いつものやかましさが嘘のように静まり返ったお嬢は、本を読み漁る。

そこに書かれていたことを大雑把にまとめると以下のようになる。

 

 

 

 

 

 まず、バベル教団は完全な新興宗教というわけではない。

別の大型宗教から着想を得た新興宗教だ。

その大型宗教ではとある唯一神が信仰されていた。

唯一神はこの世のありとあらゆる事象を全て周知している全知の存在であり、それゆえ人はこの唯一神を『万象の真理』と呼ぶようになった。

『万象の真理』はこの世に存在しない完全無欠の理想郷……またの名を『イデア』と呼ぶ世界に住んでおり、そこからこの世界を見ている……とされている。

それゆえこちらの世界に生きている者では目にすることも、それどころか知覚することすら叶わない。

 

 

 

 ……が、一部に例外が存在する。

『秘鍵』と呼ばれる特別な心臓を持つポケモン3匹と、『器』と呼ばれるそのポケモンの肉体の一部を共有している洗練された人間3名……これらが揃うと『イデア』に行くための扉が開かれ、『万象の真理』を目にすることが出来るというのだ。

鍵と器のセットにはそれぞれ名前がついている。

1つは『獄炎』、1つは『迅雷』……そして最後に『凍雪』。

 

 

 

 つまりお嬢の知りたかった『凍雪の秘鍵』とは、『イデア』に行くための資格のあるポケモンの1匹が持つ特別な心臓のことだったのだ。

そしてマネネが『凍雪の秘鍵』と呼ばれている理由……それはマネネがその特殊な心臓を持っているからに他ならない。

 

 

 

「……なるほど。アナタ、中々にとんでもないポケモンみたいね。」

「まね?」

お嬢はマネネの胸のあたりを見ながら、半信半疑で考えていた。

しかしもしこの宗教に関する情報が本当であれば、目の前のマネネは神に近づく権利のある選ばれたポケモンということになる。

 

 

 

 そしてそれ以外にもう一つ。

お嬢は気になる記述があった。

『鍵』ではなく『器』と呼ばれる単語の方だ。

『ポケモンの身体の一部を埋め込まれた人間』……ここに聞き覚えがあったのだ。

レインの右腕やジャックの腹部……そう、SDの適合者の特徴に完全に一致する。

「うぇえ……SDまで出てくるの?もうそろそろついて行けないんだけど……」

「まねね……」

短時間で凄まじい量の読書をしたお嬢の頭は、いよいよパンクしようとしていた。

普通の人間であれば、そもそもここまでの処理と理解すら難しい。

寧ろお嬢はかなり健闘したほうだと言えるだろう。

 

 

 

 

 

「……」

お嬢は読んでいた本を積み上げると、司書の元まで持っていく。

高々と積み上げられた本の量に、居眠りをしていた司書も流石に驚いて目を覚ます。

「ハッ!え……えっと、これをどうするんですか?」

「え?買うんだけど。いくらかしら?」

「まねね?」

「………は?」

司書は困惑する。

それもそのはずだ。

図書館はあくまで本を貸しだす場所であり、購入する場所ではない。

しかし生まれてはじめて図書館を利用したお嬢は、その事を知らなかったのである。

 

 

 

「え、えっとこの本はお売りできないというか……」

「あら、アタシにはジャックのポケットマネーがあるわ。それでお値段の方は……」

お嬢と司書がそんなやり取りをしていると、そこに何者かが歩み寄ってくる。

 

 

 

「はぁ……。まさかそこまで筋金入りのバカだとは。呆れてものも言えないな。」

「ッ……!」

この生意気な憎まれ口と、人を小馬鹿にしたような態度……コレが誰かなど間違えるはずもない。

そう、右腕にピカチュウの尻尾を埋め込んでいる少年・レインだ。

 

 

 

「なっ……レイン!?どうしてここに!?」

「そりゃこっちのセリフだよ。一昨日まで病院で寝ていたはずだろ?」

「……え?ちょっと、なんでアンタがそんな事知ってるのよ。」

「ッ……!んっ!」

口を滑らせた、と言わんばかりにレインは咳払いをする。

しかしその咳払いは徐々にエスカレートし、やがて激しい咳へと変わっていく。

 

 

 

「ゴホッ……ゴホッ……!」

レインは喉を押さえ、必死で咳を諌めようとするがそれでも止まらない。

「ちょ……アンタどうしたのよ!?だ、大丈夫?」

流石に心配になったお嬢はレインの元へと歩み寄る。

しかしレインはソレを強く跳ねのけた。

「ッ……キミなんかに心配される筋合いは……ゴホゴホッ!」

「いや……でも……」

「うるさいッ!」

レインは怒鳴り、手を外へ仰いでお嬢を遠ざける。

 

 

 

「なんでよ……アンタ……」

いつもなら怒った声の一つでも上げるところだが、お嬢はそうしなかった。

寧ろ、相手を憐れむような目で見つめながら震えることしか出来なかった。

彼女には分かっていた。

しかし彼女には分からなかったのだ。

レインのこの体調の異常がSDのせいだと分かっていたからこそ、それを否定したがる彼のことが分からなかったのだ。

 

 

 

「アンタ……それってSDの副作用でしょう?」

「ゴホッ……そんなわけないだろ。僕は優秀な人間だ。これしきの事で……ゴホッ!」

咳がひどくなってきたレインは、流石にこれ以上の会話は困難と判断したのだろう。

「ゴホッ……司書さん、この本を1日だけ。」

手短に本の貸し出し手続きを済ませると、図書館を後にしようとする。

そして去り際に、こう残す。

 

 

 

「ゴホッ……僕にはわからない。僕はこの前ジャックに会った。その時、あの人は『アナタはお嬢様が恐れるほどの敵ではない』と言ったんだ。」

 

「じゃ、ジャックが!?」

 

「あぁそうさ。あのジャックだよ。」

レインは拳を握る。

「何だよ……僕がキミに負けるわけがないだろ?僕がSDに選ばれないわけがないだろ?……僕は人類の未来を開く人間のはずなんだ……」

そんなうわ言をつぶやきながら、レインは入り口の自動ドアから消えていった。

 

 

 

 その背中を、お嬢はただ黙って見送るしかできなかったのだった。

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