【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第052話】ジャックの再会、『ジャック』への挑発

 咳き込むレインが図書館を後にした後。

その出口で待ち構えていたのはブロンド髪の女……そう、レインのバックに居るテイラーだ。

「おう、どないしたん?昨日よりも更に顔色が悪くなってるやないか。なんか嫌なヤツにでも会ったか?」

まるで先程のことを見透かしているかのようにテイラーは問いかける。

 

 

 

「ゴホッ……ゴホッ……別にどうってこと無いさ。それより明日の『祭典』とやらは……?」

「あぁ、エンビの奴も来るらしいで。アンタの実力を見してやり……って言おうと思ったけどそんな調子で大丈夫かいな?」

会話をする度に咳がひどくなるレインを見て、テイラーは首をかしげる。

が、その声に憂いや心配といった気配は一切ない。

感情というか、人としての温もりがない……どこか無機質な声なのだ。

「ハッ、何度も言わせないでよ。こんなの、どうってことない……!」

喉元を抑えながら、レインは本を抱えて何処かへと消えていった。

誰がどう見ても無理やり咳を押さえているようにしか見えなかったのである。

 

 

 

「………」

去りゆくレインを、テイラーは黙って見送る。

その無表情に込められた意味とは。

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、時は経過してすでに夕方。

調べ物を終えたお嬢は先にその日の宿に帰り、ジャックだけが未だに図書館に残留していたのだった。

情報の殆どを掴みかけてはいたが、それでも確証を得るまでには至っていなかったのだ。

「マネネが何故『凍雪の秘鍵』を……?否、それはわかってるのですが……」

ジャックはふと窓の外を見る。

すると、流れた時間の長さに気づきはっと我に返ったのである。

「……ふぅ、これ以上の有益な情報は拾え無さそうですね。」

ジャックは本を閉じ、ため息をつく。

流石にジャックと言えども、ここまで長時間本を読み続ければ疲労感も溜まるというものだ。

「……あとはあの人に確認を取りたいですが、イマイチ信頼ができないんですよね。」

本を片付けて立ち上がると、そのまま図書館を後にするべく立ち上がる。

 

 

 

 階段を降り、1階の出口に差し掛かった当たりでの出来事であった。

雑誌コーナーに見覚えのある影を一つ見つけたのだ。

キャップとタンクトップの少女……そう、ハオリだ。

ジャックが数歩近づくと、気配に気づいた彼女が彼の方へ手を振る。

「よっ、お兄さん。久しぶり。」

「お久しぶりです。……それって?」

「あぁ、これね。P-Bassっていう音楽雑誌の先月号。いやぁ、こんな図書館にも置いてくれてるなんてありがたいよねぇ。」

そう言って彼女は雑誌を彼に手渡した。

 

 

 

 音楽についてそれなりに通であるジャックは、どんなものか気になって雑誌をパラパラとめくりだす。

そこには流行りのDJやロックバンドなどの現代音楽についての様々な情報が掲載されていた。

ここ最近、お嬢に掛かりっきりで新しい音楽を追う暇のなかった彼にとって、この雑誌の情報はとても新鮮なものであった。

そんな中でもひと際目についたものが、ついこの前に新結成されたバンドについての紹介であった。

 

 

 

 しかし新結成とは言え、その過半数はジャックも見覚えのある顔であった。

そう、かつて解散したバンド、「Aruku-Landorus」のRio……ハオリ以外のメンバーだ。

つまるところ、Aruku-Landorusは解散した後にハオリ抜きで別のバンドを再結成していたのである。

これではまるで仲間はずれ……除け者扱いも良いところである。

ジャックはそのページとハオリの顔を同時に見比べる。

……が、その表情で彼女にはだいたいのことを察されてしまったようだ。

「あー……例のページ見てるんでしょ。」

「……あの、ハオリ様。これって……」

「あはは……まぁアタシも驚いたけどさ。ここまで露骨にやるのかってね。」

彼女が以前に良くない扱いを受けていたことは、ジャックもなんとなく本人から聞いていた。

が、まさか本当に彼女が追い出されただけ、という事実を目の当たりにすることになり、彼は打ちひしがれる。

その無情さに。

そしてそれでいて尚強くあろうとするハオリの姿に。

 

 

 

「もー、そんな顔しないでよ。別にアタシは気にしてないよ。」

しかし当のハオリは笑い、ジャックの肩を強めに叩く。

ナイーブな彼とはえらく対照的であった。

それでもジャックの目には、彼女の何処かに綻びのようなものを垣間見ていたのだ。

 

 

 

「……そうだ。それよりお兄さん、トレちんは明日の『祭典』には出るの?」

「え……『祭典』?」

『祭典』というのは、このスネムリタウンで定期的に開催されている小規模なバトル大会のことだ。

『ポケモンと人間の信頼度を測る』という名目で行われる季節行事である。

この宗教ではバトルによる共存関係の助長を奨励しており、こういった大会が開かれるのだという。

一応外部からの参加者も受け付けているそうだ。

しかしこの大会には、ハオリにとってそれ以上に大切で直接的な意味がある。

 

 

 

「この街のジムに挑戦するには、明日バベル教団が開催する『祭典』で好成績を出さないといけないんだって。知らなかった?」

初耳だ、と言わんばかりに彼は首を縦に振る。

ジャックは急ピッチでこの街に来たため、細かな情報まではリサーチできていなかったのだ。

しかしそれが事実であれば、このままだとお嬢はこの街のジムに挑戦できないということになる。

それではただの無駄骨だ。

「ま、今日の日付が変わるまでは受け付けてるっぽいし……町の中央の礼拝堂に行ってみたら?」

「……わかりました。急いで手続きをしてきます。」

そう言うとジャックはハオリに手を振り、早足で図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 ーーーーー薄暗い街の中央道を歩いていくと、やがて壁の崩れたボロボロのレンガ作りの建物にたどり着く。

一応、地図の上では『中央礼拝堂』と書いてあったが、とてもそのような神聖さや威信は感じられない。

完全に廃墟そのものだ。

しかし入り口にはしっかりバベル教団のロゴが立てられており、ここが目的地であることは認めざるを得なかった。

 

 

 

「……ここですね。手短に済ませて宿に帰りましょう。」

ジャックは立て付けの悪い扉を開き、奥へと進んでいく。

手前の階段を下り、暗く長い廊下を進んでいく。

彼の足音だけが暗闇に響き、孤独感や恐怖心を煽る。

が、いよいよ廊下の先に明かりが見えだす。

ぱっと開かれたその場所に行くと、彼の目に飛び込んできたのは古ぼけた地下礼拝堂と……

 

 

 

 そして見知った男の顔であった。

彼は振り返ると、ジャックの存在に気づく。

「……ほう、クランガかダフだと思ったが、お前か。」

「なっ……アナタは……!?」

赤と銀の長髪に黒のローブ……エンビだ。

 

 

 

 ジャックは彼の予想外の登場に驚くが、よく考えてみれば彼はこの宗教の信者の1人だ。

であればこの聖堂にいてもおかしくはない……のかもしれない。

加えて彼のローブの胸には大きなブローチがある。

これはこの教団の中でも上の地位……『司教』にいることを意味しているモノのだ。

つまり彼はただの信者ではなく、教団をまとめる側の人間であるということである。

 

 

 

「……」

「……」

両者は無言でにらみ合う。

それもそのはずだ。

先日のヒルミヴィレッジでの一件があった以上、彼らは互いに対しての印象が良くないのも事実だ。

エンビは振り返るやいなや、ジャックの方へと歩み寄ってくる。

 

 

 

「……何の用だ。」

やや不機嫌そうに問いかけるエンビに、ジャックもまた冷静で事務的な応対をする。

「明日の『祭典』とやらの申し込みです。私名義ではなく、トレンチお嬢様の名義で。」

「……まぁ、大体はわかっていたけどな。ジムの挑戦権目当てだろう?」

「……では、私はこれで。」

ジャックは一礼を済ませると、礼拝堂から立ち去ろうとする。

一秒でも、この男と同じ空気を吸っていたくなかったからだ。

 

 

 

 すると、礼拝堂の隅の椅子から声が聞こえてきた。

「……待ちなさい、『ジャック』。」

高くも重みのある女性の声だ。

ジャックが声の主の方へ振り返ると、そこには菖蒲色の髪をした少女が座っていた。

「お前から他人に話しかけるとは、珍しいなスエット。」

「……エンビ、アナタは少し静かにしてて。」

スエットがそう言うと、エンビは何も言わず遠くの椅子に座り直し、事の顛末を見守っていた。

 

 

 

「……『私』に何か用でしょうか?」

「……アナタじゃないんだけど。まぁいいわ。」

スエットはジャックの目を見つつ、続ける。

「……私はお嬢様とやらよりも、アナタのほうに興味がある。だから、出なさい。明日の祭典に。」

「何を言ってるんですか?私はトレーナーを辞めた身です。」

「……アナタじゃないわ。『ジャック』よ。」

「……答えは同じです。」

 

 

 

 そう言ってジャックは出口の方を向き直し、取り合わないようにとこの部屋を後にする。

しかしそこへ、更にスエットは声をかけてきた。

「……クランガとダフから聞いたわ。アナタのせいでお嬢様が壊れかけた、って。」

「………!?」

「……アナタはあの子の目標。なのにその実態はただ目の前の事実から逃げただけの臆病者……。そうじゃなくて?」

「………ッ!」

ジャックは振り返り、怒りと恐怖に歪んだ顔でスエットを睨みつける。

彼には分かっていた。

このスエットという女は、エンビやクランガと同じだと。

『自分』と『ジャック』の正体を知っていると。

ジャックは背筋が凍るほどの寒気を感じていたのだ。

 

 

 

「……とにかく、お嬢様とやらを思うなら一度証明しなさい。アナタの力を。アナタが彼女の『憧れ』足り得るかどうかを。」

「………。」

ジャックは完全に黙る。

そして振り返り、再びエンビの元へと歩み寄る。

「……私も出ます。」

「………わかった。」

それが彼らの交わした最後の会話であった。

ジャックは震える身体を抑えつつ、礼拝堂を後にした。

 

 

 

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