【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第053話】いつかの彼、『教皇』の声

 アタシは目を覚ます。

いつも通りの慣れたベッドの上……屋敷で向かえるいつも通りの朝。

……違う。

ここは夢の中だ。

ジャックの帰りを待っていたら、そのまま宿の寝床で 眠ってしまった

 

 

 

 そしてこれは、この前見たものと同じ夢である。

ということはだ。

ベッドから起き上がり、部屋の扉を開ければそこには『彼』がいる。

 

 

 

 案の定、私が扉を開くとそこには紫髪のあの男がいた。

「……またお前か。」

「……あら、数日ぶりかしら。」

アタシはジャックに似た彼を部屋に通す。

そして彼はアタシと一緒にベッドに座り込んだ。

隣りに座った彼は少しずつ言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

「……明日、お前は『祭典』とやらに出るらしいな。」

「あら?『祭典』って何?」

「要するにバトルの大会だと。そこで好成績を収めないとこの街のジムには挑戦できないんだそうだ。」

「ふーん。」

恐らく、ジャックが聞いていたことだろう。

アタシは寝てしまったので知らないが、まぁこんな旅をしているのだからどこかしらで戦わなくてはいけないことは確かだろう。

それがジム戦の前の前哨戦である、というのならやるべきことなのだろう。

 

 

 

「……何だ、随分と飲み込みが早いな。」

「別に、そう驚くことでもないでしょ?」

彼の顔がまた曇る。

何かに怯える表情がまた現れる。

 

 

 

「……スエットに言われたんだ。お前も出ろって。」

「す、スエット?」

「……気にするな。」

彼はそう言うとうつむき、沈黙してしまう。

その大きな肩は確かに震えていた。

アタシは彼の背中を擦る。

 

 

 

 やがて彼の震えは徐々に収まっていく。

そしてこちらを少し見たかともうと、気まずそうに別の方向を向いてしまった。

「……怖かった?」

彼は何も答えない。

続けてアタシは話しかける。

「……どう?落ち着いた?」

すると彼は、アタシの問いかけに小さく頷いて返答する。

それでも視線は交わらぬままだ。

 

 

 

 しばらく、再度の沈黙。

その後、彼は再び話し出す。

 

 

 

「………お前は何故、ジャックをそこまで慕う。」

彼の質問は、至極単純なものであった。

が、いざそこを聞かれてしまえば具体的な答えはスッと出てこないものだ。

圧倒的に強いトレーナーだから憧れるのだろうか?

それともアタシにとって唯一の頼れる人間だからこそなのか?

おそらくその解はどちらも真だ。

だが、本当に?

違和感が走る。

これ以外にも理由がありそう、とかそういうのじゃない。

もっと根本的な突っかかりというか、捻じれというか……

 

 

 

 様々な思案を巡らせていると、彼がまた言葉を紡ぎ出した。

「……アイツは碌でもない男だ。その弱さ故にサンドを喪った。害があると知りつつ戦うことを選び、その末に破滅した。」

「…………。」

「最強だ、無敗だと祭り上げられたあの男の正体は、慈悲も配慮も欠けた碌でなしそのものだ。替えの効かぬ友よりも、飽き足りた勝利を選んだ人でなしだ。あぁ、そうだ、あんな奴……………!」

 

 

 

 そこまで聞いてアタシは驚いた。

 

 

 

 だって、自分の右手が勝手に目の前の彼の頬を平手打ちしていたんだから。

感情を認識するよりより先に行動するなんて自分でも驚いている。

この行動は怒りからか?

………違う。

もっと虚しい感情だ。

 

 

 

「…………………?」

叩かれた頬を抑えて、彼はアタシを見る。

彼も予想外だったのだろう。

それもそのはず。

アタシは生まれてこの方、人を叩いたことはないからだ。

 

 

 

「………なんでよ。」

「………………。」

「なんでそんなこと言うのよ………アナタ………」

不思議なものだ。

そこにあったのはジャックを蔑まれたことに対する怒りよりも、目の前の男を憐れむ気持ちなのだから。

 

 

 

「ジャックは弱虫なんかじゃない。あの時のことを後悔してるからこそ、アタシに色々言うんだもん。きっとジャックは………」

そこまで言って、口が徐々に動かなくなる。

視界が揺らめき、意識が遠のく。

そうか、もう時間か。

 

 

 

「………………。」

目の前の彼は、未だアタシを見つめている。

でも残念、ぼやけすぎてて顔が見えないわ。

やがて視界は完全に暗転し、ふっと全身に重力がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーお嬢が起き上がると、そこは昨日泊まった宿のベッドの上であった。

酷く汗ばんでいた。

ここ数日で、彼女は一番疲れたかもしれない。

 

 

 

 

 

 朝日が差し込み、隣では疲れ果てたジャックが眠っている。

お嬢が窓を開けると、外からは既に民衆たちの賑わう声が聞こえてくる。

今日が街の中でも大規模な『祭典』が開催される日であることが、誰の目から見ても明らかであった。

 

 

 

 死んだように眠っているジャックを、マネネが揺らして起こす。

「………ッ、なんか見知った場所にいたような……あれ?」

今まで見えていたものが夢だと気づいたジャックは、お嬢の方へ目をやる。

いつもであればジャックの方が早起きで、お嬢の事を起こしているくらいだったのに今日は逆であった。

よほど疲れているのだろう。

 

 

 

「お……おはよ。」

まぶたを押さえるジャックに、お嬢は力なく挨拶をする。

目の前のジャックは無関係のはずだが、それでも何処かに蟠りが残るのもまた事実だったのだ。

「………おはようございます。」

夢見が悪かったのだろうか。

ジャックの表情はどうにも浮かないものであった。

 

 

 

 なんとなく淀んだ空気を払拭しようと、お嬢は次の言葉を紡いだ。

「あ、そうだ。今日ってアレよね。」

「え……お嬢様、どうして『祭典』のことを?」

ジャックの疑問も無理はない。

昨晩彼がこの部屋に来た時には、お嬢は既に眠っていた。

すなわち、祭典のことは一切話していないからだ。

お嬢は横に目線を逸らしながらはぐらかす。

「あ……まぁ、なんとなくね。」

 

 

 

 わだかまる違和感と重い気分を抱えつつ、彼らは身支度を整えて宿を後にした。

街の道路には、昨日とは比べ物にならないほどの人が溢れかえっていた。

みなポケモンをボールから出しっぱなしにしている関係で、開けているはずの村はひどく手狭に感じるのであった。

しかしそれにしても、賑わう歓声も飛び交う会話も凄まじい熱量だ。

それほどに村の住民たちの注目度も高い、ということだろう。

群がる民衆は、皆一定の方向へ向かう。

 

 

 

 街の中央部にある円形のくぼみである。

ここは昔に隕石が落下して出来たクレーターで、そこを公営のスタジアムとして改修したものである。

高台に位置する座席から、観客たちはこのバトルを見下ろすことが出来る。

参加者であるお嬢たち一行も、他の民衆に混じって席の一角に座る。

「えっと……確か対戦カードの発表がそろそろですよね。」

「そうね。というかあれね、殆どはこの村の人ね。」

「まねね。」

お嬢は周囲を見回し、人々の様相を伺う。

この町の住人……すなわち、バベル教団の信者はその服装や顔つきが一般人とは一線を画しているのだ。

3原色のベストを羽織った者や、バンダナを巻いた者、更には重そうなブレスレットやネックレスを身に着けた者までいる。

際立つ異常性は、お嬢の目から見ても明らかであった。

 

 

 

 そして、その村の住人以外の人間がほとんどいないのである。

「ジムのチャレンジに2段階の面倒な段階を踏みますからね……敬遠するトレーナーも多いことでしょう。」

ジャックの言う通り、辺鄙な場所にあることもさることながらジムへの挑戦権の獲得が非常に面倒である。

加えて、この街そのものが不明瞭で不穏なものとして他のトレーナーを寄せ付けないこともあるのだろう。

だからこそ、この『祭典』は事実上お嬢らを迎え撃つ形のものと化していたのだ。

 

 

 

 しかし、それ以外にもお嬢にとっては無視できない存在が2人ほどいた。

「レインと……ハオリ……!」

「まね。」

彼女の視界の端に捉えたのは、見覚えのあるトレーナーたちの顔であった。

彼らもまた、このジムの挑戦権を巡って争いに来たのである。

敵の数は多い。

が、もうそんな事に怯える彼女ではなくなっていた。

「………次こそ負かすッ!」

「まねッ!」

彼女は決意に満ちた表情で、正面を向きなおした。

 

 

 

 やがてスタジアムの中央に位置する壇へと、何者かが登ってくる。

菖蒲色の髪をした小柄な少女……そう、ジャックが昨晩礼拝堂で会話をしていたスエットだ。

彼女の姿を目にするなり、民衆たちは歓声を上げる。

「ワァアアアアアアアッ!」

「教皇様だ!教皇様ッ!」

湧き上がる彼らに、ジャックとお嬢は完全に置いてきぼりを食らう。

 

 

 

「きょ……教皇様!?」

特にジャックは困惑の色を隠せていなかった。

昨日見た彼女が、まさかこの宗教団体をまとめ上げている人物などと想像打にしなかったからである。

彼女はマイクの音量を確認すると、一呼吸を置いて語りだす。

 

 

 

「……優しいあなた。どうか私の夢を聞いてください。」

その耳障りの良い声は、ざわつく民衆を一瞬にして鎮める。

どこか懐かしく温かい……言うなれば『母性』を感じさせるようなそんな声であった。

だが、ジャックは特に違和感を覚える。

昨日の冷酷な彼女とはまるで異なる声だったからだ。

その雰囲気もさることながら、様々なものが可変であるかのような、そんな気色の悪さがスエットからは漂っていた。

 

 

 

 スエットはにこやかに微笑む。

「……あなたが我らバベル教団の『祭典』お集まり頂き、嬉しく思います。」

一つ、呼吸を挟んでスエットは続ける。

「……私たちはは皆、孤独の中で生きることは出来ません。人にもポケモンにも、孤独は耐えがたいもの……我々は手を取り合わずにはいられないのです。ゆえに人間とポケモンが絆を紡ぐのは必要にして前提……私はこの『祭典』で皆様にポケモンとの『絆』を見直してほしいのです。」

この『祭典』の目的は、やはり宗教理念の啓発のようだ。

実際、彼らはその宣言を聞き、無言ながらに闘志を沸き立たせていたのだ。

より強き者はよりポケモンと共栄を為すもの……すなわち、より教団の信条に敬虔なる者として崇められるのである。

その高揚も当然のものと言えるだろう。

だが、それでもお嬢は物怖じしない。

ただひたすら、遠い目線の先で開催宣言を行うスエットの顔を、じっと見据えていたのである、

「……教団の皆様、引いてはこの街に訪れた皆様にも是非意義のある催しとなることを願っております。」

 

 

 

 スエットの演説に一段落が突き、彼女の視線が揺らいで動く。

「…………。」

彼女の視線が向いた先の民衆たちが、皆一様にざわつき始める。

自分を見ている、否自分のことだ、と誰もがその狂信故に胸を踊らせていたのだ。

しかし残念、スエットが見据えていたのは有象無象の信者ではない。

その視線の先に居たのは……

「……え、アタシ?」

「まね?」

そう、確かにトレンチお嬢そのものだった。

彼女らが互いに目を合わせたことは、他でもない本人たちに確固たる確証があったのだ。

 

 

 

「……では、これにて開催の挨拶とさせていただきます。あなたとポケモンに心の幸福が訪れますよう。」

スエットはそう言って軽く頭を下げる。

やがて遅れて湧き上がる民衆たちの拍手に囲まれ、彼女は降壇していったのだった。

「………。」

そんな中、それを見送るお嬢はスエットの視線を鮮明に覚えていた。

寒気はない。

嫌悪感もない。

ただ、それでも彼女の目にはどこか引き込まれてしまいそうな深さがあった。

 

 

 

「……さま?お嬢様?」

「ッ………!」

ジャックの呼び声で、ようやく彼女は我に返る。

既に他の参加者は、対戦カードを見に行くためにぞろぞろと観客席を離れている最中であった。

彼らも遅れて席を立ち、人々の後を追う。

 

 

 

 参加者たちは、会場端に設置されたホワイトボードの前に群がっていた。

紛れもなく、対戦カードが書かれているのはこの場所であろう。

身長の低いお嬢は人々の群れを掻い潜り、我先にとホワイトボードに提示された名前を覗き込む。

奇跡的にも、特徴的な彼女の名前が書かれた札は一発で見つかった。

彼女は再び人混みを進み、ジャックの元へと戻る。

「えっと……見てきたわよ、対戦相手。」

「どんな方でしたか?」

「えっと名前は……『エンビ』って人。」

「!?」

 

 

 

 ジャックは再び驚愕する。

その名前には嫌というほど覚えがあった。

エンビ……このバベル教団の司教、すなわち副官クラスの人間だ。

本来であれば運営サイドの人間であるはずの彼が、何故かこの大会に参加者として名を連ねているのである。

 

 

 

 だが、問題はそこじゃない。

ジャックはエンビの名前を聞いて震える。

「あら……なにか心配事でもあるの?」

「まね?」

お嬢が覗き込むようにしてジャックに尋ねる。

彼は一つ大きなため息を挟み、お嬢に伝えた。

その事実は、意気込む彼女を再び怯えさせるのに十分なほど衝撃的だった。

 

 

 

「……エンビ、彼は4回目のリーグで私を初めて負かした男です。」

「……!?」

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