【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第054話】強者の風格、重なる戦友

 超エリートのポケモントレーナーにしてバベル教団の司教・エンビ……

当時のジャックを知るもので、彼の名前を知らぬ者はいない。

何故なら現役時代に引退直前まで『無敗のジャック』と讃えられていたあの男をリーグ決勝戦にて初めて負かしたのが、他でもないエンビだったからだ。

その戦闘スタイル・挙動には一切のムダがなく、並みのトレーナーでは付け入る隙は皆無と言っていいだろう。

 

 

 

 しかしその名声に対し、本人の威厳もまた相応のものであった。

現に、対戦カードの発表を確認し終えたトレンチ嬢が、帰り際エンビとすれ違った時。

この男から放たれる気迫は、彼女に小さな身震いをさせるのに十分なものであった。

ジャックから事前に聞いていた外見の特徴との一致もあったが、それ以上に彼自身の存在が『エンビ』というトレーナーの在り処を示していたのだ。

 

 

 

「まね?」

そんな彼女の事を気遣い、頭の上のマネネが声をかける。

先にジャックが別件でお嬢の元を離れた以上、声をかけてくれる存在は彼だけだったのだ。

「……ん。大丈夫。」

お嬢は一言、そう答えてマネネの頭を撫でた。

レインやジャックの名前に怯えていたあの時とは違う。

彼女にはここで踏ん張る理由があった。

たとえ勝ち目がない相手だろうと、彼女は戦うのである。

 

 

 

「………。」

そんな様子を、エンビはすれ違いざまに一瞥する。

彼もまた、トレーナーの本能で感じ取っていたのだ。

クランガやダフから聞いていた少女・トレンチは、今まさに目の前にいる彼女で間違いないと。

そして、この少女は……間違いなくトレーナーとしては並外れた実力の持ち主だ、と。

頭の上の見覚えのある帽子は、決して誰かの買いかぶりなどではないことを知っていたのだ。

不思議と、彼の足取りは軽やかであった。

決して表情には現れないが、何処か高揚しているようにすら見えたかもしれない。

 

 

 

 やがて互いの方角へ歩む彼らの距離は、数十メートルほど離れる。

そこへ1つ、見覚えのある人影が2つほどエンビの元へと迫ってきた。

「よぉ、久方ぶりやなエンビ。」

「お前は、テイラー……と、レインか。」

気さくな声で話しかけるのはブロンド髪の女・テイラー。

そして隣りにいるのはその連れであるレインだ。

テイラーは甲高い声でエンビにあれこれとどうでもいい軽口を叩くが、肝心の彼は話半分程度にしか聞いていない。

「………。」

一方のレインは相変わらず、ぶっきらぼうな顔でエンビの方を凝視する。

ただしその顔色は昨日から引き続き優れないようだ。

 

 

 

 そんな彼を気遣うことはなく、エンビはレインに話しかける。

「お前の噂は聞いているぞ。どのバトルでも高戦績のようだな。殊勝なことだ。」

レインを称賛するものであったが、その口調は何処か形式的なものであった。

「……エンビ、今日はアンタに僕とピカチュウの実力を見せてやる。『迅雷』に選ばれた適合者として……ね。」

レインの目は火花を飛ばすかのごとく、鋭い光を放つ。

彼がここまで好戦的になるのは、ジャック以来だろうか。

どのみち彼にとって、相手にとって不足はないのだろう。

 

 

 

「……そうか、期待しよう。」

しかし、一方のエンビの視界にレインのことはなかった。

彼が見据えていたのは、未知なる次の対戦相手……そう、トレンチ嬢のことだ。

一言だけ言い残したエンビは、そのままスタジアムの方へと足を運んでいってしまったのだった。

「んもう……ホンマにノリが悪いなアイツ。ジャックもレインも、ウチの知ってる男ってこんなんばっかりやわ……。」

「それはキミが鬱陶しすぎるだけだろ………ゴホッ!」

そんな返答をしつつ、再び咳のぶり返してきたレインもまたテイラーの元を去っていった。

「ふぅん……ま、それなら別の話し相手でも探したろかな。」

 

 

 

 

 

 ーーーーー試合の工程も進み、中盤に差し掛かる。

同じスタジアムでも北と南でコートが半々に分けられているため、参加者は全てのバトルを見届けることは出来ない。

北コートで圧勝で試合を終わらせてきたジャックは、南コートの観客席へ駆け足で戻っていく。

そこではお嬢とエンビの試合が始まるからだ。

すると案の定、既にフィールドではエンビとトレンチ嬢がコートの端々に待機して睨み合っていた。

 

 

 

 南コートの観客たちは、皆一斉にざわめき出す。

それもそのはずだ。

「おい、マジだったのか……あの司教のエンビさんが祭典に出てるなんてよぉ……!」

「いつもなら絶対にありえないわ!」

そう、エンビはあくまでも教団の中心人物の一人だ。

おまけにその実力は暴力的なまでに圧倒的なのである。

彼自身が大会に名を連ねてしまっては、それこそ興醒めだ。

 

 

 

 しかし彼がそれでもこの大会に出場したのは、当然理由がある。

「………。」

彼の目の前で眼前を睨む少女・トレンチ。

そう、彼女の存在だ。

本来の目的は、お嬢をスエットの目の前に見せてその実力の確認をしてもらうことだ。

しかしそれ以外にも、エンビにはここに立つ理由があった。

 

 

 

「……お前がトレンチか。」

エンビは改めて問う。

既に見知ったことだが、それでも彼には問わずには居られなかった。

「えぇ、そうよ。今からアンタを負かすトレーナー、トレンチ・コートよ!」

目の前の矮小な少女は、全く恐れることなく吠える。

相手が、自らの戦う理由を打ち倒した強大な存在であるにも関わらず、だ。

 

 

 

 その時。

「………。」

エンビは彼女の背後に、見覚えのある男の影を見た。

あの男は決してこのような激しい性格ではなかったが、それでも彼の視界の中では重なるものがあったのだ。

 

 

 

「………良いだろう。期待してるぞ。」

彼の硬い口角が、こころなしか上がる。

エンビは、珍しく確かに昂ぶっていた。

果たして笑いかけたのは後ろの影か、目の前の彼女か。

 

 

 

 やがて両者はボールを構えた。

教団の教えに反するとはいえ、バトルというルールがある以上はエンビであれモンスターボールを使うのだ。

 

 

 

 ルールは2on2の勝ち抜きバトル。

相手はかつての王者を引きずり下ろした者……果たしてお嬢は何処まで食らいついていけるのだろうか。

 

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