【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第057話】2撃目の弾、第2の脅威(vsエンビ)

 スネムリタウンの祭典・1回戦。

早くも残り1匹の状態にまで追い詰められたお嬢。

立ちはだかるのは強敵・ファイヤー。

果たして、突破口は何処にあるのだろうか。

 

 外野のジャックとテイラーは勝負の行方を見守る。

「ほぉ、2匹目はマネネか。まぁ変に奇襲や空中戦みたいな相手の土俵で戦うよりは賢い判断やな。」

そう言うとテイラーは首を傾け、ジャックの方を覗き込む。

「お?なんや、えらく浮かない顔やん。」

涼しい顔で笑うテイラーとは対照的に、ジャックの表情は険しくなるばかりだ。

ただでさえ一筋縄では行かない敵なのに、現状はお嬢の不利……見慣れた展開とは言え、それでも気が揉まれないほうが不自然である。

「……確かにマネネはお嬢様のポケモンの中では一番ファイヤーに有利でしょう。ですが本当にあそこから勝てるのでしょうか……?」

「ホンマにアンタは心配性やな……まぁ見とき。こっからが面白いところやで。」

まるでその後の展開を確信するかのように、テイラーは言い切った。

 

 さて、視点をフィールドに戻そう。

2匹目のポケモン、マネネを確認したエンビはすぐに攻撃の指示を出した。

が、此処に迷いがあったわけではない。

マネネの唯一の攻撃手段は『サイケこうせん』だが、あくタイプのファイヤーに対してこの攻撃は一切効かない。

つまり、必然的にファイヤー側が先攻とならざるを得ないのである。

 

「全力で焼き払え……『もえあがるいかり』ッ!」

「ウラアアアアアッ!」

漆黒のブレスが、上空からマネネに対して吐き出される。

明らかに、火力もスピードも最初とは桁違いに上がっている攻撃だ。

その範囲と速度が何よりの証左である。

先のポッチャマがダメージを与えたことで、特性の『ぎゃくじょう』が発動しているのだ。

ファイヤーの体力は残り少ないが、それでもより強化された状態にあることは間違いない。

 

 すぐにでも回避をしなくては一発KOすらあり得る攻撃だ。

しかしお嬢から出された指示は、あまりにも意外なものであった。

「………マネネッ、動かないで!」

「まねっ!?」

マネネは困惑する。

普通であれば、ここで回避なり防御なりの手段を取るのが定石だ。

だが、お嬢は此処で敢えての待機を選択したのである。

 

 その意図は、お嬢を除けば誰にもわからない。

あまりにも非合理的な策略だ。

だが、それでもマネネは彼女の指示を信じる。

今までもそうして戦ってきたからだ。

 

 何もせずにその場で立ち尽くすマネネの眼前に、漆黒のブレスが差し迫る。

その距離わずか数センチ……正に絶体絶命という状況であった。

……が、その直後。

『もえあがるいかり』はマネネの眼前の床へ直撃すると同時に、Y字に分岐する。

完全に明後日の方向へと飛んでいったのである。

 

「なっ………!?」

観客たちは完全に呆気にとられてしまう。

当然だ。

マネネを含め、この場に居る者の殆どは今のやり取りの意味が全くわかっていなかった。

微動だにせずに『もえあがるいかり』を受けたかと思ったら、攻撃自体が別方向へ行くなど前代未聞だったからだ。

 

 しかしエンビにはこの行動の意図が理解できていた。。

理解できていたからこそ、彼はこの場で最も驚愕していたのである。

「……お前、なぜ分かった!?」

ファイヤーの攻撃がマネネの前で別方向に逸れた理由……それは『ファイヤー自身がそう仕向けたから』に他ならない。

ファイヤーとエンビは、『マネネが直前で攻撃を回避する』と読み、そこに合わせてブレスが横へ逸れるように調整していたのである。

だがその読みは裏目に出て、結果的に不動を貫いたマネネに攻撃はヒットしなかったのだ。

 

 驚くエンビを前に、お嬢は

「さぁね。直感よ直感!」

と、本心のままに答える。

仮にこれが本当だろうが嘘だろうが、大した度胸であることに間違いはないだろう。

 

「っし!行くわよマネネ!『ものまね』ッ!」

「まーーーーねねっ!」

マネネはすぐに両手を前に差し出し、射撃の構えに出る。

そうするや否や、ファイヤーに向かってブレス攻撃を繰り出した。

先程の『もえあがるいかり』をコピーし、それを自身の攻撃として取得したのだ。

マネネとしては最も収穫の大きいビーム攻撃……正に理想の流れである。

 

 真一文字で放たれた『もえあがるいかり』は、ファイヤーを真正面から焼き払う。

「ウラッ……!?」

相性の関係でダメージはそこまで出ないかもしれない。

が、『ひるみ』効果が発動する関係上、ファイヤーは確実に敏捷性を削がれている。

畳み掛けるならば攻撃の入った今しかない……!

 

「マネネ、もう一回!『もえあがるいかり』ッ!」

「まーーーねねっ!」

再度、マネネは真一文字のブレスを吐き出しファイヤーへ追撃を加える。

スピードを重視したのか、先程よりも細い一撃だ。

が、この攻撃を『ひるみ』状態を抱えつつ避けるのはやはり難しいだろう。

 

 しかし、それでもこの程度の逆境は身体能力で乗り越えてしまうのがエンビとファイヤーだ。

「……迎え撃てッ、『ぼうふう』!」

「ウラアアアアアアアアッ!」

強き自我を保ち、ファイヤーは翼を大きく羽ばたかせる。

その勢いは、観客たちが空気抵抗を感じてしまうほどには凄まじいものであった。

お嬢ですら、帽子が吹き飛ばされぬよう頭を抱える始末だ。

 

 どうやらマネネのブレスを正面からの風で吹き飛ばす算段のようだ。

全身が痺れている状況で尚取られるこの選択は、底無しの胆力に起因する。

筋の通った根性論ほど恐ろしいものはない。

 

 更に言えば『ぎゃくじょう』のせいで大幅に攻撃力が上がっている状態だ。

当然、先程取得したばかりの『もえあがるいかり』がこんな超火力の『ぼうふう』に勝てるわけがない。

まさに風前の灯火……パワーでかき消されてしまうのがオチだ。

実際、マネネの放った『もえあがるいかり』は、ファイヤーの放った風の前に虚しく散ってしまったのだ。

 

 そして本体にまで届いた『ぼうふう』は、体重の軽いマネネを上空へと吹き飛ばす。

「まねっ……!」

それなりのダメージが入り、投げ出されたことでバランスも崩れてしまう。

これでは劣勢は必至である。

 

 

「あぁ……『ぼうふう』はマズい……!」

この当たりでジャックは敗北を確信する。

『ぼうふう』の威力は、普段から使っているジャック自身が把握していたからだ。

ましてや、この風が軽量級のマネネに対して与える影響は計り知れない。

 

 だが、テイラーの表情は揺るがない。

彼女はまだ、この試合を客観視していたのであった。

「急がずよう見てみ。マネネの右手や、右手。」

そう言ってテイラーはフィールドの方向へ指を差し向ける。

差されたのはマネネの右手……当然、そこにはなにもない手ぶらの状況だ。

 

 しかしそれこそが具体的な答えであった。

「……フリーの状態?」

ジャックが目を向けたマネネの右手は、後ろ側に位置しフリーの状態にあった。

マネネは最初の『もえあがるいかり』を両手から発射していた。

しかし2発目の攻撃は左手『のみ』から放たれていたのである。

 

 

 これが何を意味するか。

それがわからないトレーナーたちではなかった。

そう、マネネは敢えて弱めの攻撃で『もえあがるいかり』を放ち、万一の時に次の攻撃をすぐに出せるよう片手を泳がせていたのだ。

「………なるほど。やるな……!」

エンビはマネネが置いた一手に、息を呑んで称賛の意を呟く。

 

 マネネは空中から、後ろに備えていた右手を差し出す。

更に照準を『ぼうふう』を放った直後で硬直するファイヤーへ差し向けた。

そしてお嬢の一声で、2撃目のトリガーは引かれることとなったのだ。

「そこよマネネッ!『もえあがるいかり』ーーーッ!」

「まーーーーーーーねねっ!」

 

 的となるファイヤーは動かない。

故に、この一撃は外れないのだ。

か細くも力強い漆黒のブレスが、ファイヤーの上半身を一気に焼き尽くした。

間違いなく、トドメの一撃として十分な攻撃となっただろう。

「ウ……」

ポッチャマ戦ですでに幾らかの消耗をしていたファイヤーは、此処で力尽きて地に堕ちる。

 

 

 風に振り回される中で、ファイヤーに照準が当てられたのは偶然かもしれない。

 

 

 

「よしっ、でかしたわマネネ!」

「まねっ!」

無事にファイヤーを突破したマネネとお嬢は、互いにグーサインを送り合う。

 

 

 

 あのエンビのファイヤーが倒れたことで、会場は大いに盛り上がりを見せる。

「なっ……何だアイツ!?エンビさんのファイヤーを……!?」

「俺は知ってるぞ。アイツは確かコートグループの令嬢・トレンチだ!」

彼女の存在を、信者たちが徐々に認識し始める。

あの無敗のエンビに喉元まででも差し迫れるトレーナーの登場は、それだけでもビッグニュース足り得る出来事だったのだ。

もしかしたら……もしかするかもしれない。

そんな事を周囲の観客も、ジャックも、そして相対するエンビ自身も感じていたのであった。

「くくっ……いいぞトレンチ………!俺は今、猛烈に昂ぶっている!今、俺に最高の敗北を教えてくれるであろう貴様に!」

「ふーん……よく言うわね。アンタほど殺意のあるトレーナー、見たことないわよ。」

そんなやり取りを交わしつつ、試合局面は終盤へと差し掛かる。

エンビはファイヤーを戻し、最後のポケモンが入ったボールを構えた。

 

「さて、俺も本気を出そう。……行くぞッ、カラカラ!」

「マーーッ!」

エンビのボールから出てきた最後のポケモンはカラカラ。

白骨のヘルメットとブーメラン状のホネを携帯した、近接戦が得意なポケモンだ。

伝説などと呼ばれるファイヤーから比べたら、幾らか格落ちしたポケモンであることは間違いない。

 

 ………が、お嬢の中にある感触は身に覚えがあるものであった。

小さな体格に見合わない威圧感と存在感……見つめるだけで相手を食らいつくさんばかりの脅威。

そう、レインのピカチュウと同じ、あの感触である。

そこでお嬢は気づいた。

ジャック、レイン、そして目の前のエンビ……彼らに共通するのは銀色の混ざった髪。

 

「……なるほど。アンタも『適合者』って奴?」

「既に知っていたか。ならば話は早い……!」

そう言うと、エンビは腰元からポケットナイフを取り出し、次の瞬間………

 

 自身の首筋を切り裂いた。

そこからは赤黒い血が吹き出す。

レインの自傷行為と酷似した行動だが、やはりそれでも見ていて気持ちのいいものではない。

お嬢は少しばかり尻込みをする。

 

 エンビの首からは赤紫の炎が吹き出し、カラカラもそれに合わせて全身を燃え上がらせる。

そして瞬く間に、姿を大きく変えていく。

やがて豪炎がかき消えると、そこには一変したカラカラが現れる。

ヘルメットの角は長く伸び、ホネは2本に増えている。

更には背面にミサイルのようなホネ型のユニットを装填しており、死角が一切存在しない。

 

 エンビの方も身体の所々が燃え上がっており、その姿は唯の人を大きく逸脱したものだった。

目の前で起こっている現象はそう、まさにSDそのものだ。

 

「さてトレンチ……貴様は俺らの全力を叩き潰せるか……!?」

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