【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
お嬢は『祭典』1回戦最後の試合を、遠くから見守る。
片やSDの適合者・レイン。
若干どころではない不調こそあるものの、その実力は元チャンピオンたるジャックを屠るほどのものだ。
片や有名ガールズバンドの元メンバー・ハオリ。
ここまで公式戦の成績は全て圧勝。
デビューが遅めだった新人トレーナーではあるが、やはり彼女も実力者であることは間違いない。
様々な要因を加味すれば、どちらが勝ってもおかしくない勝負だ。
この勝負は、お嬢にとって絶対に目を離せないものとなる。
ルールは先と同じ2on2。
しかし、この試合から学べることは多いだろう。
両者は同時にボールを構え、試合開始の合図と共にポケモンを呼び出した。
「んじゃ、行ってきなラプラスッ!」
「らるるっ!」
「出番だ。行け、セキタンザン。」
「しゅぽーーーーっ!」
先発はハオリ側がラプラス……7つの海を渡ると呼ばれるみず・こおりタイプのポケモン。
対するレイン側がセキタンザン……高い体温と硬い外郭を持ついわ・ほのおタイプのポケモンだ。
共に大型・鈍足のポケモンであるが、相性の関係ではレイン側が圧倒的に不利である。
だが試合展開は、最後までどう転ぶかわからない。
先手を仕掛けたのはハオリの方であった。
「何されるかわからないからね……ラプラス、『うたかたのアリア』ッ!」
「らるっ!」
ラプラスは首を掲げて息を吸う。
次の瞬間……
「らるるるーーーーーーーーーッ!」
彼女の喉から発せられたのは、膨大な質量を伴う衝撃波だ。
その音色は美しいが、一度その振動に触れれば身体が内蔵から砕かれかねない……それほどの衝撃が大気を駆け巡った。
「そんな……あんなの避けられないわ……!」
お嬢の言う通り。
セキタンザンは鈍足のポケモンであり、相手の攻撃はこの世でも速い科学現象『音』。
回避は絶望的だ。
だが、レインの表情は笑っている。
寧ろ『計画通り』とでも言わんばかりの顔だ。
「そう来ると思ってたさ……セキタンザン『がんせきふうじ』だ。」
「しゅぽーーっ!」
軽くセキタンザンが足踏みをすると、一瞬にして地面から大岩が盛り上がる。
さながら、地面から畳返しで岩の盾を呼び出したかのようなスムーズさだ。
お嬢のサダイジャが行っていた『がんせきふうじ』のシールドへの転用……しかもそれより精度も汎用性も格段に高い。
彼女は外野から眺めつつも、思わず息をのむ精彩さであった。
だがいくら大きな盾だろうと、相性の有利不利までもが覆るわけなじゃない。
『うたかたのアリア』は岩のシールドにぶつかると、それをただの砂塵と散らす。
いくらか衝撃は和らいだものの、やはり攻撃の完全無効化までは厳しかったようだ。
セキタンザンは『うたかたのアリア』によるダメージを受けてしまう。
「しゅぽっ……!」
当然、効果は抜群……決して軽くはない傷だ。
「っし……これは効いてるかな?」
ハオリはダメージの有無を確認し、次のセキタンザンの出方を伺う。
しかしこれが誤算であった。
次の瞬間、セキタンザンの全身から多量の水蒸気が吹き上がる。
「しゅぽーーーーーーーーーっ!」
加えて、彼の眼がには紅蓮の炎が迸る。
まるで何かエンジンが掛かったかのような様子だ。
その様態は、明らかに先のものとは異なるものであった。
「そんな……まさか発狂状態!?」
「違います、お嬢様。あれはセキタンザンの特性『じょうききかん』。みずタイプの攻撃を受けると……」
だが、ジャックの言葉は遮られた。
彼が全てを言い終える前に、戦況が大きく変化したからだ。
お嬢は再度フィールドに目を向ける。
するとセキタンザンは、なんとラプラスの眼前まで移動していたのである。
「え……いつの間に……!?」
その様子を見ていた誰もが驚愕する。
全高3メートルにもなるセキタンザンが、ラプラスとの距離をわずか数秒足らずで詰めるなどあり得ないからだ。
「らるっ!?」
そして、ラプラスが気づいたときにはもう遅い。
セキタンザンはその超重量の肉体を、凄まじい加速度と共にラプラスへとぶつけたのであった。
「こ、これが『じょうききかん』ッ!?」
「えぇ。セキタンザンはみずタイプの攻撃を受けるとスピードが規格外に強化されます。レイン様はそれを分かってて、敢えて『うたかたのアリア』を受けに行ったのでしょう。」
その通り。
セキタンザンの唯一の弱点はその図体ゆえの鈍足さ。
だが彼は特性でこれを補い、お釣りが来るほどのスピードを得ることができるのだ。
こうなってしまえば正にセキタンザンは『ポケモン機関車』……硬い・強い・速いを兼ね備えた死角なきポケモンと化すのだ。
スピードに特化した戦法を好むレインとは、非常に相性がいいポケモンと言えるだろう。
セキタンザンが激突した衝撃とともに、フィールドには真っ黒な煤を含んだ蒸気が爆発的に舞い上がる。
繰り出されたのはほのおタイプの重量級専用技……『ヒートスタンプ』だ。
体重300キロ以上のセキタンザンから繰り出されるこの攻撃は、いくらラプラスと言えども無事では済まない。
「ふっ……思ったよりアンタも油断しがちみたいだな。僕のセキタンザンに塩を送るなんて!」
「らるっ………!」
ラプラスはレインを睨みつつ立ち上がる。
幸い、ラプラスも重量級のポケモンだったため、そこまでの距離を飛ばされずに済んだのだ。
「うーん、やるね。そう簡単には勝たせてくれない……かッ!」
ハオリは言葉を漏らすと同時に、語気を強めて腕を振り上げる。
それと同時に、ラプラスは首を少し引っ込める。
そしてそこから反射的に、下から突き上げるようにセキタンザンにヘッドショットをかました。
攻撃直後の硬直を利用した、不意打ちの『スマートホーン』攻撃である。
尖ったラプラスの角が、セキタンザンの顎に直撃する。
「しゅぽっ………!」
そこまで大きなダメージではないが、バランスを崩すのには丁度いいジャブだ。
セキタンザンの図体は、本の少しだけ後ろにのけぞってしまう。
加えてそこに、ハオリは容赦のない攻撃を加える。
「今だよッ、『うたかたのアリア』ッ!」
「らるーーーーーーっ!」
ほぼ至近距離から、質量を含んだ衝撃波が放たれる。
先の攻撃には距離があったからシールドが展開できたが、これほどの距離となれば流石に防御も間に合わない。
「しゅぽーーっ………!」
セキタンザンに衝撃波が到達する。
そのダメージの大きさは、吹き上がった水蒸気から視覚的に感じ取れる。
いくらスピードがあろうと、そもそもの回避行動が取れなければダメージを受けてしまうのである。
やはり相性の不利を覆すことは、圧倒的ステータスを持ってしても難しいのだ。
「どうかな?アタシは決して塩を送ったわけじゃない。これでもまだ立ち上がれる?」
「チッ……接近は無理。速さは幾らか捨てなきゃダメ……か。『がんぜきふうじ』だッ!」
レインは不満げに呟くと、セキタンザンに次の攻撃の指示を出す。
「しゅぽーーーーっ!」
セキタンザンは再度小さな足踏みと共に、眼前へ岩を集める。
だが、展開したのは盾でも攻撃でもない。
なんと、その岩を自身の全身に纏い始めたのだ。
寄せ集められた岩はセキタンザンを包み込んでいき、やがて巨大な1つの鎧が完成する。
「なっ………!?」
お嬢とジャックは驚愕する。
『がんせきふうじ』の更なる型破りな使いみちを目の当たりにしたからだ。
しかもただ岩を寄せ集めたわけではない。
死角となる背後にしっかりと排気スペースを確保し、急所となる頭部や脚部をしっかりと覆う無駄のない作りになっているのだ。
スピードは間違いなく犠牲になるが、レインは相手を見極め、アドバンテージを敢えて捨てたのである。
「しゅぽーーーーーーーーーーっ!」
隙間から凄まじいスチームが上がり、これにて新形態『アーマード・セキタンザン』の完成である。
「おぉ、こりゃカッコいい。こんなん始めて見たよ。」
ハオリはセキタンザンの鎧に見とれ、素直に拍手を贈る。
しかしその直後、彼女はハンドサインでラプラスに指示を送った。
「らるるるーーーーーッ!」
彼女の口からは、再三の『うたかたのアリア』が繰り出される。
「鎧とは言え所詮は岩……この歌声を阻むことは出来ないっしょ!」
ハオリの考察通り。
確かにこの手の防護壁は物理攻撃には強いかもしれない。
しかし音波系の攻撃までもを完璧に防ぐのは難しい。
事実、先程からセキタンザンは『うたかたのアリア』を防ぎ切った試しがない。
やがて、ラプラスの放った衝撃波がセキタンザンへ届く。
堅固なる鎧は砂塵と帰す…………
……と思われたが、岩の鎧は砕けるどころかびくともしない。
寧ろ、逆に『うたかたのアリア』が弾かれているようにすら見えるのだ。
「うっそん……効いてない!?」
「驕ったな……そこが命取りだッ……!」
レインは腕をかざし、セキタンザンへ次の攻撃の指示を出す。
「しゅぽーーーーーっ!」
すると次の瞬間、岩の鎧の前腕部分が剥がれ、弾丸の如き勢いでラプラスへ到達する。
その岩はスクリューを描き、物凄い速さでラプラスの頭部を射抜いたのであった。
「らるっ……!?」
それはさながらロケットパンチのような攻撃であった。
先程まで近距離攻撃メインで攻撃をしてきただけに、不意の射撃はハオリにとって予想外だったのだ。
「よしっ、もう2撃喰らわせてやれッ!」
「しゅぽーーーーーっ!」
最高速の弾丸が更に2発、ラプラスに向けて発射された。
しかしハオリとてタダでやられるわけには行かない。
相打ち交互で、彼女は次の指示を出す。
「反撃だよラプラス、『うたかたのアリア』ッ!」
「らるるるッ!」
ラプラスは衝撃波を放ち、こちらに向けられた銃弾を衝撃で相殺しようと考えたのだろう。
しかし、それは大きな悪手であった。
なんと岩の弾丸は砕けることなくラプラスに到達し、おまけに『うたかたのアリア』の勢いは大幅に弱まってしまったのだ。
つまり相打ちどころか、ただラプラスが一方的に攻撃を受けただけなのである。
「そんな……さっきまで『うたかたのアリア』は岩を砕いていたのに……!?」
「これは……どういったギミックでしょう!?」
客席のお嬢とジャックですら、その応酬の詳細は見抜けていなかった。
兎に角分かることは、アーマード・セキタンザンに弱点らしい弱点が存在しないという点だ。
「さて、これで分かっただろ?ラプラスにできることはもう無い。」
レインは勝ちを確信した。
このギミックが見抜かれない限り、突破が不可能なことは確実だったからだ。
しかしハオリの顔に焦りの色は浮かばない。
「……さて、それはどうかな。アタシは見切ったよ、アンタの『長所』。」
「何……!?」
彼女は不敵にニヤリと笑う。
そして彼女は『弱点』ではなく、『長所』と言った。
果たしてこの言葉の意図とは。
「ラプラス、セキタンザンへの攻撃は辞めだよ。まずは地面に『こごえるかぜ』ッ!」
「らるるッ!」
ラプラスは照準を直下の地面に合わせると、そこに向かって冷気を吐きつける。
すると地面には霜が降り、周囲の気温はラプラスを中心に段々と低下していく。
セキタンザンのせいで先程まで高温だったフィールドは、逆に肌寒さを感じるほど冷めていったのだ。
「……これが何だって言うんだ。セキタンザンッ、『がんせきふうじ』を放てッ!」
「しゅぽーーーーっ!」
セキタンザンの鎧前腕から、再び岩の弾丸が飛ぶ。
その速度はやはり凄まじいもの………
だったはずだが、何故か弾速は大幅に低下している。
その遅さはラプラスがひょいと首を躱すと、簡単に回避できてしまうほどであった。
「う……嘘だろッ!?」
レインは焦りつつも、セキタンザンに追加の弾丸を放つように指示を出す。
「受け止めてッ、『うたかたのアリア』ッ!」
「らるるーーーーっ!」
再度、衝撃波が放たれて相手の攻撃と正面衝突をする。
が、今度は弾丸は無残に砕け散ってしまい、ラプラスまで到達することはなかった。
さらに弾丸を貫いた『うたかたのアリア』は、逆にセキタンザンの鎧まで到達する。
するとその直後……
セキタンザンの纏う岩の鎧は、見るも虚しく粉々に吹っ飛んだのであった。
衝撃波に乗って、岩の破片が遠くに飛んでいく。
数秒と経たぬうちに、セキタンザンの本体は顕になったのであった。
「そんな……鎧がどうして……!?」
「……『逆位相』だよ。」
すべての事がうまく運んだハオリが笑う。
「音を無効化できるってことは、同じ周波数の振動を鎧に与えていることくらいしか考えられない。じゃあその振動のエネルギー源はなにか。おそらくはセキタンザンの体温だ。だから、周囲の気温から彼を冷却してやればいい。どうやら背中の排気口のせいで、断熱までは出来なかったようだね!」
彼女の推理は100点満点であった。
一体何処からこのギミックの解を導き出したか。
それは『うたかたのアリア』を突き破る岩の弾丸だ。
この弾丸に振動が残っていたからこそ、セキタンザンは音波を無視してラプラスに攻撃ができた……とハオリは気づけたのであった。
こんなセオリーは普通のトレーナーであれば思考の内にはないのが普通だ。
少なくとも、バトルの本番で咄嗟に引き出すことは難しい。
が、彼女はそれをやってのけてしまったのである。
元音楽家ゆえの能力か、それとも天性の才覚か。
どのみち、お嬢顔負けの末恐ろしい判断力であることは間違いない。
「ハッ、鎧の構造が見破られたか。褒めてやる、だがそれで勝ったと思うな!『ヒートスタンプ』ッ!」
「しゅぽーーーーーーーっ!」
鎧の剥がれたセキタンザンは、開き直って全速力の突進を仕掛けてくる。
『じょうききかん』の効果はまだ続いている故、そのスピードは相変わらず凄まじいものであった。
だがラプラスとて退きはしない。
「最後の一撃だよ……『うたかたのアリア』ッ!」
「らるるーーーーーーーっ!」
渾身の一撃が、ラプラスの口から放たれる。
セキタンザンもまた、負けじと正面から突進を仕掛けてラプラスに接近する。
その間わずか数秒であった。
ラプラスの歌声とセキタンザンのスチーム音がフィールド中に響き、やがて急激な温度差の影響で水蒸気爆発が発生する。
互いの攻撃が互いを貫きあったのだ。
そして敗者はその場に倒れ込む。
………敗北を喫したのはセキタンザンであった。