【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第063話】救える強さ、心の強さ

 ハオリとレインの激戦を持って、バベル教団主催の『祭典』は1回戦の全工程を終了した。

数々の試合が展開されたが、その中でも最も熱い話題となったのはやはりエンビとお嬢の試合だろう。

その理由にはあのエンビを相手に互角の勝負をするトレーナーが現れた、というだけではない。

未知の力を利用したマネネの存在があったこともまた、彼ら観衆の話の種となったのであった。

 

 

 

 だが、当の本人……トレンチ嬢の感心は全く別の場所にあった。

会場の外では、お嬢とジャックが揉めている。

何処かへと走り去ろうとするお嬢を、ジャックとマネネが必死に止めているのだ。

それぞれ腕と足首を引っ張られながらも、彼女は抵抗する。

「離してジャック!病院に行かなきゃ……!」

「何言ってるんですか、落ち着いて下さい!これから2回戦が始まるのに……!」

「まねね!」

お嬢はなんとか抜け出そうとするが、流石に14歳の少女が力で成人男性のジャックに勝てるわけがない。

 

 

 

「レイン様が心配なのは分かります。ですが……」

「べっ、別に心配はしてないけど、でも……でも……!」

彼女にとっても、レインの容態は流石に目に余るものであった。

それに、心の何処かでは負い目を感じていたのだろう。

更に言えば、彼を止める機会なら何度かあった。

……最も、その機会を掴み取ることは彼女の腕では叶わなかったわけだが。

お嬢は悔恨の情に打ちのめされる。

もし自分に力があれば、あのレインという少年はあれほど痛ましい目に合うこともなかっただろう……。

だからこそ、せめて彼に何か出来ないか……そう考えていたのだった。

 

 

 

 しかしそれは迷走だ。

ジャックは首を振り、お嬢を諭す。

「……いいですか、お嬢様。貴方はこれから多くの敵と戦います。その中にはレイン様やエンビのように、SDの力を使う者がいるかも知れません。もし、そんな人たちが先のレイン様のような目に遭ったらどうするおつもりですか?」

「そ、そんなの今関係……」

「……訂正しましょう。その時が来たとして、力なき貴方に何ができるのですか?」

「ッ……!」

敢えて鋭い言葉を選び、お嬢を的確に刺した。

無論、ジャックだって単に意地の悪さでこう言ったわけではない。

だが、これが責任感の強い彼女に最も効く言葉であることもまた事実なのだ。

 

 

 

「……今のアナタにできることは、目の前の戦いに勝利すること。着実に力をつけること。……今後、ああいった人を出さないために必要なのはただ戦うことです。」

その言葉を聞くのを最後に、お嬢は抵抗をやめた。

自分のすべきことを思い出したのだ。

ここで『祭典』を放棄するようなことがあってしまえば、すなわちジャックの期待を裏切ることにほかならない。

……そして彼の抱えたものを否定することにすらなる。

それはなんとしても、あってはならないことだ。

であれば、弱い自分であるわけには行かない。

心も、実力も。

 

 

 

「……ごめんなさい。そうよね。アタシ、勝たなきゃ。」

それだけ言うと彼女は振り向き、マネネを連れて会場の方へと歩んでいった。

見送るジャックに見えた小さな背中は、確かな強かさがあった。

 

 

 

 去りゆくお嬢らを見つめつつ、『彼』は呟く。

「……全く、よく言う。」

その幼き目は、何処か乾いて遠くを見つめていた。

「……強さで救えるものなど、たかが知れてるのにな。」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーその後の祭典は滞りなく進んでいった。

数多の猛者たちがしのぎを削り、全身全霊を賭けて戦った。

が、その過半数は敗北を喫し無惨に散っていくのであった。

しかしそんな中でも勝ち進んでいったのがお嬢、ハオリ………そしてジャックであった。

彼らの実力は、やはりこの街の住人たちと比べると頭一つ抜けていた。

 

 

 

 それゆえ、そんな結果は予想外でもなんでも無い。

フィールドを見下ろす高台にて、スエットは退屈そうに構える。

最早目の前の試合の数々には目もくれず、デスクの物陰にて内職するかのように読書をしていたのだ。

 

 

 

「どうした、そんなに退屈か。」

隣の椅子にいたエンビが、見かねて彼女に問う。

彼女は振り向かずにそっけなく答えた。

「……そうね。正直期待ハズレもいいとこ。『ジャック』は姿を表さないし。」

そして本をそっと閉じて続ける。

「……あと、あのトレンチって娘も正直思ったほどじゃない。変態のクランガはともかく、アナタがそこまで買い被る理由がわからない。」

 

 

 

 問うスエットに、エンビは答える。

「目の前に対峙すればお前も分かる。アイツには確かな強さがある。実力だけじゃない、心の話だ。」

「……あの娘はジャックよりも強い心を持っている……と?」

「そうだ。彼女は知っている。一度折れたからこそ、決して完璧ではないからこそ、そこから立ち直る術を知っている。恐怖を知るからこそ勇気を持てる。それはジャックにも俺にも欠けているものだ。……正直、俺はアイツが羨ましい。」

エンビのその言葉には、決して嘘偽りはなかった。

彼は本気でお嬢をライバルとして認め、そして期待し、羨望していたのだ。

だが、彼とスエットの間には悲しいほどの熱量差があった。

 

 

 

「……そう。じゃあ試してみる。ちょど退屈していたところだし。」

「『試す』?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、いよいよ残る参加者は4名となった。

次は準決勝……というわけだ。

幸い、お嬢は無事勝ち残っている。

ここまで他を寄せ付けぬほどの圧勝であった。

今まで相手にしてきたトレーナーがジムリーダーやレイン・ハオリ・エンビなどの規格外の相手ばかりだったので彼女は気づかなかったのだろう。

が、その実力が並の水準を大きく越えていることは、その結果が示してしまったのだ。

 

 

 

 さて、ジムチャレンジが認められるのは決勝進出者の2名。

つまり、ジムのチャレンジ権を得るために必要なのはあと1勝だ。

だが、そのために越えねばならない壁は高い。

そう、何と言ってもまだハオリとジャックが残っているのだ。

決勝までに、最低でもこのどちらかとは当たることになる。

どのみち、お嬢が易々と勝たせてもらえないのは確かだろう。

 

 

 

 だが、ここでふと我に返ったお嬢の頭には疑問が浮かび上がる。

「……というか、なんでジャックが参加してんのよ。」

冷静に考えれば、その疑問は当然だ。

本来ジャックはお嬢を応援する立場のはずなのに、何故か彼女の前に立ちはだかるような事をしている。

昨晩のスエットとジャックのやり取りを知らぬ彼女から見れば、意味のわからないことだっただろう。

 

 

 

「えっと……まぁ、色々ありまして。」

「……言っとくけど、手加減なんかしなくていいから。」

「………。」

ジャックが見返したお嬢の目は、鋭いものであった。

相手がチャンピオンだろうとなんだろうと屠り尽くしてやる……と言わんばかりのソレであった。

この時ばかりはお嬢にとってのジャックは、倒すべき敵の1人に過ぎなかったのだ。

「……わかりました。元より、私如きを倒せぬようではチャンピオンなど夢のまた夢。……楽しみにしてますよ。」

彼らの間に火花が散る。

だが、お嬢の心はなぜか高揚していた。

今までなら恐怖の原因の一端でしかなかったジャックと戦えるかもしれないことが、嬉しくも感じられたのだ。

エンビ戦を経たあたりで、彼女にもわかってきたのだろう。

強者とのバトルを求めてしまう、トレーナーの性が。

 

 

 

 

 

 やがて、教皇・スエットがフィールドの真ん中に躍り出る。

準決勝の対戦カードを、直々に発表するようだ。

しかしその内容は、誰もが予想打にしないものであった。

 

 

 

 マイクを握ると、慈悲深い方の声でスエットは述べる。

「……聞いて下さい。惜しくも敗れてしまった子たち。あなたたちに感謝の言葉を。そして立ちはだかる相手を恐れず、己の絆を示した4人の子たち。あなたたちには敬意を表しましょう。」

そう言うと、彼女は客席に座っていたお嬢とジャックの方へと目をやった。

そして次にこう続ける。

「ポケモンと人の絆はここに示されました。ですが、絆とは一方的で単純なものではありません。いくつもの要素が糸のように絡まり、やがて形となるものです。」

非常に曖昧な言葉を選び、それっぽいことを信者の前で語る。

それでも何となく聞き入れてしまうのは、教皇という立場としてかなり高等な技術だろう。

 

 

 

「……つまりです。これより行われるのは『準決勝』ではなく『決勝』。マルチバトルにて、あなたたちは『トレーナー同士』の絆を示すのです。」

その言葉に、会場はどよめく。

今までマルチバトルなど、祭典で行われたことはなかったからだ。

この突然のルール変更がスエットの気まぐれで行われたことは明らかであった。

だが、ここまでの猛者たちが集うマルチバトルは、そうそう見られるものではない。

故に観衆たちは湧き上がり、これを受け入れ称賛した。

「おおっ、マジか!?」

「コートグループの令嬢に無敗のジャック、更には何故かトレーナーやってるRioだろ!?どういう試合になるんだよ……!」

3人共、ここまでの試合にて実力は嫌というほど示している。

が、それらがぶつかりあった結末は誰にも予想できないのだ。

 

 

 

 やがて彼女の背後には、エンビの手によってホワイトボードが運ばれる。

そこにはこう記されていた。

 

 

 

 

 

『ジャック&ハオリ』vs『トレンチ&ダフ』

 

 

 

 

 

「……ほう、私はハオリ様とですか。……ん?お嬢様?」

「ッ………ッ………!」

ジャックがふと横を見ると、お嬢の身体はわなわなと震えていた。

自分の隣にある名前には見覚えがあったからだ。

だが、読者諸兄はそろそろ忘れている頃だろう。

ダフ……昔、コンテナ船にてマネネを攫った暴力団の長の名前だ。

あのとき警察が確かに船へと乗り込んだはずなのに、どういうわけかあの男は娑婆で息をしていたのだ。

「ッ……なんでアイツが此処に居るのよッ!!!?」

 

 

 

 不審に思い、お嬢は周囲を見渡す。

するとバベル教団の信者たちに混じって、何人かガラの悪そうな人間が混ざっている。

それらがカタギの人間でないことは、お嬢の目には明らかであった。

彼らもまた、バベル教団のロゴが刻まれた様々な装飾品を持っている。

 

 

 

 そこで彼女は初めて気づいた。

この『バベル教団』は、ダフの率いる暴力団と繋がりがある事に。

ただでさえ胡散臭そうな宗教であったが、その事実に気づくと更にその臭いは強くなる。

 

 

 

 そうこう言っているウチに、お嬢の背後には見知った男が居た。

彼は仰々しい見た目と図体のおかげで、あまりにも目立つ。

振り返ったお嬢は、彼を睨んで言った。

「アンタは……ダフッ!」

「よォ。覚えててくれたみたいで嬉しいぜェ……。ま、仲良くやろうやァ。」

「………ッ!」

 

 

 

 ついに迎えた『祭典』の決勝戦。

立ちはだかるのはハオリとジャックの高い壁。

そして隣に並び立つはかつての仇敵・ダフ。

果たして次の試合、どう展開されるのか。

 

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