【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第066話】取り残される『偶像』、戦友共のその後

『祭典』の決勝戦は、お嬢とダフの勝利で幕を閉じた。

追い詰められた彼らが講じた最後の策が、戦況を好転させたのだ。

大きな歓声と共に、優勝者の彼らは讃えられる。

「っし……やったなァお嬢様。」

「フン、アンタとオニシズクモもやるじゃない。おかげで勝てたわ。」

身長差の大きい彼らは、目線を合わせず小さくハイタッチをする。

最初の仲こそ険悪だったものの、雨降って地固まる。

これもまたトレーナーの性だ。

彼らは確かに戦いの中で、強い友情を築いていた。

 

 

 

 だが、この勝利は彼らが強かったことのみには起因しない。

ハオリとジャックのコンビには……否、ハオリには明らかな綻びがあった。

その失態はこの結果を持って、誰もが認めるものとなる。

 

 

 

「………。」

ハオリは言葉を失い、その場に立ちすくむ。

それもそうだろう。

彼女は勝てるはずの策を信じ、そして実行した。

その結果、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

それは孤高の絶対強者が否定された瞬間でもあった。

 

 

 

「ハオリ様……」

見かねたジャックは声をかける。

彼女に言いたいことは山ほどあった。

しかしいざ言葉を紡ごうとすると、何一つ形にならないのだ。

ジャックは己の不甲斐なさをまた呪う。

 

 

 

 ハオリはラプラスをボールに戻すと、ただ一言こう言った。

「……そっか。やっぱり此処でもこうなるんだ。」

そうして彼女は振り返ると、そのままフィールドを去っていく。

最後に少しだけ振り返ると、ジャックに言い残した。

「そうだ。トレちんに伝えといて。『優勝おめでとう。アンタは強かった。』ってね。」

「ハオリ様……」

その微かな笑顔は、先の悍ましい有り様からは想像ができないほど儚げであった。

 

 

 

「………。」

彼女が去った後も、ジャックの記憶にあの表情が鮮明に残り続ける。

彼には、あのハオリというトレーナーが他人な気がしなかった。

彼女は一体何に囚われてしまっているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「………ック!ちょっとジャックってば!」

「……!?」

ジャックは聞き覚えのある声で、はっと我に返る。

目の前には、満面の笑みで喜ぶお嬢がいた。

「ふふん、どうかしら。アタシの勝ちよ!」

彼女はドヤ顔で、誇らしげに語る。

この勝利の喜びを最初に伝えたかったのは、他ならないジャックだったのだ。

その勝利を、最も近くで見てもらえた……それだけでも彼女の歓喜は至高のものであった。

 

 

 

「ハハ……そ、そうですね、おめでとうございます。」

お嬢を褒め称えるジャックの表情は、どこかぎこちない。

決して喜ばしくないわけではないのだ。

ハオリのことを未だに引きずっている……だけでもない。

彼を狂わせたのは虚しさ……あると思ったはずのものがなくなっている空虚さだ。

 

 

 

 自分を信じて付いてきたはずのお嬢が、気づくともう近くに居ないのだ。

この空虚さの正体を、彼はきっとまだ知らない。

否、知りたくなかったのだろう。

『一度証明しなさい。アナタの力を。アナタが彼女の『憧れ』足り得るかどうかを。』

ジャックは自身に嫌気が差した。

まさかスエットの言葉がこんな所でリフレインするなんて。

 

 

 

「ちょっとジャック?様子が変よ?」

「……そ、そうでしょうか?」

どうにも、ジャックは考えていることが表情に出やすいのかもしれない。

彼が何かを抱えていることは、薄々見抜かれていたのだ。

それが果たして何なのか。

そして誰のものなのかは、分からないままだったが……。

 

 

 

 

 

 ーーーーー全ての工程が終了し、優勝者となったダフとお嬢が壇上に上がる。

……はずだったのだがダフが

「悪ィ。仕事が出来たんでズラかんなきゃ行けねェ……。『上』からの指示でなァ。表彰式は出られそうもねェわ。」

と言ってその場を去ってしまった。

結局、式に出席したのはお嬢のみとなったのだ。

 

 

 

「……おめでとうございます。貴方はこの祭典の頂点に立ち、絆の正しき在り方を指し示しました。我らバベル教団にとっての理想と呼ぶに相応しい健闘です。」

壇上にて向かい合う教皇・スエットはじっと目の前のお嬢を見つめる。

奇しくも彼女らの身長は同じくらいだが、それでもスエットの存在感は『教皇』と呼ぶそれに相応しい。

お嬢自身もそれは肌で強く感じていた。

 

 

 

「ありがとうございます、我が愛しき子……。」

非常に優しい声で褒められている……はずなのだが、どうにもお嬢には拭えぬ不信感があった。

ダフ率いる暴力団が背景に居ることもさることながら、このスエットという存在自体にも恐ろしさが在ったのだ。

寂しさとか、怖さとか、畏れとか、そういった類のものではない。

……逆だ。

何もないのだ。

微笑む彼女の瞳の奥には、何も熱が感じられないのだ。

そんな無機質な彼女が、お嬢にとっては今まで会ったどんな人間よりも恐ろしく感じられた。

 

 

 

「……あ、ありがとう。」

お嬢の返事は素っ気ない。

本来ならば『フフン、どーよ!アタシの優勝よ!』ぐらいの事を言いながらトロフィーを受け取っていたのだろう。

だが、彼女にはそんな風に振る舞う余裕はなかった。

それはなぜか。

ひとえに気味が悪かったからだろう。

エンビやクランガのときにすら感じなかった悪寒が、お嬢の背中には走っていた。

『早くこの壇上から降りてしまいたい』。

ただただそれだけを考えていたのだった。

 

 

 

 この眼前の人物が、この後対峙しなくては行けない相手……

スネムリタウンのジムリーダー・スエットだとは知らずに。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーやがて多くの歓声に見送られながら、お嬢は壇上を降りる。

既に日は沈み、彼女の体力はヘトヘトであった。

とてもこの後の閉会式や後夜祭のようなイベントに出る体力は残っていない。

「お疲れさまです、お嬢様。」

「えぇ、本当に疲れたわ………それより。」

お嬢は周囲を見渡す。

多少なりとも彼女は多くの人間に注目されている。

……が、それにしても嫌な視線を多く感じるのだ。

まるで何かに狙われているかのような、そんな視線を。

「……。」

ジャックもソレには薄々気づいていた。

彼は自らの背中をお嬢に被せるようにして、元いた宿まで戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー時を同じくして。

ここはアンコルシティ。

スイーツブランド店『パティスリー・ガトー』本社ビル。

重役会議室の円卓に、数名の人間たちが席を並べていた。

 

 

 

「しっかしシケてんなぁ……せっかく水族館を早上がりして来てやったのによ。」

そうぼやくのはエプロン姿の大男、ノロジムのジムリーダーであるボアだ。

頭の後ろで腕を組み、周囲を見渡すと極めて退屈そうに言葉を述べた。

彼の呟きに、後ろを通りかかったパティシエールが返答する。

 

 

 

「まぁまぁ、こうして我々ジムリーダーが話し合う機会というのも中々無いじゃないか。ほら、旬のフルーツケーキは如何かな。」

そんな事を言いつつ台車にてケーキと紅茶をサーブしていくのは、アンコルジムのジムリーダーであるステビア。

今日の『イジョウナリーグ・ジムリーダー定例会』の参加者をモニターとして、新作ケーキを提供する心づもりのようだ。

 

 

 

 

 

「定例会議とは言ってもなぁ、お前と俺含めても3人しかいねぇしなぁ……。パーカーやスエットは相変わらずサボるし、MA-Ⅰの奴に至ってはジムごと閉めてやがるみたいだし………」

「ハハハ、その3人も唯の3人じゃあるまい。祝いたまえ、珍しいお嬢さんの出席だ。」

ステビアは向かい側の席へ目を向ける。

そして台車とともに、席の主の元へと歩んでいった。

 

 

 

「……ん、ありがとう……ございます。」

席の主はケーキを受け取ると、そっけなく返事をする。

そこに座っていたのは、きっちりと制服を着こなした黒髪の女学生であった。

非常に礼儀正しい格好な上に寡黙なのでかなり見違えるが、彼女はロメロシティのジムリーダー・セラで間違いない。

 

 

 

「しかしアレだけ不真面目だったキミが会議に顔を出すとは……よっぽど何かあったらしいな?ん?」

ステビアは何かを見透かした様子でセラの顔を覗き込む。

それもそのはずだ。

彼女の様子は、明らかに以前の不良学生とは大きくかけ離れていた。

そのきっかけは言うまでもなく、トレンチお嬢との一戦だ。

あれ以降セラは男遊びをきっぱりとやめ、ジムリーダーとしての責務を全うにこなすようになったというのだから驚きである。

 

 

 

「……そうですね。何かを背負って見ようとおもったんです。私も。そしたら逆に背中が軽くなった気がして……。」

「ほほーーう、それはそれは。」

ステビアはにやけ顔でセラの話を聞く。

彼女としても、後輩のトレーナーが成長していくのは大きな楽しみのひとつなのだ。

だからこそ、敢えてレベルの低いジムに居を構えているのである。

 

 

 

 ケーキを一通りサーブし終えたステビアは、元通りの席へと座り直す。

「さて、どうだい。特に話すこともないだろう。ここから先は我が社のケーキビュッフェ&感想会でも……」

 

 

 

 ステビアがそんな冗談を言っていた、まさにその時であった。

会議室の扉が、少し大きめの音と共に開かれる。

室内の3人は、一斉に出口の方へと目を向けた。

「……よォ、邪魔するぜェ。」

そこに居たのは刺青だらけのヤクザ男……暴力団組長・ダフであった。

 

 

 

「………。」

直後、会議室に緊張が走った。

 

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