【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
「よぉ、邪魔するぜェ。」
「………。」
突如として会議室に乱入してきたのは暴力団の長・ダフ。
悪名高いこの男を知らぬジムリーダー一味ではあるまい。
何か良からぬことを企んでこの場に訪れたのでは?と疑いの目を向けるのは当然だ。
緊張感が走る中、最初に口火を切ったのはステビアだった。
「何だね。我が社は暴力団は一切お断りなんだ。セールスなら今すぐ帰りたまえ。」
手元にボールを構えつつ、彼女は臨戦態勢に望む。
だが、ダフは笑いながら両手を上げるジェスチャーをした。
「おいおい、勘違いするんじゃねェぞ。俺はジムリーダーの定例会議とやらに出席してやってるんだ。」
「……嘘だろ?お前、ジム稼業なんかやってたっけ?」
ボアは怪訝そうな顔で問う。
無論、ダフはジムリーダーの資格は持っていない。
「まァ正確には『ジムリーダー代理』での出席だけどなァ。祭典とやらで忙しいスエットの代わりだ。」
そう言いつつ、彼はジムリーダーの資格証を見せる。
それは確かに、イジョウナリーグが公認したスエットのもので間違いなかった。
「スネムリジム……やっぱりバベル教団と暴力団の繋がりは噂通りだったのね……!」
「へっ、あの教皇様のお使いもラクじゃねェや。」
そう、ダフは『祭典』でお嬢とのバトルを終えた後、すぐにアンコルシティまで飛んできてこの会議に代理出席しにきたのである。
本来であれば任意参加のはずだが、なぜ彼……もとい彼のバックに居るスエットはこの場に顔を出したのか。
その理由は唯一つであった。
「ズバリ俺が聞きてェのはアレだァ。……ジムチャレンジャー・トレンチを知ってるだろ?」
トレンチ……その名前を聞いた瞬間、3人の表情が一斉に変わる。
彼女を迎え撃ったことのある彼らは、当然その名前を知っていた。
彼らは皆、お嬢に強烈な印象を植え付けられていたのだ。
忘れるはずもあるまい。
「教団の方から言われてるんだよォ。アイツに普通のトレーナーと違う所は無かったか?ってなァ……。」
その質問の意図は誰ひとりとして分からなかった……が、心当たりは3人共あった。
まずそれを口にしたのはステビアだった。
「アレだな、私の大事なマホイップをう○こ呼ばわりしてきたな。」
彼女は苦い顔で、とても恨めしそうに言う。
……が、もちろんダフはそんな事を聞きたいのではない。
無反応の他3名を見たステビアは、咳払いとともに続ける。
「んっ……他にはアレだな。私のポケモンの物量攻撃をほぼ完璧に回避していたな。アレは実に見事だった。」
彼女が言っているのは、お嬢とマネネのバトル中の挙動についてだ。
ペロリームの『いとをはく』の猛攻を次々と回避し、マホイップの人海戦術の中でもかなり正確に立ち回っていた……その時のことである。
「アレはまるで、『未来が見えている』……そうとでも言わなきゃ説明がつかないものだ。」
ステビアの報告の後、ボアが続いた。
「俺も知ってるぜ。うちのジムでは水攻めのギミックがあるが、その中でもアイツは最後まで気を失わなかった。並みの人間なら数度は溺れているはずだ。」
彼の言う通り。
足もまともに付かない状態、しかもバトルで大きく揺らぐ水中で意識を保つのは常人にはほぼ不可能だ。
さりげなくお嬢は最後までバトルをやり遂げ、更には捨て身の行為(足場クラッシュ)にすら走っていた。
「……相変わらずあの鬼畜ルールを敷いてるのかね、キミは。」
「アレは俺のポリシーだ。……ともかく、確かにアイツの能力は並外れすぎる。」
思い出しつつ、ボアはわずかに震える。
確かに有望なトレーナーではあったが、まさかその奥底にあったのが唯の執念のみだった……とは口が裂けても言えまい。
否、そう信じるなどあまりに恐れ多かった。
「……私も、思い当たる節があるわ。」
最後に口を開いたのはセラであった。
最も身近にお嬢の異常さを感じていたのは、恐らくこの3人の中だと彼女で間違いないだろう。
「……あの子は自らの身を挺してデスバーンの攻撃を受けたわ。」
「!?」
「それも1度じゃない。背中とお腹に合計3回……全身血みどろの状態よ。当たり前だけど普通の人間なら唯じゃ済まないでしょうね。」
セラはその恐るべき光景を思い起こし、やはり僅かながら恐怖していた。
衝撃の内容に、ボアは驚いて差し迫る。
「……お前のジムの非行にはひとまず目を瞑ろう。んで、そのあとアイツはどうなったんだ!?」
「私だってあの後病院に行ったわ。でも、『もうさっき退院されました』って追い返されたの。あれだけのケガが1日足らずで治るなんて……どう考えてもおかしいわ。」
セラの言うとおりだ。
少なくとも、全治1週間以上のケガがあそこまで素早く回復するなどあり得ることではない。
加えて更に、ステビアから報告が上がる。
「あー、あとコレは関係ないかな。私の経営するビュッフェのケーキを、彼女は一人でほぼ全て食べ尽くしたそうだ。普通ならカビゴン体型まっしぐらだが……セラ、どうだった?」
「……寧ろ超健康的で理想的な体型だったわね。」
やはりどう考えても摂取カロリーと体型の採算が合っていない。
身体的な特異と見て間違いないだろう。
彼らの話を総合すると、「未来視持ちの疑いあり」「高すぎる身体能力」「異常なほどの回復速度」「そして消化力」……これらがトレンチお嬢について挙げられた情報であった。
最早おとぎ話の英雄レベルの逸話であり、聞き届けたダフですら唖然とするほか無かった。
「……やべぇな、人間なのかァ?コイツ……」
彼の反応も当然だろう。
まさかサイキックの家計でもあるまいに、やっていることは超人そのものであった。
「まァいい。ありがとな。俺はこれでズラかるぜェ……。」
そう言うと、ダフはそのまま会議室を後にした。
残った3人は、顔を見合わせる。
嵐が過ぎ去った後の静けさの中で、ため息が入り混じった。
「……しかしまた急にどうして?スエットの奴、何を考えてやがる……?」
「何か良からぬことを企んでいるのは間違いないだろうね。とりあえず、不審な動きがあれば我々も然るべき対処を考えよう。」
ステビアはそう言いつつ、1つの空席に目をやった。
「……それに、MA-Ⅰの連絡途絶も不可解だ。どうも不穏な気配がする。」
奇しくも、彼女の言ったことは的中することとなる。
だがそれは暫く先の話だ。
ーーーーー翌日の朝。
舞台はスネムリタウンに戻る。
目覚めたジャックは、昨日から引き続き寝不足気味であった。
どうにも、テイラーの言葉が脳裏に焼き付いて離れないのだ。
まさかサンドの心臓があのマネネに移植されていたなど、誰が予想しただろう。
もしそうだとしたら、このマネネは一体何故そんな運命に……?
そして何故あのスモック博士の元に……?
様々な考えが頭を駆け巡り、彼を休ませなかったのであった。
しかしそんな事で悩む様子を見せれば、お嬢に余計な心配をかけてしまう。
そう思った彼は、暫くこの一件は忘れることにした。
お嬢とジャックは身支度を整え、近くの飲食店で朝食を摂るために部屋を出る。
するとそこには、見知った人物が待ち構えていた。
「おはよう、トレンチ。」
赤と銀の髪の男は、間違いなくバベル教団の司教・エンビであった。
彼の顔を見るなりジャックはやや後退りするが、トレンチは逆に近づいていった。
そして会話が交わされる。
「あら、エンビじゃない。どうしたのよ。」
「まねね。」
お嬢の問いに、彼は答える。
「スエットからの言伝だ。今日の13時に地下礼拝堂……そこでジム戦を受けるらしい。」
そう言うと彼はその場を後にする……が、一歩立ち止まると再び振り返った。
「……それはそれとして、トレンチ。お前には別件で話があるそうだ。」
「……?」
ーーーーー時刻は昼過ぎ。
指定された時刻に、お嬢らは地下礼拝堂へと足を運ぶ。
この古びた建物こそが、バベル教団本部……そしてスネムリジムそのものだったのだ。
「本当にここで合ってるの?」
「まねね?」
「……えぇ、一応間違いないようです。」
不審がりながらも、一行は古びた扉の先の階段を下っていく。
地下に続く薄暗い廊下を抜けると、そこには教団や祭壇が掲げられた礼拝堂が広がっていた。
壁も天井もボロボロであったが、それでも礼拝堂であることには間違いない。
更に、壁には青・赤・黄の3色・2対……計6枚のタペストリーが飾られていた。
「これは……『器』?」
獄炎、迅雷、そして凍雪……お嬢が本で読んだ神話に登場する『器』と『鍵』を再現したものだろうか。
なんとも不気味な絵であるが、タペストリー自体はそこまで年季が入っていないようにも思える。
「よっ、気に入ってくれたかい?」
「!?」
お嬢の肩に、誰かの手がのしかかる。
彼女は咄嗟に、高く不快な声のした方角を振り返った。
「ッス!氷河以来ッスね、お二人さん。」
間違えるはずもない、その声の主はクランガだった。
彼は相変わらず気味の悪い笑顔と共に、お嬢へと歩み寄る。
その足を、ジャックは思いっきり踏みつけた。
「痛ッ……!」
「……お嬢様に触るな。次は骨を折る。」
「おお怖ッ、穏便に行きましょうよー!」
わざとらしいリアクションとともに、クランガはヘラヘラと答える。
だが、この男を誰が信用するというのだろうか。
2人は思い切りクランガを睨みつける。
そこに、何者かが乱入する。
「その辺にしておけクランガ。貴様が出てくると話がこじれる。」
低めの声とともに、クランガの肩に手が置かれる。
険悪な雰囲気になる彼らを、後ろから現れたエンビが静止したのだ。
「えー……まぁ了解ッス。邪魔者は部屋の隅で大人しくしておくッスよーーっと。」
不貞腐れつつ、クランガは礼拝堂脇の椅子へと去っていった。
「ウチのクランガが粗相をしたな。すまない。」
エンビはお嬢に向けて頭を下げ、詫びを入れる。
「やっぱり、彼もバベル教団だったのね……。」
氷河でその名前が上がったときから、その事実を知ってはいた。
が、いざこうして厳かな雰囲気のエンビと並ぶところを見ると、どうも同じ組織の人間には見えないのである。
そんな事をお嬢が考えていた時だった。
「……それで、挨拶は終わった?」
「!?」
祭壇の方から声がする。
いつの間に、誰かがそこに陣取っていたのだ。
慌てて振り返ると、そこには修道服を着た菖蒲髪の少女……そう、スエットが居た。
このジムのジムリーダーにしてバベル教団の長……スエットだ。
だが、昨日の大衆の前での様子とは随分違う。
慈悲深いあの声とは異なり、不機嫌そうで素っ気ない声なのである。
おまけにその表情も、何処か面倒くさそうである。
まるで一昨日、ジャックが彼女と会話をしたときのような様子だ。
スエットはお嬢を見下ろし、続いてジャックへ目を向ける。
最終的に彼女の視線は、エンビの元へと留まった。
「……エンビ、下らないことはいいわ。さっさと本題に入って。」
「わかった。」
彼女の一言の後、エンビはお嬢の方へと顔を向ける。
「単刀直入に言おうトレンチ。
………適合者にならないか?」
「!?」