【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第068話】差し伸べられた手、迷う道程

「提案だ。トレンチ、適合者にならないか?」

「………!?」

エンビの口から放たれたのは、衝撃的な一言であった。

適合者……すなわちそれはSDの使用権、『器』として生まれ変われということである。

『鍵』を持つマネネの対となる『器』とならないか、というのがエンビの提言だ。

エンビやレインのようにSDを使用できるようになれば、バトルに置いて凄まじい力を発揮する。

だが、当然……

 

 

 

「ふざけるなエンビッ!貴様とてSDがノーリスクじゃないことぐらい知っているだろうッ!?」

ジャックは激昂し、エンビの胸ぐらを思いきり掴み上げる。

SDの力によって齎される災禍は、彼だってよく知っていた。

だからこそ、お嬢がそんな悪魔の力に魂を売り渡すことなど断じて許すわけには行かなかったのだ。

 

 

 

 だが、お嬢はそんな彼を制止する。

「やめてジャック!」

「………!しかし……!」

口では否定しつつも、ジャックはゆっくりとエンビから手を離した。

流石のお嬢の言葉であれば、彼とて聞き届けぬわけには行かない。

 

 

 

「ひとまず話だけでも聞きましょう。何か事情があるかもしれないわ。」

そう言うとお嬢は、猜疑心を伴った神妙な表情でエンビの方へ向き直す。

決して明るい表情ではなく、あくまで睨むような表情で……だ。

 

 

 

 

 

 

 

「トレンチ、そもそも適合者には誰もがなれると思うか?」

「思わないわね。」

「まね。」

当然だ。

テイラーは誰もが手にできる夢の力、などと謳っていたが実際にそんなことはない。

お嬢も、それくらいは何となく察しが付いていた。

 

 

 

「そうだな。具体的には『鍵』と呼ばれる心臓を持つポケモンが必要だ。しかもこの『鍵』は生まれつきの才能に近い。この『鍵』持ちのポケモンが生まれる確率は数億分の1らしいな。」

『鍵』……神話的に言えば、『万象の真理』に近づける権利を持ったポケモンのことだ。

レインのピカチュウやエンビのカラカラ……そしてジャックのサンドがそれに該当する。

そして加えて、何故かサンドの心臓が移植されていたマネネもこれに該当する。

 

 

 

「だが才能が必要なのは、それを受け入れるトレーナー側も同じだ。才なき者がこの力を使えば、自ずと破滅の道を歩む。」

「………。」

ジャックはエンビを睨む。

彼もまた、SDの力によって破滅の道を歩んだ者の1人だ。

遠回しに、『ジャックは才なき者』と言われているに等しかった。

そのことが、どうもお嬢の奥で引っかかる。

 

 

 

「確かにレインやジャックは、急な不調を起こしたかもしれない。だが俺は一切そんなことがない。俺は既にカラカラの『器』となって6年経過したが事実、何も身体に変化はない。」

なるほど、エンビの自談によれば、彼は『才ある人間』であるがゆえにSDの侵食を受けない……ということらしい。

そしてこの提言をお嬢にも行う……ということはだ。

 

 

 

「アタシには『才』がある……と?」

「まね?」

「そうだ。昨晩、リーグの本部会議に出たダフから報告があった。『異常な回復速度』『超人的な食欲』『軽度の未来視』……お前は所謂ギフテッドだ。それも規格外のな。」

「………!」

ここでお嬢とジャックはハッとする。

確かに、お嬢の今までの行動は超人的な物が多い。

今まで当たり前過ぎて気づかなかったものだが、どう考えても異常なことには間違いない。

 

 

 

「……んで、じゃあ仮にアタシが才能の持ち主だとして。どうしてアタシをその適合者として誘うわけ?」

「まねね?」

「そうだな……貴様は我々バベル教団の目的を知っているか?」

そう言って、エンビは祭壇に掲げられたステンドグラスへと目をやる。

 

 

 

「……扉?」

「ほう、お前には分かるか。」

そこに描かれた絵は、黒く巨大な扉を指し示したものであった。

その扉も、図書館の本に描かれていた記述に類似したものがある。

「『イデア』……でしょう?」

「そうだ。3つの鍵とその器を持つ6人が揃い、初めて開かれる『イデア』への扉だ。」

 

 

 

 バベル教団の原点神話に存在する『イデア』……この世とは別の場所に存在する完全無欠の理想郷である。

彼らの目的はこのイデアに行くことであり、そのためのパスとしてお嬢を誘っている……ということなのだ。

「『獄炎の秘鍵』たるカラカラと俺、『迅雷の秘鍵』たるピカチュウとレイン。……そして『凍雪の秘鍵』たるマネネ。既にピースは5つ揃ったが、『凍雪』に対応する器が存在しない。……その器にトレンチ、お前が最適だと言っている。」

 

 

 

 エンビはお嬢の方を見つめる。

彼は真に、お嬢の実力を認めているのだ。

しかしここで、そもそもの疑問が浮かぶ。

「……じゃあ聞くんだけど。アンタたちはどうしてそこまで『イデア』に行きたいのよ?」

「まねね?」

彼女は真核的な問いを投げかける。

 

 

 

 そこにエンビは数秒沈黙し、ゆっくりと返答を始めた。

「……『イデア』に行き、『万象の真理』と会合したものは、あらゆる問いに対しての解を得る。有り体に言えば、『どんな願いも叶う』という奴だ。」

「なるほど、随分と俗物的な理由なのね。」

「まねね。」

「まぁな。個々それぞれ別に目指すものはあるが……我々バベル教団の総意的な目標は『全人類とポケモンの恒久的な平和』だ。……この曖昧で壮大な目標に解を見出すべく、我々はイデアに行かなくてはならぬ。」

『人とポケモンの恒久的な平和』……それを切望する気持ちは、今のお嬢であれば何となく分かるかもしれない。

人とポケモンの間のトラブルで傷ついたジャック、苦しんだサンド。

不慮の事故で娘を亡くした者や、居場所を無くした者もいた。

そういった人たちがいなくなるのであれば、バベル教団の目標は得てして正しいのかもしれない。

それは最終的には、ジャックが切望していることでもあるのだ。

 

 

 

「………。」

お嬢は沈黙し、そして悩む。

その悩みのタネは、エンビに寄ってすぐに見抜かれた。

「それに……だ。俺はお前がSDの力を得るメリットは他にもあると考えている。」

「……それって?」

「まね?」

「単純にお前の戦術の幅が広がる。お前はSDの力を断片的にしか使わずとも、俺と互角の勝負をした。そんなお前が正式にマネネの器となったら、その強さは計り知れないだろう。……どうだ、悪い話ではあるまい。」

お嬢がより強くなれる……というのがエンビの提案であった。

事実、彼女がSDの力を手にすれば、エンビやレインなど比でないほどの戦力となることは確実であった。

 

 

 

「そうッスね。俺はトレンチちゃんは適合者の才能はあると思うッスよ。」

クランガは遠目に、ニヤニヤと笑いながら言う。

それをエンビとジャックが睨みつけ、彼を黙らせた。

 

 

 

 圧倒的な力……それは目標の達成に必要なものだ。

勝利を求めるトレーナーとして、喉から手が出るほど渇望するものである。

……だが、本当にそれで良いのだろうか。

 

 

 

 彼女はここで自身を見直した。

お嬢は何故、ジャックに期待されるのか。

それはSDの力を根絶するため、彼のような悲劇を二度と繰り返さないため……だ。

確かにSDをお嬢自身が発現させれば、目標の達成自体は可能かもしれない。

が、それでは本末転倒なのだ。

因果の順序が逆になる。

 

 

 

 やはり彼女は悩む。

いったい自分が何をすべきなのか、今一度自問する。

それでも答えはスッとは出てこない。

 

 

 

「そうッスよ。エンビさんの言う通り、トレンチちゃんは適合者の才能があると思うッス!」

「ふざけるなッ!お嬢様、ダメです……!あんな力に手を伸ばしたら、どうなるか分かっているのですか!?」

クランガやジャックはそれぞれ、お嬢を説得しようと試みる。

いつもなら、彼女は思い切りよく決断するところであった。

それでも、この一件に関してはどうしても慎重にならざるを得ないのであった。

 

 

 

 お嬢は悩み、考え、また悩む。

彼女の中ではかつて無いほどの熟考だったやもしれない。

自らの目指す場所への近道を、歩むべきか否か。

彼女には分からなかったのだ。

 

 

 

 そんなお嬢を、低く鋭い一声が遮る。

「………もういい。答えは決まったようなもの。」

その声は、思案の渦からお嬢を引きずりあげる。

声の主はスエットだった。

ひどく軽蔑した眼差しで、祭壇からお嬢を見下ろしている。

「ッ………!」

お嬢は息を呑む。

その視線の冷徹さは、誰もが凍りつくほど末恐ろしいものであった。

 

 

 

「……おいスエット、それはどういう意味だ。」

エンビの問いに、スエットが答える。

「……はじめから覚悟が無い奴に、適合者になんかなる資格はない。だから言ったの……こんな奴に見込みはないって……。」

スエットの冷たい声は、こころなしか震えている。

その動力源は憤りか、はたまた憎悪か。

酷くお嬢を煙たがっていることは間違いないだろう。

「……私を差し置くべきは、こんな奴じゃない。なるなら……」

スエットの視線が動く。

留まった先は………

 

 

 

「やはり『彼』……!」

ジャックのところであった。

スエットはジャックに目線を合わせ、大きく目を見開く。

「ッ………!?」

直後、ジャックは魂が抜けたかのようにその場で倒れ込む。

バタリと倒れ伏し、一切の生気を失ってしまった。

 

 

 

「ちょ、ちょっとジャック……!?」

「まねね……!?」

お嬢が悲鳴とともに駆け寄って揺さぶるが、ジャックには反応がない。

かろうじて息がある程度だ。

「何すんのよアンタ……!一体ジャックが何をしたってのよ!?」

「……逃げたわ。彼は自らの犯した罪から逃げたのよ。」

「?」

訳が分からなかった。

スエットの言っていることはあまりにも飛躍している。

 

 

 

 しかし……だ。

その突拍子もない言葉に、お嬢は覚えがあった。

『逃げた』……近く、彼女はこの言葉を聞いた気がする。

何処でだろうか。

それは夢の中で現れたあの男……ジャックに似た紫髪の男からだ。

 

 

 

「ぐっ………」

「!?……ジャ、ジャック!?」

先程まで微動だにしなかったジャックが、奇妙なうめき声と共に唸り始める。

その声は酷く苦しそうで、まるで身体の中から何かが這い上がってくるかのような音であった。

 

 

 

「さぁ……起きなさい『ジャック』。目覚めの時よ。」

スエットの言葉と共に、ジャックのうめき声が止む。

「………。」

「ジャ……ジャック?」

お嬢はジャックの顔を覗き込む。

その表情は彼女が見知ったジャックではない。

どちらかと言えば、別の場所で見た『彼』の方に似ていた。

 

 

 

 

 

 ジャックはおぼつかない足取りで立ち上がる。

……かと思った、その時であった。

「うっ………うわああああああああああああッ!」

ジャックは突如として頭を抱え、急に発狂し始めたのである。

その場にうずくまり、酷く震えた声で慟哭する。

まるで何かに怯えるかのような、尋常でない様子である。

 

 

 

「み……見るなッ!見るな見るなッ!!『俺』をそんな目で見るなああああああああああああああッ!」

 

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