【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
通りすがりのパティシエールの手によってアオガラスの群れから逃れたトレンチ嬢とジャック。
やがて森の出口へと抜け、追手が居ないことを確認した彼らはホッと息をつく。
「た……助かったわ……」
「まねね……」
「あ、危ないところでした。助けていただき感謝いたします。」
ジャックは息を整えると、パティシエールに頭を下げる。
「ハハハ、気にしないでくれ。ちょっと気分転換に木の実を取りに行ったらキミたちが見えたもんでね。……ま、困ったときはお互い様さ。」
そう言うと彼女はお嬢に近づき、抱きかかえられたままぐったりとしているスナヘビを見る。
首元を触り、数度角度を変えて傷の具合を見た直後、彼女はこう話す。
「あー、こいつはアレだ。無責任なトレーナーが森に逃したんだろうな。んで、慣れない森で気の立ったアオガラス達にやられたんだろう。」
その洞察力に、ジャックはただただ感心する。
ひと目見ただけでポケモンの状態をここまで把握している彼女が只者でないことは、誰の目にも明らかであった。
そして彼女は鞄の中からきのみとスリバチを取り出すと、簡易的にその場ですり潰して調合し、トレンチ嬢へと受け渡した。
「ほれ、ひとまず緊急の栄養食だ。そのスナヘビ君に食べさせてやりたまえ。」
「わ……わかったわ!」
トレンチ嬢は慣れない手付きでスナヘビの口元に栄養食を差し出す。
「み……みしゃ……」
スナヘビは力なくスリ棒についたペーストを舐め取る。
首がわなわなと震えてはいるが、意識は比較的はっきりとしている。
「……よし、命に別状はないな。とりあえずその子はポケモンセンターに連れて行くといい。」
そう言い残すとパティシエールは荷物を片付け、そそくさとその場を立ち去ってしまった。
結局彼女は一度も自分の身分を明かすことなく、姿を消してしまったのであった。
「あ……お礼、言いそびれましたね……。」
ジャックはふと我に返る。
例のパティシエールの存在感に呆気に取られてしまっていたのであった。
結果的にこの日の森林探索は、収穫ゼロ……否、瀕死のスナヘビを搬送しただけであった。
「ねぇジャック、あのマホイップってポケモン、アレね。髪型が完全にうんk」
「よし、ポケモンセンターに急ぎましょう。」
ーーーーー「はい、お預かりしたマネネとスナヘビは元気になりました。またのお越しをお待ちしております。」
その後、ポケモンセンターに着いた彼らはポケモンたちを治療してもらい、彼らを受け取ることになった。
「まねね!」
「みしゃっ!」
返却された彼らは元気そうな声を上げる。
特にスナヘビは先程までの瀕死状態がウソのように元気になっていた。
「……ところでお嬢様、このスナヘビはいかが致しましょう。」
「え?この子、私のポケモンになったんじゃないの?」
お嬢はスナヘビを抱えつつ、キョトンとした顔で答える。
「いや、ボールに入れてないでしょう?それに元のトレーナーも……」
「でもこんなに懐いてるわ!ね、飼ってもいいでしょ?」
「いや捨てペットじゃないんですから……」
ジャックの眼前に押し付けられるスナヘビに、彼は少しだけ後退りする。
「まねね!」
「みしゃっ!」
マネネに引き続き、スナヘビも元気よく返事をする。
彼らの間には間違いなく、絆のようなものが生まれている。
マネネのときもそうであったが、スナヘビもまたこの短時間でお嬢と打ち解けていたのであった。
ジャックはまたしても、お嬢の才覚に驚くことになった。
「……ではひとまずこのボールに入れて下さい。それで捕獲になります。」
ジャックは最後のモンスターボールを渡す。
「みしゃっ」
受け取ったお嬢は軽くスナヘビの頭にボールをぶつけ、ボールの中に収納する。
ボールはすぐに3カウントを数え、やがて捕獲完了のブザー音が鳴る。
これにてお嬢は、正式にスナヘビを2匹目の仲間にしたのであった。
すぐにお嬢はボールからスナヘビを呼び出し、挨拶をする。
「よしっ!スナヘビ、これからよろしくね!」
「まねね!」
「みしゃっ!」
ジャックは驚きつつ、安堵に胸をなでおろした。
ひとまず明日のジム戦には間に合ったからだ。
「よし、スナヘビ行くわよ!お手!」
「みしゃ!」
「おかわり!」
「みしゃしゃ!」
お嬢は様々な芸の指示を出すと、スナヘビはそれに合わせて動作を繰り出していく。
頭の回転や対応力も申し分ない実力のようだ。
「最後に、巻【自主規制】ソ!」
「みしゃーーーっ!」
スナヘビは立派なとぐろを巻く。
その姿は一種の数学的な美学を感じる形状……いわば巻きg
「お嬢様、明日は速いのでもう寝ましょう。」
……ジャックの安心感は一瞬にして吹き飛ぶことになってしまった。
ーーーーー翌日。午前中に手軽なトレーニングを終わらせたお嬢とジャックは、アンコルシティの中央部にあるスイーツ店『パティスリー・ガトー』の本社ビルへと足を運んでいた。
中央のロビーを抜け、広く大きなエレベーターを登っていく。
エレベーターの窓はイジョウナ地方の景色を全貌できるほど見晴らしがよく、お嬢とマネネはすっかり魅入ってしまっていたのであった。
「見てみてジャック!あれ!大きな山が見えるわ。」
「まね!」
「えぇ、景色が良くてよかったですね。」
ジャックもまた、美しい景色を眺めて感動に浸る。
しかし彼の意識が完全に休まる事はない。
「特にあそこの笠雲!形がう……んぐっ」
ジャックはすぐにお嬢の口へと手を当てた。
搭乗員が一緒にいる以上、少しでもお嬢の失言を聞かれるわけにはない。
それ故の強硬手段だ。
「ひょっほひゃっふ、はひふんっほほ!」
「そろそろ目的の階に到着です。バトルの準備を。」
やがてエレベーターは目的の102階にたどり着く。
扉を出て短い廊下を抜けると、目の前には広大な円形のスタジアムが広がっていた。
そしてそのスタジアムには純白のクロスが敷かれた高級感のあるテーブルが置かれている。
そしてそのテーブルには溢れんばかりの大小様々なケーキが並んでいた。
「こっ……これは……?」
ジャックはあまりに異様な光景に唖然とする。
明らかにその場の雰囲気はバトルフィールドのものではない。
言うなればティーパーティのそれであった。
「ちょっと、凄いじゃない!これ全部食べていいの!?」
お嬢は口では疑問を投げかけつつ、身体は即座に座席に座りケーキを頬張り始めていた。
小さなテーブルに山ほど盛られた世界中のケーキに、お嬢とマネネは完全に虜になってしまう。
「お、お嬢様!勝手に食べてしまっては……」
「あー、大丈夫だ。それは私がキミのために用意したお茶請けだからね。」
ケーキを喰らうお嬢と止めるジャックの間に、聞き覚えのある声が聞こえる。
その声の主の顔を見た一同は驚愕した。
それもそのはずだ。
そこに居たのは昨日の森で出会った例のパティシエールだったからだ。
「なっ……!?アナタは……!」
彼女は顔に皿に盛られた追加のケーキを運びつつ、こちら側のテーブルへ運んでくる。
「はは、ほひへんほう!(訳:あら、ごきげんよう!)」
お嬢はケーキを口に含んだまま声を出した。
しかし目線はずっとケーキの方に釘付けにされてしまっていた。
「ハハハ、いい顔をして食べるじゃないかキミ。昨日のクソ生意気なピアノ娘とは大違いだ。」
パティシエールが言っているトレーナーはハオリの事だ。
彼女はカロリーを気にしてケーキを口にしなかったため、このパティシエールの機嫌を大きく損ねていたそうだ。
それだけに、お嬢の反応をより喜んでいたのかも知れない。
「……食べながらでいいから聞きたまえ。このジム戦は2on2のシングルバトル。先に全ての手持ちポケモンが居なくなった方の負けだ。よろしいかい?」
「はひほふほ!(訳:大丈夫よ!)」
「はへへ!(訳:まねね!)」
お嬢は一応口では頷いてはいるが、やっぱり目線はケーキから動かない。
ジャックはずっと気を揉まれている。
「……それじゃ、アンコルジムリーダー・ステビア。いざ尋常に参るッ!」
「へへ!ははっへひははい!(訳:えぇ、かかってきなさい!)」
この勝負、大丈夫だろうか。