【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第070話】蘇る記憶、廻る世界

古びた地下礼拝堂の空間にて。

床に倒れ伏すジャック。

そしてその脇の長椅子に座り込んで項垂れるのは2人の少女……トレンチ嬢とスエットだ。

また、マネネもお嬢の傍らで、彼女に寄り添うようにして眠っている。

 

 

 

「……どうやら無事に潜り込めたようだな。」

「ククク、一体どんな戦いになることやら。」

そんな彼女らを眺めつつ、語り合うのはエンビとクランガ。

彼らは遠目に、これから始まる彼女たちの戦いを見届けようとしていたのだ。

 

 

 

「しかしこのジムだけッスよねー、こんなバトルが出来るのは。」

「……サイキッカーの血を引くスエットの超能力の1つ『精神世界への干渉』だな。まさかその媒体がジャックになるとは思わなかったが。」

彼らの口から、新たな事実が明らかになる。

既に察している読者諸兄もいるかもしれないが、スエットは所謂『サイキッカー』と呼ばれるタイプの人間だ。

軽い念動力が使えたり、読心術が使えるアレである。

事実、これまでに彼女はクランガなどの内心を読んで距離をとっていた。

 

 

 

……が、彼女の場合はそれが物理的・対外的なものにまで発展しうる。

ずばり、相手の精神そのものへと直接干渉し、入り込むことが出来るのだ。

民話に出てくるダークライやクレセリアなどと同じようなことを、人のみで成し遂げられてしまうのである。

まさに超人的なサイキックの才能、と言わざるを得ない。

「でもコレ、ジム戦とは言え不機嫌なスエットちゃんが作った世界ッスよねぇ……こんなんで勝負は成り立つんスか?」

「……さぁな、俺らには分からんよ。だが、そんなアイツに負けるならばトレンチもその程度のトレーナーだったと言うだけさ。」

エンビは半ば投げやりにそう言うと、近くの長椅子に腰掛けて足を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー意識が遠のいてからしばらくして。

冷たい感触とともに、お嬢は目を覚ました。

「……?」

状況を飲み込めぬまま起き上がると、そこには真っ黒な暗闇が広がっていた。

風が吹き抜ける音すらせず、彼女の鼓動が不穏に響くのみである。

だが、そんな彼女も孤独ではない。

「まねね?」

「……!マネネ!無事だったのね!?」

お嬢は自身の足元にマネネの存在を確認し、ひょいと抱き上げた。

 

 

 

するとどうだろう。

彼女らを包んでいた暗闇が一斉に晴れていき、当たりに多量の光が差し込んでくる。

「ッ……!」

お嬢はあまりの眩しさに目を覆った。

徐々に目が慣れるのを待ち、ゆっくりと目を開く。

 

 

 

そこに広がっていたのは、見覚えのある光景であった。

青々とした草原、辺りで草を喰むウールー、澄んだ空気、雲ひとつ無い鮮明な夕焼け空……それは数日前に彼女とジャックが訪れた村『ヒルミヴィレッジ』の景色そのものだ。

全体的に色がくすんでいたり、所々輪郭が不鮮明だったりはする……が、彼女の記憶に間違いはなかった。

それに、それを確信させるものが丘の上にある。

彼女も知っている、ジャックの祖父・ドテラの家だ。

 

 

 

なぜ自分がこのような場所に居るか、彼女はまだ理解しきれてはいなかった。

しかしこの見覚えのある景色と、先程まで礼拝堂で聞いていた言葉の因果が徐々に繋がれていく。

 

 

 

「そうだ、『先に帰れ』って……!」

「まね……!」

お嬢はここで気づく。

ここが元いたジムとは異なる異空間であることに。

「帰れって……そういうこと!?」

そう、つまりお嬢の勝利条件はこの異世界からの脱出なのだ。

 

 

 

彼女は自身の使命を自覚する。

果たさねばならぬ目的があるのであれば、こんな所で立ち止まっては居られない。

この戦いには、ジャックの安否が掛かっているのだから。

 

 

 

お嬢はヒントとなるものを捜すべく、唯一の特徴的なオブジェクト『ドテラの家』へと接近していく。

「……中になにか無いかしら?」

「まねね?」

お嬢は丘を登っていき、ドテラの家へと近づいていく。

少なくとも、ジャックに関わる何かがあるかもしれない。

 

 

 

だが、家との距離数十メートルのところまで近づいた辺りでのことだった。

誰か見知らぬ男女が玄関へと近づいていくのが見えた。

彼らは何か、布に包まれたものを抱えている。

お嬢が目を凝らして見ると、ソレは……

 

 

 

「えっと、赤ちゃん……!?」

そう、彼らが抱きかかえていたのは赤ん坊であった。

恐らく状況から見て、抱えられているのは彼らの子供だろう。

お嬢はそんな彼らに声をかけようと歩み寄る。

……が、次の瞬間。

「ッ……何よコレ!?」

お嬢は驚嘆とともに飛び退いてしまった。

それもそのはずだ

 

 

 

なんと彼らの顔は、真っ黒な靄のようなもので塗りつぶされてしまっていたのだ。

どれだけ近づこうとその表情を伺うことは出来ない。

かろうじて人の形を保ってはいるが、それでも彼らは『ただの人の形をした何か』にすぎなかったのである。

 

 

 

やがて黒い顔の夫婦は家の扉の前に立ちはだかる。

間もなくして、扉が開かれた。

中から出てきたのは、毛むくじゃらの顔をした白髪の小さな老人……ドテラであった。

「…………!」

「…………。」

「……、……!」

彼ら3人はなにか話し合いをしている……が、その音声が聞こえることはない。

辛うじて分かるのは、ドテラがとても憤慨していることと、黒い顔の夫婦らが申し訳無さそうに平謝りしていることだ。

 

 

 

ドテラは最終的に、夫婦が抱えていた子供を奪い取るように受け取った。

そして乱雑に、扉をバタンと閉めたのである。

夫婦たちは項垂れながら、だんだんと家から遠ざかっていった。

 

 

 

その背中を見送りつつ、お嬢は気づく。

「そうか、これはジャックの……。」

「まねね……。」

この光景が意味するものを、彼女は理解したのだ。

 

 

 

これはジャックの過去だ。

彼の記憶にあるものが、不格好に再現された世界なのだ。

それならスエットらが言っていた『精神世界』という説明とも矛盾しない。

 

 

 

そして此処はジャックがヒルミヴィレッジに来たときの再現映像だろう。

だから彼の記憶にない夫婦の顔は塗り潰されているし、知り得ない会話内容も聞こえることはない。

更には前にドテラが言っていたジャックの生い立ちともおおよそ一致する。

 

 

 

「……ってことは!さっきドテラお爺様が抱えていた赤ちゃんは……!」

お嬢は気づいた。

もしここがジャックの過去を再現した映像であれば、配役上はあの赤ん坊がジャックということになるだろう。

お嬢はすぐさま家へと近づき、玄関の扉へと手をかけた。

鍵はかかっておらず、扉はあっさりと開いてしまった。

 

 

 

しかし中には誰もいない。

否、それだけではない。

「な……なんで……?」

「まね……?」

お嬢の困惑も無理はないだろう。

 

 

 

家の扉を開けたら、そこはまた同じ入り口の光景なのだ。

お嬢は振り返る。

そこには全く同じ形の扉と、鏡写しの世界が続いている。

試しに扉を閉じ、再び開く。

が、状況は変わらなかった。

 

 

 

「そんな……じゃあジャックは……!?」

何処を見渡しても、ドテラもジャックも見当たらない。

奇怪な家を中心にして、ただただ色あせた草原が広がるのみだ。

 

 

 

「……ここで一時停止になっている。アナタが何をしてもこの世界からは出られない。」

「!?」

見知った声に、お嬢は振り返る。

そこに居たのは紛れもない、スエットであった。

 

 

 

「どっ……どういうことよ!?」

「まね!?」

「……私にもよくわからない。……この男の心、構造が複雑すぎる。」

スエットはため息をついた。

そして懐からモンスターボールを取り出す。

 

 

 

その仕草が意味するものは、トレーナーであれば嫌でもわかるだろう。

「一体どういうことよ、ソレ。」

「……私達、お互い閉じ込められて行き詰まってる。だったらここで先に決着を付けてもいいと思う。」

彼女はそう言うと、キッとお嬢を睨みつけた。

お嬢も負けじとボールを構え、臨戦態勢に移行する。

 

 

 

「そうね、元々アンタとのバトルに来たんだもの。ここで倒してやるわ……!」

「……そう。せいぜい全力を出しなさい。」

 

 

 

そう言うやいなや、彼女らは互いに距離を取る。

そして互いに一呼吸……

直後、開始の合図もなく、同時にボールを放り投げた。

 

 

 

「行きなさい、ポッチャマ!」

「ぴぴっ!」

「……出番よ、エルレイド。」

「りんっ!」

お嬢のポケモンはポッチャマ。

恐らく彼女の中で、最も対応範囲が広いポケモンだ。

対するスエットの先発はエルレイド。

腕の刃による物理攻撃と様々な補助技を併用する、極めて多才なポケモンだ。

 

 

 

相手の出方が全くわからない。

一体どう試合を展開しようか……お嬢がそう考えていたその時であった。

 

 

 

「ハハハッ………」

「?」

突如、低い笑い声が聞こえてくる。

お嬢は辺りを見渡すが、誰もいない。

まさかと思ってスエットの方を見ると……

 

 

 

「ハハ………ハーーーーハッハッハッハ!俺様のエルレイドに挑もうたぁいい度胸じゃねぇか!あ!?」

「………!?」

彼女は完全に豹変していた。

まるで何かに取り憑かれたかのようである。

 

 

 

一体何が起こっているというのだ……!?

 

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