【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第071話】切れない切り札、斬撃の応酬(vsスエット)

「ハッハッハーーーーーッ!さーーてトレンチ!俺たちのバトルが始まるぞ……燃えてきたなぁーーーッ!」

「なっ……!?」

お嬢は困惑する。

それもそうだ。

こんな熱血漢のようなセリフを吐いているのは、紛れもないスエットだったからだ。

先程まであんなに冷徹で無愛想な少女だったのに、何が彼女をここまで豹変させたのか……皆目検討もつかないのであった。

 

 

 

「あ……アンタ、スエットよね?一体どうしちゃったってのよ……!?」

「あ゛?何を当たり前のことを言ってやがる。俺は間違いなくスエットだ。」

「……!?」

別の何かが取り憑いた……というわけですらないようだ。

ますますそのメカニズムはわからなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー時を同じくして、外界。

丁度この戦いの行く末を見ることのない、エンビとクランガの会話。

「今頃なにしてるんスかねぇ~、スエットちゃんとトレンチちゃん。」

「……大方、最初の戦いが始まったあたりだろう。だがまぁ、惑うだろうな。」

「へへへッ……まさかスエットちゃんが『多重人格』だなんて、知ったら驚くこと間違いなしッスよ。」

クランガはヘラヘラと笑う。

 

 

 

 そう、スエットの豹変のメカニズムは彼らの言う通り。

彼女の持つ障害『解離性同一性障害』……よく知られた言い方に直せば『多重人格』というやつだ。

しかも彼女の多重人格は、唯の多重人格よりも少し厄介な仕様である。

これについての説明は後ほど行おう。

 

 

 

 

 

 ーーーーー「っしゃ行くぜエルレイドォ!『インファイト』ーーーッ!」

「りりーーーんっ!」

スエットの力強い指示とともに、エルレイドはポッチャマを目掛けて全力ダッシュを決めてくる。

恐らくはあの全身を駆使したタコ殴りを仕掛けてくるつもりだろう。

ポッチャマとエルレイドの体格差を考慮すれば、ここの適解は『回避』である。

 

 

 

 しかしこのポッチャマはそれを良しとしないことを、お嬢は周知している。

ならば攻勢に出つつも、せめて直撃を避けるための対応を求められる。

ここでお嬢が考えた指示は……

 

 

 

「ポッチャマ!真上に向かって『ドリルくちばし』!」

「ぴぴぴっ!」

ポッチャマは地面を蹴り上げ、エルレイドの頭部を目掛けて飛んでいく。

お嬢は『真上』と指示をしたはずだが、微妙に言うことを聞いていない。

だが、それも彼女は織り込み済みだ。

 

 

 

 ポッチャマとエルレイドは、首の真横から数十ミリの距離ですれ違う。

そしてそのまま互いの攻撃は当たることなく、交差したのであった。

「ヘッ、テメェ……それは『走りながら自分の顔より上の位置を殴ることはできない』ことを理解した上での指示か?」

「ッ………!」

さすがの分析力だ。

少なくとも、かくとうわざの最高峰である『インファイト』とまともに殴り合ってはポッチャマは勝てない。

脚で踏み潰されようものなら目も当てられない。

だからこそ、デッドゾーンを狙ったジャンプを選択したのである。

 

 

 

 ……そしてソレをスエットは正確に見抜いていた。

恐るべき慧眼である。

つまるところ、エルレイドを相手にお嬢が警戒している事もバレているのだ。

 

 

 

「ハッ、なんだよビビってんのか?エンビのファイヤーには随分強く当たってた見てぇだが、エルレイドとは戦いたくねぇってか?」

スエットは高笑いとともに、ポッチャマを見下す。

どう聞いても、わざと煽っているような口調だ。

だが、プライドの高いポッチャマにこの戦法は大変有効である。

 

 

 

「ぴっ………!」

彼女の発現が、ポッチャマの逆鱗に触れたようだ。

その証拠に、微かに彼の頭の血管が切れる音が聞こえた……気がする。

しかしその音はあながち聞き間違いでもなかったやもしれない。

 

 

 

 ポッチャマの身体が、心做しか伸長し始めたのだ。

そして間もなく、七色の光が彼を包み込む。

「え……!?嘘でしょ!?」

お嬢も既にコレを見るのは4回目……そう、進化のときである。

やがて光が消え、新たな姿のポケモンがその場に現れた。

 

 

 

「ふるるっ!」

眼差しが一段と凛々しくなり、体毛の青も深みを増している。

体長も倍近くまで伸び、全体的にエンペルトに近い体型へと変化した。

ポッチャマは、ポッタイシというポケモンに進化したのである。

 

 

 

「ほぉ……まさか俺の挑発に乗せられて進化するたぁ、余程ブチギレてるらしいなぁ?」

「ふるる……っ!」

今まで、窮地に陥ったポケモンが進化したことは何度もある。

が、個人的な感情の起伏に起因して起こる進化は、言うまでもなく初であった。

 

 

 

「ふるるーーーーーーッ!」

ポッタイシはお嬢の指示もまたず、エルレイドのところへと直進していく。

翼に力を込めた全力のビンタ攻撃……『ダブルアタック』だ。

どうやら体格が良くなったことで、一段と闘争心が増しているようだ。

 

 

 

「いいぜ、そう来なくちゃなぁ!エルレイド、『インファイト』だ!」

「りりんっ!」

エルレイドはポッタイシを受け止めるように拳を構え、目にも留まらぬ速さでソレを叩き込む。

拳はポッタイシの翼に激突し、互いに殴り合いを繰り広げた。

『ダブルアタック』と『インファイト』は火花を散らしながら、互いの腕を削り合う。

 

 

 

 ……だが残念。

近接攻撃の火力では、どうしてもエルレイドに軍配が上がってしまう。

拳の重圧が違いすぎるが故か、ポッタイシは押されきっているのだ。

「りりーーんっ!」

「ふる……ッ!」

懇親のブローがポッタイシの頬を叩く。

手痛い一撃のヒットだ。

 

 

 

「ポ、ポッタイシ!?」

「ヘッ、どうやら進化しても力不足なようだな。」

スエットの言う通り、正面切っての殴り合いでは勝ち目はない。

そもそもエルレイドはかくとうタイプ……近接戦においては最強の属性なのだ。

 

 

 

 倒れていたポッタイシへ、エルレイドが近づこうとした……その時だった。

「ふぇ……ふぇるるっ!」

「りんっ!?」

ポッタイシは、その場で腹這いのスライディングをしてきたのだ。

足元を目掛けて嘴を尖らせ激突する……そう、不意打ちの『ドリルくちばし』を狙ったのである。

 

 

 

 だが残念、判断が遅すぎた。

策自体は悪くなかったが、飛び込む時点でそこは既にエルレイドの視界内であった。

「りんっ!」

エルレイドは大きくジャンプし、『ドリルくちばし』を飛び避ける。

「ふる……!?」

「ハッ、遅い遅いッ!エルレイド、『サイコカッター』だ!」

「りりんっ!」

空中で腕を横に振り、念動力の刃が数撃飛んでくる。

攻撃直後のポッタイシには、酷く手痛い攻撃だ。

 

 

 

「避け……!」

「間に合わねぇよ!」

お嬢の指示は惜しくも届かず……

残念ながら、『サイコカッター』は全弾隙なくポッタイシへと着弾した。

あまりにも無駄のない連続コンボだ。

 

 

 

「ふる………!」

ポッタイシはかなり多くの傷を負ってしまった。

体力も残りわずか、敗北も目前だ。

……が、それでも彼は自身の根気のみで立ち上がり、目の前のエルレイドを睨みつける。

プライドの高さは、土壇場で奇しくもプラスに働くのである。

 

 

 

「やるじゃねぇかポッタイシ。だがトレンチ、テメェの期待してる『アレ』は来ねぇみたいだぜ?」

「ッ………!」

お嬢は背筋が凍るのを感じた。

自分の考えを、丸ごと見抜かれていたのだ。

思考を正確に見破られ、それを口にされる気味の悪さは、MA-Ⅰ戦の時の比ではない。

 

 

 

「……ポッタイシの切り札『まけんき』は『自身に不都合な状態が発生した時に筋力が強化される』特性だ。だが残念だったな、んなもん俺は最初からお見通しだ。」

スエットの言う通りである。

ポッタイシの最も重要な特性『まけんき』は、自らが『ひるみ』『こんらん』『防御力ダウン』などのデバフを背負う必要がある。

しかしこのエルレイドの取る行動は真っ向勝負の攻撃のみ……つまり、『まけんき』のトリガーは絶対に引かれないのだ。

 

 

 

 確かにポッタイシは強いポケモンだ。

だが、いかんせん相手依存なところが多すぎる。

極めつけに、彼はバトルの終盤に力を発揮するスタイルだ。

つまり、兎に角不安定なところが最大の弱点なのである。

良い方向に転べばマネネすらも圧倒するほどの力が出る。

しかし今回の勝負は、その特性が悪い方向に働いてしまったと言えるだろう。

 

 

 

「はっ、切り札を切れない感覚はどうだぁトレンチ?大人しく投了しても良いぜ?」

「ッ………!」

少なくとも、エルレイドに対して近接戦を挑んでも勝てないことは明白だ。

『まけんき』が発動しないのでは、物理攻撃は頼りにならない。

しかしポッタイシは、特殊攻撃を嫌う傾向が強い。

特に『バブルこうせん』『なみのり』は余程有効なときでないと使わない。

 

 

 

 ………その時、お嬢の脳裏に過去の記憶が蘇る。

かつて遠くから眺めていたあのバトルが、大きなヒントとなったのである。

「……一か八か……ね。」

お嬢は呟いた。

「お願いポッタイシ、アタシの指示を聞いて。」

「ふる……」

ポッタイシはやや不満げに振り返る。

しかし状況がピンチであるからか、彼は大人しく頷くのみであった。

 

 

 

「決めるぜエルレイド……『インファイト』だっ!」

「りりんっ!」

傷だらけのポッタイシに向かって、エルレイドは再度走り出す。

有利な近接戦で、確実にポッタイシの息の根を止める心づもりだろう。

事実、ポッタイシには対抗するだけのパワーも体力もない。

 

 

 

 だが、そんな敗北を彼女らは黙って飲み込むわけがない。

お嬢はポッタイシに指示を送る。

「ポッタイシ、『ダブルアタック』!」

「ふるるーーーーッ!」

その場に立ったまま、ポッタイシは長く伸びた両翼を大きく構える。

恐らくは水平方向のビンタで迎え撃つつもりだろう。

 

 

 

「へっ、そのわざじゃエルレイドは倒せねぇ!さっきので分かってんだろ!?」

スエットの言う通り。

『ダブルアタック』のみでは『インファイト』に勝つことは出来ない。

 

 

 

 ……そう、ダブルアタック『のみ』では。

「………と、『なみのり』ッ!」

「!?」

 

 

 

 お嬢の追加の指示の直後、ポッタイシは翼で真一文字に空を切る。

その二筋の軌道から生み出されたのは、水平に描かれた水の軌跡……否、水の刃そのものだ。

水の刃はエルレイド目掛けて素早く飛んでいき、顔面を真正面から切りつけた。

「りりっ……!」

「エルレイドッ……!?」

スエットは困惑する。

まさかこの中距離からこれほどスピーディーな攻撃が飛んでくるなど、彼女は完全に慮外であった。

 

 

 

『なみのり』は本来ならばもっと長い溜めを必要とする大技だ。

だが、ポッタイシはこれを『ダブルアタック』と併用することで、中距離専用のわざへと昇華したのである。

これならば遠距離攻撃を嫌いがちなポッタイシにも、抵抗なく有効に扱えるのだ。

しかしそのやり口はお嬢の考えたものではない。

「……まさかレインの奴の戦法を、2回も真似することになるなんてね。」

そう、レインのピカチュウやジメレオンが使っていた『水の刃』戦法だ。

 

 

 

「……おいエルレイド、怯むな!もう一度『インファイト』だ!」

「りりりっ!」

体制を立て直したエルレイドが、再び走って迫ってくる。

しかしそこへ、お嬢は容赦なく追撃を指示する。

「攻撃をやめないで!ポッタイシ、『ダブルアタック』&『なみのり』!」

「ふるるっ!」

翼が幾重にも軌道を描き、その度に水の刃による斬撃が飛んでいく。

その数は十、二十……否、既に数えることすら不可能なほどの苛烈な連撃と化していた。

 

 

 

「りりっ………」

「クソッ、ポッタイシに近づけねぇッ……!」

エルレイドは水を絶え間なく斬り捨てる……が、その度に水圧に勢いを殺され、ポッタイシに接近するための推進力が削ぎ落とされるのだ。

スエットたちは、確実にお嬢の術中に嵌っていた。

 

 

 

 これが彼女らの作戦……『近接戦で勝てないなら、そもそも近づかせない』というものであった。

その意味では、この『水の刃』攻撃はコレ以上なく有効な攻撃と言えるだろう。

おかげで、エルレイドのメインウエポンである『インファイト』を封殺できたのだから。

 

 

 

 だがこれだけでは勝ちは確定しない。

残念ながらエルレイドは『近接戦が得意』なだけで、『それ以外は苦手』というわけではない。

「ハッ、もう忘れたか?コイツには他にもわざがある……『サイコカッター』だッ!」

「りりりんっ!」

エルレイドもまた腕で空を斬り、念動力の刃を生み出して前方へ投げ飛ばす。

そう、この中距離斬撃もまた彼の得意分野なのだ。

 

 

 

『なみのり』と『サイコカッター』の威力は、全くの互角だ。

その証拠に、ぶつかり合った互いの刃は、例外なく空中に霧散する。

中距離戦の力量は、どうやら互いに同等のようだ。

終わりなき斬撃の応酬は続く。

彼らは互いの腕を、千切れそうなほど振り回す。

結末は一向に見えないままだ。

 

 

 

「クッ……埒が明かねぇ……!この勝負、引き分けか!?」

「いいえ、アタシたちの勝ちよ!」

「なっ……!?」

お嬢の高らかな勝利宣言に、スエットは驚く。

残り体力の事を考えても、不利なのはポッタイシの方のはずだ。

まかり間違ってもエルレイドが負けるなど、あり得るわけもない。

 

 

 

 

 

 ……と、思われたその時だった。

「りっ………」

突如として、エルレイドの腕が止まる。

急に電池が切れたかのように、パタリと動かなくなってしまったのだ。

「お、おい!?エルレイド……!?」

その間僅か1秒弱……ポッタイシの攻撃が着弾するには十分な時間であった。

 

 

 

「り……りりっ……!」

『なみのり』の斬撃を複数回受けてしまったエルレイドは、その場でダウンしてしまった。

仰向けに倒れたまま動かなくなる。

「そんな……!?」

スエットには理解できなかった。

一体なぜ、エルレイドの体力が途中で尽きてしまったのか。

 

 

 

「『インファイト』を使う度にエルレイドの速度は落ちていたわ。少なくとも、ポッタイシが『なみのり』を出す辺りでは既にスタミナが尽きていたんじゃないかしら。」

「……チッ、やるじゃねぇか。」

凄まじい考察力だ。

少なくとも、数週間前までポケモンのわざも知らなかった彼女の面影は一切ない。

相手のステータスを一瞬で見抜き、それに対応した戦術を即座に編み出したのだ。

それは彼女の成長故か、ジャックの身の如何が掛かっている勝負故か。

……どちらにせよ、恐ろしいことに変わりはない。

 

 

 

 

 

 勝負が終わり、スエットはエルレイドをボールに戻す。

その直後であった。

彼女らが立っていた牧場の色あせた景色が、ボロボロと砂のように崩れていく。

「っ………!?」

「チイッ……コントロールが効かねぇッ!」

やがて世界は暗転し、地面が姿を保てなくなる。

 

 

 

「ッ!?お、落ちる落ちるーーーーーーッ!」

そのまま底のない暗闇へ、お嬢とスエットは飲み込まれていった。

 

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