【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第072話】輝かしき英雄譚、壊れた旧友

底無しの闇に落ちていくお嬢。

落下の風圧を全身に感じながら、意識が遠のいていく。

光が消え、音が消え、やがて全身の感覚が消えていった。

しかし彼女の中の全てがゼロになりかけたその時、再び世界が組み上がっていく。

真っ暗な闇が晴れ、再び世界が広がる。

 

 

 

その風景は、先程までいた牧場と全く同じものだ。

しかし草や空の色が先程までより鮮明で、リアリティがある。

風の感触も確かで、音も正確に聞こえる。

「……一体何が?」

「まねね?」

お嬢は周囲を見渡すが、先程まで一緒にいたスエットの影がない。

ふたりとも同時にあの闇に飲まれたはずなのに……

 

 

 

「……まぁいいわ。兎に角ジャックを探さないと……ん?」

彼女の視線の先に、不自然な人影がふたつ映る。

どちらも、お嬢よりやや背が低い人間のものだ。

 

 

 

お嬢は彼らの存在を目にするべく、恐る恐る近づいていく。

やがて人影は鮮明になっていき、毛むくじゃらの老人と紫髪の少年の姿が見える。

彼らは紛れもなく、ドテラとジャックである。

ジャックの身長はお嬢よりもやや低いくらい……推定8歳くらいだろうか。

そして彼らの間に、黄土色の小さなポケモンが居る。

……サンドだ。

 

 

 

ドテラは何やらジャックとサンドに対して、怒号を飛ばしているようだ。

「こんのバカチ【自主規制】コぉおおおおおおおおおッ!『ころがる』を最序盤から撃つなと言ってるだロ!」

どうやら特訓中の不手際に対して怒っているようだ。

しかしそれに対し、ジャックも負けじと言い返す。

「うっせぇキン【自主規制】マジジイッ!ちゃんとブレずに5回当てたんだから良いだろ!」

「うぃるるっ!」

サンドまでもがジャックに応戦した。

「それはサンドの功績だロ!お前の判断は焦り過ぎなんダこのクソ【自主規制】キ!」

「んだと?このチ【自主規制】毛モンスター!」

物凄く低レベルな罵倒とともに、激しい口喧嘩が繰り広げられる。

 

 

 

ジャックの口調は、今の品行方正な様子からは全く想像ができないほど汚いものだ。

平たく言えば、正にジャリボーイ……という感じだ。

なるほど、人は誰しもこういった時代があるのかもしれない。

 

 

 

お嬢は、ジャックに声をかけようと近づいていく。

口論の最中ではあるが、お嬢も急ぎの用事だ。

「あの……少しよろしいかしら?」

「まね?」

お嬢はジャックとドテラの間に入り、話しかける。

 

 

 

……しかし彼らはお嬢を一切意に介することがない。

思いっきり視界を塞ぐように立っているはずなのに、未だに唾と怒号を飛び交わせているのだ。

「この【自主規制】!【自主規制】!」

「何だとこの【自主規制】!【自主規制】!」

 

 

 

言葉で気づいてもらうことは不可能のようだ。

お嬢は彼らに触れることで存在をアピールする。

……が、これも失敗に終わった。

「そんな……!?」

なんと、手が彼らをすり抜けてしまうのだ。

まるで空気のように実体がなく、掴むことすらままならない。

 

 

 

お嬢はここで気づく。

「そうだ、ここはアタシたちの世界じゃない。ただジャックの記憶を再生しているだけだとしたら……」

……彼らはただの映像に過ぎない。

傍観者がどうして映像の人物に触れられよう。

つまり、どう足掻いてもお嬢はこのジャックたちに触れることは出来ないのだ。

 

 

 

「はぁ……どうしろってのよ……」

「まね……」

そう結論づけたお嬢らは、脱力感から肩を落とす。

ジャックを見つけなければいけないのに、これでは一向に埒が明かない。

……本当にただ『見つけた』だけでは勝利にならないことは、今この現状が証明している。

やはりどうにかしてジャックに話しかけるなり触れるなりしなくてはいけないのだろう。

 

 

 

そんなことを考えていた……次の瞬間。

再び世界が紙くずのように舞い上がり、崩壊していく。

「………ッ!」

足場の草もみるみるうちに姿を消し、再び底無しの闇が顔を見せる。

深い闇へと落ちていくお嬢は、遠ざかっていくジャックらを視界の端に捉え続けていた。

再び意識が遠のいていく。

 

 

 

ーーーーー「ッ……!」

目が覚めたお嬢が次にいた場所は、またも見覚えのある場所だ。

そびえ立つビル群の間を縫うように、白衣や背広を纏った人々が行き交っている。

様々な研究機関が所狭しと並び建つ科学都市……フウジシティだ。

しかしお嬢の知るほど発展もしていないし、ビルの高度も低めのものが多い。

不審に思って近くの電光掲示板に目をやると、日付は今から10年前のものを示していた。

 

 

 

「……10年前。ジャックは14歳ね。ってことは……」

そう、彼がトレーナーデビューした歳である。

そしてこのフウジシティは、ヒルミヴィレッジに一番近い街だ。

お嬢はふと、周囲を見渡す。

予想が正しければ、この付近に彼が居るはずだ。

 

 

 

しばらくして、案の定お待ちかねの人物が通りかかる。

白いYシャツと黒いベレー帽、紫のストレートヘア……間違いない、10年前のジャックだ。

そしてその後ろに、ジャックよりやや身長が低い少女がいる。

今より垢抜けていない感じはする……が、あのブロンドヘアは間違いない。

テイラーだ。

彼女はジャックの腕に絡みつきながら、何かを話している。

表情を見るに、完全なダル絡みを受けているようだ。

 

 

 

「……何なんだお前、俺に着いてくんな!」

「なぁ一生のお願い!もっかいウチと勝負してくれや。」

「うっせぇ、まずポケモンセンターに行け!」

ジャックは強い口調で追い払おうとするが、腕のほうに全然力が入っていない。

……大方、初めて会う同年代の女の子の扱い方が分かっていないのだろう。

「うぃるるーーーー!」

押され気味のジャックに代わってサンドが必死に威嚇するが、一切効果がないようである。

色々と騒がしい……が、傍から見れば何だかんだ仲は良さそうである。

 

 

 

「……。」

そんな彼らの様子を見ていたお嬢は、ある出来事を思い出す。

ノロジムでの口論だ。

その時もジャックとテイラーが居合わせていたが、彼らはレインを巡って凄まじい言い争いを繰り広げていた。

……厳密にはジャックが一方的に激怒していただけだが。

とにかく彼らは水と油のように混じり合わない、まさに「相容れぬ仲」と言うに相応しい様であった。

 

 

 

「……一体何がどうしてああなったのかしら。」

「……まねね。」

ジャックの雰囲気はたしかに今とは違う……が、それより変化が大きかったのは恐らくテイラーの方だ。

しかし目の前の彼女を見る限り、そこまで歪んだものは見えない。

だがきっと、お嬢はいずれ知ることになるだろう。

 

 

 

そんな事を考えていた……そんなとき。

周りの風景が舞い上がって崩れていく。

「またっ……!?」

そう、世界が3度目の暗転を迎えたのだ。

場面は再び切り替わるーーーーー

 

 

 

 

 

ーー

ーーー

ーーーー

ーーーーーもう何度目だろうか。

世界はさらに暗転していく。

その度にお嬢は別の場面の再生を見せられる。

お嬢は10回を越えた辺りから数えるのを辞めていた。

しかし疲弊はすれども、不思議と退屈はしなかった。

切り替わる世界と共に、ジャックの旅路をダイジェストで追っていったからだ。

 

 

 

ジャックは多くの街をめぐり、新たな仲間と出会い……そして、行く先々で様々なトレーナーとバトルをしていった。

試合の結果は一切の漏れなく、全てが圧倒的なまでの勝利であった。

それもマグレなどではない、サンドや他のポケモンたちの長所を100%以上出し切っての勝利……掴むべくして掴み取った勝利だ。

まさに『無敗の』という冠詞を背負うに相応しい、実力者の英雄譚であった。

 

 

 

 

 

そしてその英雄譚は、新たなワンシーンを再生しようとしていた。

お嬢が辺りを見渡すと、そこはドーム状の巨大なスタジアムであった。

ロメロシティで見たものの3倍は規模がある。

観客が客席に所狭しと並んでおり、溢れんばかりの会場がスタジアムを覆い尽くす。

尋常じゃないほどの盛り上がりようだ。

……そこが『ポケモンリーグ』の会場であることは、お嬢でも察しが付いた。

 

 

 

スタジアムの方に目をやると、そこには2名のトレーナーが相まみえていた。

どちらもお嬢の見知った人物であった。

「テイラーと………こっちはジャックね。」

「まね。」

試合は第1回戦。

奇しくも同期である彼らは、最初から相まみえることになってしまったのである。

 

 

 

しかしその勝負の結果は、お嬢は知っていた。

否、お嬢だけじゃない。

観客は皆、勝敗など見るまでもなく分かっていたのだ。

 

 

 

……案の定テイラーは惨敗した。

ジャックの手持ちポケモンを1匹たりとも倒せぬまま、初戦で敗退したのであった。

一体彼女は、この敗北を前にしてどんな顔をしているのだろうか。

お嬢は身を乗り出して目を凝らした。

きっと悔しさのあまり、泣き崩れるのではないか……

それとも呆然と立ち尽くすのか……

そんなことを考えていたお嬢は、目の前の光景に驚くことになる。

 

 

 

「ハハ……ハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーッ!」

「!?」

テイラーは笑っていた。

それはもう、大層乾いた笑いであった……が、同時に腹の底から満足した笑いでもあった。

気が狂っているとしか思えなかった。

彼女の底抜けに明るい声は、お嬢を困惑させていく。

「ダメだ……この人、既におかしくなってるわ……!」

「まね……!」

 

 

 

 

 

「……えぇ、本当ね。」

「!?」

ふと、隣から聞き覚えのある声がする。

もう何時間も聞いていなかったので忘れていたが、そうだ……お嬢はこの声の主と勝負をしている最中だったのだ。

 

 

 

「アンタは……スエット!」

「……もう何回もこのシーンを見てる。あの女は本当に嫌い。」

スエットは不機嫌そうに呟く。

どうやら、最初の無愛想な雰囲気に戻っているようだ。

……が、その手は何故か耳を塞いでいた。

そんなにテイラーが嫌いなのだろうか……それにしても違和感のある仕草だ。

 

 

 

「……丁度よかった。あなたを倒さないと、私も次の場面に行けない。」

「……ってことはアンタも!?」

そう……スエットもお嬢と同じく、この映像の中ではただの観客に過ぎない。

観客であるが故、この世界のルールに縛られている。

『行き止まりの先に行くためには、別の「観客」と勝負をしなくてはいけない』というルールに。

つまり、この世界を進んでいくには、どう頑張ってもスエットとの衝突が必要不可欠なのだ。

 

 

 

「……1つめはアンタに負けた。でも次は負けない……!」

「……ッ!」

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