【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第073話】長所の簒奪、周到な落とし穴(vsスエット)

 スエットの提案とともに、お嬢らは柵を乗り越えてスタジアムへと乗り出す。

2回戦を始めるつもりなのだ。

普通の世界であれば誰かしらの制止が入るはずだが、ここはスエットに寄って作られた架空の世界。

登場人物は誰ひとりとして、彼女らに干渉することはない。

 

 

 

 再生が止められてしまったのか、周囲の人間たちは固まったまま一切動かなくなった。

先程まで歓声に溢れていた会場は、一瞬にして気味が悪いほど静まり返っていたのである。

どうやら場面ごとに最後までたどり着くと、全てがピタリと止まってしまうようだ。

 

 

 

「………ふぅ、静かになった。」

スエットはそう言うと、塞いでいた両手を開放する。

どうにも彼女は、喧騒が苦手なようだ。

……最も、この行動の原因はそれだけではないが。

 

 

 

「……じゃあ、いくよ。同時に2匹目のポケモンを出して。」

「……。」

お嬢はコクリと頷く。

しかしボールを選ぶその手には、僅かな迷いがあった。

 

 

 

 ……本来の勝ち抜き戦であれば、状況を見て出すポケモンを選べる。

が、こういう団体戦形式の場合、常にファーストメンバーの選出を要求されるのだ。

つまるところ、開幕から運要素が絡む……ということである。

故にその選出には、いつもよりも慎重にならなくてはいけない。

ポッタイシのようなオールラウンダーを、毎回出せるわけではないのだ。

 

 

 

 お嬢は熟考の末、次鋒に抜擢するメンバーを決定する。

恐らくこの広大なフィールドを生かして戦えるポケモンは、彼しかいないだろう。

「っし!行くわよ、ラビフット!」

「みっ……!」

「……ドータクン、行きなさい。」

「Gagagaga!」

 

 

 

 お嬢からはラビフットが登場。

選出理由は前述のとおりだ。

そしてスエットの2体目はドータクン……豊穣の神として祀られていた歴史のあるポケモンだ。

 

 

 

「ゲッ……機械系……!」

お嬢はMA-Ⅰとの勝負を思い出して青ざめる。

こういった無機質なポケモンには、特に苦しめられた記憶が多い。

全体的にとらえどころがない故、対応に手間取りやすいのだ。

……現に目の前のドータクンは、どう仕掛けてくるのか全く予想できない体型をしてる。

相性上は有利だが、果たしてどう切り込んでいけばよいのやら。

 

 

 

 そんなことをお嬢が考えていた矢先であった。

「……んんん、いやはや……戸惑っておられるようですなぁトレンチ氏!」

「!?」

薄気味悪い笑い声が、何処からともなく聞こえてくる。

まさか、とは思う……が、こんな空間で言葉を口にする人物は1人しかいない。

 

 

 

 笑い声の主は、やはり目の前のスエットであった。

「おやおや?驚かれているようですなぁ。んん?」

先程は荒々しい無頼漢のような口調であったが、今度はクセの強いオタクじみた話し方となる。

人格が入れ替わっているのだが、その理由もメカニズムもお嬢にはまるでわからない。

故に、ただただ困惑するのみだ。

 

 

 

「先手はそちらに譲りますぞ。何分攻め手には欠けるものでしてなぁ。」

「あっそ、じゃあ言葉通りにいくわ……」

スエットは手を差し向け、後攻の宣言をする。

こういった時は、大抵なにかを仕掛けているものだ。

お嬢は経験則からそう警戒し、安全な初手の行動を考える。

 

 

 

 導き出した結論はコレだ。

「……よし。ラビフット、『エレキボール』ッ!」

「みっ……!」

その場で飛び上がるや否や、ラビフットは縦回転とともに右足を大きく振り上げる。

渾身のオーバーヘッドキックにより、超速で電光弾をシュートする算段だ。

遠距離攻撃であれば、不意の反撃のリスクも小さい。

まさに初手の行動としては百点満点の安定択と言えるだろう。

 

 

 

 

 

「んん、見事ッ!……しかしその程度の手は読めてますぞッ!『ジャイロボール』ッ!」

「Gagagaga!」

ドータクンは全身をコマのように回転させ、台風の如き勢いで直進を始める。

あまりに強い遠心力は『エレキボール』を難なく弾き飛ばし、そのままラビフットの方向へと向かってくる。

「んんんんん!貧弱貧弱ーーーーッ!」

「Gagagaga!」

「つ……強いッ!」

決して小手調べなどではない、全力投球の攻撃を相手は弾いたのである。

思った以上にドータクンの身体は頑丈なようだ。

少なくとも、あの回転がある間は攻撃を加えることは絶望的だろう。

 

 

 

 そんな事を考えている間に、ドータクンはラビフットの目の前に迫る。

あの巨体の回転を喰らえば、小柄なラビフットはひとたまりもない。

「ッ……避けてッ!」

「みっ……!」

ラビフットは空中の2段ジャンプにて跳躍し、遥か上空へと退避する。

つま先の真下僅か数ミリを、ドータクンの巨体が通り抜けていった。

正に間一髪の回避であったと言えよう。

 

 

 

 しかしここで迷っている暇はない。

『ジャイロボール』はあくまでもわざの一種に過ぎない……であればいずれその回転は止むはずだ。

 

 

 

 その隙を、お嬢は見逃さない。

「行きなさいラビフット、『エレキボール』!」

「みみっ!」

ドータクンの動きが鈍くなったタイミングで、2発目の『エレキボール』を打ち込んでいく。

一度減速したところから再度回転を始めるのは、誰であれ物理的に不可能だ。

 

 

 

 そして攻撃は、お嬢の目論見通りドータクンに着弾する。

「Gaga……!」

「っし!ナイスシュートよ!」

わざを使っていない段階での回避は困難……鈍足ゆえの弱点だろう。

器用さの点で言えば、高速かつ高機動のラビフットに大きく軍配が上がる。

このままヒット&アウェイを続けていけば、恐らくラビフットの不利はありえない。

 

 

 

 お嬢は少なくともそう考えていた……が。

「……んんん、トレンチ氏。さては勝ちを確信してますな?」

「ッ……!」

スエットには完全に見透かされていたようだ。

僅かな油断を、表情から読み取ったのだろうか。

そんなお嬢を、スエットはニヤニヤと笑いながら見つめてくる。

 

 

 

「しかし貴殿の考え方もわかりますぞ。このままでは我のドータクンは貴殿の俊敏なラビフットに追いつくこと叶わじ……」

スエットはそう言うと、両手を前に差し出す構えに入る。

「Ga……Gagagaga!」

そのサインを見たドータクンは、両腕(?)を上へと掲げる。

やがて、掲げられた腕の先端には桃色の光が集まってくる。

なにかの攻撃の予兆であることは、火を見るより明らかであった。

 

 

 

「ッ……ラビフット、避け……」

お嬢は回避の指示を出すが……

「避けられませぬぞーーーーッ、『スピードスワップ』!」

「Gagagaーーーー!」

直後、ドータクンの両腕の光はラビフットの胸部を射抜く。

あまりにも速いその閃光は、とてもじゃないが避けられるものではなかった。

 

 

 

「……み?」

しかしラビフットは一切ダメージを受けていない。

胸を貫いた光はやがて消え、それでも彼の身には一切変化が起こらない。

「……な、何が起こったの?」

「んん……まぁ、何もないなら良いのですがな……」

スエットは視線を下げ、ニヤリと笑う。

 

 

 

 身動きを取れないわけではない以上、必要以上な警戒は余計な疲弊を招きかねない。

ならばさっさと攻め落とすに限る……!

「行くわよラビフット……『エレキボール』ッ!」

「みみっ……!」

ラビフットは飛び上がり、再三同じ構えで攻撃を繰り出す。

 

 

 

 ……ことを試みたその時だった。

「……!?」

彼は全身に違和感を感じる。

思うように関節が動かないのだ。

まるで身体のあちこちに重りがぶら下がっているかのような……或いは上空から謎の力で押さえつけられているかのような感覚だ。

兎に角……「異様に身体が動かない」のである。

 

 

 

 思いがけぬ枷のせいで、当然『エレキボール』の威力は落ちる。

先程まで一直線に飛んでいたはずの弾は、上なりの弧を描いて力なく墜落してしまったのだ。

「んんんん!?如何なされました?如何なされましたかトレンチ氏!?」

計画通り……そう言わんばかりの笑みでスエットは煽ってくる。

どうやら彼女の罠に掛かってしまったようだ。

原因はアレしか考えられない……

 

 

 

「今度は此方から仕掛けますぞ……『ジャイロボール』ッ!」

「Gagagagaga!」

ドータクンの身体が回転とともにラビフットへと迫る。

……否、そんなもんじゃない。

お嬢が気づいた時には、ラビフットの身体が上空へ弾き飛んでいたのだ。

 

 

 

「さっきより……速いッ!?」

「んんん!?気づきました!?気づかれましたかな!!?」

そう、ドータクンの回転速度が絶対的に上がっているのだ。

先程まではせいぜい目で追える程度の速さであったが、今の相手はそんなレベルではない。

風を切る音が喧しく鳴り響いている。

 

 

 

 ラビフットが急に鈍化し、ドータクンが素早くなった……この原因は明らかに『アレ』だ。

「まさか『スピードスワップ』って……」

「んんん!気づかれましたな!?コレは相手と自身のスピードを入れ替えるわざですぞ!」

そう、スエットの言う通り。

この『スピードスワップ』は、相手のスピードを奪い取り、自身のスピードを押し付けるへんかわざだ。

コレを鈍足のドータクンから俊足のラビフットに使うとどうなるか。

想像に難くないだろう。

ラビフットは最大のアドバンテージを奪われ、更にディスアドバンテージを押し付けられてしまったのだ。

 

 

 

 しかし悲観することばかりでもあるまい。

今の攻撃の吹っ飛びのおかげで、ラビフットはドータクンから距離を取ることに成功した。

ひとまず守りに出るまでの時間はわずかに存在する。

その時間で出来ることを、お嬢は最大限考えた。

「ラビフット、『あなをほる』で退避ッ!」

「みみっ!」

着地とともに、ラビフットは自慢の脚で地面に穴をこじ開ける。

鈍化しているせいで勢いは衰えているが、ドータクンの接近までには十分に間に合う。

大穴を開くと、瞬く間にラビフットは地上から姿を消した。

 

 

 

 こうなれば居場所をドータクンに察知されることはない。

地下から反撃の隙を伺えば、十分に勝ちの目はあるだろう。

そう考えつつ、ラビフットは穴の中で息を整える。

 

 

 

「……んんん!『あなをほる』とは……実に見事!スピード勝負で勝てない事を悟っての逃げに入るとは……実に賢しいッ!」

「ッ……」

事実、ここから反撃をするための手はお嬢も思案中だ。

実際、パワーでもスピードでも負けている相手を攻略することは容易ではない。

レアコイルのときのような自爆戦法が通じる相手でもないし、その緒の模索は困難を極めていた。

 

 

 

 しかしそんなお嬢の様子を見て、スエットは尚笑顔を崩さない。

そして息をつくとこう言った。

「おや?もしかして思案中ですかな?……全く、いつからコレが貴殿の有利と錯覚していたのですかな?」

「え……!?」

スエットは腕を振り上げ、次のわざの指示を出す。

 

 

 

「ドータクン、『じしん』ですぞッ!」

「Gagagagagaga!」

スエットの指示の直後、ドータクンは僅かに浮いていた身体を地面に叩きつける。

190kg弱の身体からは、凄まじい縦揺れの地響きが発生する。

この攻撃には見覚えがあった。

ロメロジムでのデスバーンの『じならし』に酷似している。

……が、これはそれよりも振動が激しい攻撃だ。

恐らくは更に強力な攻撃なのだろう。

 

 

 

 そんな時、スエットの口角が更に上がる。

「んんん!トレンチ氏、そんな余裕をこいていて良いのですかな?」

「……?」

お嬢は何が起こっているのか分かっていない様子だ。

スエットは補足する。

 

 

 

「『じしん』は地中のポケモンにも有効な攻撃ですぞ?」

「!?」

お嬢が気づいたときにはもう遅かった。

ラビフットは地中での衝撃に耐えかね、思わず地面を蹴破って地上に上がってきてしまったのだ。

「みみっ……!」

「ラ……ラビフット……!」

効果は抜群……かなり手痛いダメージを追ってしまうこととなった。

 

 

 

 地上もダメ、地中もダメ……このドータクン相手に、安全地帯は存在しない。

まさに万策尽きた、といった状況だ。

「んんん!?どうですか?どうですかな!?既にラビフットは満身創痍……加えて全てのステータスでドータクンに劣る状況ですぞ!最早貴殿の勝ちはありえませんなぁッ!」

スエットは気色の悪い高笑いとともに、全力でお嬢を煽り散らす。

今度は彼女の方が勝ちを確信していたのだ。

 

 

 

 しかしお嬢の反応は彼女にとって予想外のものだった。

「……あら?何を言っているのかしら?」

お嬢の顔は、不敵にも笑っていた。

正に絶体絶命の状況にも関わらず……だ。

 

 

 

「……?意味が分かりませんな。まぁいい。さっさと決着をつけましょうぞ……ドータクン、『ジャイロボール』ッ!」

「Gagagaga!」

凄まじい風切り音と共に、ドータクンが接近する。

が、この攻撃は既に初見ではない。

見切ったお嬢はすぐにラビフットへ指示を出す。

「『あなをほる』ッ!」

「みっ!」

ラビフットは最小限の労力で地面を蹴破り、地中へと押し入っていった。

 

 

 

 ドータクンはラビフットの真上を通過すると、すぐに制止して別の攻撃の構えに出る。

「んんん!?地中は危険地帯であることをお忘れのようですなァ!『じしん』ッ!」

「Gagagaga!」

ドータクンの図体が、大きな地響きを引き起こす。

このままではラビフットはまたダメージを受けてしまう。

 

 

 

 ……が、当然お嬢はそんな事を忘れてはいなかった。

「ラビフット、浮上ッ!」

「みみっ!」

振動が伝達するより前に、ラビフットは地上に這い上がって跳躍をする。

そして駆け抜けていく波を、跳躍によって回避したのである。

 

 

 

「むむ、あそこか……『ジャイロボール』で仕留めなさいッ!」

「Gagagaga!」

姿を表したラビフットの元へ、再び爆速のドータクンが迫る。

だが、それを察知したお嬢側の方が速かった。

彼らは再度同じ要領で、地中へと退避した。

 

 

 

「よしっ……間一髪!」

「くっ、猪口才なッ!」

上下に激しい逃避行を繰り返すラビフットを、ドータクンは必死に追いかける。

しかしその度にラビフットは浅い潜行と浮上を繰り返し、相手の追ってから逃れ続けていたのだ。

フィールドが穴ぼこだらけになっていくのと比例して、スエットの神経が徐々にすり減っていった。

 

 

 

「おかしい……ラビフットはドータクンより遅いはず……!何故……!?」

彼女の疑問は最もであった。

確かに鮮やかな逃げ戦法ではあるが、本来であればこれはドータクンより高いフィジカルがないと成立しないものだ。

一体何がラビフットをここまでさせるのだろう。

 

 

 

 そう思ってスエットは、あちこちに開いた穴を眺める。

すると穴の入口付近……ラビフットの足跡の形に赤い焦げ跡があることに気づく。

「……ほのおタイプのわざ?満身創痍のラビフット……まさか!?」

「えぇ、そのまさかよ!」

一体どういうことか。

 

 

 

 それはラビフットの特性『もうか』が原因だ。

これは体力が残り少なくなるとほのおわざの威力が上がる……というものであり、『まけんき』と似て窮地で発動する特性だ。

焦げたような足跡の原因は彼の得意技わざ『ブレイズキック』によるものだ。

つまり、ラビフットは『もうか+ブレイズキック』のパワーコンボで無理やりスピードを出し、ドータクンの攻撃を回避し続けていた……ということなのである。

 

 

 

「そうよ……ステータスで負けていようが、属性を活かせば戦えるってことよ!」

「みみっ!」

窮地を生かした合理的な策……見事、見事という他なかった。

土壇場に来て、彼女は最善の策を見出したのだ。

 

 

 

「くっ……そこですぞドータクンッ!『じしん』ッ!」

「Ga……Gagagaga!」

いよいよ疲れ始めたドータクンとスエットだが、それでもラビフットを追うことをやめない。

スタミナ勝負でも負けることはない……と踏んでいたからだ。

 

 

 

 しかしこれが悪手であった。

ドータクンは再度、フィールドの地面にその図体をぶつける。

……同時に、彼は全身に異様な感覚を覚えた。

沈むのだ。

全身がまるで底なし沼に落ちるかのように沈むのだ。

 

 

 

「Ga……!」

ここでドータクンはようやく気づく。

穴だらけになった地面が崩落したという事実に。

身軽なラビフットはひび割れた地面を崩さずに立ち回れたが、ドータクンはそうも行かない。

長期戦の中で着々と敷かれていった罠は、この大一番で一気に牙を剝いたのである。

 

 

 

 沈んだ地面に足を取られ、ドータクンは身動きが取れなくなってしまった。

「Gagaga……!」

「ど、ドータクン!?」

四肢がない以上、どうしても抜け出すのに時間がかかる。

スピードが上がれど、身体の重さや体型までもが変わるわけじゃないのだ。

 

 

 

 そして罠に嵌ったドータクンの頭上に、とどめを刺さんとラビフットが陣取る。

上空からのドロップキックの構え……全力を込めた渾身の一撃だ。

「行くわよ……『ブレイズキック』ーーーーーーッ!」

「みみーーーーーッ!」

全身の炎が流星の如き軌道を描き、一直線にドータクンの身体を貫いた。

効果は抜群……正に必殺の攻撃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………はずだった。

「Gagagagaーーーー!」

しかし攻撃をモロに喰らったはずのドータクンは、傷一つなくピンピンとしている。

「なっ………!?」

「みみっ!?」

全力を込めた攻撃だっただけに、お嬢らの徒労感も凄まじいものであったのだ。

 

 

 

「そんな……なんで!?」

「んんん!?貴殿らはひょっとしてご存知でない!?ドータクンの特性は『たいねつ』……ほのおタイプの攻撃はドータクンには殆ど効かないのですぞッ!」

スエットの口からは衝撃の事実が明かされる。

そう、お嬢は特性を生かした策で状況を打開した……が、最後に立ちはだかっていたのは、皮肉にも特性の壁だったのだ。

最大の切り札は、無情にも灰燼と帰した。

 

 

 

「み………みっ………」

届かぬ敵に絶望し、急に全身の力が抜けたラビフットはその場に倒れ込む。

「ラ、ラビフット!?」

前のめりに崩れた彼は、ピクリとも反応しなかった。

無茶な挙動を繰り返していた彼には、既に瀕死級のダメージが溜まっていたのだ。

このバトルの2試合目、結果はお嬢とラビフットの敗北であった。

 

 

 

 

 

「んんん……惜しかったですなぁ。我のドータクンでなければ勝ちは十分に有りえただけに……んんッ!」

「ッ………!」

お嬢は何も言い返せなかった。

出せるだけの全力を出して負けただけに、余計に。

 

 

 

 しかしそんな悔しさを噛みしめる暇もなく、世界がまた崩れ始める。

彼女らの勝負が進んだことで、場面の切り替えが始まったのだ。

「んん、時間ですな。ではトレンチ氏、また別の世界でお会いしましょうぞーーーーーーッ!」

スエットはそう言い残すと、底無しの闇へと先に飲まれていった。

 

 

 

 お嬢も意を決し、世界の崩落に身を委ねる。

「次は……あそこね。」

次の場面で起こることは、彼女には何となく分かっていた。

だからこそ、彼女は腹を据える必要があったのだ。

 

 

 

 

 

 ……これから起こる悲劇に耐えるために。

 

 

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