【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第074話】差し伸べた手、触れる逆鱗

 お嬢は目を覚ます。

目に飛び込んできたのは日の沈んだ夜空と、並木と噴水のみのこざっぱりとした公園……

遠くに見える巨大なドームから、そこがポケモンリーグの会場付近であることが伺える。

「っと……どこかしら?」

「まねね?」

すかさず、お嬢らは周囲を駆け回る。

今の日時を把握できるものを探していたのだ。

 

 

 

 やがて、車道に光る電光掲示板が目に留まる。

そこが指し示していたのは、今から8年前の日付……つまりジャックの初優勝から2年が経過した時であった。

状況を鑑みるに、恐らくこれはジャックが3回目の優勝をしたリーグの開催日だろう。

無敗のジャックを名乗れた、最後の大会であるとも言える。

 

 

 

 そんなことを思い出しつつ、お嬢は公園の噴水の場所まで戻る。

そこのベンチには、トロフィーを抱えた紫髪の少年……ジャックが座り込んでいた。

2年前よりも身長が伸び、雰囲気もかなり大人びている。

年齢にして16歳……既にお嬢よりも歳上なのだから当然だろう。

 

 

 

 彼は隣のサンドと共に、優勝の喜びを分かち合っていた。

「っし……今年も勝てたな。ありがとう、お前らのおかげだ。」

「うぃるるっ!」

「………」

お嬢は遠目に彼らのやり取りを見つめている。

だが、その心は穏やかではなかった。

彼らが共に同じ勝利を喜び合うのは、これが最後なのだから……

 

 

 

 ふと、お嬢は背後に気配を感じる。

振り返ると、そこにはレザーローブを纏った赤髪の長身男が立っていた。

「あ……エンビ……。」

SDが未発現なので、未だ銀髪は混ざっていない。

加えて今より幾分若々しく見える……が、その男は間違いなくお嬢が知るエンビであった。

 

 

 

「貴様がジャック……否、『無敗のジャック』か。」

今と変わらぬ高圧的な態度で、エンビはジャックへと話しかける。

高身長も相まって、非常におっかない様相だ。

「な……何だよアンタ……」

「うぃるるーーー!」

たじろぎ気味に答えるジャックと、威嚇を始めるサンド。

その反応でお嬢は、これが彼らの初対面の記憶だと気づく。

 

 

 

「……俺の名はエンビ。ただのトレーナーだ。」

「ッ……!もしかしてこの数年でリーグトロフィーを5つ以上勝ち取った、あの……?」

「フッ、紹介の手間が省けて何よりだ。……宣戦布告だ。俺は次のリーグで、貴様を倒す、」

そう、ジャックと同じく無敗を貫き続けてきた彼は、自身に敗北を与えてくれるトレーナーを捜すべくこのイジョウナ地方に足を運んだというわけだ。

頂上の景色に嫌気が差したが故に……。

 

 

 

 ジャックはやや懐疑的な目でエンビを睨む。

しかしその存在感は本物であった。

今までに感じたことがない、いわば『強者の覇気』を醸し出していたのだ。

彼は立ち上がり、数歩エンビに近寄っていく。

「……ッ、いいぜ。俺も丁度、退屈していた所だ。テイラーはトレーナー辞めちまったし、張り合えるのはアンタしかいなさそうだしな。」

「うぃるる!」

ジャックの宣言とともに、エンビの口角が上がる。

「俺はあと1年でこの地方のバッジを回収する。それまで首を洗って待っておけ、ジャック。」

 

 

 

 彼らは強く握手を交わした。

最強と最強、矛と盾が会合した瞬間であった。

 

 

 

 そして彼らは手を組んだまま、その場で固まり動かなくなる。

直後、また世界が崩れだす。

既に数十回目なので、お嬢は驚かない。

 

 

 

 ……が、内心の動乱は激しくなっていく。

これがジャックの記憶の重要な部分を掻い摘んで進んでいく世界だとしたら……

……次は多分あそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ー

ーー

ーーー

ーーーーお嬢の意識が明白になっていく。

否、正確にはある刺激に寄って叩き起こされた……といったほうが良いだろう。

目が覚めるや否や、彼女は言葉を発する。

 

 

 

「寒ーーーーーーーーッ!!!?」

全身に焼け付くような冷感が走る。

そう思って飛び起きると、そこは一面の雪景色であった。

しかも吹雪が吹き荒れており、自分の指先すら見えづらい有様だ。

 

 

 

「雪山……ってことは……」

そう、この後に始まるのは悲劇の序章だ。

見たくないものが迫っている……と考えたお嬢の胸は、更に痛みを増していく。

 

 

 

「ま……まねね!」

憂うお嬢のスカートの裾を、マネネが引っ張る。

自分の居場所を彼女にアピールしているのだ。

その声で、彼女は我に返る。

「ま……マネネ!」

マネネの無事を確認したお嬢は、全身を震わせつつも安堵する。

 

 

 

 お嬢は彼の誘導に従い、前へと進んでいくことにした。

どうやらマネネは、この猛吹雪の中で景色を見通しているようだ。

そして氷河の時と同じく、周囲が極寒であるにも関わらず平然としている。

「アンタ、やっぱり……」

お嬢の中の疑念は、確信へと変わりつつあった。

 

 

 

 このマネネは、こおりタイプとしての側面を持っている。

そうでなければ、あられの中で常態を保てるわけがないし、この極寒に耐えることも難しいだろう。

『凍雪の秘鍵』と呼ばれるのも、恐らく無関係ではないはずだ。

しかしマネネは、こおりタイプとは何の関係もないポケモンのはずだ。

いったい何故このような事が起こっているのだろう……

 

 

 

 そんな事を考えて歩みを進めていったお嬢は、前方に黒い影を発見する。

そうだ、ここから彼の記憶が再生されるのだろう。

つまり目の前の影はジャックのものに違いない。

そう考えたお嬢は、早足で影の方に近づいていく

 

 

 

 ……が、その正体に彼女は驚愕することになった。

「えっ……!?」

そこに居たのはジャックではない。

 

 

 

 なんと、雪の上で倒れ伏した修道服の少女……スエットだったのだ。

彼女は横たわったまま、動かなくなっていた。

「ちょ……ちょっと!?」

お嬢は駆け寄り、声をかける……が、反応がない。

軽く頬を叩き、身体を揺さぶる。

しかしそれでも起きる気配がまったくないのだ。

 

 

 

「こら!こんな所で寝てたら死ぬわよ!起きなさいってば……!」

「まね……!」

お嬢らは何度もスエットに声をかける。

しかし彼女はうんともすんとも言わない。

 

 

 

 このままでは不味いと感じたお嬢は、彼女の腕を取って自身の肩に回す。

そしてそのまま立ち上がり、ゆっくりと前進を始めた。

「お……重い……」

お嬢と同程度の身長であるとはいえ、やはり彼女にとって重労働は骨が折れる事この上ないのだ。

半ば引きずるようにスエットを持ち上げ、どこか風の勢いを凌げる場所を捜す。

彼女を担いだままでは、お嬢もいずれは体力が尽きてしまう。

まさに時間との勝負なのだ。

 

 

 

「ま……まねね!」

マネネがまたお嬢のスカートを引っ張り、遠方に指をさす。

どうやら安全な場所を見つけたようだ。

お嬢は彼のガイドのもと、吹雪の中を進む。

 

 

 

 霞む視界の先には、やがて大きな枯れ木が姿を表す。

しかもその幹には、丁度お誂え向きの洞が存在していた。

やや小さな穴ではあるが、小柄な彼女らにとっては十分すぎるスペースだ。

「でかしたわ、マネネ!」

「まねね!」

 

 

 

 彼女らは木の根元にたどり着くと、半ば投げ捨てるようにスエットを投げ入れる。

「痛ッ………」

お嬢の上半身の関節が痛みだす。

人をひとり、無理して運んだのだから当然だろう。

 

 

 

 首元を抑えつつ、お嬢とマネネは遅れて洞の中に入っていく。

そしてお嬢は鞄を下ろすと、中からあるものを取り出した。

「……っし。マネネ、ちょっと手伝って。」

「まね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

「………ッ!?」

目覚めた少女は周囲を見渡す。

そして見知らぬ景色に困惑した。

「……確か雪山にいたはず……というかこの寝袋……一体?」

気づいたら木の洞の中に居て、分厚い寝袋を着せられていたのだ。

戸惑うのも無理はない。

 

 

 

 そしてそんな彼女に話しかける者がひとり。

「あら……お目覚めかしら?」

「!?」

スエットは、目の前に居たお嬢に驚く。

そして今、自分が置かれていた状況をなんとなく把握したのだ。

 

 

 

「……まさか、あなたが?」

「まぁね。……ホント、アンタもう少しで死ぬとこだったわよ。」

「……別に。」

スエットは言葉を濁しながら、お嬢と視線を交えぬようそっぽを向いた。

 

 

 

「ってかこの世界ってアンタが作ったものでしょ?そんな中で凍えて倒れてるなんて……」

お嬢が呈した疑問は当然のものだ。

サイキッカーがどのようなものか、お嬢が具体的に知る由はない。

しかしスエットは、明らかに自分の力を制御できているとは思えないのだ。

ブレまくる情緒も含めて、彼女にはあまりにも不安な要素が多すぎる。

「………。」

スエットはしかめ面とともに無言の返答をする。

どうにも触れられたくない部分のようだ。

 

 

 

 お嬢は質問の切り口を変える。

「……ねぇ、アンタって一体何者なの?」

「……知らない。」

しかしそれでも彼女は、口を聞こうとはしない。

寝袋の中に深く顔をうずめ、お嬢と視線を合わせないようにしている。

 

 

 

 沈黙とともに、更に長い時間が流れる。

外の吹雪はやや勢いが収まりつつあったが、それでも気温は一向に上がらない。

寒冷な空気が、より一層この静けさの不快感を加速する。

 

 

 

 お嬢は3つめの質問をスエットに投げかける。

「……ねぇ、そもそもアタシ達って戦ってる場合なの?」

お嬢のこの質問の意図……それは言い換えれば『本当にこの世界から出られるのか?』というものであった。

スエットの力によってジャックの精神世界に来たは良いものの、この世界をコントロールできないスエットが果たして元通りの世界に帰れるか……と考えれば当然、懐疑的にならざるを得ないのだ。

であれば律儀に勝負をしながら互いの戦力をすり減らすよりも、協力してこの世界の攻略をしたほうが良いのでは?というお嬢なりの配慮でもあったのだ。

これ以上進めば、降りかかる不幸は「凍えて倒れる」どころじゃ済まないかもしれない。

 

 

 

 しかし残念。

差し伸べた手は不幸にも、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

 

 

「……いい加減にしてッ!あなたも私を不良品扱いするの……!?」

彼女の声は重苦しく、そして僅かに震えていた。

それは確かに、憤怒に駆られた者の声であった。

「そ……そこまで言ってな……」

「いいえ……あなたは私を疑っている……私が弱い人間だと考えている……!」

激昂したスエットは、寝袋を脱ぎ捨てる。

そしておぼつかない足取りで、木の洞をくぐり抜けて外に出る。

 

 

 

「ッ………!」

急に気温が低い場所に出たせいで、彼女の意識は遠のきかける。

ふらりと崩れた足元が、何よりの証左だ。

当然だが、こんな無茶は危険極まりない。

「何やってんのよ!?大人しくしてなさい……!」

お嬢はスエットの腕を強く引っ張り、引き止める。

しかし悲しいかな、その手は強く振り払われてしまった。

 

 

 

「うるさいッ!……来なさい。証明してやる……!私は……不良品なんかじゃない……!」

「ッ………!」

スエットはお嬢の制止も効かず、足場の悪い雪道を進んでいく。

そしてボールを取り出し、手招きでお嬢を誘い出す。

 

 

 

「……私は気に食わない。アンタに見下されるのも、アンタより下だと思われるのも……!」

最早その表情に、正気の色はなかった。

これでは何を言っても無駄だろう。

「ッ………!あぁもう……この分からず屋ッ!」

諦めたお嬢は、ボールを構えた。

トレーナーであれば、話し合うためにはこれしか手段はないのだ。

 

 

 

 彼女の人選は既に決まったいた。

短期決戦でこの馬鹿げた争いを終わらせる必要がある……となれば必然的にあのポケモンを登用することになる。

 

 

 

「っし、スエットを止めなさい……×××…ッ!」

 

 

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