【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第076話】稀代の天才、最悪の人災

 ーーーーー時は遡ること29年前。

イジョウナ地方の辺境にある小さな町・スネムリタウン。

此処は小さな教会があること以外、特に目立った特徴のない田舎町であった。

 

 

 

 そんな街の更に外れに存在する小さな家……一見すればただのちっぽけな民家である。

しかしその住人はただの人間に非ず。

遥か先代から連綿と受け継がれる超能力の所持者。

有り体に言えば『サイキッカー』と呼ばれる家系の家であった。

 

 

 

 しかしその存在は決して公にされることはない。

……否、してはならなかった。

何故なら彼らの操る超能力は、そんじょそこらのサイキッカーたちとは比べ物にならぬ規格外の術……『思念体の物体化』および『物体の思念体化』だったからだ。

自身が脳内に念じたものを、可触の物体に変換する事ができる。

逆に物体を記憶媒体に変換し、自身の精神に収納することも出来てしまう……そんな術だ。

あまりにも超常的……物理法則を冒涜するほどの禁術なのである。

その凄まじさ・異質さは、最早此処で説明するまでもないだろう。

 

 

 

 そういった禁術の伝承を生業とする家に生まれた一人娘こそが、後にバベル教団の長となる少女・スエットであった。

 

 

 

 彼女は生まれつき、狭い家の中からほとんど外にも出ず、外部の人間とも関わらずに生きてきた。

ひっそりと……ただひっそりと、家の中でありとあらゆる超能力の基礎を叩き込まれていたのである。

先祖代々紡がれてきた書物を読み、長時間の瞑想を行い、果てにはスプーン曲げまで……

常人からしてみれば大層気の狂った行動の数々だっただろう。

 

 

 

 しかし彼女は何の疑問も持たず、ただただ学び続けた。

何の疑問も無かったがゆえに、何の挫折もしなかった。

彼女の両親ですら、その才覚と成長にはただ賛辞を述べるしかなかった程だ。

スエットは、間違いなく100年に1度……否、それ以上の天才サイキッカーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーそれからしばらくして。

彼女は順調に両親の教えを吸収し、基本となる科目をすべて学び終えた。

その時、スエットはまだ10歳だったというから驚きだ。

身体はやや貧弱であったものの、それを補って余りあるほどのサイコパワーが彼女の中には宿っていた。

 

 

 

 さて……そんなスエットは、ついに実践訓練を行うこととなる。

目の前のテーブルに置かれたティースプーンを思念体に変換し、スエットの精神に収納する実践だ。

「深呼吸して……ゆっくりスプーンを拾い上げるイメージを浮かべるんだ。」

「……わかりました。」

彼女は両親に言われるがまま、目を閉じる。

そして頭に伸ばした手のイメージを描き、頭頂部の方へとサイコパワーを集中させていく。

散々書物の上で学んできたことだ。

この程度、天才たる彼女にとっては造作もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はずだった。

はずだったのだ。

スエットは違和感を感じていた。

あまりにも静かすぎるのだ。

「お父様……?お母様……?」

彼女は恐る恐る、目を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに彼女の両親はいない。

否、家の壁すらも無い。

あったのは、どこまでも広がる平坦な地平線のみであった。

「そ……そんな………ッ!?」

スエットはあまりの光景に驚愕し、膝を折る。

 

 

 

 だって、街がまるごと消えていたのだから。

消し飛んだとか、吹っ飛んだとかそんなものじゃない。

街という空間だけが綺麗に切り取られ、完全な無と化していたのである。

……ただひとり、スエットのみを残して。

 

 

 

 どうしてこんな事になったのか。

原因はひとつ。

 

 

 

 彼女は力を制御出来なかったのだ。

あまりに規格外のサイコパワーの出力量を、完全に誤ってしまったのである。

結果的に、彼女はティースプーンのみを収納するはずが、なんと『街全部』を彼女の精神に収納してしまったのだ。

初の実践であれば多少の失敗は必然、致し方ないことだ。

が、彼女がしでかしたことは擁護可能な範疇を大きく越えていた。

 

 

 

「なっ……あっ……まって………ああっ……!」

スエットはあまりの出来事にパニックを起こし、その場で狼狽する。

慌てて逆の術を起動し、収納してしまった街を元通りにしようと試みる。

……が、心の乱れはサイキッカーにとって最も巨大な障害だ。

こんな状態で具現化の術が上手くいくわけもない。

 

 

 

 否、上手く行かなかっただけならまだマシだったかもしれない。

彼女は焦りの中、中途半端に術を起動してしまった。

結果的に何が起こったか……彼女自身が一番よくわかっていた。

「あっ……そんな………あああああああああッ!?」

 

 

 

 ……彼女は街を1つ潰した。

まるで咀嚼するかのように、頭の中でゆっくり……ゆっくりと。

『街だったもの』はグズグズに磨り潰され、既に彼女から引き出すことは叶わなくなっていた。

当然その中には……

「あああああああああッ……お父さんッ!?……お母さんッ!?………うわぁあああああああッ!」

どれだけ後悔しても、もう遅い。

彼女はその心の奥底に、文字通り消えない傷を残してしまったのである。

 

 

 

 

 

 ーーーーー後日。

街が1つ丸ごと消える……という異常事態を観測した研究者たちが、スネムリタウン跡地へと駆けつけた。

「なっ………これは!?」

あまりに平坦な更地と化したその場所を目にし、彼らは驚愕する。

しかもただの平地ではない。

そこには死んだ目で虚空を見つめる少女が佇んでいたのだから。

「お……おい、キミ!?大丈夫か!?」

「………。」

若い研究員が話しかけるが、スエットは何も答えない。

既に放心状態に有り、それどころではなかったのだ。

 

 

 

 そんな彼女のもとに、一人の研究者が歩み寄る。

シワが増え始めた顔と、白衣と眼鏡が特徴的な初老の男性だ。

「す、スモック博士……!」

「やぁ、この子は僕に預けてくれないかな。」

スモックと呼ばれたその男は、少女の元へと近づいていく。

 

 

 

「はじめまして。君はもしかして、サイキッカーの子かな?」

「……。」

「……この街を『飲み込んだ』のは君の力だね。」

「!?」

自身の正体、そして所業を言い当てられたスエットは急に意識をはっきりさせ、数歩後ずさりしてスモックから距離を取る。

しかしそんなスエットに対して、スモック博士は眼鏡越しに笑顔を浮かべる。

 

 

 

「何、そう構えなくともいいさ。……サイコパワーについてなら僕も少しは理解がある。君の力について、少しは教えられるところがあるかもしれない。」

スエットは彼の顔を見つめると、ゆっくりと歩み寄っていく。

サイキッカーである彼女には分かっていたのだ。

彼が決して、悪意を含んだ考えを持っていなかったことが。

常に思考を読み取ってしまう『クセ』みたいなものであったが……。

兎に角彼女は、このスモックという人物は信頼するに値する、と評価したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーその後、研究機関は秘密裏にスエットを保護することにした。

この街の消失の一件については様々な工作によって揉み消され、二度と世間の日の目を浴びることはなくなったのである。

 

 

 

 さて、そんなスエットのその後の生活はと言うと……

スモックの所属する研究機関が所有する地下1000mの隔離施設にて、サイコパワーの矯正を行わされていた。

周囲を消し飛ばされないように、常に目隠しを付けられた状態での監禁……ではあったが、最低限の生存は保証されていた。

 

 

 

 当初、研究員の中には『こんな危険生物は今すぐに処分するべきだ』という意見を述べる者も当然いた。

しかしスモック率いる一派はこれに反し『あれは我々程度でどうにかできる存在ではない』『むしろあのサイコパワーを制御する方針で動いたほうが良い』と意見を提示したのだ。

何よりスモック博士自身、人を殺すことに大きな抵抗があった。

……彼女のような年頃の子供は、特に。

 

 

 

 マジックミラーで仕切られた彼女の部屋には、毎日多くの人間が訪れた。

彼女をサンプルとして扱う研究員達、教育者として連れて来られたサイキッカー達、カウンセラーの精神科医、興味本位で見に来る富裕層達……そして何よりスモック博士だ。

 

 

 

 スモック博士は毎日毎日、狭い部屋に閉じ込められたスエットと会話をした。

「やぁ今日の調子はどうだい?」

「………。」

「ハハハ、今日のサイキッカーさんは君には役不足だったかな?」

「………。」

始めはほとんど口を聞かなかった彼女だった。

 

 

 

 だが、段々と短い単語でのやりとりをするようになっていく。

「やぁ、今日は元気かい?」

「……普通。」

「そっか。さっきの研究員だけど、新入りなんだ。ちょっと頼りないかもだけど許してやってくれ。」

「……別に。」

ほんの少し……ほんの少しずつではあったが、スエットは博士と会話をし始めていたのであった。

 

 

 

 やがて月日は流れて3年強。

ついに彼女は目隠しを外すことを許可された。

ある程度はサイコパワーを制御し、少なくとも人間を直視することには問題がなくなっていた。

 

 

 

 彼女にとってのこの3年は、サイコパワーの感覚強化があったおかげで特に苦となるものではなかった。

敷いて言えば1つ……彼女は禁じられていた娯楽があった。

「……博士、本。」

「そっか。ずっと読めていなかったもんね。どんな本がいいんだい?」

「……何でも。」

こうしてスエットは毎日、自由時間の間は読書に耽るようになった。

スモック博士が週に10冊ほどの本を持ち込んでいったが、それを彼女は多く読破していった。

まさに本の虫……といった感じである。

常に他人の心の声を聞き続けてしまう彼女にとって、そういった音を遮断できる読書は至高の娯楽……否、生きるために必要な行動だったのだ。

 

 

 

 そうして更に10年が経過した。

彼女は様々な訓練の後、ついには並のサイキッカーと同等にはサイコパワーを制御することが可能となった。

元の才能の大半は失われることもなく、スエットの矯正計画はこれ以上無い成功を収めたのであった。

……彼女は普通の人間として生きる選択肢を得ることが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 しかし何も問題が無いわけではなかった。

サイコパワーを無理やり矯正した結果、様々な副作用も発生した。

第一に、身体の成長が止まってしまったこと。

成長に必要な物質が殆ど分泌されなくなったため、身体が10歳の当時のまま止まってしまったのだ。

第二に、コミュニケーション能力の欠如。

サイコパワーの制御には成功したが、常に近くの人間の声を聞いてしまう症状だけは治りきらなかった。

結果、多少なりとも悪意を抱く者……もとい殆どの人間に対して、彼女は忌避感を感じるようになってしまったのだ。

 

 

 

 そして最も大きな問題点。

彼女は大半の職に適性がなかったのだ。

精神の不安定性、基礎体力の大幅な不足……なによりこの23年の歪んだ生涯が起因し、少なくともまともな職について生きることはほぼ不可能となっていた。

 

 

 

 しかしそんな悩みを抱えていた研究機関の元へ、ある女性が訪れる。

「ほぉ……アンタがスエットか。噂には聞いとったが、実際に見るとエラいコマな子やな」

「……誰?」

スエットが問いかけたその女性は、ブロンドの髪を持ち、コガネ弁を喋る人物であった。

「ウチか。ウチはテイラー。新入りの研究員や。」

 

 

 

 これがスエットとテイラーの出会い。

……そしてスエットが歪みだす、最初の1ページであった。

 

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