【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

79 / 134
【第079話】掛けられる制約、上下の逆転(vsスエット)

 スエットとのバトルも4回目……いよいよお嬢の手持ちも2匹を残すのみとなった。

最早迷う余地すら無い。

両者は互いにボールを構えると、一斉に宙へと放り投げる。

 

 

 

「行きなさい、サダイジャッ!」

「みしゃーーり!」

お嬢の副将はサダイジャ……現状、お嬢が最も戦わせやすいポケモンだ。

多様な緒から、様々な状況に対応しやすい。

 

 

 

 一方のスエットが出したのは……

「……出番よ、ブリムオン。」

「しゅわーーーん!」

ブリムオン。

凄まじい量のサイコパワーと触手で戦う、エスパータイプの代表格のようなポケモンだ。

 

 

 

「……見た目で出方がわからないのは、ホント厄介ね。」

お嬢は息を呑み、出方を考える。

まずは間合いに突っ込んでもいい敵かどうかを見定めなくてはならないが……果たして。

 

 

 

 そしてしばらくして、スエットの様子がまたおかしくなる。

既に4回目の人格召喚……自分の使うポケモンに強制的に引き寄せられる、彼女の悩みの種だ。

果たして次に呼ばれる人格はどのようなものか……お嬢は固唾を呑んで注視する。

「……ふふっ。まぁ、私のブリムオンがどんな相手と戦うのかと思えば。随分と可愛らしいポケモンじゃない。」

「お……女!」

 

 

 

 妖艶な雰囲気をまとった女性の人格だ。

お嬢はそれを見た瞬間、本能的な寒気を覚える。

「ッ…………!」

間違いなく、相手はまともな戦法を仕掛けてくるタイプじゃない。

お嬢はそう悟り、すぐにサダイジャにハンドサインで攻撃の指示を出す。

 

 

 

「みしゃ!」

お嬢の手を見たサダイジャは、すぐに『巻【自主規制】ソの構え』に移行する。

「行くわよ……『がんせきふうじ』ッ!」

「みしゃーーーり!」

この構えから出される『がんせきふうじ』……即ちこれは鎧の突撃形態だ。

眼前に浮かぶ岩を素早く身にまとい、跳ね上がった衝撃でミサイルのごとくブリムオンまで突撃していく。

 

 

 

 相手は一切動く気配がない。

不気味だ……不気味なほどに待ちの構えである。

このままサダイジャの攻撃はブリムオンまで着弾……

 

 

 

 

 

 しないのだ。

サダイジャは確かに空中に弧を描いて、ブリムオンを目掛けて飛んでいった。

……が、飛んだまま落ちてこないのだ。

一直線に、ただただ飛距離と高度だけが伸びていく。

「そ……そんな!?どうして!?」

やがて岩石の鎧を纏ったサダイジャは、スタジアムの天井へと激突する。

 

 

 

 そして重力に従い、一直線に落下していく。

「みしゃ………!」

「さ、サダイジャッ!?」

何が起こったのか、お嬢には全く訳がわからなかった。

念動力の類ではない……ブリムオンにそれらしき挙動が見られなかったからだ。

しかしとんでもないカウンターを刺されたことは間違いない。

 

 

 

「ふふふ……とてもかわいい声で呻くのね。堕とし甲斐があるわ……!」

「くッ……!」

かなりの高度から叩き落されたサダイジャを、スエットは妖艶にあざ笑う。

その言葉の一つ一つが、彼女の背筋を冷たく撫でた。

「みしゃ……」

サダイジャはなんとか這い寄りつつ、フィールドまで復帰する。

そこまでのダメージではないにせよ、あんな事を何度もされては厄介だ。

 

 

 

 この鎧を使った戦法が悪手であろうことは、彼女も既に分かっている。

迂闊に大技の連打を仕掛けるほど、お嬢は向こう見ずではない。

すぐに別の手段を講じることにした。

 

 

 

 お嬢はハンドサインで『一【自主規制】ソの構え』の指示を出し、サダイジャを攻勢の準備をさせる。

そしてすかさず攻撃の指示。

「サダイジャッ、『はいよるいちげき』ッ!」

「みしゃーーーりッ!」

数回の蛇行の後、彼の姿が消滅する。

 

 

 

 そしてブリムオンの背後上空……最も奇襲攻撃が刺さる位置を陣取る。

ここなら強撃が入るはず。

ブリムオンは回避行動の気配すら見せない……当たる!

 

 

 

 ……と思われた直後だった。

なんとサダイジャが、そのまま真後ろに向かって吹っ飛んでいったのである。

「みしゃ!?」

「は……!?」

攻撃は届かない。

またしても、サダイジャは謎の力で上空まで投げ飛ばされてしまったのである。

相変わらずブリムオン側が明白な挙動を見せることはない。

 

 

 

 そのままサダイジャは再度天井に叩きつけられ、フィールドの床まで落ちていく。

このまま無抵抗で落ちれば身体に負荷がかかる……お嬢はすぐさま攻撃の指示を出す。

「受け身よ!『ぶんまわす』ッ!」

「み……みしゃりッ!」

尻尾を下に向け、全身を回転させて叩きつける。

わざのエネルギーで、落下の衝撃を和らげることにしたのだ。

 

 

 

 凄まじい破裂音とともに、サダイジャは芝の地面に着地する。

ひとまず衝撃だけは抑えられたが、このままでは埒が明かない。

まずはサダイジャが吹き飛ばされるギミックの謎を解かないことには、状況は一切改善しないのだ。

 

 

 

 幸い、相手は攻撃を仕掛けてくる様子がない。

その隙を突き、お嬢は迅速に思考を巡らせる。

 

 

 

 この2回、サダイジャが吹き飛ばされる瞬間の共通点……

そして答えは導かれる。

意外にも早かった。

気づいたお嬢は、答え合わせのため次の指示を出す。

 

 

 

「サダイジャ、『その場を動かないで』ッ!」

「み……みしゃ?」

サダイジャは首をかしげる。

当然だ。

ここで攻撃にも守りにも移行しないことは疑問が浮かぶ。

が、従順な彼はお嬢の指示通りその場で待機する。

そしてブリムオンの方を、まっすぐと見つめていた。

 

 

 

 数秒の間を置いて、お嬢は腕をやや高めに掲げる。

そしてすかさずハンドサイン……攻撃の指示だ。

「いい子ねサダイジャ……よし、『ねっさのだいち』ッ!」

「みしゃーーーッ!」

サダイジャはその場を動かず、首周りの砂嚢から多量の砂をジェット噴射する。

空気も焦がす光熱の砂が、ブリムオンの方向へと飛んでいったのだ。

 

 

 

 ……が、残念。

ブリムオン目掛けて飛んでいった砂は、彼女の頭上を遥か高く直線状に飛んでいってしまったのだ。

つまり、攻撃は外れたのである。

通過した砂は、何処までも天高く飛んでいく。

 

 

 

 これを見たスエットは、お嬢の方を向いて問う。

「……貴方、もしかして『わざと外した』?」

お嬢は僅かに笑って答える。

「……えぇ、『そうに決まってる』じゃない。」

 

 

 

 そう、お嬢の考えはスエットに見抜かれていたのだ。

あくまで先の『ねっさのだいち』は答え合わせのための攻撃……腕を高めに掲げたのは、敢えてサダイジャの照準をブリムオンから外させるためである。

そしてこれでお嬢の疑念は確信に変わった。

そして自ずと対策も分かってくる。

 

 

 

 お嬢は掲げた腕を大きく下げ、次の指示を出す。

「サダイジャ!もう一回『ねっさのだいち』!」

「みしゃーーーッ!」

首を低くもたげ、砂嚢から再度多量の熱砂が噴出される。

一直線の熱砂が、ブリムオンを目掛けて襲いかかったのだ。

 

 

 

 そして今度は外れない。

「しゅわっ……!」

ブリムオンの顔面に、『ねっさのだいち』が痛烈にヒットする。

吹き飛ばされることはなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 謎を解いたお嬢は、僅かに口角を上げて小さくガッツポーズをする。

「やっぱり……ブリムオンの周囲では、『運動の減衰が起こらない』ッ!」

これが答えだ。

 

 

 

サダイジャが吹き飛ばされた時、彼は『上方向への運動』を行っていた。

鎧の突撃は、空中に弧を描く運動……つまり『跳躍』という上方向への運動。

『はいよるいちげき』で相手の背後に回ったときにも『跳躍』……上方向への運動を行った。

そしてこの直後、サダイジャは『落下することなく』吹き飛ばされた。

上方向に飛ばした砂が飛ばされ、水平に飛ばした砂が直撃したこと……これがこの仮定の証明となったのだ。

 

 

 

「あら流石。私の『おさきにどうぞ』の結界を見破るなんて。」

「フッ、タネさえ分かっていれば対策は簡単よ!」

 

 

 

 ……対策はつまり、上方向に働く力を使わないこと。

平たく言えば跳躍の禁止だ。

腹を決して地面から離してはいけないのである。

多くの攻撃手段が制限されるが、それでも無抵抗に吹き飛ばされるより幾らかマシだ。

常に腹這いのサダイジャを採用したことが、功を奏した。

 

 

 

「行くわよサダイジャッ、地面から離れずに『はいよるいちげき』ッ!」

「みしゃーーーり!」

数回の蛇行の後、サダイジャは姿を消す。

そしてすぐに、ブリムオンの足元に迫る。

ここで飛び上がると即死……故に地面スレスレのテールスイングを繰り出す。

 

 

 

「ふふっ、かわいいわね。安易に私の間合いに飛び込んでくるなんて。」

「!?」

スエットはほくそ笑む。

その直後……

ブリムオンの触手がサダイジャの背中を突き刺した。

効果抜群の火花が上がる……これは強烈な鞭の一撃『パワーウィップ』だ。

「みしゃッ……!?」

「さ、サダイジャッ!」

 

 

 

 お嬢は失念していた。

接近戦の優位性の是非を。

『おさきにどうぞ』のギミックを見破って有頂天になっていたばかりに、相手の間合いに入ることの躊躇を失っていたのだ。

加えて地を這い続ける以上、相手には常に上を取られ続ける。

「ふふ……上と下のどちらが有利か、もはや言うまでもないでしょう?」

 

 

 

 ブリムオンの間合いに入ること即ち、相手のカウンターを容易に許してしまうということなのだ。

「っ……ダメか!サダイジャ、距離を取って!」

「みしゃっ!」

サダイジャは急いでバックをして、ブリムオンから距離を取る。

が、スエットの余裕は崩れない。

 

 

 

「ふふっ……後ろ向きに逃げるなんて、素敵!素敵で無様!『サイコショック』で追い詰めて!」

「しゅわーーん!」

ブリムオンの髪が開かれ、空中に無数の光弾が生成される。

サイコパワーを物理的なエネルギーに変換したものだ。

触手の一振りで、それらは流星のごとく着弾する。

 

 

 

 唐突な遠距離攻撃に動揺しつつ、サダイジャは必死のバックステップで『サイコショック』を回避していく。

が、しかし……

「さ、サダイジャ、シールド展開ッ!」

「みしゃっ!」

これ以上の退避は不可と判断したお嬢とサダイジャは、『がんせきふうじ』で自身の頭上に岩のシールドを展開する。

シールドはひび割れるまでの数発から、頭部を守った。

なんとか致命傷は免れた……が、残念ながら何発かは本体に喰らってしまった。

 

 

 

「早く対策を撃たないと……逃げもダメ、接近もダメ……」

お嬢は全神経を動員させ、必死に策をひねり出そうとする。

サダイジャはお嬢のポケモンの中でも、特に切れるカードが多い。

故に、彼女の頭は余計にこんがらがっていくのである。

「ふふふ、焦っているわね。いいわ、もっと悩みなさい。ありもしない打開策を探して、足掻くと良いわ!」

「ッ………!」

 

 

 

 スエットの挑発が、よりお嬢の思考をかき乱す。

それでも彼女は思考を止めない。

相手に縛られた選択肢の中で、必死に解決策を探し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし土壇場で、彼女は一筋の光を見出す。

それは皮肉にも、自らが苦しめられた策の中に。

「………なるほど!」

彼女の表情は、再び僅かな笑みをこぼした。

 

 

 

 お嬢はすぐにハンドサインの準備に取り掛かる。

示すのは『巻【自主規制】ソの構え』。

そして指示するわざは……

「『がんせきふうじ』ッ!」

「みしゃーーーーりッ!」

このコンボは、『岩の鎧』である。

サダイジャは自身の眼前に岩を寄せ集め、瞬時に着用する。

そして自身の体をバネのように飛び上がらせ、ブリムオンを目掛けて飛んでいく。

 

 

 

「あら、ヤケでも起こしたかしら。その戦法じゃまた天井に激突するわよ。」

そう、ブリムオンの周囲には運動の減衰を殺す『おさきのどうぞ』の結界が張られている。

当然、跳躍したサダイジャはそのまま天高く突き抜けていく。

そしてサダイジャは思いっきり天井へと激突し、鎧は木っ端微塵に砕け散る。

 

 

 

 

 

 ……が、これはお嬢も計算済みだ。

すぐにお嬢はスタジアムの天井に向かって、ありったけの大声を上げる。

「そのままッ、『ねっさのだいち』ーーーーーッ!」

「み……みしゃりッ!」

サダイジャの向いている方角は天井……故に砂が噴射される方向は真上の天井だ。

上に砂が噴射されるということは、即ちサダイジャ自身は逆方向……真下へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

 落下先にいるのは当然、ブリムオンだ。

「ま……まさか!?」

「えぇ、そのまさかってやつよッ!」

ここまでくればもうおわかりだろう。

お嬢は、逆に『おさきにどうぞ』を利用して、相手の頭上を陣取ったのである。

 

 

 

 そして天井を起点にしたジェット攻撃を用い、サダイジャは……

「みしゃーーーーーーりッ!」

「しゅわっ………!」

尻尾から突き刺すようにブリムオンまで迫ってきたのである。

まさに天誅だ。

 

 

 

「あ、慌てることはないわ!『パワーウィップ』で弾き返して!」

「しゅわーーーん!」

まるで野球のバットのごとく、ブリムオンは触手を振りかぶる。

触手と尻尾は凄まじい音とともに激突する。

……が、鍔迫り合いに発展するまでもなく、圧倒的な力でサダイジャが押し切ったのである。

 

 

 

「そ、そんな……!?」

「あら、教えてくれたのはアンタよ。『上と下のどっちが有利かなんて言うまでもない』でしょう?」

「ッ……!」

逆転の発想……奪われたはずの選択肢を無理やり選び取って導き出した打開策だ。

強引……だが合理的だ。

 

 

 

「しゅわ……」

大ダメージを受けたブリムオンは、なんとか体勢を立て直そうとする。

しかし更に追い打ちを駆けるように、遅れて落下してきた岩や砂がブリムオンを襲う。

そのタイムロスが、サダイジャに硬直からの復帰の隙を与えてしまった。

 

 

 

「トドメよッ、『はいよるいちげき』ッ!」

「みしゃーーーーりッ!」

低い姿勢のまま、サダイジャはブリムオンまで這い迫る。

そしてヘッドショットの一撃で、K.O.を決めたのであった。

「しゅ……しゅわ………」

「ぶ、ブリムオンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これにて決着。

お嬢は勝利条件の1つ、3本先取を満たしたのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。