【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
トレンチ嬢の初のジム戦。
迎え撃つはアンコルシティのジムリーダー・ステビア。
泡立てを片手に持ちつつ、もう片方の手でボールを構える。
対して挑戦者はコートグループの社長令嬢・トレンチ。
テーブルの上のカップケーキをすべて食べつくし、今まさにホールケーキの方に手を伸ばそうとしている。
「いやお嬢様ッ!バトル!バトルがもう始まりますってば!」
「……ハッ、そうだったわ!」
「まねね!」
お嬢はケーキにすっかり夢中になっており、大事な勝負が始まっていたことに気づいていなかったようだ。
ナプキンで口元を拭うと、すぐに立ち上がってボールを構える。
と思っていたらモンスターボールを握っていない手の方にはしっかりパウンドケーキが握られている。
食い意地は捨てきれない。
ジャックは案ずる。
こんな状態でお嬢がまともにバトルをできるのだろうか、と。
ましてやこのお嬢は他人との勝負で1度も勝利をしたことがない。
その上相手はポエモン勝負のプロ・ジムリーダーだ。
勝算のほうが少ないこの勝負に、ジャックはトレンチ嬢本人以上の緊張を味わう。
「んじゃ、私から最初のポケモンを出そう。行きたまえ、ペロリーム。」
ステビアがボールを投げると、中からは丸々とした白いポケモンが飛び出してきた。
「わむっ!」
ステビアの1匹目のポケモンはペロリーム。
嗅覚の人一倍優れたポケモンであり、相手の動向を読み取る事に長けている。
最初の壁としてはかなりの強敵と言っていいだろう。
「よーし、ジャック!私は誰を出せば良いのかしら!?」
「まねね!?」
「……自分でお考え下さい。」
「えー。」
ジャックは色々と口を挟みたい気持ちを抑えつつ、お嬢を突き放す。
だが彼の内心も穏やかではなかった。
ペロリームをひと目見ただけで、彼は本能的に感じていたからだ。
ステビアというトレーナーの実力の高さを。
トレーナーもポケモンも飄々と構えてはいるが、それでも猛者の雰囲気は隠しきれていない。
「うーん……じゃあこの子で!行くわよ、スナヘビッ!!」
お嬢はボールを真正面へ勢いよく投げる。
その姿勢だけは初心者トレーナーらしからぬ綺麗さだ。
「みしゃーーーっ!」
中から飛び出たスナヘビは、目の前の格上の相手にも臆さず舌を出して威嚇する。
前を見据えるその目は、獲物を屠ろうとする野獣のそれだ。
「……いいねぇ。そのスナヘビ、料理のしがいがありそうだ。」
「あら、その前にアタシが全部食べ尽くしてやるんだから!」
ステビアとトレンチ嬢は軽口を交わし合う。
心配をするジャックを外野へ置き去りにしながら。
トレーナーたちの挨拶が終わり、両者は腕を振り上げる。
戦闘開始の合図だ。
「行くわよスナヘビ!『はいよるいちげき』ッ!」
「みしゃしゃーーーっ!」
スナヘビはスニーキングで前方へ進んでいくと、数回の蛇行の後に姿を消した。
そしてその0.3秒後、ペロリームの背後に突如としてスナヘビが現れる。
「わむむっ!?」
「みしゃっ!」
ペロリームが振り向くよりも早く、スナヘビはヘッドショットを食らわせる。
思いもよらぬ不意打ち攻撃がペロリームの後頭部へ痛快にヒットする。
「続けていくわよ、『ぶんまわす』ッ!」
「みしゃーーっ!」
そして怯んだ隙にもう一撃、尻尾の振り上げスイング攻撃を加える。
下側から叩きつけられたペロリームは、上空へ跳ね飛ばされた。
「わむっ……!」
「よしっ、いい感じよスナヘビ!」
「みしゃ!」
スナヘビは攻撃を終えると、美しく着地を決める。
「は……速いッ!」
目にも留まらぬその攻撃の精度に、ジャックは驚く。
スナヘビのポテンシャルもだが、その技量を短時間で理解しているお嬢に対してもだ。
マネネのようなトリッキータイプではない、力押しをするタイプのポケモンは扱いが上手いのかも知れない、
そうジャックは考えた。
だがそれと同時に、違和感を感じていた。
本来であればペロリームは相手の接近には人一倍敏感なポケモンである。
いくら不意打ちの攻撃であるとは言え、ここまであっけなく接触……更には追撃を許すだろうか……?
それにトレーナーのステビアは先程から一回も指示を飛ばしていない。
ただただ黙って攻撃を受け続けるだけだ。
なにか落とし穴があるのではないだろうか。
「………ふぅん、なるほど。こういう攻撃をするのか。」
ようやく口を開いたステビアは、それだけボソリとつぶやく。
そして2回の攻撃を食らったペロリームへ声をかける。
「……ペロリーム、感覚はわかったかい?」
「わむむっ!」
ペロリームはステビアの方へ振り向いて頷く。
そしてもう一度、臨戦態勢へと移る。
「よしっ、この調子で行くわよ!『はいよるいちげき』ッ!」
「みしゃーーーーっ!」
再度、スナヘビはスニーキングを行い瞬間的に姿を消す。
そしてすぐさま、ペロリームの背後を取る。
しかし残念。
ステビアにはその攻撃は完全に見切られていた。
「……跳べ、ペロリーム。」
「わむむっ!」
ペロリームはその場で跳び上がり、スナヘビのヘッドショットを回避する。
「みしゃ!?」
肩透かしを食らったスナヘビは勢いあまり、そのまま地面へと真正面から頭をぶつけてしまう。
そう、『はいよるいちげき』はあくまでも接触間際の攻撃箇所をブラすことで奇襲を食らわせるためのわざだ。
当然といえば当然だが、まだ一度もちゃんとした訓練をしていないお嬢のスナヘビは奇襲のレパートリーが『背後から攻撃する』ことしかない。
本来ならば右や左、上や下など様々な方角から攻撃できなければいけないが、それだけの手札を用意する時間はお嬢にはなかった。
すなわち、この奇襲は現時点で1回きりしか使えないに等しい。
……その1回の奇襲も、ステビアにとっては攻撃の距離感を図るためにくれてやった攻撃に過ぎなかったのである。
それゆえ、次の攻撃を食らったペロリームは完璧な動作とタイミングで『はいよるいちげき』を回避できたのだ。
「す、スナヘビッ!?」
「ハハッ、良いスピードだったんだけどねぇ。……ペロリーム、『いとをはく』だ。」
「わむむむっ……!」
ペロリームは背後がガラ空きのスナヘビに対して粘り気のある糸を吹きかける。
あっという間にスナヘビの長い身体は糸でぐるぐる巻きにされてしまい、身動きが取れなくなる。
「みっ……みしゃっ!!」
なんとか抜け出そうとスナヘビは藻掻くが、手足がないこの体型で脱出は絶望的であった。
この状況下完全にペロリームの手の内……まな板の上の何とやらだ。
「よーーし、ぶん投げてやれ!」
「わむむーーっ!」
ペロリームはスナヘビの巻かれた糸を持ち上げると、投げ縄のようにいとも容易く振り回し始める。
スナヘビの身体は風を切って空中で大きく円を描き回転する。
そして勢いづいた所で糸を投げ飛ばし、スタジアムの壁に勢いよく叩きつけたのであった。
「みしゃっ……!」
「スナヘビーーーッ!」
何という馬鹿力……ペロリーム、恐るべしだ。
あれだけの重量が遠心力に任せて投げ飛ばされたのである。
スナヘビからしてみればひとたまりもないダメージだろう。
「みっ……みしゃっ!」
スナヘビは粘ついた糸を振りほどこうとなんとか身体を起こすが、思うように身動きが取れていない。
おまけに今の投げ飛ばし攻撃の打ちどころが予想以上に悪かったようで、その目線も定まっておらずふらついてしまっている。
その隙を、当然ペロリームは見逃さない。
「よし、トドメだ。『じゃれつく』。」
「わむむむっ!」
フィールドの壁際で思うように動けなくなったスナヘビに、ペロリームは数十発の殴りと蹴りを乱雑に叩き込む。
もはやスナヘビには、これに抗うだけの体力は残ってない。
「み……しゃ……」
「……そこまでッ!スナヘビ、戦闘不能です!」
やがて審判のジャッジが下され、スナヘビは力尽きて戦闘不能となった。
最初の対面は、ペロリームの勝利で終わったのであった。
「そ、そんな……」
相手の圧倒的な実力を理解したお嬢は、飲まれ、圧倒される。
今時分が相手にしているトレーナーが凄まじい強敵であることを、身を持って初めて体感したのだ。
「ッ……!」
ジャックもまた、改めてステビアとトレンチ嬢の力量差を確認させられる。
やはりこの勝負、無謀だったのか。
お嬢にはまだジムチャレンジは速すぎたのだろうか……。
そう思ってジャックが瞬きをすると、彼は目の前に写ったものに驚かされることになる。
そこには先程までの怯んだお嬢は居なかった。
代わりに、武者震いと共に不敵な笑みを浮かべる彼女の姿があったのだ。
「……大丈夫。まだ私にはマネネがいるもの!ここからでも勝ってやるわ!」
「まねねッ!」
そう言ってお嬢はスナヘビをボールに戻すと、すぐにマネネをフィールドへ出す。
マネネはお嬢と同じく、腰に手を当て指を正面に突き出す動作をする。
「いいねぇ。歯ごたえがあるじゃないか。……来たまえ、全力で相手しよう。」
「当たり前よ!行くわよ、マネネッ!」
「まねねッ!」
果たして、お嬢はこの圧倒的に不利な状況を覆すことは出来るのだろうか。
ジムリーダー・ステビアに付け入る隙はあるのだろうか。