【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第085話】彼女が見た景色、破り捨てた繋がり

 お嬢は礼拝堂にて目を覚ます。

長い精神世界の旅から、無事帰還できたのだ。

「こ……ここは……?」

当たりを見渡し、お嬢はゆっくりと現状を理解し始めた。

「そ、そっか……これでジャックは無……事……」

 

 

 

 お嬢は立ち上がろうとする。

……が、彼女は酷いフラつきに見舞われた。

意識が急に現実世界に戻ったせいで、脳が身体の正確な感覚を未だ掴めていないのだ。

直立を保てない彼女は、すぐに近くの長椅子に座り直す。

 

 

 

「よく戻ってきたトレンチ。その様子だと、スエットに勝利したようだな。」

「………ッ」

お嬢はエンビに、スエットの身に起こったことを話そうとした。

が、身体の麻痺で思ったように口が動かなかった。

「……話は後で聞こう。」

エンビはローブを脱ぎ、倒れ伏すお嬢の首元に枕を作る。

そしてそのまま、お嬢が言葉を紡ぎ始めるのを待った。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーやがて完全に日が暮れ、お嬢の口が徐々に動くようになった。

彼女の全身には未だ気だるさ・重量感が残るものの、会話までは出来るように回復していったのだ。

そしてエンビに、ジャックの精神世界で起こった出来事を伝える。

 

 

 

「……そうか。……スエットが殺されたか。」

エンビは俯き、遠くを向く。

自らの同志に不幸なことが起こったのだ。

多少なりとも、思うところはあるのだろう。

 

 

 

「……ごめんなさい。アイツは……」

「気にするな、酷い昏睡に陥っているだけだ。後で然るべき場所に俺が送ろう。」

エンビはあくまで落ち着いた声で、そう言ってお嬢を慰めた。

実際、彼女にはどうしようもなかったのだ。

 

 

 

 しかしそれよりも、お嬢が気にかかっていたのはそこじゃない。

エンビは一切、ブリザポスとレイスポスの話題に関して驚く様子を見せていなかったのだ。

まるで、ジャックが2人いた事を以前から知っていたかのようだった。

「……エンビは、あのブリザポスのことを知っていたの?」

「当たり前だ。アイツには、以前のジャックのような貪欲さが無かった。……どう考えてもなにか別の存在に乗っ取られた後だとは思ったな。」

彼が以前、ヒルミヴィレッジでジャックを否定したのは、これが大きな原因であった。

『チャンピオンの』ジャックと、『使用人の』ジャックでは、あまりに纏う雰囲気が違うのだ。

 

 

 

「………。」

お嬢はエンビの言葉を聞いた後、倒れ伏すジャックの肉体を見つめる。

様々な感情を背負いつつ、多くの考えが脳内を駆け巡った。

………あの後、彼女が見てきたものを回想しながら。

 

 

 

 彼を見つめるお嬢に、エンビは後ろから問いかける。

「……トレンチ、お前はその怪物を見てどう思った。」

「……怖かったわ。とても……とても怖かった。」

お嬢はブリザポスの暴虐ぶりを思い出し、身震いが湧き上がる。

ジャックの声を発する怪物に抱く違和感は、如何とも信じがたいものであった。

 

 

 

「……でもーーーーーーーーーー。」

お嬢は言葉を綴る。

彼女の話す一言一言を、エンビは一字一句聞き漏らさずに聞き届ける。

真剣に、彼女が見たものを、感じたものを受け止めていた。

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

ーそうして彼女の想いが語られること数分。

エンビは大きく頷いた。

 

 

 

「……ではトレンチ。お前は……。」

彼は問う。

お嬢へ最も問いたかった事を。

「……SDはいらない、と?」

「……そうね。私には無理よ。」

お嬢は首を横に振った。

力強く、噛みしめるように。

 

 

 

「………アタシはジャックにはなれない。もしアタシがマネネを失ったとして、きっとあの悲しみに耐えられない。」

「……そうか。」

エンビは頷く。

そしてお嬢は、僅かに視線をスエットの方に移す。

「……それに、スエットを見て思ったの。あの子は自分の才能に苦悩しながらも、一生懸命自分の使命を全うしていた。ここでアタシがSDに手を出したら、あの子にもジャックにも顔向けができないわ。」

 

 

 

 彼女の言葉は最もだった。

あの時スエットを殴り飛ばしたからには、それに恥じる事はできない……少なくともこの戦いは、お嬢にとっても今後を見直す重大な機会となったのだ。

「わかった。それがお前の決断なら、俺はそれを肯定しよう。凍雪の器は他に……」

エンビはそう言って立ち上がる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後だった。

お嬢の首筋をめがけて何かが飛んでくる。

金属製のコードだ。

咄嗟に気づいたエンビは、それを左腕で弾き飛ばす。

 

 

 

「ワイヤー式スタンガンか。………どういう真似だ?クランガ。」

この教会の中にいるのは倒れ伏した2人と……後はクランガしかいない。

犯人は明白であった。

 

 

 

 

 

「……いやいや、ソレはこっちの台詞ッスよ。この後トレンチちゃんを説得して、凍雪の器にする算段だったはずじゃないッスか。」

クランガは相変わらず、気味の悪い甲高い声で言う。

……が、その表情は全く笑っていない。

寧ろ、憎悪のようなものすら感じられる。

 

 

 

「……いいや、この計画は中止だクランガ。恐らく、スエットも既にイデアへの到達は望んじゃいない。」

「……。」

お嬢は思い出す。

あの「教団の教皇」という役割を命じられ、それに縋って生きていたスエットのことを。

そうしてバベル教団の活動の元、器と鍵を探していた彼女のことを。

しかし彼女は、SDの力によって哀れな結末を迎えたジャックの姿を見た。

きっとあのレイスポスと化したジャックや、生まれてしまったブリザポスを見れば……きっとあんな思いを他の人にさせようとは思うまい。

 

 

 

 

 

「そして俺も気づいた。『万象の真理』に頼らずとも、俺は見たい景色に辿りつけることに。上位の存在じゃなくとも、このトレンチになら希望を抱けることに。」

「……。」

「だからこそ、俺とスエットはこの計画を降りようと思う。」

エンビは、胸のブローチを外して投げ捨てる。

それ即ち、バベル教団からの脱退を意味する行動であった。

「………ふーん。アンタ、やっぱり……俺らのことなんかどうでもよくなったんだな。」

「……当然。元々俺もお前も、この教団にいれば目的が達成できるからこそ『司教』なんて称号を貰って協力をしていたに過ぎない。」

エンビは冷たく、投げ捨てるように言う。

 

 

 

 そう……バベル教団の実態は、私欲の集合体に過ぎなかったのである。

特にエンビは、その傾向が強かった。

「敗北を知る」という目的のため、自身よりも強いと思われる『万象の真理』に近づこうとした。

しかし今、その存在はトレンチに取って代わろうとしている。

彼女と教団の目的を天秤に掛けた時、それは前者に傾いた。

そんな彼女が万全で、望み通りに過ごすこと……それはエンビの新たな目標となろうとしていたのだ。

秘鍵と器で『扉』を開ける以外に目的を達成する手段があれば、興味を失うこともまた自然なのである。

 

 

 

 

 

 ……が、使い捨てられる側からしたらたまった物ではない。

「……だってよ。聞いたか?エンビさんは俺達みたいな凡人には分かんねぇモンが見えてるそうだ。」

クランガは扉に向かってそう呟く。

するとその言葉に応じて礼拝堂の扉はゆっくりと開き、そこには見知った人物の顔があった。

 

 

 

「ほぉ……何や。昨日からずっと『エンビさんが裏切るかもしれない』ってクランガが言うから来てみれば……色々と大変なことになっとるやないか。」

関西弁を喋りながら入ってくる黒服ブロンドの女……

「テイラー………!」

「よぉエンビ。アンタ……誘ってやったウチに断りもせず、バベル教団を抜けるつもりだったらしいな。」

礼拝堂の入り口にて、テイラーは両腕を組んで寄りかかっている。

その中には、包帯で包まれた何かが大事そうに抱えられている。

テイラーはこちらを見つめてきた。

いつもの笑顔を浮かべつつも、より冷ややかな目で。

 

 

 

 その視線に対し、エンビはあくまで冷静に返答する。

「……別に、俺の勝手だろう。そもそも、トレンチにだって適合者になるか否かの選択肢くらいはあるはずだ。」

「まぁやっとこさ見つけた適合者候補のお嬢ちゃんもだけど……ちゃうねん。『獄炎の秘鍵』の器であるアンタに抜けるとウチらの計画は全部パーになるんや。」

「……何が言いたい?」

エンビの表情がやや険しくなる。

そしてテイラーは答えた。

 

 

 

「……どうしても抜けるなら条件がある。『獄炎の秘鍵』を持つアンタのカラカラと、ソイツの骨が埋め込まれたアンタの鎖骨。それを全部置いて行け。」

「さ……鎖骨!?」

お嬢は驚く。

鎖骨と言えば、エンビが過去に負傷した場所だ。

そう……7年前のリーグ決勝戦で、サンドの放った攻撃によって。

その損傷箇所を、エンビはカラカラの骨を使って治療したのだ。

 

 

 

 エンビはすぐに返答する。

「ふざけるな。カラカラは最初から俺のポケモンだ。」

「ほぉ……じゃああくまでウチらとは対立する……と。」

両者の間の空気が張り付つめる。

 

 

 

 そしてテイラーは、まるで合図をするかのように両手を叩いた。

「……入ってこいダフ。裏切り者を始末する。」

そしてその直後……礼拝堂の入り口に見知った大男が現れる。

 

 

 

「よぉエンビィ……お前さん、やっちまったようだなァ。」

「………。」

エンビは正面を睨みつける。

正直、ダフ程度であればエンビにとって恐るるに足らない。

 

 

 

 だが、彼の表情から余裕が消えたのはその直後であった。

ドカドカと足音を立てて、何者かが近づいてくる。

それも大人数……教会の階段を明け降りている音だ。

 

 

 

 そしてあっという間に、大人数の暴力団員達によって教会の出口は包囲されたのである。

「くっ……人数が……!」

「そうだァ……今までお前らの命で動いていた俺の部下たちだァ。」

ダフはニヤリと笑う。

いつも偉そうな態度を取っていたエンビが焦る様子は、彼の目にも新鮮に写ったのだろう。

 

 

 

「さて、ここは地下礼拝堂だァ……。唯一の出入り口を塞がれたテメェは逃げられねェ。」

「……なぁテイラー。この際だし、マネネとトレンチ……ついでにジャックとスエットも拘束したほうが良くないッスか?」

「……!?」

クランガの言葉に、テイラーは笑って返す。

 

 

 

「……せやな。それで必要な6ピースは全部揃う。」

そう言いながら、彼女らは歩み寄ってくる。

既に逃げ場はない。

 

 

 

 

 

「え……エンビ………!」

「………!」

お嬢はジャックの前に立ちつつ、怯えた目でエンビのことを見る。

そう、彼女のポケモンは皆スエットと戦って消耗しており、マネネも未だ意識が現実に戻らない。

残念ながら今、彼女は無力なのだ。

 

 

 

 そんな彼女を見たエンビは、冷静さを取り戻した。

2つ呼吸をして、彼は振り向く。

「……待ってろ、トレンチ。お前は俺のライバルだ。此処で奴らに奪われるわけにはいかん。……お前の大切なジャックも含めてな。」

 

 

 

 そう言い残すと、彼は腰元のボールに手を伸ばした。

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