【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

90 / 134
【第090話】実戦の無才、踏み入る敵陣(ステビアvsテイラー)

 地下鉄の廃トンネルにて対峙するのは、侵入者ステビアと迎撃者テイラー。

イオルブとペロリームが、今にも戦わんと火花を散らし合う。

先手を切ったのは……ステビアの方だ。

 

 

 

「……『10まんボルト』。」

「わむむっ!」

ペロリームはほぼ予備動作を挟まず、小規模の電撃をイオルブの頭部を目掛けて発射する。

流石は現職のジムリーダー、判断が速い。

一方のテイラーとイオルブは主導権を握られたにも関わらず、非常に冷静な態度だ。

 

 

 

「まぁそうくるよな。イオルブ、『ミラーコート』や。」

「しゃりりっ!」

イオルブの羽根が開かれ虹色に輝いた……かと思うと、そのまま電撃を反射する。

その電撃はペロリームを狙い再発射される。

 

 

 

 しかしペロリームの反応は早かった。

イオルブの攻撃が放たれたときには、既に遥か天井にいたのだ。

『いとをはく』で天井にワイヤーを繋ぎ、自らの身体を急速に押し上げたのである。

既に誰も居なくなった地面を、遅れて電撃が駆け抜けていく。

 

 

 

「ハハッ、そんなに待ち構えていてはバレバレだぞテイラー………君ッ!」

ステビアはそこからさらにハンドサインを繰り出し、ペロリームに次の指示を送る。

天井に張り付いていた状態の彼は、わずかに身体を回転させて足を上へ向ける。

そしてそのまま膝を折り曲げたかと思うと……

 

 

 

「わむむーーーーーーーッ!」

頭から隕石のごとく、イオルブへ向かって落下してきたのだ。

渾身のフィジカルアタック『じゃれつく』攻撃だ。

上空への退避からこの攻撃までに要した時間、僅か1秒足らず……テイラーが反応するには短すぎる時間であった。

そのままイオルブは攻撃の餌食となる。

「しゃり……!」

「ほう……速いな。」

 

 

 

 テイラーはやや焦り気味に思考し、次の指示を出した。

「動きを止めるで……イオルブ、『さいみんじゅつ』や!」

「しゃりりーーーっ!」

相手を見つめるイオルブの瞳が妖しく光りだす。

この光を目にしてしまった者は最後、一瞬にして眠りに堕ちてしばらくは起きられない。

まさに王手に等しい禁じ手なのだ。

 

 

 

 ……だがしかし。

ペロリームは一切動じていない。

眠りに堕ちる気配はなく、寧ろこの時間で息を整え体勢を整えてさえいる。

「おいおい……ペロリームの特性は『スイートベール』だぞ。『ねむり』状態に陥れようったってそうは行かない。」

「……せやったな。」

そう、テイラー……ここに来て痛恨のミス。

ペロリームの特性が『スイートベール』であることは、そこまで無名ではない事実だ。

当然、博識であるテイラーがこの程度のことを間違えるはずがない。

 

 

 

「さて、こんな戦いを早く終わらせたいのは私も同じなんだ。ペロリーム、奴を『いとをはく』で拘束しろ。」

「わむむむっ!」

ペロリームの腕から粘り気のある糸が生成され、イオルブの上前方から彼を縛り付けようと襲いかかってくる。

 

 

 

「『ボディプレス』で避けるんや!」

「しゃりりりっ!」

テイラーの指示の直後、イオルブは自身の身体を水平方向にスライドさせて糸を回避する。

それなりに防御力が高いため、かなりのスピードが出る攻撃だ。

さらにその推進力を活かし、そのままイオルブはペロリームへと突撃していったのである。

 

 

 

「喰らえッ、『ボディプレス』!」

「しゃりりりっ!」

「丸見えだ!『じゃれつく』で受け止めろッ!」

「わむむーーーっ!」

両者の肉体は、正面からぶつかり合う。

本来であれば、わざを出した直後のペロリームの方が出遅れるはずだ。

しかしそこはジムリーダーのポケモン。

本気を出せば、切り返しの挙動も機敏なのである。

 

 

 

そして肉体同士をぶつけ合った場合、軍配が上がるのはパワーを持っている方だ。

……この勝負を制したのは、ペロリームの方であった。

「わむーーーーッ!」

「しゃり……!」

「イオルブッ……!」

 

 

 

 テイラーが呼びかけた時には、既にイオルブは気絶していた。

残念ながら、試合展開はあまりに一方的であった。

ほぼステビア側の一方的な蹂躙で、バトルは幕を閉じたのだ。

彼女が一流のトレーナーであることを加味しても、明らかな圧勝と言えるものだったのである。

 

 

 

 テイラーがイオルブをボールに閉まった事を確認すると、ステビアはテイラーを指差して言う。

「思うにテイラー君。君は確かに賢い女だ。それは君の教え子であるレイン君を見てもよくわかるさ。」

「……。」

「……しかし、切羽詰まった現場でその知識を引き出すことには相当の難があるようだね。」

彼女の指摘は至極真っ当……的を射たものであった。

 

 

 

 事実、テイラーは他人を教える立場の人間としては非常に優れていた。

しかし当の本人は、実戦における判断力が大幅に欠けていたのである。

それは天性の才能か、はたまた運動神経の欠如か……なんにせよトレーナーとしての実力、対応力は平均未満だったのである。

 

 

 

「……まぁ、そんなわけだ。とりあえず長居するのもアレだし、私は先に帰るとするよ。」

ステビアはそう言うと、ペロリームと共に元きたダクト口の方へと戻ろうとする。

未だ解けぬ謎はあるが、大方気になっていたことは確認が取れたも同然だ。

であればさっさと危険な香りがするこの場所は、退散するのが吉というものである。

 

 

 

 

 

「ほう……逃げられると思ってるんか?」

テイラーはわずかに前進し、背中越しにステビアへと問う。

「……?」

「……アンタ、まさかウチが本気でアンタを倒そうとしてたなんて思っとらんよな?」

彼女は気味悪く、ニヤリと笑う。

 

 

 

「………!?」

瞬間、ステビアの背中に走る悪寒が急激に増す。

彼女は生命の本能で察知していた。

迫りくる足音の存在を……脅威の存在を。

 

 

 

 しかし彼女が気づいたときには既に遅かった。

振り返ると、すぐ背後に『ソレ』は迫ってきていたのだ。

「なっ……何故ここにコイツが!?」

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

凄まじい叫び声と速度で、『ソレ』は迫りくる。

「ぐぁっ……!」

「わむっ………!」

まもなく、『ソレ』は彼女とペロリームを遠く跳ね飛ばした。

 

 

 

 弓なりの軌道を描いて吹き飛ばされたステビアは、頭から壁際に激突する。

「ぐっ……」

打ちどころが悪かったのか、彼女はそのままペロリームと共に気を失ってしまったのであった。

正に一瞬……一瞬だった。

ステビアともあろうものが、何の抵抗もできぬままやられてしまったのである。

 

 

 

「ハッハッハッハ!いやぁ、偉そうな口を聞いとった割には……こりゃアカンわ!」

テイラーは腹を抱えて大声を上げ、伸びたステビアを嘲笑する。

まさに水を得たなんとやら……といったほどに、活気に満ちた声であった。

 

 

 

「暴れ馬の制御が効くってのは何とも気持ちがいいもんやな………な?×××」

『ハァッ………ハァッ………!』

「……とりあえず、この菓子職人どないしよかな。まぁ、テキトーにクランガの奴にでも渡しておけばええか。」

そう言いつつテイラーは、片足でステビアをトンネルの隅へと退ける。

「……さて、そろそろ『アレ』も起動するみたいやしな。いやはや、どないな出来になるんやろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー時がしばらく経過して。

フウジシティの西端に所在するのは3名のトレーナー。

ヒルミヴィレッジから勇み足で飛んできたエンビとレイン、そしてトレンチだ。

中央にそびえるビルを見つめながら、お嬢はエンビに問う。

「……ねぇエンビ、ホントにここで合っているの?」

「あぁ。奴らの目的は間違いなく『扉』……その所在はこの街の地下だ。だったら恐らく、居場所はここと見て問題ないだろう。」

 

 

 

 彼は元バベル教団の司教……彼らの根城については、大方の情報を把握済みだ。

「まぁ、多少複雑な地形だがたどり着くこと自体はそう難しくない。それに、ジャックらの居場所もある程度区別はついている。」

「……それは良いけどさ、エンビ。アンタ、『獄炎の秘鍵』の適合者だろ?奴らに狙われている身のはずだ。」

覗き込むようにして、レインが問いかけてくる。

実際、バベル教団から狙われているエンビがこの場所に来るのが危険であることは間違いない。

 

 

 

「……確かにそうだけどな。元々ジャックやマネネを巻き込んだのは俺の責任でもある。少なくとも、ここでケジメを付けなくてはならん。」

「エンビ……。」

そう答えるエンビの表情は、何処か憂いていたものであった。

少なくとも、彼の言葉に嘘がない事は確かだろう。

 

 

 

「……兎に角、ここからは何が起こるかわからない。危険を感じたらすぐに俺のネンドールで離脱しろ。いいな?」

「ふん、その時はジャックとマネネ……あとスエットも一緒よ!」

「その調子ならお前は心配いらなそうだな。レインは?」

問いかけられた彼は、やや俯きつつも応えた。

「……別に、僕はただの付添いだ。邪魔ならいくら斬り捨てても……」

彼がそう言いかけた時、お嬢の手がその両頬をつまみ上げた。

 

 

 

「いでで……あにずんだ……」

「………捨てるとかそういう事言うんじゃないの!ホントに置いてくわよ!わかった!?」

「………。」

「わかったかって聞いてんのよ!返事!」

語気を荒くして、お嬢はレインに問い詰める。

 

 

 

 そんな彼は、いつものように憎らしげな表情で返答した。

「わかったよ、うっさいな!唾が飛ぶだろ!」

「ハッ、心配するだけ余計だったようね!」

 

 

 

 お嬢はゆっくりとその腕を離す。

レインの顔は、跡がつくほど腫れていた。

(……こうして見るとアレだな。本当に姉弟みたいだな。)

遠巻きにエンビはそう思ったが、口にするのは憚られた。

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、ついてこい。」

エンビはそう言うと、フウジシティの4番街へと向かっていく。

2人も後を追っていった。

街の見どころであるラボストリートからは離れた場所のシャッター街だ。

メインストリートから侵入して角を3つ抜け、目に飛び込んでくる中でも最も小さなシャッターをエンビはこじ開ける。

そこから先に続くのは、底なしに深い階段であった。

 

 

 

「これは……!?」

「地下鉄の廃坑に続く道だ。ここから例の『扉』の場所まではすぐたどり着ける。……行くぞ。」

そのまま地下深くに続く暗闇へ、3人は足を進めていった。

 

 

 

 どれくらい下っただろう。

いくつかの踊り場を経由し、短めの廊下も走りながらかなりの距離を進んだはずだ。

「ねぇエンビ、流石に長くない?」

「あと3フロアだ。じきに……」

そう言いつつ、エンビは立て付けの悪い一枚扉を開く。

 

 

 

 直後……飛び込んできた光景に彼らは息を呑む。

「なっ………!?」

そこに広がっていたのは、先程までの薄暗い地下空間ではない。

 

 

 

 

 

 物体の境界線が曖昧で、サイケデリックに気味悪く輝いている。

壁という壁、地面という地面が、その輪郭をぼやかしている。

まるでテレビゲームのポリゴン体のような、そんな異質さを持つ空間だったのだ。

「な……何よこれ……!?」

明らかに常識では考えられない異空間……否、もはや異世界とでも言える有様だった。

 

 

 

「え、エンビ……これって!?」

レインに問われたエンビの表情も、驚嘆と共に青ざめている。

どうやら完全に予想外のイレギュラーのようだ。

それもそのはず、彼の知る地下空間はこんな場所ではないのだから。

 

 

 

 だがしばらくして、彼はハッとした表情になる。

「………まさか!アイツ……やりやがったな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーー時を同じくして。

別の場所から、そんな彼らの様子を見守る者が居た。

「ククク……いやいや、そんな。アンタが来ることなんか想定済みッスよ。それなのに、今まで通りの装いで出迎えるわけなんかないじゃないッスか!」

甲高い声を上げるツナギの男……クランガは、困惑するエンビらを笑い飛ばす。

 

 

 

「ようこそ我らが理想郷の門!電脳体で構成された要塞へ!その名をMA-Ⅰ……電脳要塞MA-Ⅰ!貴様らの洗礼場だぁあああああああッ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。