【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
壁一面に監視カメラの張り巡らされた部屋……恐らくはこの地下の管制室だった場所だろう。
3名の侵入者を映し出す映像を眺めつつ、古びた回転椅子にふんぞり返る男が居た。
「いやぁ、我ながら凄い出来ッスねぇ。これの稼働のためにわざわざ氷河まで鉱石を取りに行った甲斐があるってもんだ。」
ニヤニヤと笑いつつ、困惑するエンビらの様子を楽しげに見つめている。
「ほらほらスエットちゃーーん!見てみなよ、お友達のトレンチちゃん達が来てくれたみたいッスよーー!」
振り返ってクランガは声を上げる。
……そこにあったのは、全身に電線のようなものを巻きつけられて原型を留めていない、黒服の少女の姿であった。
首筋を蒼く光る鉱石で固定されており、肉体の生命活動がほぼ停止状態になっている。
「………。」
当然ながら、彼の声には一切反応しない。
意識はそこには無く、あるのは辛うじて『定義上生きている』肉体のみだ。
「あー……そう呼ばない方が良いのかな。……んじゃ、任せたぜ、『MA-Ⅰ』。」
クランガはそう言いつつ、惚れ惚れとした表情で少女の顔を見つめていた。
するとしばらくして、管制室の扉が開く。
「よっ……と。邪魔するで。」
そう言いつつ入ってきたのは、背中に人を背負ったテイラーだ。
そして彼女の背中でぐったりとしているのは、コック服の女性……先程やられたステビアであった。
部屋に入るなり、テイラーはまるで荷物を投げ捨てるようにステビアを放る。
「ふぅ……流石にここまで運ぶのは重かったわ。」
「テイラー、それは誰ッスか?」
「……『扉』に近づこうとした侵入者や。一応ジムリーダーやで。」
その情報を聞いたクランガは、何か閃いたのか口角を上げる。
「……オーケー。んじゃ、俺が預かるッス。」
話が一段落すると、テイラーは管制室のカメラへと目を向ける。
「しかしエラくけったいなモン作りよったなアンタ……。」
そこに映るのは一面のサイケデリックな空間。
タネを知る者が見ても、明らかに異様で異質な光景だったのだ。
「……これでアイツらはそう簡単にたどり着けない。ま、エンビの奴も『扉』にたどり着く頃にはくたばってるだろうさ。」
そしてクランガは椅子を回転させ、再度テイラーの方を振り向く。
「そういえば、貸し出した『アレ』は何処に置いてきたんスか?」
「あぁ、最奥部の部屋に戻しておいたで。流石にまだ『アレ』をお嬢ちゃんらに使うほどでもないやろ。」
余裕ぶるテイラーの言葉を聞き、クランガは少しばかり悩む様子を見せる。
「(………大丈夫かなぁ。アレ、そろそろ制御の限界な気もするんだけど。)」
が、すぐにいつも通りの表情に戻った。
「……まぁ、そうッスね。あんたの判断に任せるッス。」
そしてクランガは椅子を立ち上がり、スエットの繋がった装置の方へと戻って行った。
ーーーーーー時間を同じくして。
異様な空間を目にして戸惑う3人。
その中でもエンビはいち早く、この異空間の謎に気づいたようだ。
「エンビ、分かったのか!?この空間の謎が……!」
レインはその謎を聞き出そうと、エンビへと問い詰める。
しかしエンビはやや俯き、首を横に振った。
「……知らなくていい。クランガのやりそうなことだ。」
結論から言えば、彼の想像はほぼ正解であった。
だがこれをまだ幼いお嬢やレインの前で言うことは、彼の良心が許さなかったのだ。
「ただ、この空間を展開している元凶は目星がついている。この規模で質量関係を無視する力など、スエットが関わっていること以外考えられん。」
「……!やっぱり!」
この異質さを感じたときから、お嬢はある程度の予想を立てていた。
そしてそれは、エンビの推論と一致したのだ。
しかし……最後に見たスエットに自らの意思はなかった。
否、彼女の意識はあの精神世界で一度深淵に葬られたのだ。
であれば彼女の超能力が発動していることはおかしい。
少なくとも、彼女が随意的に動いていないことは確かだ。
つまり……
「す、スエットが危な……」
「落ち着け……ッ!」
気の動転し始めたお嬢へ、エンビが軽く喝を入れた。
「……ッ」
その声で、お嬢はハッと冷静になる。
「……焦ったら負けだ。いいか?お前にとって大切な存在の安全は、全て奴らの手の中だ。お前の感情は、奴らにとってコントロールすることは容易いんだ。」
「………!」
「だからこそ……お前は一番冷静で居なくちゃいけない。少しでも心を乱せば、たちまち奴らの手のひらの上だ……!」
エンビは念を押し、お嬢を諭す。
重く……そして温和に。
その言葉に、お嬢は黙って頷いた。
「……よし。では行くぞ!」
エンビはふたりの先頭に立ち、異空間の中を小走りで進んでいく。
身体の大きな彼が、いざという時後ろの2人を庇えるようにするためだ。
その後ろから、レインとお嬢もやや早足で追いかけていった。
3人は異質な廊下を駆け抜けていった。
やや不安定な地面ではあるが、辛うじて歩行は出来るようだ。
何処から何処までが天井で、何処からが壁か不明瞭な構造であった……が、重要なのはそこじゃない。
地面の場所さえ把握していれば、最低限の移動はできるのである。
エンビが先に進んだ場所を踏み外さぬように、2人は慎重に……かつ早足で歩む。
やがて幾らか進んだ場所……、天井の色が幾らか暗色寄りなった場所にて。
ぐるりと地面が大きく回転する。
まるで重力の方向が反転したかのように……だ。
「くっ……これは!?」
突如として、3人の身体は上空へと浮き上がる。
「クソッ……ふたりとも、捕まれッ!」
「ッ……!」
エンビは咄嗟に、お嬢とレインの腕を掴み上げる。
どこを目指すとも知れず舞い上がる中で、せめてはぐれまいと必死に繋ぎ止めるのだ。
周囲の色は紫や紺の暗色のみとなり、ついに回転を重ねすぎた上下関係が曖昧になっていく。
しばらくしてようやく、彼らの身体は床らしきものに叩きつけられた。
元いた通りの、フルカラーのサイケデリックな床に。
エンビは咄嗟に二人を庇おうとした……が、残念ながら守れたのはレインのみであった。
お嬢の方は、背中側から強く落下したのである。
「ッ………!すまんトレンチ!大丈夫か!?」
「痛ッ……いけど平気よ。生憎他人より丈夫みたいで……ね。」
そう言いつつ、お嬢はゆっくりと起き上がる。
一応ギフテッドである彼女は、傷の再生が異様に速い……が、決して痛みがないわけではない。
それでも、レインらがいる手前情けない姿は見せられない。
そう思って、必死に堪えていたのである。
「……そうか?決して無理はす………ん?」
エンビはふと、違和感を感じて空を見上げる。
否、エンビだけじゃない。
レインもお嬢も、明らかな異常事態に気づいていた。
はるか上空から……無数の球体が降り注いできているのだ。
徐々にその距離が近づいてくるにつれて、球体が意思を持って飛び回っていることが分かる。
「あれは……コイル!?」
コイル……電磁気に惹かれて群れを成すでんきタイプのポケモンだ。
『Mg……Mg……』
軽く火花を散らしながら、コイルはあちらこちらを飛び回る。
その数は10……20……
「嘘だろ……!?目算500は下らないぞ!?」
あまりに膨大すぎる数の群れに、レインは驚愕する。
しかしその驚きの理由はそれだけじゃない。
「というかこいつら……本当にコイルか!?妙に色が変というか、現実味がないと言うか……」
そう、本物のコイルであればもっと金属光沢があるはずなのだ。
しかしこのコイルにそれはなく、まるでゲームのポリゴン身体のようにリアリティに欠ける身体だったのだ。
3人が、謎の存在であるコイルにあっけにとられていたその時だった。
『……侵入者3名ヲ確認。コレヨリ、迎撃形態A-05ヲ起動シマス。』
何処からともなく、機械音声のようなものが聞こえてくる。
その声は、お嬢にとっては聞き覚えのあるものであった。
「ま……MA-Ⅰ!?」
そう、MA-Ⅰ……フウジジムでお嬢を負かした人工知能だ。
そしてその聞き覚えのある音声は今、明確に「排除」という単語を口にした。
明白な敵意を、3人に対して向けてきたのだ。
上空のコイル達が、MA-Ⅰの言葉を聞いて一斉に同じ場所へと集まっていく。
やがて集まったコイルは細胞のように一つの体を形成する。
間もなくそこには、人の形に積み上がったコイル……否、『コイル製の巨人』とでも言うべき20m級の巨大生物が完成していたのだ。
『Mgggggggggggg!!!』
「で……デカすぎるでしょ……!」
「ッ、トレンチ、ボールを構えろ!抵抗しないと飲まれるぞ!」
エンビはそう言うと、懐からボールを取り出す。
そう、今ここでこの巨人に立ち向かえるのはエンビとお嬢しかいない。
レインのポケモンは僅か1匹……ここで消耗するわけには行かないのだ。
ひとまずはこの窮地を、2人の力のみで打破しなくてはいけない。
謎は多く残る……が、考えるのはその後だ。
『Mgggggggggggggggg!!!』
『……排除、開始。』