【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
『扉』を目前にしてマホイップたちの襲撃を受けた一行。
その様子を見ていたのは、モニター室のクランガであった。
「いやいや、まさかダフが俺らの予算不足で寝返るとはなぁ……お陰で『扉』に予定より早くたどり着かれちまう所だったッス。」
彼は前髪を揃えつつぼやく。
そして目線を動かすと、そこにはスエットの隣で無数の配線を差し込まれたステビアがいた。
彼女はまるで追加デバイスのように、体の良い場所に置かれていたのだ。
「でもアンタのお陰で間一髪!連中の戦力も分散!いやぁ、マホイップの増殖機能はやっぱコイルより便利っスねぇ……容量限界を大幅に更新したッスよ。」
薄気味悪い笑みを浮かべつつ、自らの手中に堕ちた彼女の顔を覗き込んだ。
更にはこれから彼女の同士が、どこかで潰し合うのだろう……と考えながら。
ーーーーー突如異空間の壁から現れたのは、アンコルジムのジムリーダー・ステビア……もといそのコピーデータ。
ピンク色と黒色……2匹のマホイップを連れて、目の前の敵を排除せんと動く。
対峙するはノロポートのジムリーダー・ボア、及びロメロシティジムリーダー・セラ。
……奇しくもジムリーダー同士の争いとなってしまったわけだ。
「っし……行くぞセラ!コピー体とはいえ油断するな……!」
「はい、わかりました……!」
彼らは互いにボールを投げ、ポケモンを呼ぶ。
「出てこい、ウッウ!」
「あがーーーっ!」
「出番よ、サニゴーン!」
「みるる……!」
陸海空全てに対応したポケモン・ウッウと、霊体で存在する不定形のポケモン・サニゴーン……共に現状で最適なポケモンの選択と言えるだろう。
特にセラは、ジムリーダーの職を真っ当にするようになってからちゃんと自分のポケモンを捕まえてきた。
そういう意味では、以前よりも盤石な体制で戦えるのだ。
「仕掛けるぞウッウ!『エアスラッシュ』ッ!」
「あがががッ!」
ウッウは翼で空を切り、空気の斬撃をマホイップ2体に飛ばす。
速く、無駄のない攻撃であった。
……が、しかし。
マホイップらはこれを『とける』でドロドロの液体となることによって回避する。
完全に液体になれば、『切る』という概念も効果を発揮しにくくなるのだ。
だが、その程度……ボアは予想済みだ。
これはあくまで隣のセラにつなぐ布石でしか無い。
「おいセラッ!」
「はいっ……サニゴーン、『れいとうビーム』ッ!」
「みるるーーーっ!」
サニゴーンの頭部が蒼く輝き、直後に冷気を帯びた光線が放たれる。
その攻撃が狙う先は、当然……マホイップの溶けた液体である。
急速に冷やされた液体は、その場で固体となる……つまり、地面に貼り付けられて拘束されたのだ。
「っし……これでマホイップは動けねぇ!今のうちに畳み掛け……」
「ッ!ダメよボアさん!」
しかし残念、そうは問屋が卸さない。
マホイップの周囲の空間は歪み、急速に熱され始める。
かと思ったのも束の間……一瞬にして燃え上がったかと思うと、すぐに流動性を取り戻したのだ。
「クソッ、『マジカルフレイム』か……!」
マホイップは、自らの身体の僅かな可動部からこの攻撃を繰り出すことで、拘束から逃れたのである。
これでは『れいとうビーム』での冷却は意味を成さない。
先手を打ったはいいものの、策はあえなく散ったのだ。
「………。」
そしてステビアは動き出す。
マホイップらは両名とも、再度身体を融解させる。
生み出された液体からは、ボコボコと生命体が芽生えだす。
マホイップの増殖わざ『デコレーション』だ。
あっという間にその数は10……20……ついには50を越えた。
素体が2匹もいる関係上、お嬢と戦ったときよりもその出力はさらに増加しているのだ。
「クソッ……例によって一番厄介な攻撃か……!」
数でゴリ押されると、ボア達はかなり劣勢となる。
しかもその精度……1匹1匹の流動性は凄まじいものなのだ。
それはただの群体に非ず……各個体が明白な意志を持った軍そのものだ。
前衛に構えたマホイップ達が、光エネルギーを吸収して溜め始める。
構えているのは高火力光線『ソーラービーム』の壁……しかも単機ではない、弾幕攻撃だ。
「ウッウじゃこの攻撃はどうにもならない……サニゴーン、『メテオビーム』ッ!」
「みるるっ!」
サニゴーンも負けじと、周囲に紺色の光を結集させる。
宇宙のエネルギーを吸って対抗しようとしているのである。
この攻撃も『ソーラービーム』と同じく、高火力の光線攻撃だ。
しかし威力はやや上回る。
これであれば威力は相殺しうるかも知れない。
「サニゴーン!発射ッ!」
「みるるーーーーーッ!」
両光線が放たれたのは全くの同時……激しいエネルギー同士が衝突し、そのまま閃光と爆音に消える。
結果、セラの目論見どおり『ソーラービーム』は防ぐことが出来た……
……と思われた。
が、残念。
エネルギー量の差分についてはステビアも考慮済みだったようだ。
更に時間差で、中衛に構えていたマホイップが強烈に光る。
「なっ……追撃!?」
そう、中衛陣が追撃の『ソーラービーム』を放ってきたのである。
前衛が放った光線のエネルギーを再吸収し、分散して2段階の攻撃を出してきたのだ。
相手の障壁など計算済み……状況は完全にステビアの手中にあったのである。
追い打ちの光線は『メテオビーム』を打ち破り、そのままサニゴーンを飲み込んでしまった。
「みるる……!」
「くっ……流石の腕……!」
そう、コピーとはいえその根源はステビア……イジョウナ地方のジムリーダーの中でも2番手の実力を持つトレーナーだ。
故に彼女が講じる策に隙はなく、新米のセラでは太刀打ちは困難なのだ。
だが、このセラの攻防が全くの無駄だったかと聞かれたら……そうではない。
この間隙を突いた者が1名……この場には居たのである。
「っしサンキュー、セラ!仕掛けるぞウッウ!」
「あががーーーーーッ!」
ボアの指示の直後、ウッウが飛び出してきたのは……
なんとマホイップの群れのど真ん中である。
普通であればこんな場所に介入することは不可能だ。
しかし彼ならこの超絶技巧が可能なのである。
……そう、水面下に潜るかのごとく存在感を抹消する攻撃『ダイビング』であれば。
ウッウはサニゴーンの攻防の時間を活かし、敵陣の中に突撃したのであった。
彼がマホイップの中央に陣取ったのであれば解決策は存在する。
「行くぞウッウ、『ぼうふう』で吹っ飛ばせ!」
「あがーーーーーッ!」
中央からウッウは激しい暴風を発生させ、放射状にマホイップらを吹き飛ばす。
体重の軽い彼女達は、縦横無尽に各個体が散らばっていってしまったのだ。
そしてその隙を、セラは見逃さない。
「サニゴーン、『シャドーボール』ッ!」
「みるるるっ!」
上半身の角の各先端が黒く光る。
すると『シャドーボール』を散弾銃のごとく、周囲にばら撒いたのだ。
エネルギー出力が『メテオビーム』によって上昇したため、撃てる弾数が圧倒的に増えたのである。
そしてその一撃一撃が、飛散したマホイップにヒットする。
結果的にこの『シャドーボール』は、群れのうち20匹弱を吹き飛ばしたのであった。
「よしっ、群れの弱体化に成功したな……!」
たしかに群れの全てを討伐するには至らなかったかも知れない。
が、それでも。
戦力が半減するだけでも、対応のしやすさは大幅に変わるのだ。
「っし、一気に畳み掛けるぞセラ!……セラ?」
「……ボアさん、この部屋ってこんなに霧……濃かったですかね?」
セラに言われて、ボアは周囲を見渡す。
すると確かに、マホイップが飛び散った箇所に薄桃色の靄が立ち込めているのだ。
サイケデリックな空間で気づきにくかった……が、セラはこの霧の存在を見抜いたのだ。
「これは……『ミストフィールド』ですね。マホイップが散り際に残したものでしょう。」
「『ミストフィールド』?………!しまったッ!」
ボアは置かれた状況が窮地と気づく……が、遅かった。
残った方のマホイップ達が、次々と周囲の霧を吸収し始める。
そうするや否や、彼女らは急速に膨らんでその体積を増す。
直後……霧を吸い込んだマホイップらは凄まじい音と煙を上げて爆発したのであった。
「あがっ……!」
「みるっ……!」
「う、ウッウ!サニゴーン!」
これは吸収した霧を吸い込んで膨大なエネルギーに変換する攻撃……『ミストバースト』だ。
フェアリータイプ最強の禁じ手である。
本来であれば自らの身すらも砕け散る攻撃だ。
……が、増殖の出来るマホイップの場合はそのデメリットは度外視できる。
何故なら「霧散する身体はいくらでもある」のだから……!
その攻撃の脅威を体感したセラは、すぐにサニゴーンへ指示を出す。
「サニゴーン!『れいとうビーム』で障壁展開ッ!」
「みるるるっ!」
サニゴーンは自らの足元に冷気を吐きつけ、即席で氷の壁を築き上げる。
その壁の内側に、ウッウもすかさず飛び込んだのであった。
氷の壁にぶち当たった爆風は、轟音とともにヒビを入れていく。
所詮は即席の障壁……しかも相手の弾数はまだ20以上はある。
「み……みるるっ……!」
サニゴーンが追加の『れいとうビーム』で補強しているといえ、突破されるのは時間の問題だ。
明らかにボアたちに王手が掛けられていた。
「ど、どうするんですかボアさん!?このままだとやられますよ!」
「……先にマホイップそのものを撃ち抜くしかねぇ。」
「撃ち抜くったって、この爆風の中どうやって!?」
セラは問う。
恐らくボアが言っているのは『うのミサイル』のことだろう。
先程長時間マホイップ(液体)の中に居たため、その喉には多くの残弾が詰まっている。
しかし、あの馬鹿げた攻撃の嵐を掻い潜ってマホイップを狙撃することは現状不可能に近い。
更にこの氷の障壁から逃れた瞬間、ウッウは一瞬にして消し飛ぶだろう。
だがボアには策があった。
「……策はこうだ。」
そう言ってボアはセラに耳打ちをする。
作戦の内容を聞いたセラは、その内容の突飛さに驚愕した。
「そ……そんな無茶な!」
「あぁ無茶だ。だがコレをトレンチのやつはジム戦でやったんだぜ?」
「……!」
お嬢の名前を聞き、彼女はハッと我に返った。
「アイツがやったことに、俺らがビビるわけにはいかんだろ。」
「……それを言わないでくださいよ。やるしかないじゃないですか……!」
セラとボアが決意を固めたその刹那……ついに氷の障壁が『ミストバースト』の猛攻に悲鳴を上げる。
徐々に広がっていった亀裂は爆発的に大きくなり、まもなく粉々に爆散したのであった。
「っし!仕掛けろセラ!」
「わかりましたッ!サニゴーン、『ポルターガイスト』ッ!」
「みるるーーーーッ!」
砕け散った氷……即ち周囲に散乱した「物体」は、サニゴーンの支配下になった。
壁の爆散したその瞬間、サニゴーンは無数の氷の塊をマホイップたちに向かって投げ飛ばす。
投げ飛ばされた氷の塊は、今まさに爆発せんとする個体の熱を急速に奪ったのだ。
この一手により、マホイップたちの猛攻は勢いを失う。
そしてお気づきだろうか……。
この『自らを守る盾を砕いた上での攻撃』……そう、これはお嬢のサダイジャがボアとの戦いで使った戦法である。
ボアがあの戦いを強く記憶していたがために導き出せた、逆転のいとぐちなのだ。
「っし、上出来だセラ!これで狙撃を邪魔するものはない……決めろウッウ、全弾吐き出せ!『うのミサイル』だッ!」
「あがーーーーーーーーーーッ!」
ウッウの喉からは、マホイップから奪い取った飴細工の破片が大量に吐き出される。
無数の破片はサニゴーンに追撃する形で、残るマホイップたちを木っ端微塵に消し飛ばしたのである。
そう、それはもう跡形もなく……!
手持ちのマホイップが全滅したステビア(のコピー)は、その場で何も言わず立ち尽くす。
そしてそれから数分後……彼女は元通り、異空間の壁に溶けて消えたのであった。
「こ……これで勝ったんですかね……?」
「あぁ……俺とお前の勝利だ!」
こうしてボアとセラは、なんとか窮地を脱したのであった。
「っし、こうしちゃいられねぇ!トレンチたちを探すぞ!」
「『扉』には行かなくて良いんですか?」
「……悪いが俺達だけじゃ持ってる情報も戦力も足りん。まずは再集合することが先決だ。それに……」
そう言うとボアはわずかに遠くへ目線を移す。
「……子供たちが心配だ。俺らで助けられるかもしれん。行くぞ!」
「……は、はいっ!」
そして奇しくも、ボアの心配は的中することになる。
ーーーーー時を同じくして、電脳城塞の別空間。
そこではまた、別の人間同士が対峙していた。
居たのはマホイップに流されたトレンチお嬢と、その手を握っていたレイン。
その2人の前に現れたのは、あろうことか………
「よぉ、元気にしとったか?」
「て……テイラー……!」