【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第096話】背負わせる者、背負わされる者

「よぉ、久しぶりやな。元気にしとったか?」

「て……テイラーッ……!」

お嬢とレインが流された先……そこに待ち構えていたのはあろうことか彼女らの目的。

そう、まごうことなきテイラーだったのだ。

 

 

 

 あいも変わらず、飄々とした様子で此方を見据えている。

その表情は、お嬢の憎悪をこれでもかと逆撫でする。

「…………ッ」

「おう、なんや嬢ちゃん。そないに恐ろしい顔をしたら、せっかくのべっぴんさんが台無しやで」

煽り気味のテイラーの言葉を聞きつつも、お嬢は深呼吸を挟んで冷静さを保つ。

 

 

 

 両者の間には、これ以上無いほど焼けた空気が流れる。

……お嬢の隣で、テイラーの存在に怯え始めたレインを置き去りにして。

 

 

 

「……アンタ、レインに言うことは無いわけ?」

「……何のことや?」

とぼけた様子で返答をするテイラー。

遂にお嬢の怒りは限界を迎える。

 

 

 

「ふざけないでッ……!アンタがレインのポケモンを取り上げたことよッ……!」

「はぁ……何や、それかい。」

激昂するお嬢と対照的に、テイラーの顔は何処までも冷めている。

あろうことか彼女は、人を見下すかのように溜息まで吐いたのだ。

 

 

 

「確かに左腕の切除までは私も分からなくはないわ。レインだって苦しんでたしね。でもね……何もポケモンまで取ることはないじゃない……!」

「……なんか勘違いしとるようやけどな、嬢ちゃん。アレ、大半はウチが貸してるポケモンやで。」

テイラーはやや声のトーンを落とす。

先程までヘラヘラと笑っていた表情は、僅かに険しくなっていた。

一方、レインの表情は更に暗くなっていた。

……どうやらテイラーの言うことは真実のようだ。

 

 

 

「それにな、これはなにも横暴なことやない。親切や。」

「はぁ!?親切!?」

「……仮にレインがこのままトレーナーを続けても、コイツは上達はせんからな。」

「何でそんな事が分かんのよ!?」

感情の加熱とともに、お嬢の語気は荒ぶっていく。

 

 

 

 だがテイラーの方は、未だ気味悪いくらいの冷静さで離し続ける。

「……ジャックを知っとるやろ。アイツがどうして、現役と今とで実力が違うか知っとるか?」

「人格が変わったからじゃないの……?」

お嬢が言っているのは、ブリザポスのことだ。

別人格の件は、既にテイラーも知っている。

 

 

 

 しかし彼女は首を横に振った。

「ちゃう。……アイツな、SDの力を失ってから脳機能が大幅に落ちとるんや。」

「!?」

「今まで繋がっていた導線を引き抜いてるんや。何の影響も無いわけがないやろ。」

あまりに突飛な情報……だが、お嬢には心当たりがあった。

 

 

 

 例えばアンコルシティの公園……初めてバトルの訓練をした時。

彼は長時間のバトルの後、頭痛に悩まされていた。

その他にも、お嬢と共に宿に泊まった時。

彼は極端に眠りが浅かった。

お嬢の寝相を考慮しても、ロメロシティの病院で倒れるほどの慢性的な寝不足に陥るのはおかしいことだ。

そうだ、これが「ジャックの脳機能障害」と言われてみれば不思議と納得できる。

そしてそれが、現役時代からバトルの腕が落ちている原因……と考えても不自然ではないのである。

 

 

 

「……ほんでレインにも間違いなくコレは起こる。もうな、コイツに頂点を取ることは望めないんや。」

彼女の理論は一応筋は通っている……事実、レイン自身も自身の身体に起こっている変化を感じ取っていた。

今まで通りに戦えないことは、確かなのだろう。

「いやぁ今まで悪かったなレイン。『頂点に立て』とか『未来のトレーナーたちのために』とか大ホラかまして……気負っとったんやろ?もう考えなくてエエんやで。」

「ッ……」

彼女の声は、とても柔和だ。

本当に、心の底から彼を労って掛けた言葉だと……そう錯覚しかねないほどに。

レインは何も言い返せず、その場で俯いたまま固まってしまった。

 

 

 

 そんなレインとテイラーの方を交互に見たお嬢は、一言。

「……なるほど。そういうことね。」

そう呟いて頷いた。

頷いて、その身体を僅かに揺らし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……直後、テイラーの眼前に駆け寄って彼女の頬を思い切り叩きつける。

「冗談も大概にしろッ……!この【自主規制】ッ!!」

「ッ!?」

あまりに突然のことで、テイラーも面食らったようだ。

彼女が驚いた表情をしている間に、お嬢はもう一発……平手打ちの一撃を加えたのである。

「スエットとレインの分……2発受け取っておきなさいッ!」

お嬢の内心は、かつて無いほどの憤怒に駆られていた。

これほどまでに腸が煮えくり返ったことは、お嬢だって無いだろう。

 

 

 

「何よ……勝手に持ち上げるだけ持ち上げといて、いざダメと分かったらすぐに捨てるの!?」

彼女にとって、それは最も許しがたいことであった。

捨てられる側の人間にとって、存在そのものを否定されるに等しい行為。

何より当の本人は、何も声を上げられない。

だからこそ……レインやスエットの受けた仕打ちは、何よりお嬢にとって忌み嫌うべきものだったのだ。

 

 

 

「スエットも、レインも……アンタの失敗をやり直すための代役じゃないのよ!」

「………!」

その言葉を聞いて、固まっていたレインの表情が僅かに動く。

それは彼にとって初めて……自らの在り方を示してくれる者の言葉だったのだ。

 

 

 

 

 

「……誰の……失敗やて?」

お嬢に叩かれた頬の痛みが引いてきたテイラーは、ゆっくりと体勢を整える。

すると直後……彼女はお嬢の胸ぐらを掴み、服が千切れそうな勢いで持ち上げたのだ。

「ッ……!」

「と、トレンチ……!」

あまりにも大人げない、本気の暴力であった。

「……もういっぺん言うてみガキ。お前はウチの何を知ってるんや。」

「す、スエットの中で見てきたわよ……ッ!アンタは自分がトレーナー時代に失敗したことを!」

喉が袖で締まる中、お嬢はそれでも言葉を絞り出す。

 

 

 

「アンタは確かに、その『扉』とかいうモノのためにSDの適合者を生み出したかも知れない……でも、きっと最初は、本気で期待をしていた!」

そうだ、スエットにしろレインにしろ……テイラーは本気で彼らを育て上げようとしていた。

きっとそこには、自分と同じ思いをさせまいと……否、彼らにこそ敗北はさせないと。

それは自らの味わった悔しさから来る「期待」だったのだ。

 

 

 

「でもアンタはスエットを、そしてレインを見捨てたッ!……アンタが、アンタ自身を諦めたようにッ!」

「……黙れ……黙れ黙れッ!」

お嬢の首を締めるテイラーの腕の力が、更に強くなっていく。

 

 

 

「才能のあるアンタにはわからんのやッ!無才の人間が、いつまでも中途半端に進み続けることの辛さが……!残酷さが……!ええかよく聞け……これは温情や!奴らに叶いもせん夢を見せないための温情なんや……!」

そう吐き捨てると、テイラーはお嬢を投げ捨てる。

凄まじい嫌悪の色を帯びた瞳で睨みながら。

 

 

 

 お嬢には分からなかった。

信じたくなかった。

他人に何かを背負わせる者が、こんなおぞましい考えを持っていただなんて……!

「アンタ……それでも親なの……!?」

「『親』やて……?あぁそうや。可能なことを期待して、不可能なことは期待しない……まさに正しい親の在り方やッ!」

お嬢は恐怖心を感じていた。

理解し合えない恐怖……話の通じない恐怖を。

 

 

 

「………だ…さい」

「あ……?」

ふと……テイラーの耳に、か細い言葉が聞こえる。

お嬢の声じゃない……ということは必然的に、声の主は限られてくる。

 

 

 

「………て……くださ……い。」

その声の主は、レインであった。

彼は震えつつも、顔を強張らせつつも……それでも、言葉をなんとか絞り出していた。

 

 

 

 レインの様子に気づいたお嬢とテイラーは、彼の方を見る。

「……なんや、何か言いたいことでもあるんか。」

彼女の重く低い声が、怯えるレインを更に震え上がらせる。

 

 

 

 だが、そんな彼にお嬢もまた声をかけたのだ。

「……!そうよレイン!もっと、はっきり……!」

「……続けさせて下さい……僕の……旅を……!」

とぎれとぎれだったレインの言葉は、はっきりと形作られていく。

彼の意志が、今ここで紡がれているのだ。

 

 

 

「僕の旅を、続けさせて下さい……!」

「もっと……!」

「ポケモン達を、返して下さい……ッ!」

「そうよ……!もう一声ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……僕の仲間を全部返せッ!!僕は……お前の人形じゃないッ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインは叫んだ。

ありったけの力で、生まれてこの方出したことがないほどの勢いで……内なる感情を、そこにぶつけたのであった。

「はぁっ……はぁっ………!」

あまりに力を込めすぎたのか、やや息切れをしている。

そんな彼の背中を、立ち上がったお嬢はゆっくりと擦った。

 

 

 

「上出来よレイン……!ちゃんと言えたじゃない……!」

お嬢は何より、彼が反抗の意思を示したことが嬉しかった。

ただ捨てられて終わるだけの悲しい子とならなかったことが、心底誇らしかったのだ。

 

 

 

「……はぁ。これだから子供は嫌いなんや。何も知らない癖に、行動力と口数だけは無駄にある……!」

そう言うとテイラーは、やや後ろに下がる。

「おいMA-Ⅰ!アレを出せッ!」

彼女は虚空に向かって叫んだ。

すると彼女の背後……遠い暗闇の彼方から、地響きのような咆哮音が聞こえてきたのであった。

盾型の光が見えたと思った直後……お嬢らの前に大きなポケモンが駆け寄って立ちはだかってきた。

 

 

 

「なっ……何よアレ………!」

「ザマゼンタだ……!MA-Ⅰの奴、あんなポケモンまで収納してたとは……!」

ザマゼンタ……かつてガラル地方の厄災を救ったとされる英雄の片割れだ。

そんなポケモンも、この空間では召喚が可能なのである。

 

 

 

 このポケモンの実力は……格上。

果てしなく格上だ。

あの巨人型コイルよりも強大な敵である事は間違いないのである。

 

 

 

 

 

「……教えたれ、ザマゼンタ。この世には絶対に超えられない、実力の壁があることを……ッ!」

 

 

 

「来るわよレインッ……アレは2人がかりじゃないと倒せないッ……!」

 

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