【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
己の「限界」を越えようと……その場で踏ん張り、手を伸ばしたラビフットとジメレオン。
そんな彼らの元に訪れたのは……
「し……進化ッ!」
そう、2度目の進化だ。
彼らの身体は更に大きくなっていく。
そして七色の光は解かれ、そこには全く別のポケモンの姿があった。
「にばばッ!」
「みゅいッ!」
「これは……!」
「エースバーンと、インテレオンだ……!」
エースバーンとインテレオン。
どちらもただでさえ高かったスピードに磨きがかかり、ボディラインもよりはっきりとした流線型になった。
順当に、基礎能力が上昇するタイプの進化だ。
「ハッ……このタイミングで進化とは。随分なご都合展開やな……!」
さすがのテイラーも、窮地で彼らが進化の時を迎えるなど想定外だったのだろう。
「ッ、トレンチ!図鑑を見るんだ!」
レインに言われて、お嬢はすぐに手元の図鑑をエースバーンへかざす。
画面に表示されたのは、今までとは大きく変わった技構成の情報だった。
「……これなら、勝てるッ!」
お嬢とレインの表情は、希望の色を取り戻す。
そうだ……今なら勝てる可能性がある。
数字の差は、先ほど絶望的じゃない……!
『GRR……』
「気にすなザマゼンタッ!進化しても所詮は有象無象の2匹や……お前には絶対勝てへん!」
唸り声の威勢が弱まるザマゼンタを、テイラーは叱責する。
事実、ザマゼンタと2匹の間に戦力差が無くなったわけではない。
お嬢たちの形勢が不利なことは変わりないのだ。
今まで以上の緊張感が戦場に走る。
そうだ、ここまでくればどちらが勝つかはわからない……!
「行くわよエースバーンッ、『かえんボール』ッ!」
「にばばーーーッ!」
エースバーンはその場で跳び上がり、空中に2段ジャンプを決める。
その過程で、燃え盛る火球を足甲に生成し、正面を目掛けて蹴り飛ばしたのだ。
「す……すごい……!」
筋肉がさらに発達したのか、今までは不可能だった「2段ジャンプの直後の攻撃」ができるようになっている。
明らかに作戦の選択肢が増えているのだ。
凄いのはその技術だけではない。
『G……RRRR!』
なんとザマゼンタは『かえんボール』を、初めて「避けた」のである。
今まで彼らの攻撃を脅威とも捉えず、ひたすら受けの構えでいたザマゼンタが……「回避」という選択肢を選んだ。
つまりどういうことか。
『かえんボール』はザマゼンタにとって、『脅威に値する』と判ぜられたのだ。
そう、今までの攻撃とは違う……「当たりさえすれば確実に効く」のである。
明らかな弱点……相手の隙だ。
「よし……!行けるッ!エースバーンッ、続けて『かえんボール』ッ!」
「にばばッ!」
お嬢の指示の直後、エースバーンはその場で3回リフティングを行う。
そして生み出したのは、なんと3つもの火球だ。
これを丁寧に、3発……同時に放ったのである。
別方向に飛んていった弾は、それぞれ別の方向から壁をバウンドしていく。
広範囲の攻撃は、着実にザマゼンタの行動範囲を狭めていたのだ。
『G……RRRR……!?』
逃げ場を奪われ始めたザマゼンタは戸惑い始める。
それを見かねたテイラーは、流石に指示を送ることにしたようだ。
「狼狽えるなザマゼンタッ!お前には『てっぺき』があるやろが!」
『G……RRRRR!』
彼女の指示の直後、ザマゼンタは全身を硬化させる。
彼の身体に着弾した『かえんボール』は、その場で無効化されて弾け飛んでしまったのだ。
「くっ……行けると思ったのに……!」
ただでさえ屈強な身体を持つのに、そこに『てっぺき』まで加わってしまえばどうしようもない。
「よしッ、反撃や!『きょじゅうだん』ッ!」
『GRRRRRRR!』
ザマゼンタは僅かに駆け出す構えを見せると、そのまま爆速の突進を繰り出す。
地中への退避は間に合わない。
「『ブレイズキック』で迎え撃って!」
「にばっ!」
エースバーンは足に力を込め、迎撃の構えに出る。
しかし残念。
「ハッ、アホか!『てっぺき』の効果はまだ続いとるッ!膝が砕けて終わりやッ!」
テイラーの言う通り……身体の軽いエースバーンと硬化したザマゼンタが接触すれば、勝敗は火を見るより明らかだ。
……だがお忘れだろうか。
この場にはもうひとり役者がいることを。
「インテレオンッ、『ねらいうち』だッ!」
「みゅみゅいッ!」
レインの指示の直後、インテレオンは指を前に突き出し、驚異的な速度で水を噴射する。
その速度、僅かに0.1秒未満。
今までの倍以上の速さの射撃が可能となったのである。
「そんな速いだけの攻撃がザマゼンタに効くわけ……え?」
『GRRRR………!』
否、効いている。
エースバーン目掛けて突進していたはずのザマゼンタは即座に機動力を失い、その場で転倒している。
明らかにダメージが大きい……どうやら急所である首筋に攻撃を貰ったようだ。
「バカなッ……『てっぺき』を貼っとったはずなのに……!」
「……『ねらいうち』は相手の弱点を正確に射抜く攻撃だ。いくら守りを固めようと、この攻撃の前には無意味なんだよッ……!」
レインの言う通り、『ねらいうち』はどんな相手でも大ダメージを確約されたスーパークイックドロウだ。
『げきりん』が相手の防護壁を溶かす攻撃なら、『ねらいうち』は防護壁の隙間を縫う攻撃。
まさしく相手の策を尽く覆していく、真に「切り札」とでも呼ぶべきわざなのである。
しかしこのレベルまで完成されているのは、ジメレオン時代の基礎が固まってこそ。
……このポケモンは唯一、レインが自分で捕まえて始めから育てたポケモンだ。
つまり、この攻撃はレインと彼の功績。
彼らの積み重ねと才覚あってこその成し得た『ねらいうち』なのである。
「チッ……厄介な……!ザマゼンタ、ギア上げるで。」
そう言うとテイラーは、右手を掲げてわざの指示を送る。
「『ふるいたてる』や!」
「GRRRRRRRRRRRRR!」
ザマゼンタは首を掲げ、爆音の咆哮をする。
瞬間……彼の体温は上昇し、周囲には蜃気楼すらも見え始めている。
「ッ……!」
「気をつけろトレンチ……!アイツ、今までの比じゃなく強化されているッ!」
レインが叫んだ直後……すぐ直後であった。
ザマゼンタは間髪入れず、『きょじゅうだん』の一撃を放ってくる。
あまりにも強烈な全身に、エースバーンは対応が遅れる。
「くっ……!」
「インテレオンッ、『ひかりのかべ』で援護しろッ!」
「みゅい!」
インテレオンはザマゼンタの前にスライディングで飛び込むと、『ひかりのかべ』の障壁を正面に展開する。
相手の突進は壁によって緩やかに減速する……が、あまりに火力が高すぎた。
すぐにインテレオンが築いた防壁はひび割れ、粉々に砕け散る。
「みゅい……!」
「にばっ……!」
そのまま2匹は、『きょじゅうだん』の餌食となって跳ね飛ばされてしまったのだ。
「あ……アタシの指示が遅れたから……!」
「過ぎたことだッ!今はどうすれば逃げられるかを考えろッ!」
レインはお嬢を叱咤する。
「はっ、逃がすか……!『きあいだま』やッ!」
『GRRRRRRRRRRRRR!』
先程よりも圧倒的に数の増えたエネルギー弾の弾幕が、狭い路地内で雨のようにバウンドする。
2匹は動体視力を生かしてなんとか回避を続ける……が、その行為そのものが2匹のスタミナを大きく削っていく。
やがて最後の一撃が、インテレオンの背中に被弾した。
「みゅいっ……!」
「い、インテレオンッ!」
空間には限りがある。
このようなエンドレス攻撃をいつまでも回避することは、実際ほぼ不可能と言っていいだろう。
本来ならば既に瀕死の2匹……全身は傷だらけで目も虚ろである。
しかし、それでも彼らは根性のみで未だ前を見据えている。
だがもう何発と耐えられる身体ではないだろう。
そしてザマセンタの出す攻撃はあまりに暴力的。
試合の決着は最早ついたも同然だ。
「……なぁ、もうええやろ。お前らはコイツには勝てへんのや。三流トレーナーのウチが戦ってコレなんや。ザマゼンタは規格外すぎる。そろそろ……」
「うっさいッ!誰がアンタなんかに降参するもんですかッ!!」
投了を呼びかけるテイラーの声を遮ったのは、お嬢であった。
鬼の形相でテイラーを睨みつけ、これでもかと敵意を剥き出しにしている。
そうだ、投了などありえないのだ。
彼女には、絶対的な『勝利』を突きつけてやらねばならない。
その思いに応えるべく、エースバーン達も気力を振り絞っている。
何より、ここまで連れ出したレインにも失礼だ。
彼女は、今までの比ではないほど重いものを背負っている。
それを放り投げることは許されないのだ。
彼女は考える。
ここを打開する策を。
『きょじゅうだん』の弱点……『かえんボール』と『ねらいうち』の活かしどころ………
「……おいトレンチ!何をボーッとしてるんだよ!」
しかし長考……。
いつもなら即断即決のお嬢が、今までにないくらい悩んでいる。
だが、彼女の考えていることは……レインにはすべて見透かされていた。
「どうせ悩んでいるのは『最後の所』だろ!?耳を貸せ……僕にいい案がある!」
そう言うとレインは、お嬢に手早く耳打ちをする。
「……!?」
「文句は言わせない。これしかないんだ……やるぞッ!」
お嬢の返事を待たず、レインは臨戦態勢へと戻る。
そうだ、こうしている間にもザマゼンタは次の攻撃の構えに入る。
すぐに次の手を打たないと勝ちはありえない。
「……そうね。エースバーン、ここからが正念場よッ!」
「にばばッ!」
「……インテレオン、悪いな。ラストスパートだ。」
「みゅいっ!」
ふたりはそれぞれ、最後の作戦を決行する。
「……往生際が悪い。見苦しい。やれるもんならやってみろガキどもッ……!」