【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第099話】否定される「限界」、許された「奇跡」(vsテイラー)

「行くわよエースバーンッ!『かえんボール』ッ!」

「にばばーーーーッ!」

体力が底を突き抜け、『もうか』も発動している状態……既にその様子は、『死物狂い』以外の表現が見当たらないほどの狂気に駆られていた。

そんな中で放たれる3筋の『かえんボール』は、最早火球ではなく火災……意志を持ち、相手を焦がし尽くさんとする厄災であったのだ。

 

 

 

 この炎と熱気の中で正気を保てるポケモンなど数えるほどもいない。

……が、ザマゼンタは凛としてそこに佇んでいる。

この攻撃への対処法を知っているからだ。

 

 

 

「焦るなよザマゼンタ……アンタは『てっぺき』を張ってればええんや。いくら攻撃が高火力だろうが、アレにアンタの守りは貫けんッ!」

『GRRRRR………!』

テイラーの言葉通り、ザマゼンタはその場で守りを固めて待機する。

そうだ、彼は何も焦ることはない。

守りを固めたザマゼンタは、エースバーンでは倒すことは不可能なのだ。

 

 

 

 そして当然、それはお嬢とて嫌というほど分かっている。

……もちろん、分かった上での行動だ。

つまり、この『かえんボール』は攻撃手段ではない。

 

 

 

「インテレオンッ、『ねらいうち』3発だ!撃ち抜けッ!」

「みゅいッ!」

インテレオンの指から放たれるのは、同じく3発の噴水攻撃。

しかも『げきりゅう』の後押しで、ただでさえ速い攻撃が更に加速している。

 

 

 

 目視も叶わぬ神速の攻撃は、瞬く間にエースバーンの『かえんボール』を叩き割る。

高温の炎と、噴出された水がぶつかり合う。

急激な加熱を受けた水は爆発的に気化し、周囲に水蒸気のカーテン……真白の煙幕を起こしたのだ。

あまりに甚大な爆発に、お嬢やレイン……ザマゼンタですらも目を覆う。

そう、この攻撃の目的はスチームカーテン。

つまり、相手の視界を奪うことだ。

 

 

 

 その間僅か3秒にも満たぬ時間ではある……が、十分な時間だ。

エースバーンとインテレオンがザマゼンタの前から姿を消すのには……!

『G……RRR!?』

この僅かな時間で、彼の視界から2匹の姿はなくなっていた。

周囲を見渡すが、一切の気配がない。

 

 

 

「落ち着けザマゼンタ!……爆発以外の音がしなかった。つまり、逃げられる場所は……最初に開けたあの穴ッ!」

「ッ……!」

そう、エースバーンが序盤の方に掘っていたあの穴だ。

ここであれば、わざわざ新しく穴を開けずともスムーズに侵入できる。

彼ら2匹は、煙幕が立ち込めるうちにその穴の中に身を潜めた……というわけなのだ。

 

 

 

「だがそれがどうした!地下から撃てる攻撃はエースバーンのバウンドするボールのみや!それもザマゼンタは『てっぺき』で弾ける……つまりお前らはそこでジリ貧なんや!」

テイラーは口調を荒げつつも、冷静に場を分析している。

「地下からの脱出には『入った穴から出る』か『新たに穴をあける』かの2択しかない!それにザマゼンタが気づかんわけもない……コイツは『てっぺき』を構えて出方を伺ってれば勝てるッ……!お前らは詰みや!」

「ッ………!」

そう、ここだ。

お嬢の考えが手詰まりになったのはここである。

 

 

 

 ……しかし彼女は、今回はひとりじゃない。

「感情を乱すなトレンチ。……テイラーの言うことは正しい。」

レインは、息を呑むお嬢に小声で伝える。

自らの声すらも震えているというのに……だ。

彼は自らの恐れを押し殺し、冷徹に振る舞おうとしていた。

……この勝負が絶対に、負けてはいけないものだと理解している故に。

 

 

 

 

 

「お前らに出来ることは何もない!そこが『限界』なんやッ!わかったか?わかったならさっさと諦めろッ!足掻くことは無駄ッ……コイツには絶対に勝てへんのやッ!」

未だに投了をしない2人を前に、テイラーの声が更に荒ぶっていく。

彼女とザマゼンタの方が優勢であるというのに、情勢と言動がまるで一致していない。

……まるで、自らの足元に迫る脅威に踊らされているかのようだ。

 

 

 

「負けッ……負けッ……お前らの負けッ!何をしてもお前らは勝てんのやッ!不可……不能……無理ッ!無理無理無理無理ッ!む……」

 

 

 

 ……一瞬だった。

加熱し続けていたテイラーの言葉は、ピタリと止まってしまう。

彼女の眼に写ったものが、あまりにも予想外だったからだ。

「う……嘘やろ……!?」

この反応も無理はない。

そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで花火のごとく空中に打ち上げられたザマゼンタが居たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GRRRRR……!?』

一体何が起こったのか。

あまりにも超常的なので順を追って説明する。

まず、エースバーンとインテレオンは水蒸気が出ている間に地下に潜った。

そして彼らは、地下で「ザマゼンタの真下」を陣取った。

 

 

 

 だがここから攻撃を加えることは出来ない。

なので彼らは「ザマゼンタの真下に穴を開け、それと同時にわざを出す」ことを考えた。

しかし『かえんボール』も『ねらいうち』も、この電脳の地面を打ち破るにはやや強度が足りない。

そこでまずインテレオンが瞬間的に『ふいうち』のパンチを繰り出すことで、僅かに地面にヒビを入れる。

僅か……ザマゼンタに気づかれない程度の「僅か」だ。

 

 

 

 そしてもう片方の手で、彼は渾身の『ねらいうち』をぶっ放す。

この攻撃は僅かなヒビを大きくし、真下からザマゼンタの腹部を直撃する。

『ねらいうち』はいかなる防護壁も貫通するため、『てっぺき』の守りも意味をなさない。

 

 

 

 するとザマゼンタの守りは一瞬にして……否、一瞬「だけ」消え去る。

その一瞬……僅かな一瞬に、エースバーンが『かえんボール』を叩きつけたのだ。

あまりにも零細すぎるその時間を、彼は正確に射抜いたのである。

 

 

 

 両攻撃は『もうか』と『げきりゅう』が乗り、これ以上無いほどの高火力になっていた。

これを最大の弱点である腹部に決められたのだ……いくらザマゼンタであれ、致命傷は免れない。

 

 

 

 以上が、ザマゼンタが空中に吹き飛ばされる過程だ。

あまりに緻密、あまりに迅速、あまりに突飛………全てが規格外で型破りな、とんでもない策である。

こんな策は、何度練習しようが再現できるものではない。

今回限り……窮地である今回限り、奇跡的に成し得た攻撃の連鎖である。

 

 

 

「なっ………なんやて………!?」

予想外すぎる反撃に、テイラーは言葉を失った。

当然だ……現状はほぼザマゼンタのチェックメイトだった。

エースバーンとインテレオンの手札に、ザマゼンタに勝てる物は何一つなかったのである。

 

 

 

 それでも……それでも……それでも。

彼らは何度となく『限界』を否定した。

その否定こそが進化という奇跡を、立ち続ける奇跡を、そしてこの一撃の奇跡を手繰り寄せたのである。

 

 

 

「馬鹿なッ……そんな……そんなご都合主義があってたまるかッ!!!」

テイラーの激昂は最もであった。

ここまでの過程に、あまりにも都合の良い展開が多すぎる。

だが……

「えぇ、ホント……アタシ達に都合のいいことばっかりだった!でもね……最後まで足掻かない奴には、そんな『ご都合主義』すら許されないのッ!!!」

 

 

 

 お嬢の言う通りだ。

この「奇跡」は全て、お嬢とレイン、エースバーンとインテレオンが誰一人として諦めなかったからこそ手繰り寄せた「奇跡」なのである。

絶望的な戦局の中を闇雲に藻掻き、夢中で彷徨い、必死に苦しみ……ようやく掴み取った「奇跡」だ。

 

 

 

『G……RRR………』

最大の攻撃をモロに受けたザマゼンタは、その場で悶えて身動きが取れていない。

……トドメを刺すなら今しかない。

 

 

 

「これで終わりよテイラーッ!エースバーン、『かえんボール』ッ!」

「にばばーーーーーッ!」

「続けインテレオンッ!『ねらいうち』ッ!」

「みゅみゅい!」

ふたつの攻撃が、瞬く間にザマゼンタを飲み込む。

『G……RRRRRRRRRRRRRRR!』

 

 

 

 奇跡の上に立った者たちの攻撃が……『限界』の証左たる存在だったザマゼンタを打ち砕いた。

活動限界を迎えた彼は、ボロボロと形を崩し……そして元のMA-Ⅰの記憶へと溶けて還って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「や……やった………!やったわよレインッ!」

「おい……抱きつくな!腕の傷に触るッ!」

彼らはこれ以上無いほど、ザマゼンタへの勝利を喜び合う。

絶対に勝てないはずの相手を、死ぬほどの思いで倒したのだ。

その感情も一際強いものだろう。

 

 

 

「にばッ……!」

「みゅい……!」

エースバーンとインテレオンも、喜びの握手を交わす。

……既に気力と体力の限界を迎えていた彼らは、互いの手を握ったまま気絶していた。

「あ……アンタ達……!?大丈夫!?」

本来であれば「敗北」である結果を前借りして戦っていたのだから、当然のことだ。

「……そうよね、よくやったわ。本当に。」

お嬢は共に戦ったふたりへ最大の敬意を払いつつ、エースバーンをボールへと戻した。

 

 

 

 

 

「………な、何故や……何故なんや……」

予想だにしない敗北に、テイラーはその場で座り込んで茫然自失となる。

ただただ虚空を見つめつつ、「何故だ」と繰り返している。

 

 

 

 そんなテイラーの元へ、お嬢は駆け寄った。

そして白衣の中を弄ると、彼女の腰元にぶら下がっているボールホルダーを奪い取った。

「……悪いけど、レインのポケモンは返してもらうわ。」

そう言ってお嬢は、すぐ後ろにいるレインにそれを手渡す。

 

 

 

「ほら……大事にしときなさい。」

「………その……あ……ありが……と。」

レインはそっぽを向きつつ、ボソボソとした声で呟く。

「声が小さいッ!」

「うるさいッ!同じことを二度聞くやつはバカなんだぞッ!」

「誰がバカだって!?もう一度言ってご覧なさいよバカ!」

「バカっていう方がバカなんだよバーーーカ!」

緊張が解けたのか、彼らは何も中身のない罵倒を交わし合う。

……それだけ、この勝負のために背負っていたものが重かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー「スエットも、レインも……アンタの失敗をやり直すための人形じゃないのよ!」

ーーーーー「でもアンタはスエットを、そしてレインを見捨てたッ!……アンタが、アンタ自身を諦めたようにッ!」

ーーーーー「アンタ……それでも親なの……!?」

 

 

 

 その場に取り残されたテイラーの中で、お嬢の言葉がずっと繰り返されていた。

彼女は思う。

「(あぁ……ウチ、何が間違っとったんやろなぁ………)」

 

 

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