第一章の最終局面です。
暗殺者に追われたあの日から俺は基本的に城砦内だけで一日を過ごしていた。
アヴァロとフィアに手伝って貰い、無事に畑が完成した。まずは直ぐに成果が出来そうな芋類から手を出し、長期的になりそうなのは別の畑に少しだけ栽培を始めている。
「と言っても、昨日に実を切った芋を土にぶち込んだだけなんだけどな……。」
育て方は村の人から聞いたが、城砦でそれが適用されるかは不明である。幾つか方法を変える必要があるかもしれない。
「まぁ、芽が出てから考えるか。」
土に水を与える。何かいい効果が出ないかと俺が持ってる瓶から水を与えている。女神パワーで何とかしてくれ。
それ以外はたまに村まで出かけて商品を売ったり、村人と交流したりしていた。あの日野菜をくれた親子とはあれからも時たまご飯をご馳走になる程度の仲にはなっていた。どうやら娘さんがエネと遊びたいとか何とか。外が暗くなる前には帰宅するようにし、道中は周囲を警戒しながら走って帰っている。
「今日は制作しておくか。」
相変わらず城砦内の探索をし素材だけは集めている。昨日想定より多く手に入ったので今日はそれらを消費していこう。
工房で袋から素材を取り出し、一つずつ作成していく。この作業にも慣れたと思う。
一通り作り終えた所で休憩の為、一旦家へと帰る。先日遂に俺が住む家が完成した。急ぎでは無かったので少しずつ進めていたが、命を狙われたという事で安全な場所を確保しようと話し、急いで建てた。
「と言っても、中身は寝床と物置に近いんだけどな。」
一応生活に必要な物はあるが、それ以上に作成に使う道具や素材が大半を占めている。棚には結構な数の治癒の水が並べられている。これでも袋から出した方である。
「そろそろ、もう少し良い奴が欲しいな。」
前に持っていたレベルは無理でも、ワンランク上の物とかは欲しい。今度アヴァロに相談してみよう。
「さて、飯も終わったし、続きと行こうか。」
席を立ち玄関に居る水精霊にタッチする。門番的な役目をして貰っている。更に家の周りには水場が多いため他の水精もいる。何かあっても対処は可能だろう。
家から出て、工房に向かっている途中に外から声が聞こえてくる。
「頼もう!遺跡に居るのなら話がしたい!どなたか降りて来て貰えないだろうか!」
「……?訪問者か?」
たまにクミル村から訪問してくる人は居る。が、この声はそういう目的で声をかけてきている様には聞こえない。
上から見下ろすと、城砦を取り囲むように鎧を着た人達があちこちに配置されている。
「……多分、国からの軍隊か。」
以前、アヴァロとは話していた。グアラクーナ城砦は俺たちが今いる国、インフルース王国の領地内で発見されたものになる。つまり所有権は国に還る可能性が高いと。
「来る時が来たって感じだな。」
けど、今は二人とも不在である。人が居ないと分かれば強硬手段に出られる可能性も無くはない。
「応対はしておくかぁ……。」
乗り気では無いが、話がしたいと向こうから言っているのだ。直ぐにどうこうされる心配は無いだろう。たぶん……。
覚悟を決め、城砦から降りる。
下に降りると鎧を身に纏った……国の騎士と思われるのがあちこちに沢山居る。その中で一人だけ恰好が違う女性がこちらに気づき近寄ってくる。
「何か御用ですか?騎士殿。」
「すまない、貴方がこの遺跡を動かしている者だろうか?」
「いえ、残念ながら私ではありません。私はここで所有者のお世話になっている斎藤……という者です。」
「これはご丁寧に。私はキスニルと言う。この遺跡を動かしている者と話しがしたい。」
目の前の騎士……キスニルはあくまで話し合いがしたいという事らしい。
「分かりました。こちらにどうぞ、話し合いの場を私が作りましょう。」
二人が戻るまで俺の家で待っていて貰おう。後は二人がどう出るか次第だが……。
「応じてくれて感謝する。」
「いえ、あ、それから申し訳ないのですが、中に全員を入れれる場所は無いので、出来れば数人程度にしてもらえると……そうですね、キスニルさんを含めて五人程度なら大丈夫かと。」
「承知した。すまないが、他はここで待っていてくれ!」
「カグリ三等客将。危険です、遺跡内に何があるか分かっていませんっ。」
「相手は此方の話し合いに応じてくれたのだ、それに一人だけではなく付き添いを連れて来て良いと……こちらに有利な条件を出している。」
「しかし……!」
「安心してくれ、相手から敵意は感じられない。問題は無いだろう。」
「……畏まりました。」
「すまない待たせたな。それでは案内をお願いしてもよろしいかな?」
「いえ、全然待って無いですよ。話し合いも済まされた様ですし、どうぞ付いて来てください。」
騎士たち合計五人を城砦内に案内する。取りあえず安全な俺の家の中に入れる。
「すみません、人を招待出来る場所がこんな家しかないので……少し散らかってますが。」
人数分の座れるのを出し、コップに水を入れてテーブルに出す。
「心遣い感謝する。」
「とんでもない、わざわざ城砦まで来たのでお疲れと思われますし……っと、本題に入った方が良さそうですね。」
目の前のキスニルさんは良いが、周囲の騎士からの圧が半端ない。
「すまない。相手のテリトリーに居るので警戒してるんだ。許して欲しい。」
「いえ……。話し合いなのですが、今この城砦の責任者の二人は少し出かけておりまして、もう少しで戻られると思うのですが……。」
「不在だったのか……?」
「なので、外で待たせるのは流石に心苦しいので、居心地悪いと思いますが、ここで今しばらくお待ちしていただけると助かります。」
「カグリ三等客将。」
「待ってくれ、その前に幾つか聞きたい事がある。」
後ろの騎士が、今の内に……!と言いたげな態度を制す。
「この遺跡を動かした者が居る……で合っているだろうか?」
「そうですね、遺跡……では無くて城砦。グアラクーナ城砦って名前を持つ動く城砦ですね。それを自らの意志で動かせる者が居るって認識で間違いないです。」
「……城砦?なるほど、確かに遺跡と呼ぶのは相応しくないな。」
「他にお聞きしておきたい事は……?私が知っている範囲でなら可能な限りお答えすると保証いたします。」
「それでは遠慮なく、現在不在の者のどちらかがこの城砦を動かしたのか?」
「ええと、話せば長くなるのですが、その二人の男の方がこの城砦の調査と修理に来ていて、その時に事故で落下した場所にもう一人の方と出会ったと聞いています。もう一人の女性の方がこの城砦内で眠っていた所を男の方が起こしてもらい城砦を動かしていると……すみません大分大雑把ですが。」
「調査の事故で……?」
「そうですね、運悪く足元が崩れたとか何とか」
目の前のキスニルさんは今の会話何やら引っかかる所があったらしい。
「すまない、一つ聞いてもよろしいだろうか?」
「ええ、大丈夫です。」
「その、事故に巻き込まれた男性の方なのだが、名前を聞いても?」
「……アヴァロと言う名です。」
どうせ黙っても二人が来たらバレるので特に隠さずに告げる。
「アヴァロ……やはりか。彼だったのか。」
キスニルさんは安堵と納得したような表情をしている。
「……もしかして、アヴァロのお知り合いでしたか?」
「ああ、今回この城砦の調査の際に護衛として同行していたのだ。皆、警戒を解いても大丈夫だ。ここの者は私の知り合いだ。話し合いで解決が出来るだろう。」
そう言ってキスニルさんは警戒を解く。
「では、城砦を動かしているのはアヴァロでは無くもう一人の女性の方となるのか?」
「ですね、名前をフィアって言うのですが、彼女の力で動かしているので自らの意志で動かせていると見て良いと思います。」
「なるほど……それでは尚更話し合いで解決した方が良さそうだな。」
「今の内に制圧した方がよろしいのでは……?」
「仮にそれが出来たとしても城砦はフィアという者の意志で動くのだ。彼女を説得出来なければ意味はない。」
「その為にこの場を作ったのですから、可能なら争いで事を勧めたくはありません。二人もそれを望んでいませんから。」
「私の方も出来ればそうしたい。」
「ではお互いの意志を尊重して……暫くの間世間話でもしておきましょうか。」
「ふふ、そうだな。二人が来るまでお願いするよ。」
ふぅ……一先ずは即ドンパチせずに済みそうだ。キスニルさんがかなり話が通じる部類で助かった。こちらにも大分気を遣って接してくれているのが分かる。アヴァロが知り合いってことも大きいだろう。
それからキスニルさんとお互いの話や、アヴァロのこれまでを話した。二人が人助けの為に動いているという話を嬉しそうに聞いていたのが印象的だった。
「カグリ三等客将。例の二人が戻って来たようです。」
「そうか、では私も出迎えるとしよう。」
「私も説明の為に同行しておきます。」
漸く返って来たアヴァロ達を騎士五名と俺で出迎える事となった。
……女騎士と水精、、、と考えましたが止めときました。流石に今回はそれは出来ないので。