キスニルさんが再登場ー。
「うえぇぇーーんっ、お、おかあさぁーんっ!」
アヴァロとクミル村での依頼を終え、そろそろ帰ろうかと歩きながら話していると子供の泣き声が聞こえて来た。
「サイトウ。」
「だな、行くか。」
聞こえてしまったので放って帰るなどの選択肢はアヴァロに無いだろうと思い、共に声の発生位置に向かう。
「大丈夫だ、直ぐに母親を見つけると約束する。だからもう泣くな。」
声の場所に到着すると既に先客が居た。
「キ、キスニル……?えっと、どうしてここに?」
「……アヴァロか?それにサイトウ殿も。いや、迷子の子を見かけてしまってな。放って置けないだろう?」
そう言いながらキスニルさんは女の子の頭を撫でる。相変わらず良い人だよなこの人……。この前の件といい、今回もか。
「よし、それなら俺たちも一緒に捜させてくれよ。」
「良いのか?二人は何か用があったのでは……?」
「帰るとこだったから気にしないでくれ。それに俺もサイトウも元々それが目的でここに来てる。」
「そうそう。三人も居ればすぐに見つけられるだろ。」
「ぐす……おにいちゃん、お母さん見つけてくれる……?」
「任せとけ!俺は人捜しをさせたら天下一品だぜ。なにせ髪が特徴的で目立つからなっ。話が広まれば相手が逆に俺を見つけてくれるんだ。」
まぁ確かにその髪色は特徴的だよな。ハーフエルフって言っていたし……配色が独特である。
「なんだそれは。ふふ、だが有難い申し出だ。では共に捜しに行こうか。」
その後、二人が女の子を挟む形で手を握りながら親御さんを探した。俺はそれを後ろで眺めながら周囲に母親と思われる人物が居ないか観察をしていた。アヴァロが言っていたのが本当だったのか、さほど時間もかからずに女の子の親と合流した。
「手間を取らせたな。お陰で女の子も泣き止んでくれた。」
「大したことはしてないって。それよりキスニルはどうしてここに?」
夕日が差し掛かった空の中、二人が話しを始める。確かになんでここに居るんだ?
「なに、休みの日に村の様子を見に来ただけだ。特にこれと言った用事は無い。」
休みの日に村に……?日課とかなのか?それとも巡回的な?
「俺たちを捕まえなくていいのか?楽に城砦を確保出来るかもしれないぜ?」
分かり切っている事を揶揄う様にアヴァロが問いかける。
「遠慮する。私的な時間には仕事は持ち込まない主義なんだ。」
「予想通りの返事だな。流石はキスニルだ。」
「世辞として受け取っておく。それに城砦についての評判も色々聞いている。この村の人の話を聞いただけでもよく分かる。いまこの場で二人を捕まえてしまうと民が困るだろう?」
うーんこの。どんな生き方をしたらここまでの聖人が出来上がるのだろうか?まぁ、弱点にもなり得るけどさ。
「……実は、フィアについて少し調べてみた。」
急に神妙な顔付きになったキスニルさんが迷うように口を開く。
「フィアについてか?」
「ああ、本当にフィアの正体が神かどうかについてだ。」
唐突にだが、とても興味深い話を始める。
「二人はこの国、インフルース王国の出身では無かったか。」
「ああ、流れの鍛梁師だ。」
「俺も……旅人みたいなもんだ、流れの。」
世界間を旅していますけど?
「では、まず話の整理をしよう。文献に載っている王国史だ。」
「この地では『フィユシア教』が国教となっている。国民の多くがフィユシアという神を信仰しているのだ。フィユシア様を一言で表すなら……そう、『英雄』だな。」
「英雄……?」
アヴァロが不思議そうに聞き返す。神ではなく英雄って言う事は成り上がりか?
「ああ、ファスティナ創世記時代にこの地を支配していた神に仕えていたらしい。『パライア』という名の『緑の杜七柱』に含まれるエルフの神だ。この地がインフルース王国として定められる以前に、勢力を二分とする戦争が起こった。パライアに従う者と、従わない者とも争いだ。」
「
なるほど、功績を認められて神に至ったのか。
「その後パライアは、フィユシアと古き守護の一族に土地を譲り天へ帰っていった。その守護の一族と言うのが、現王国を築いたルース王家と言うわけだな。」
それじゃあ、この国は結構な役割を持っていた過去があるのか。
「フィユシア教はこの国の北部にある神響の霞廊という場所に立ち入ることを禁止している。」
「フィアが目指している場所だな。」
「その通りだ。問題なのは、何故フィアはそこに行きたいのか?正当な理由があったとしても、かの聖地への侵入は困難を極める。教徒では無く、フィユシア自身がそこへの立ち入りを禁じたという話だからな。」
本人が直接定めた決まりだったのか。
「事情はわかったよ。だが、絶対に行かなきゃならないってフィアは言っていたぜ。目覚める前の記憶が無いからその理由までは未だに分からないけどな。」
「………、一つ、文献に興味深い事が書かれていた。」
アヴァロの言葉を聞き、静かに語り始める。
「記録ではフィユシアが最後に姿を現したのは建国前に一度、ということだった。それ以降は一度も姿を現していない。」
「ん?つまりインフルース王国が出来る前にしか姿が確認されていないという事か?」
「そうなるな。」
「おいおい……それって……。」
キスニルさんの回答を聞いたアヴァロが驚いた声で言葉を絞り出す。
「……、本題はここからなんだ。二人とも、フィアとフィユシア。似ているとは思わなかったか?その名前が、あまりにも。」
それについてはフィユシア教の話を前に村人から聞いた時にも確かに思った事がある。何かしら関係があるとは考えていたがまさか……?
「ああ、俺も、もしかしたらフィアの正体がフィユシアという英雄の正体では?って考えたよ。」
「そうだな。私もそう思っていた。」
「その言い方だと、答えは違うみたいだな。」
「ああ、その通りだ。私は疑っていたのだ。フィアはかのフィユシアという神であり、何らかの事情で先日まで眠らさせていたのでは?とな。だが……それはあり得ない。」
「それはどうしてなんだ?」
「ーーー男性神なのだ。フィユシア様は。これは公的な記録が残っている。フィアと同一の存在ということは無い。」
キスニルさんはハッキリと確信を持ってそう答える。
「でも、大概の歴史は国が都合の良い様に改変してるって聞くぜ?信仰している神様の名前や性別を変える位有り得る話じゃないのか?」
「ないな。神は支配者なのだ、人間の都合で情報を操作する事など許されない。それに行う理由はなんだ?」
確かに……神は支配者だな。俺が会うあの女神様だって好き放題しているし。主に俺にだが。
「調べた事でなお分からなくなった。本当に正体が神ならば人間がその目的に抗うべきではない。それこそフィユシア様からの命が無い限りはな。……正直、少しだけ期待していたのだ。正体がフィユシア様であれば、戦闘を仕掛けるなど以ての外だからな。」
自分たちが戦闘をしていたのは実は信仰する神本人だったとか目も当てられない事態だもんな。
「それで調べてくれたのか?」
「勘違いしてくれるな。これは私の為なんだ。私はアヴァロ達に敵意を持っている訳では無いのだから、戦闘を避けられるならばそうするべきだと判断したまでだ。」
自分の為とか言って……こっちと戦いたくないって言っちゃっているのだが。優しすぎんか?
「なんだ二人ともその顔は。全く、まさか私が敵対している者を気遣っているとでも考えていたのか?私は武人だぞ。」
どの口がそれを……。
「……アヴァロ。まだフィアが神だという事を信じているのか?」
「信じているよ。忠告はありがたいけど俺の答えは変わらない。」
「それはサイトウ殿も同じか?」
「そうだな。前に言ったお茶目抜きにしても神と信じられるだけの根拠があると俺は思う……が、それを言っても結果は変わらないだろうな。唯一の証拠である本人の記憶が無いんだし。」
「……そうか。二人がそれで良いならば、私も与えられた使命を果たすまでだ。」
目の前のキスニルさんは一度目を閉じ、覚悟を決めた表情に変わる。凛としてかっこいいな、おい。
「次に会う時は戦になるだろう。」
「ああ、お互い無事だと良いな。」
「大丈夫だ。私は不必要に痛みつけることはしない。フィアにもよろしく伝えといてくれ。降参するなら早めに頼むとな。」
まるで勝つ前提な喋り方をしているが……。
「まるでキスニルさんが勝つみたいな言い方だな。油断は禁物だぞ?こっちは
「なに、その前に全員を捕えれば済む話だ。城砦を動かしているのはフィアなのだろう?ならばフィアを捕えればそこでお終いだ。」
「果たしてそれが出来るかな?
「ほぅ?それは楽しみだ。それでは二人とも、また会おう。」
去っていくキスニルさんを見送った後、アヴァロに耳打ちをする。
「これで王国が仕掛けてくるのが渓谷って確定したな。」
「みたいだな。戻ってみんなにも報告しよう。」
二人で村を出て城砦へ向かう。
キスニルさん……確かに良い人だし戦いたくは無いのは此方も同じだ。しかし今回はそれを無視させてもらう。じゃなきゃ渓谷で詰むことになるからな。既に情報戦は始まっているという事をあの人は把握出来ていたのだろうか?こちらの言葉をそのまんま受け取った可能性の方がずっと高いだろう。そういう人だ。
悪いが、今回はそれを可能な限り利用させて貰う。恐らく今回の戦いの指揮権もキスニルさん持ちだろう、それならやりようはある。
夕日が落ち、空が夜の帳に覆われる中、これからの事を考え始めるのであった。
思った以上に話が長引いちゃったんで一旦ここで区切ります。