この世界を生き抜く為に出来ることは……。   作:コクーン√

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開戦前日です。



第三十五話

 

「よし、これからリックベルへ向かうために砂蛍渓谷に入る。皆、準備は良いか?」

 

「凄い場所ですね……。この城砦だと通るだけでもギリギリです。」

 

「危ない。敵に攻められやすい。特に、この城砦は。」

 

先にある渓谷を見て二人ともこれから始まる戦いが容易では無い事を実感する。

 

「この地形だと左右を深い崖に挟まれた裂け目を通らなけれないけない。その際、崖上から乗り移られる可能性がとても高い。だからこそ、この機会を狙って王国が攻めてくるだろう。」

 

「頑張って無事に通らないとね!」

 

「城砦は幅が大きいから、ぶつからない様に注意して歩く必要がある。出来る限りフィアが移動に集中出来るようにしっかりと城砦を守ろう。」

 

「皆、頼りにしているからね。私も頑張るからっ!」

 

「基本的に俺たちのやる事は事前に説明していた通りだ。各々の役割を確認したいときはサイトウに確認を頼む。」

 

「一応やる事は単純だしな。それぞれが頑張って城砦を守る。それだけ知っていれば大丈夫だ。もし想定外な動きが起きた場合は各自の判断に任せるが……命大事にな?最悪その場を捨てて戦線を下げても構わない。それと、もしフィアさんが発見された場合は即座に連絡用のを空に撃って欲しい。皆は即座に集合するように頼む。」

 

確認しながら皆の顔を見て行くが理解している様に頷く。ちゃんと分かっているので問題は無さそうだ。

 

「明日の朝からリックベルへ向かう。これで大丈夫か?」

 

念のためアヴァロに確認を取る。

 

「ああ。明日にはインフルース王国と戦う事になる。」

 

お互いに渓谷を見る。既に王国の軍であろう騎士たちがこちらを警戒するように見ている。

 

「相手はキスニルさんかな?」

 

「だと思うが……。」

 

「……なら最後に確認してみるか?」

 

「何をする気なんだ?」

 

「開始前に敵大将と一対一で話でもしようかと……な?」

 

「正気か……?向こうが受け入れると……?」

 

「キスニルさんなら必ず受け入れる。逆に断られれば別の人間の可能性が高い。」

 

「まぁ、確かにキスニルなら応じそうだが……危険すぎるぞ。」

 

「開始前に攻撃してくるなら敵陣で存分に被害を出して帰ってくるさ。それじゃあ早速試してみようか。」

 

皆に事情を話したが反対多数だった。まぁ当然と言えば当然だな。けど押し切って対話を試みた。

 

 

 

「ほんとに受け入れるとはな……という事は相手はキスニルで確定か?」

 

「多分そうなんだろうな、それじゃ行ってくる。もしその場で捕縛されると分かったら空に電撃でも撃つから遠慮なく進行を始めてくれ。」

 

「その時はサイトウを見捨てることになるぞ?」

 

「キスニルさんなら無駄な抵抗をしなければ大丈夫だろう。」

 

城砦から降り敵陣へ向かう。騎士がこちらを警戒しているがその中から他とは違った格好の女性が現れる。

 

「やっぱり相手はキスニルさんだったか。」

 

「そちらはサイトウか。どうした?まさかここで降伏してくれるのか?」

 

「ここまで来て参りましたは出来ないな。残念ながら。」

 

一応来客として扱われ席に座る。

 

「何か飲むか?」

 

「俺は自分のがあるからな、何ならキスニルさんに振る舞おうか?」

 

袋からコップと水が入った瓶を出す。

 

「折角の好意だ、受け取っておこう。」

 

キスニルさんの返事に近くの騎士が止めようと動く……が、それを手で制す。

 

「彼が飲み物に毒など入れる人では無い、安心してくれ。」

 

「そりゃここでそれをしたら即座に斬られるからな。何なら先に飲んで確認するか?」

 

自分の瓶に水を入れ先に一口飲む。その間騎士がじっと俺を見ていた。

 

「これで彼が卑怯な事をしようとしていない事が分かったな?」

 

「ま、もしかしたら遅延性の可能性もあるけどな。」

 

お互いのコップに水を入れ、渡す。

 

「すまない、それじゃあ頂こう。」

 

「さて、サイトウ殿。何か用があってと思ってこの場を用意したんだが、一体何用だ?」

 

「実は今回の相手のトップがキスニルさんかどうかを確認しておきたかっただけって言ったらどうする?」

 

「私かどうか……?確かに今回の指揮権は任せれているが。」

 

「一応戦う相手の情報を得たくてな。」

 

「なるほど、それを正直に言ってしまっては意味が無いと思うのだが?」

 

「こっちの対話に応じてくれたんだしこれ位正直に話すさ。後はそうだな……単純にキスニルさんと雑談でもって思ってた。」

 

「なんだそれは……これから戦うって敵同士なのにお喋りなど、そんな余裕はあるのか?」

 

「大丈夫、城砦が動き出すのは明日だし全然時間はあるぞ?ゆっくり朝食も食べれる程度にはな。」

 

「それなら明日にはこの渓谷を抜けようと動き出すのだな……。」

 

「可能な限り全力で抵抗させてもらうから、それなりの覚悟を持ってかかって来てくれ。」

 

「今からでも諦めるって選択肢は、無いのか?」

 

「無いな。」

 

キスニルさんの言葉にノータイムで返す。

 

「アヴァロとフィアは勿論だが、俺にもやらないといけない事がある。その目的を阻止しようと動く相手には全力で抗うつもりだ。」

 

「意志は変わらないのだな。」

 

「そんな事よりもっと楽しい話をしたい。気になっていたんだが、キスニルさんのその武器って『刀』で当たってる?」

 

「そうだな。この辺りではあまり見ないかもしれないが私の住んでいた場所では普通に見かける位には普及している武器なんだ。」

 

「もしかして騎士では無くて武士や侍……みたいな呼び方をしていたり?」

 

「なんだ、サイトウ殿は此方の文化を知っているのか。」

 

うわぁ……なんでこっちに日本と似た文化があるんだ?異質過ぎるだろ。

 

「ま……まぁ?一応旅人ですし……?」

 

「そういえば前にそう話していたな。逆にそっちは今までどんな国を渡り歩いて来たんだ?」

 

「えー……色々?キスニルさんみたいな見た目の人が居る場所も通ったし、魔法が盛んな国も行った事があった……かも。」

 

「そしてこの国に流れ着いた……と。」

 

「大体そんな認識で大丈夫。」

 

暫くの間、キスニルさんと雑談を続ける。後ろの騎士は俺が何か仕出かさないかと警戒……睨むようにずっと見ている。

 

一時間ほど会話が続きそろそろお開きにしようかと考えていると、こちらに騎士が向かって来る。

 

「カグリ三等客将。城砦の方から精霊がこちらに来ております。『サイトウを回収しに来た』と。」

 

「精霊が……?」

 

「フィアさんが迎えを寄越してくれたみたいだな。すまないけどお開きにしようか。」

 

「そうだな。思ったより話に花を咲かせてしまったみたいだ。」

 

「それじゃあ、俺は戻るとするよ。」

 

「わかった。そこまで見送ろう。」

 

互いに席を立ち、来た道を歩いて戻る。

 

「あら、どうやら死んでいなかったみたいね。安心したわ。」

 

「すまんな、わざわざ。」

 

「心配だから見に行って欲しいって半ば無理矢理よ?全く使いが荒いんだから……。」

 

「サイトウ殿、彼女が?」

 

「そうだな。()()()()()()使()()()()()()精霊の一体だ。こんな感じに適当な性格だけどかなり強いから気を付けた方が良い。」

 

「よろしくー。それじゃさっさと帰るわよ。」

 

嵐燐結騎の力か、風が周囲に纏まり体が浮く。

 

「下手に身動き取らない様に。間違って落としちゃうかもしれないからねー。」

 

恐ろしい事を言い始めたので体の力を抜き身を任せる。

 

「キスニルさん、今日は感謝する。また明日会おう。」

 

「まるで会う約束みたいな言い方を……こちらも手加減せずに行くつもりだ。アヴァロ達にも覚悟しておくようにと伝えて欲しい。」

 

キスニルさんに言葉に手を振って返事をする。少しの間空中散歩を楽しみながら城砦へ戻る。

 

「どうやら何事も無かったみたいだな。」

 

「よかったー!無事だったんだねっ。」

 

「中々戻られないのでフィアさんが心配されていましたよ。」

 

「かみさま、うろうろしてた。」

 

「だって、直ぐに戻ると思ってたら帰って来ないから捕まっちゃったのかと……。」

 

「いや、すまん。普通にキスニルさんとお喋りしていただけなんだ。」

 

「敵陣で気楽に話すとか……。」

 

「一応相手の指揮権はキスニルさんが持っているってことは分かった。それと敵の陣地に適当に罠も仕掛けて来たし明日の時間稼ぎにはなると思う。」

 

「警戒されていたと思うのですが、その様な隙があったのですね。」

 

まぁ、歩いているだけでも地面には設置可能だしな。

 

「相手には少なくとも明日の朝過ぎに動くって伝えてはいる。多少は警戒され続けるとは思うが朝には動こう。」

 

「相手もそれに合わせて動くってことだな。」

 

「今日はもう明日に向けて英気を養おう。明日は皆で頑張って乗り切ろう!」

 

「みんなで頑張っていこっ!えいえいおー!」

 

「おー。」

 

フィアの掛け声にイオルの覇気の無い声が返す。

 

「一応最終確認も怠らずにな。」

 

何とも締まらないやり取りだったが、ここまで準備を進めて来たんだ。後はやってやるだけである。

 

インフルース王国対グアラクーナ城砦の防衛戦がもうそこまで来ていると改めて心に留め確認作業に向かった。

 

 





遂に三章のラストが始まります。

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