キスニルさん視点と、主人公視点を行ったり来たりします。
「未だ抵抗が続いている様だな……。」
城砦を観察しながら一人呟く。此方の被害報告はあがるが、味方から狼煙の連絡は未だに上がってはいない。報告によれば城砦内の罠が苛烈過ぎて足止めを食らっているそうだ。確認出来ている敵は四人。猫獣人の少女が二人とアヴァロ、フードを被り水精霊を使役している男……こちらはサイトウ殿で間違いは無いのだろう。アヴァロと少女の1人にフィアが使役している精霊が付いており未だに本人の姿は確認されていない。あと上がって来たのは城砦の後方から王国軍が道端に投げ捨てられるとのことだ。これもこちらの遅延を目的にした工作だろう。
「戦闘には参加させずにどこかで城砦を動かすことに専念しているみたいだな。」
既に城砦は渓谷の道のりを半分は通過している。ここに来るまでに一人も捕らえられていない事は想定外だった。幾ら城砦が難攻不落でもたかが数人など数で押し切れば制圧など容易いと決めつけていた。
「向こうはインフルース王国を押し切る覚悟で来ているのだ。それ相応の対策をしてくるのは当然か……。」
だが、これ以上の進行を許す訳にはいかない。
「私も出ようっ!付いて来てくれ!」
先に城砦に乗り込んだ騎士達からはある程度情報は共有できている。敵が待ち受けている場所やそこまでの道のりに多くの罠が仕掛けられている。大勢でそこを通れば格好の的だろう。ならば少数で直接城砦上部に乗り込み一気に勝負を決める。
「続けっ!これ以上の歩みを許してはならない!城砦の者達に我々の雄姿を見せてやれ!」
後続の騎士達から気合の声が上がり、飛び移るために城砦に向かって走り出す。
渓谷の半分を過ぎた事で前哨戦の終わりを告げ、攻防戦は局面に入って行く。
「未だに王国軍の攻めは続いては居るが、こちらも防衛線を維持できている様だな……。」
あれから城砦に乗り込んできた王国軍を倒しながら各場所の罠の補填で駆け回った。皆まだまだ余裕はあったがいつこれが崩れるか分からないため油断は出来ない。
「三人の話を聞いた感じではやっぱり乗り込んできた騎士たちの数は想定よりかなり少ないな。」
集めた情報での推察だがインフルース王国が本腰で城砦を攻め落とすとなれば軍の数ももっと多かったはずだ。予想では現在時点で防衛線を何度か下げている計算だったが未だに最前線を維持できている事から王国軍の勢いが無いと分かる。
「いや、キスニルさんもまだ見ていないからここからが本気に違いない。」
先程城砦が渓谷をようやく半分過ぎた。敵もそろそろ本気になる場面の筈……。
「はぁい。生きてるー?」
考え事をしていると頭上から声を掛けられる。
「嵐燐結騎か……何か問題があったのか?」
「問題はないわよ?ただの報告かしら。」
「……言ってくれ。」
「貴方が言っていた昨日の女騎士の人いたじゃない?今丁度城砦に乗り込んできたところって言いたかっただけ。」
嵐燐結騎が俺の後方を指差す。多分侵入位置を差しているのだろう。
「ようやくか……。連絡ありがとな。」
「べっつにー。あ、でもこれが終わったら何かご褒美でも貰おうかしら?」
「ご褒美か……大したことは出来ないと思うが終わったらまた言ってくれ。可能な限り応える。」
「そんじゃ、死なないようにねー。」
ひらひらと手を振りながら姿を消す。……ここでキスニルさんのお出ましか。
敵大将がやって来たのを知り、迎え撃つために袋に手を伸ばした。
「何とか城砦に乗り込めたな。」
渓谷から飛び乗りここに来るまでに何度か罠があり、軍の騎士達が被害に遭ったが城砦の中心まで辿り着くことが出来た。
「恐らくこの辺りは生活区画なのだろう。各位、可能な限り建物などの破壊はしない様にしてくれ。」
隊列を組みながら進む。道の端や草木の間に倒されたであろう仲間が倒れているのが続いている……が、今は救助では無く敵の撃破を優先するため最低限の安否確認だけを済まして先に進む。
「カグリ三等客将!」
城砦を捜査していると、仲間の騎士がこちらに向かって来る。
「良かった、無事だったかっ。」
「はい、何とか私一人だけですが……、それより報告があります!」
私の目の前で片膝を付き声を上げる。
「現在城砦内部にて目的の人物と思われる女性が確認されましたっ!」
「なに……!?フィアを見つけたのか?」
「聞いた情報と一致している為、まず間違いないかと……しかし周囲の精霊たちの守りが強固で未だ突破が出来ておらず、応援を呼びに戻った次第です。」
「なるほど……。私が向かおう。他の仲間を呼ばれる前に一気に片を付ける!」
そうすればこれ以上両陣営の被害が出ないはずだ。
「はっ!畏まりましたっ!私が先頭で案内致しますので付いて来て下さい。」
目の前の騎士は立ち上がり、急いで振り返り走り出す。
「こちらです。急ぎましょう……!」
「ああ……!道案内よろしく頼む。」
案内されながら城砦内部へ入って行く。城砦内を進むにつれ案内役の歩みが遅くなっていく。
「動きが落ちてきている、どこか負傷しているのか?」
「……はぁ、はぁ。いえ、大丈夫です……。それにもうすぐ着きますから。」
何度か道を曲がり、開けた場所に出ると先頭の騎士の歩みが止まる。
「どうしたのだ?……やはり怪我を……。」
「はぁ、はぁ……いえ、目的地にたどり着いたので止まっただけです。」
「目的地……?ここがか?しかしフィアの姿はおろか戦闘の痕跡や音すら聞こえないが……。」
「残念ながら……
急に口調と雰囲気が変わった正面の騎士はくるりとこちらを向く。
「ーーー木精、入口を閉じてくれ。」
どこかに向けて言葉を呟いたかと思うと、後ろに道に木の根っこが覆い茂り道を塞ぐ。
「一体何を……!?」
明らかに異常事態が起きたと感じ各々が抜刀し剣を構える。
「いやーー、素直に付いて来てくれて助かりましたよ
私の事をさん付けで呼ぶ声にハッとなる。すると、身につけていた兜と鎧を脱ぎ始める。
「重いの装着して走るのは中々きつかったですよ。途中でバテて速度落ちたの怪しまれた時は焦りました。」
地面に鎧が落ちる音と共に目の前の男の正体が露わとなる。
「まさか……サイトウ殿!?」
「そのまさかだよ。流石にここまで来れば今の状況が飲み込めたか?」
「……罠だったという事か。」
入り組んだ道を進み、私達をここまで誘い込み入口を塞ぎ妨害を行う……。
「なるほど、時間稼ぎと言うわけか。」
「ご想像に任せるよ。帰すつもりは無いけどな。」
「戦闘態勢っ!敵は目の前の男一人だと思うな!水精を使役している。警戒すべきは水精の方だ!」
武器を構え戦闘態勢に入る。
「キスニルさん合わせて五人か……。全員逃げられると思うなよ?」
サイトウ殿の返事と共に戦いの火蓋は切られた。
キスニルさん達御一行を城砦内へ案内し、目的の広場に辿り着く。
はぁ……はあ。しんどっ!!なんだこのくそ重い装備は……!よくこんなのを着て走ったり飛んだりしてるな!
立ち止まり息を整える。不審に思われ後ろから声を掛けられたので返答する。流石にここまで来て戦闘音はおろかその痕跡すら無いのは不振に思っていたらしいが、もう手遅れだ。
目的のフィアが居ない事を告げ木精に入口を塞いでもらう。さて、これで場面は整ったな。
入口を塞がれたことでこちらを警戒し剣を抜いて先を向けてくる。
「いやーー、素直に付いて来てくれて助かりましたよキスニルさん。」
こちらの言葉に気づいたのかハッとした表情を見せる。
「重いの装着して走るのは中々きつかったですよ。途中でバテて速度落ちたの怪しまれた時は焦りました。」
文句を言いながら着ていた鎧を脱ぎ捨てる。暑いし音うるさいし重いし邪魔でしかない。
「まさか……サイトウ殿!?」
顔を見た事で俺と確信が得れた所でネタ晴らしをしておく。向こうも罠だと認識出来た様子で。
「なるほど、時間稼ぎと言うわけか。」
周囲を見渡し、やられたと言いたげな顔でこちらを見る。
「ご想像に任せるよ。帰すつもりは無いけどな。」
「戦闘態勢っ!敵は目の前の男一人だと思うな!水精を使役している。警戒すべきは水精の方だ!」
こちらの意図が通じ、キスニルさん含め騎士達が戦闘態勢に入る。だがエネはまだ呼ばない。
「キスニルさん合わせて五人か……。全員逃げられると思うなよ?」
端から全滅してもらうつもりだ。こちらにはエネと木精、魔法の手札がある。キスニルさんは不確定だが周りの四人なら問題ないはずだ。
最後に仕掛けている魔法陣と魔法のストックを確認し、キスニルさん率いる王国軍と対峙した。
遂に最終戦闘へ入りました。たかが人間五人程度簡単に蹴散らして貰いたいものです。
予定ではあと五か六話くらいで三章も終わらせるつもりではあります……多分。