~停戦~
「ーーー双方、停戦しろ!!」
響き渡る音に続き停戦しろと横やりの声が入ってくる。突然の声で警戒すると、目の前のキスニルさんが立ち止まり武器を収める。
「……もしかして、停戦指示が?」
「ああ、ギルシュ殿下、私の主だ。我らにもう戦闘を続ける意思は無くなった。」
さっきの声は殿下……王国王子からの指示らしい。
「恐らくこれから主が交渉にやってくるとアヴァロ達に伝えてくれないか?」
「……了解。」
目の前のキスニルさんからは嘘を付いている様には見えない。俺たちを一ヶ所に集めまとめて捕獲……するつもりは無いのか?それともわざとキスニルさんには伝えていない?
しかし周りの戦闘音も止み、他の場所でも戦いが終わったと分かる。
様子を見ながらアヴァロ達と合流していると、キスニルさんの言う通り王国軍は戦いを止め待機していた。
「サイトウ、今のは……。」
「どうやら向こうが停戦をしたらしい。これから交渉にトップの者が来る。対応をお願いしたい。」
「交渉……?取りあえずわかったが……。」
アヴァロと話しながら他の皆とも合流しキスニルさんも元に戻る。
「皆さん大きな怪我も無くて安心しました。」
「ミケユも無事でよかった。」
「イオルも問題無くて安心したよ。」
「皆無事でよかった~。何とか渓谷も抜けれたし、相手の方も戦いを止めてくれたから助かったよっ。」
嬉しそうに再会を喜び合う。ふと気になり念のために袋から紙を取り出し達成状況を見る。
No16.砂蛍渓谷を抜けよう! ★COMPLETE★
どうやら今回の目標は無事達成出来ていた様だ。それなら今回の騒動も一件落着となるのだろう。
少し心に重荷が下り気が楽になる。
キスニルさんと合流し、暫く待つと、優雅な空気と衣装を身に纏った如何にも偉い地位にいるであろう男が城砦へ入って来る。
「ほう、ここがグアラクーナ城砦か。なるほど、素晴らしい。」
城砦を見渡しながら満足気に言う。
「殿下、度重なる失態……申し訳ありません。」
キスニルさんが第三王子に駆け寄り頭を下げる。
「よい、この場は退け。今は民の為に削ったその身を案じよ。これはルース王家第三王子としての命令である。」
「……はっ、有難く。それでは預かっていた指揮権をお返しさせていただきます。」
「ご苦労だった。ゆっくりと休め、もはやこの場に無用な戦闘は発生しない。……無用な戦闘は、な。」
第三王子に礼をした後キスニルさんは負傷した騎士たちを連れて城砦から去って行った。それを見届けた後こちらに振り返る。
「お初にお目にかかる。余はこのリックベルの街と竜鰐騎士団を預かるギルシュ・ルースという。」
「は、はい。自分はアヴァロ。こちらはフィアと言います。この城砦を管理しています。」
「貴方王子なの?戦いを止めてくれてありがとう。」
アヴァロとは違い一国の王子に対しても態度を変えないフィアさんを見て何故か神らしさを感じた。
「ふむ、城砦の管理……ねぇ。貴君らの目的を知りたい。渓谷を抜けてどうする?」
「街の横を通過させて欲しいだけです。決して害意はありません。」
きっぱりと告げるアヴァロに満足そうに頷いている。
「相分かった。ではこれ以上の戦いは街に被害が及ぶだけ、無駄な被害を増やすのみだな。やはり戦闘を中止してよかった。」
「ありがとうございます。その英断に救われました。」
「いや、貴君らこそ見事な戦いぶりであった。このギルシュの名において通行許可を与えよう。街の横を通るだけなら騎士団を動かさないと誓う。」
「え、よ……よろしいのですか?」
「なにを驚く?そのための戦闘中止だ。だがアヴァロ殿、街を傷つけないと約束して欲しい。」
「勿論です。約束します。」
「頼むよ。街に被害が出る様なら、流石の我らも抵抗せざる得なくなる。」
しっとりとした声で伝えてくる第三王子を見て先ほどまでの会話に違和感を感じていたのが確信に変わる。城砦を拿捕する為に来たのにこんなにあっさり通過させる訳がない。それなら始めから話し合いで何とかなっていてキスニルさん達が来ることはない。この時点で俺たちをまとめて捕まえるかと考えていたが……どうやら違うやり方で来るらしい。
今の話し方が『街に被害が出る様なら、流石の我らも抵抗せざる得なくなる』わざわざあえてこう言うのは城砦か俺たちが何かしらの形で被害を出させる方向の罠を仕掛けるのだろう。
警戒しながらアヴァロに伝えようとすると、王子が何か企む様な笑みを浮かべる。
「神さま、止まって!」
するとイオルから焦った声が出る。
「え!?なんでなんで!?」
「フィアさんっ!城砦の足元目掛けて馬車が突進してきます!」
「マズイ!フィア、なんとかして避けてくれ!」
わざわざ城砦に向かって来るとか自殺行為はあり得ないので罠だと判断し、フィアに教えようとするが、既に唸り声を上げながら城砦の足を無理やり軌道修正していた。
不味い、その方向は……!
轟音が鳴り響き、その方向を見ると、城砦がリックベルの街にある外壁に突っ込んでいた。
「ご、ごめん……。なんだか咄嗟に上手く、動けなくて……。」
フィアが申し訳なさそうに謝る。渓谷を長く動かしていたんだ、疲れもあり上手く制御しきれなかったのだろう。それより……。
「おやぁ?何かな、今の大きな音は。」
「ぎ、ギルシュ殿下。これは……。」
にやにやと愉快そうな笑みでこちらに問いかけてくる。
「ほう、なるほどなるほど。リックベルの街に城砦が突っ込んだと……?おいおい、これでは約束が違うでは無いか。」
「これには事情があって、進行上に馬車が入って来たのを避けようと……。」
「馬車……?そんなもの、どこにも見当たらないでは無いか。」
街に被害が出たいうのに何事も無いかの様に落ち着いている。寧ろそれが起きた事を喜んでいる様にしか見えない。
「やっぱり敵の罠だったか……。」
「サイトウ……?どういう事だ?」
「罠とは……そちらが勝手に街の壁を破壊してだけでは無いか。」
「城砦を拿捕する為にわざわざ騎士団を差し向けて来たはずなのに、それのトップがはいどうぞって通すのがそもそもおかしかったんだ。」
「さっきの馬車もこんなバカでかい城砦にこのタイミングで突っ込んでくるのも意味が分からん。しかも街に被害を出した俺たちを前に民の心配もせず変わらない様子で……いや、むしろ愉快な笑みをしてるあいつを見て確認した。」
「殿下っ!ご無事ですか!?」
さっきの事態を見て護衛と思われる騎士が駆け寄ってくる。
「ああ、私はな。だが、愛する民の住む街並みが、無残にも壊されてしまった……。見たかっ。穏便に通らせてくれとは奴らの虚言だったのだ!油断を誘い、この兵器にてリックベルを侵略する事こそがこの賊の狙い!」
芝居臭い口調と手振りで声を張り上げる。
「な、何を言ってるんだっ。」
「そうだよっ!私達はそんなことするつもりなんて……!」
アヴァロとフィアが必死に声を上げるがその意味はもはや無い。
「見よ、怯え逃げ惑う民の姿を!聞き逃すな、民が泣き叫ぶ恐怖の声を!竜鰐騎士団に告げるーーこれ以上の被害を受ける前に全ての兵力を持って城砦を制圧しろっ!」
第三王子の声と共に騎士たちが声を張り上げ、待機していた騎士達も再び武器を構える。
「ギルシュ、王子……。なんの躊躇いもなく通行許可を与えたのは、最初からこれが狙いだったのかっ!?」
「おやおや、それはこちらの台詞では?どちらが被害者か一目瞭然では無いか。卑劣な作戦の加害者よ。ヒャハハッ。さあ!街を壊す悪者退治を始めるとしよう。抵抗するなよ?先に約束を破ったのはそちらなのだから。」
「てめぇえええっ!城砦を手に入れる為に、街を犠牲にしたのか!!」
本性を知ったアヴァロがキレる。
「行くぞみんな!戦うんだ!こんな奴に城砦を渡す訳にはいかない!」
「クク、これだけの混乱だ。まともに戦闘訓練を行っていない奴らが、どれだけ抵抗出来るかな?……卑劣な侵略者を許すなっ!さあ、蛮族を打ち取れ!ヒャハハハハ!!」
楽しそうに笑い、身を返し去ろうとするクソ王子目掛けてゴーレムに使った魔法を飛ばす。
「殿下っ!!」
しかし、近くに居た護衛の騎士が間に入る。
「ぐっ!?あぁぁぁああああ!??」
剣で迎え撃とうとしたが耐えられずに吹き飛び、城砦から落ちて行く。
「な!?なな、なんだ!」
その場で尻もちを付いている金髪王子に再度魔法を撃つ。自前はもう無いので指輪からのを使う。
「お、お前ら!私を守れっ!」
主を守ろうと多くの騎士が間に割り込み邪魔をする。こちらを倒そうと向かって来る騎士たちはアヴァロ達が対処していく。
「……くそが、逃がしてしまったか。」
周囲の騎士を粗方掃除した時には既に王子は逃げていた。
「くそっ、まだまだ敵が群がって来やがる!この状況で城砦を狙うのかよ!」
「アヴァロ!街の人達がガレキの下敷きになってるよ。助けよう!」
「フィア……?良いのか?敵はここを占拠しようとしているんだぞ?」
「目の前で困っている人が居るのに、放っておくことなんてできないよっ!」
フィアがこんな場面でも自分らしいことを言い放つ。その時、何となく気になって袋に入っている紙を取り出し目を通す。
new.リックベルの街の人達を瓦礫から助けよう!
『金髪王子の罠により街の人達に被害が!?騎士団を退け街の人達を救い出そう!』
なるほど、やっぱりか。
「アヴァロ。フィアさんの言う通りだ。城砦の事も心配だがまずは被害に遭った人たちの救助を優先させるべきだ。」
「サイトウさん……!そうだよね!」
「けど、城砦がその時に相手に占領されていては困るからな。ここは俺が引き受けるから皆は街へ向かって欲しい。」
「サイトウ……良いのか?」
「多対一の戦闘なら一番俺が有利だからな。今のこの城砦だったら王国軍程度一人で事足りる。……だから安心して行ってこい!」
「……ああ、分かった。ここはサイトウに任せる。」
俺の提案を受け入れたアヴァロが皆に振り返る。
「ここはサイトウを信じて俺たちは街の人達の救助に向かうっ!王国軍の相手より街の人達を救うのが優先だ、気合を入れて行くぞ!!」
「サイトウさん、私の身体を任せるねっ。」
「サイトウ、死なない様に。」
「無茶しちゃダメですよ?身の安全を第一にですからねっ。」
皆から声援を貰い、それぞれ別行動を始める。
「エネ、お前もアヴァロ達に付いて行ってくれ。」
隣に居るエネに声を掛ける。
「多分街に着くまでにも多くの騎士に遭遇するはずだ。その露払いとフィアさんの護衛を頼む。」
俺の言葉を聞き入れ、皆の後を追っていく。
「……嵐燐結騎。」
「あら、私を呼んだかしら?」
ナナメ上方向から声が聞こえたかと思うと姿を現す。
「城砦の防衛、手伝ってくれるか?」
「そうねぇ、いつもの私ならめんどくさいって言うけど、今回は特別に手伝ってあげる。」
「それは運が良い。」
どうやら、目の前の嵐燐結騎もさっきの騒動に思うところがあったみたいで、いつもより声に覇気が籠っている。
「木精、すまんがもう少しだけ働いてもらうぞ。」
近くに居た木精に声を掛ける。俺の頼みを聞いて敬礼を返して来る。……そえばエネだけじゃなくてこいつにも名前を付けていた方が良いのかもしれないな。ここまでして貰ってるのに固有名詞だけなのは。
「どうせ王国軍は城砦入口から侵入してくると思うが、念のため警戒をしてほしい。」
「任せなさい。ここに近づく人間が居たら教えてあげるわ。」
索敵を頼み城砦入口で敵が来るのを待ち構える。
この状況で民の救助に向かわずに城砦の確保にこぞって向かって来る騎士には……遠慮しなくていいよな。
城砦によって破壊された外壁、巻き上がる煙と火、そこに響き渡る泣き声、悲鳴、怒声が街の混乱具合を表している。その中を走り周り救助をしている人がちらほら目に入る。
敵が来るのを待ちながら、その光景を唯々ぼんやりと眺めていた。
停戦……そんなのは無かった。