気絶からの……夢の中ですね。
「ーーーはっ!!?」
目が覚め、体を起こす。
「はぁはぁ……。」
何か恐ろしい体験をした気がして乱れる息を整える。
「おはよう。あまり良い目覚めじゃないみたいね。」
顔を上げるといつもの女神がそこに居た。
「随分と酷い顔ね。まるで恐ろしい料理を食べたみたいな表情をしているわ。」
楽しそうにこちらを見てくる。
「あれは夢じゃない無かったのか……。」
「そうね、今の貴方の脳が耐えられずに気絶しちゃった感じね。」
夢だったら楽だったのに……。
「ついでだしこうやって呼び出しておいたわ。」
「防衛戦が終わったし一区切りが付いたからか?」
「正解。ほんとは今夜にでも……と思ったんだけど、まさかあんな食べ物が存在するなんてね。一体どんな味がするのかしら?」
「追体験してみるか?俺の頭覗けば出来ると思うぞ?」
「嫌よ、私だって死にたくないわ。」
女神が嫌がるって……、一体何を作り出したんだ。
「ま、お喋りはこの辺にしておきましょうか。」
くるりと振り返り、空中に映像を出す。
「今回の目玉は何と言っても城砦での戦いよね。思ったより余裕で勝ったのは残念だったけど。」
「それは俺も想定外だった。もっと攻め込んでくると思ってたんだが……、インフルース王国は軍事に力を入れてないのか?」
「ああ、それね。答えを言っちゃうと、国として貴方達を攻めた訳じゃないのよ。」
「違うのか……?」
「あの金髪王子いたじゃない?あの子の独断で兵士を動かしたって事。それも首都の王様の許可も取らずにね。だから動かせれる数が少なかったのよ。」
「あー……あの王子ならやりそうだなぁ。『城砦を確保すれば余の手柄だ!』みたいなアホな事考えて勝手に動きそう。」
その結果が大失敗なのだから目もあてられない。
「大規模な準備までしておいて拍子抜けって終わり方だったわ。もうちょっとあの王子と騎士の女の子には頑張ってほしかった所ね。」
どっちの味方だよ、いや、観戦した側からだとそう思えるかもしれないな。
「まぁ今回は私が渡した物が悪かったってことかしら。次からは気を付けるわ。」
「いや、気を付けないでくれ。」
「それだと一方的でつまらないじゃない。」
「こっちは割と命がけなんだけどなぁ……。」
「あの程度簡単に振り払えるわよ。魔法もまだまだ使いこなせていないみたいだし。」
「やっぱり全然か?」
「割と貴方の想像次第で形を変えるわ。その身体と似たようなもんよ。何を望み、何を得たいか……強くイメージすることが大事って教えてあげる。」
確かに魔法を撃つ前に形をイメージすればある程度自由に作れたな。
「ありがとう。頑張ってみるよ。」
「私を楽しませる為に頑張りなさい。貴方はこの世界の人間とは知識の根本が違うからきっと私も思いつかない様な方法を生み出してくれると期待しているんだから……ね?」
ウィンクを飛ばしながら笑みを浮かべる。綺麗だと思うが邪悪さしか感じない笑顔だ。
「そういえば、あの技師のじいさんにお金は渡しておいたが、あれで良かったのか?」
「問題無いわ。後はその内出会うはずだから気長に待ちなさい。あとそれから。」
「街の修復も終わったら皆で記念に宴をすると思うわ。」
「まぁ確かにやりそうだな。」
フィアなら確実にやるだろうな。
「その日は宴が終わり次第、早く寝る様に。間違っても夜更かししてうろついたりしちゃダメよ?」
「ん?どうしてだ?」
「その日の夜にあの女神の子と使徒の子が初めてを交換するからよ。」
……ん?
「えっと、それはつまり、二人が……するってことなのか?」
「そうね。」
あー……宴のテンションで酒も入ってる、確かに好条件だ。城砦を守り切り、前に二人で何かを話して絆を深めたりもしたのだろう。
「知りたくなかったわぁ……。」
いつかはしてもおかしく無いとは思うけど、わざわざそれを聞かされたくはなかったな。
「あー、うん。分かった。その日は早めに寝るよ。」
「分かったなら良いわ。二人の行為を覗き見したいって言うのなら別だけど。」
「んな趣味は無いから気にしないでくれ。」
「それじゃ、今回はここまでにしておくわ。」
「わざわざ忠告ありがとな。」
「気にしなくていいわよ。これも私が楽しむためだもの。」
特に気にした様子もなく手を振る女神を見ていると視界が白に埋め尽くされていく。
「はぁ……。その日は飲み潰れて寝ようかな。」
二人の情事の予定を聞かされたことで若干テンションが下がる。
目が覚めたらそこだけでも忘れて欲しいよ全く。
そんな意味のない事を考えながら、夢から覚めるのを待った。
「よしっ!これで終わりだ。」
アヴァロからの最後の声で復興作業が完了した。作業の終わりを見届けようと集まった人たちが、フィアと一緒に大声で喜んでいた。
「ありがとう。これでリックベルの街は元通りだ。」
「ありがとな!あんたらのお陰で建物も前より丈夫になったよ!」
「これにて城砦はリックベルから離れて行く。その記念としてささやかながら宴席を用意してもらった。是非楽しんでほしい。」
キスニルさんがそういうと、街の人が抱えきれないほどの料理や飲み物を運んでくる。
「おおっ、お酒だっ!わーい。」
「フィアは酒を好むのか?」
「大好きだよ~。私だけじゃなく、大体の神様はお酒が好きだと思う。」
そうなのか、夢の中で出てくる女神もそうなんだろうか……?
「ふふ、確かに神に酒が弱い印象はないな。面白い。」
何か不敵な笑みをキスニルさんが浮かべる。飲み比べでもするつもりか?
宴会が始まり皆が楽しそうに話し合っているのを見ていた。アヴァロやフィアに話しかけては寂しそうに涙を見せる人までいた。イオルは『食材が……沢山。』とうずうずしながら調理場へ向かって行ったかと思うと狂気に満ちたような声と悲鳴が上がっていた。……うん楽しんでて何より、怪我しないようにな。
暫くするとフィアとキスニルさんが飲み比べを始めたが、速攻で勝負が付き、キスニルさんが机に突っ伏す。けれど勝者のフィアはケロっとしていた。勝者の誕生に街の人達は大盛り上がりだ。
「楽しんでますか?」
隣を見ると、先ほどまでイオルといたミケユが座って居た。
「そりゃ、勿論。イオルの方は良いのか?」
「はい、大丈夫だと思います。多分ですけど……。」
一番不安になる言い方はよしてくれ……。
「それより、これ食べて下さい。イオルが作った物です、サイトウさんにって。」
俺の目の前の置かれたのは何かの肉を切り分けた料理だった。見た目は鶏肉のソテーが分かりやすいだろう。
「これはまた美味しそうな物を……、頂くよ。」
出来立てと思われる肉を一切れ食べる。美味い。酒が進みそうな丁度いい感じの味である。
「やっぱりイオルの料理は一番美味しいな。」
前にキスニルさんの家で食べたあの……いやこれ以上思い出すのは止めておこう。折角の飯が不味くなる。
「ですよねっ。良かったです。」
「ミケユも食べるか?酒に合うぞ。」
「私は飲めませんよ……それじゃあ折角ですし頂きますね。」
料理を食べたミケユは美味しそうな表情をする。感想は聞くまでもないな。
「サイトウ、どう?イオルが作ったのは。」
後ろからイオルに声を掛けられる。
「この中で一番イオルのが美味しかった。って言っておこう。」
「なら良かった。」
満足気にしてミケユの隣に座る。
「イオルもちゃんと食べてる?」
「うん、大丈夫。ミケユは?」
「私もちゃんと食べてるよ。美味しい物沢山あるよ?取ってきてあげる。」
仲が良いな……まぁ当然だけど。
「サイトウゥ~……のんでるかぁ?」
反対側から覇気の無い声がしたと思って振り返ると、先ほどフィアとの勝負に負けたキスニルさんが居た。
「お、おつかれさん。さっきのは相手が悪かったな。」
キスニルさんも結構飲んでいたが、同程度飲んでいるのに変化の無いフィア相手には分が悪すぎた。
「流石は神と言った所か……。完敗だったよ。」
そんな所で神への信憑性増しちゃうのかよ。
「フィアもそうだったが……、サイトウにも綺麗にまで負けてしまったな。」
酔ってはいるが冷静さを取り戻そうと体を起している。
「負けた?俺とは酒飲みしてないと思うが?」
「違うぞ。城砦での戦いでだ。」
言われて思えば、確かにキスニルさんとの戦いではあったか。
「俺はキスニルさんを何とか抑えきったぐらいしかないと思うけど?」
「謙遜する必要は無い、先の戦いで城砦をいち早く攻め落とせなかったのはサイトウの魔法の力が大きかったなどくらい騎士の皆は実感している。」
「城砦中に張り巡らされた罠に、侵入経路の制限、こちらの戦力を削ぐために負傷させた者たちを見せ足止めをさせたりしていただろう?」
「まぁ、出来ることはしたつもりだけど。」
「それに事前にこちらにフィアの特徴などの情報を与えておき、戦場でも攪乱にも使っていた。騎士達から終わった後の報告を全部聞いたぞ?」
「あ~。あのフィア人形か。役に立ったんだな。」
「勿論アヴァロや他の皆が守ったのも大きい。しかしこちらが数で勝っていたのに思ったより先に進めなかったのは間違いなくサイトウの罠を警戒していたからであろう。」
「一応そうなってほしいと思って仕掛けたからな。」
「最後は私が直接行こうとしていたのにまんまと罠に嵌められたよ……。自分が嫌になるぞ全く。」
いつもの凛とした雰囲気ではなく少し気の抜けた空気でため息を吐く。
「あれはキスニルさんを自由にさせたら逆転される可能性があったからだ。一番の不確定要素を確実に自由にさせないために頑張っただけ。」
最後のキスニルさんはこちらが想像していた以上の実力だった。あれが動き回るとか恐怖でしかない。
「実際私は最後まで君を追ってしまった事だし……そちらの作戦勝ちってことだな。」
「結果的にはそうなったな。頑張った甲斐があったよ。」
「君はてっきり戦えないから水精が前に出ると思っていたんだが、いつの間に魔法などを使える様になったんだ?」
「ちょっと前だな。イオルとミケユが仲間になった辺りだ。」
「そうなのか?二人とも。」
「はい、そうですね。前に私が誘拐された時に助けに来て貰って……ちゃんと使える様になったのはその時が初めてだと思います。」
「それまではマッサージにしか使えなかったしなぁ……。」
「あの時の魔法は凄かった。上級悪魔を一撃で倒した。」
「だったね、余波で洞窟が崩れかけた時は焦りましたが……。」
楽しそうに思い出している二人を見ているとキスニルさんが隣で驚愕の表情をしていた。
「上級悪魔を、一撃で……?」
「ですね。フィアさんが危ないって大声で言うのを聞いて咄嗟に避けたら、大きな電撃の魔法がサイトウさんから……。」
「あーあー。あれは限界まで振り絞った攻撃だったから。同じのを撃てと言われても難しい奴だから。」
「しかし、撃とうと思えば出来るのだろ……?」
「……命の危機となればするかもしれない。」
「その様な強力な魔法も隠していたとはな。」
「あれはちょっと特殊なやり方で出来ただけだから。気にしないでくれ。」
人間を止める方向に傾いてしまうのであのようなやり方は御免だ。
「しかしその相手が今度は味方なのだ。心強い。」
「それはこっち側の台詞だけどな。」
防衛戦ではキスニルさんを倒すのは難しいと判断して逃げに徹した部分もあるからなぁ。
イオルの時もそうだったが、敵だった人が仲間になるなんてパターンが二度も続いているなぁと思う。普通ならありえないんだけど。
そんなことを考えながら、宴会で防衛戦での話に花を咲かせていった。
宴会です。次でラストに出来そうです。