よくある、スカウト失敗したトレーナーの話   作:ヒメノリ

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もう何回書いたか分かりませんが、誤字報告や感想にいつも作品と私共々助かっています。
改めていつも閲覧ありがとうございます。


新生活には思いがけない出会いが付き物

納豆、焼き鮭、お米、湯気を立ててるお味噌汁。

日本の朝食とは、と聞かれて最も先に思いつくような献立の食事が私の前には広がっていた。

 

時刻は7時を少し過ぎたあたり。もう既に多くのウマ娘達で賑わいを見せているカフェテリアにて、私は1人箸を手にして朝食を食べていた。

 

まだ完全に起きていない身体を起こすべく、味噌汁を喉なら通してその確かな熱さに意識を覚醒させていく。

 

久しく食べていなかった好きなものを選べる食事に僅かに胸が踊っているのを理解する。

 

別に特別喜ぶような事では無いのだろうが、最近はトレーナーお手製の完全指定の料理ばかりを食べていたため、朝から自分でメニューを決めるという行動に感動をした自分が数分前には居たのだ。

 

ここ暫くはトレーナーの作った食事ばかりを食べていたからか。

 

いや、別にトレーナーの料理が特別不味いとか、そういう訳では無い。

指導として必要なレベルの栄養管理として最低限の調理を修めたと言うトレーナーだが、以前クリスマスにも口にした事があったのだが、料理の出来で言えば普通にお店でも出せるレベルのものである。

 

トレーナーの性格からさて謙遜とかでなく本気で自分の料理が最低限レベルと考えているのだろうが、どうせ本人に言っても、「ルドルフのトレーナーになるために〜」とか何とか言うのだろう。

 

私のトレーナーはシンボリ信者なのだ。

 

なぜトレーナーになったのかを問えば、シンボリと。

昔は何をして居たのか過去を尋ねれば、ルドルフと。

今は何をしているのかを聞けば、敵性情報(シンボリルドルフ)の観察と。

 

自分の担当を差し置くどころか、こっぴどくフラれたウマ娘の名を何度も口にしてる様は、控えめに言っても気持ち悪い位だが、それを本人に言うと表情には出さないが割と本気で傷つくし、そんなトレーナーだから逆スカウトなんて行為に走ったのだと、今となっては気にする事では無くなっていた。

 

まぁ、最近少し、ほんの少しだけ気に入らない節はあるが、今は関係の無い事だ。

 

そしてシンボリルドルフに夢中なトレーナーがそんな大好きなシンボリルドルフに勝つため、今は様々な方法で私と共に奮闘中なのである。

 

その一環として、昨日までの冬休みを活用して1週間を使っての集中トレーニングを行っていた。

 

事前に本人から聞かされていた通り、綿密なスケジュールの元組まれた隙間の無い私を痛めつける専用のトレーニングであった。

 

本当に、乙女の尊厳なんて物は1日目の練習が終わった辺りで崩れた。

激しいトレーニングでもう歩くのも億劫になりそうな私に対し、すかさず独自の検診とマッサージにより私のデータと疲労を抜き取る。

 

その後、用意された食事をペースまで管理された状態で済ませる。

これが何気に一番キツかった。食事で手順を明確に決められるなんて、自分には縁がない事と思っていたが、1口終える度に、

 

「次、スープ。」

 

と、淡々とした口調のトレーナーに指示されるのは、なんかこう、意志を剥奪されたようで食べ進めてく度に、「あれ?私って何してるんだっけ?」と言う虚無感が凄かった。

 

しかも、そこまでして心身共に疲れきってるはずなのに次の日には何事も無かった様に疲労が消えてる自分が恐ろしくてたまらなかった。

 

そんなこんなトレーナーの謎技術と計画の元行われたトレーニングによる体より心、心より体と繰り返される苦痛のループも、遂には終わったのだった。

 

自分の意思で選択して過ごせる日常の有難さを口に放った白米と同じく噛み締めていると、私が1人座る席の隣の隣、つまり、一席空けて2人組のウマ娘が手に食事の乗ったトレーを持ちながら腰掛けたのだった。

 

片方は背の高く、右耳につけた赤いリボンが特徴的なウマ娘。もう一方は比べて少し背の低い、青鹿毛のウマ娘であった。

 

特に意識してる訳では無いが、私は1人で居ることが多い。前まで、中央に来る前は仲の良い友達も居たのだが…ちょっと前に大きな喧嘩をして以来、何となくお互いに話せてない。

 

これが唯のクラスメイトだったり、接点があまり無かったりしたらそこまで気にする事でも無いのかもしれないが、喧嘩をした友達は現在進行形で同室だし、去年まで同じクラスであった。

 

そう思い返すと、私の青春は寂しいのかもしれない。意図して他の生徒達と接点を持たない様にしてる訳では無いが、ここ最近はあまりの忙しさに友達と遊びに出掛けるなんて事は出来てなかった。

今年は更に忙しくなるだろうし…せめて同室の娘とはもう一度仲良くしたい。

 

「ねぇねぇ、新しいクラス何処にした?」

 

「あー、私?トレーナーとも話し合ったんだけど、結局2ーBにする事にした。言ってないっけ?」

 

聞かれたのは私ではなく、先程腰掛けた2人組のウマ娘達。

どうやら今日からのクラス替えについて話してるらしい。

もう随分身を剥がれた鮭を箸で取りながら、内容が少し気になったため会話に耳を澄ませる。

 

「2ーB?私は2ーCにしたよ。中長距離。」

 

「おおー、今年は2ーC多いって聞くし、大変になりそうだねぇ。」

 

ふむ、どうやら背の高いリボンのウマ娘は私と同じ2ーC選択者のようだ。だとしたら、後々会うことになるかもしれない。

 

クラス替え。彼女達の会話で改めて思い出したが、今日から去年と異なるクラスでの生活へと移行する。

その理由は単純に挑戦する距離やバ場に適した授業やトレーニングを行う為のクラス分けだ。

 

2ーAは短距離からマイルにかけて。

2ーBはマイルから中距離にかけて。

2ーCは中距離から長距離にかけてと言ったように、中央トレセン学園のカリキュラムでは2年からはクラス毎で異なるトレーニングを行う。

 

そのため、今日からは各々選択した教室での活動になり、それに伴って様々な手続きが要るのだが…。

 

「はぁ。」

 

注意を二人の会話から食事に戻して、一息ため息をつく。

私は、その手続きに必要な学生証をどこかへと置いてきてしまったらしい。

 

昨日散々探したのだが、終には見つからず結局そのまま今日を迎えてしまった。

まぁ、無くても新しく申請すれば割と何とかなるのだが。

 

何と申請には生徒会を挟む必要があるらしく、何となく現生徒会長に学生証の紛失を伝えるのが嫌で、出来れば見つけたかったが。

 

無いものを考えても仕方が無いと、私は割り切る事にしたのだ。

別にそこまで会うのが嫌という訳では無いし、諦めて今日の放課後にでも生徒会に問い合わせることにしよう。

 

それから、もうほとんど食べる部分の無い食事を片付けるべく、空になった皿やお椀を乗せたトレーを持ちながら席を立つ。

 

食堂の奥のカウンターにトレーの返却をしに向かった時、まだ食事をしてる2人組のウマ娘の後ろを通る。

 

「でもさ、2ーCってあの人居たよね。あー、名前が出て来ない。」

 

「どんな特徴?私も知ってるかなあ。」

 

どうやら背の高い方のウマ娘のクラスメイト、つまりこれから私のクラスメイトとなる誰かについて話してるようだった。

 

まあ、誰がどのクラスに居るを言われても私にはそれが誰かが分からないのだろうが。

聞き流して早く片付けようとその場を離れようとした時だった。

 

「お!思い出した。確か」

 

私はそのウマ娘の名前に予想を覆された。

 

「シンボリルドルフさんだ!」

 

「え?」

 

「え?」「え?」

 

聞き知った名前に私が思わず声を上げると、その声に反応してか、二人はこちらを振り返り同じく声を出した。

 

わ、忘れてた…。

中長距離、2ーCのクラスという事は、今年から私…。

 

「アイツと同じクラスメイトなの…?」

 

一方的なライバル視をし始めてから直接会うのを避けてたそのウマ娘は、唐突に私の日常に割って入ってくるらしい。

 

「…いや、知らないけど…。」

 

突然見ず知らずの相手に名称アイツのウマ娘について聞かれたそのウマ娘は困惑した表情で私に答えた。

 

 

ーーー

 

「はえー、そのシンボリルドルフさん?だっけ、を目標としてから会うのを控えてたけど、今日になって同じクラスになる事に気づいたと。」

 

「まあ、そんな所ね。」

 

正確にはもうちょっと複雑な理由があって顔を合わせ辛いのだが。

しかし、その事情を知ってるのは私とトレーナー位だし、シンボリルドルフからしてもよく分からんウマ娘から一方的に因縁をつけられてると言うよく分からない状況だ。

 

なんて、ついさっき食堂であったウマ娘と並び歩きながら、私は2ーCの教室へと向かっていた。

 

あれからよく分からない質問をした私は自分の状況を説明する事になった。

ついでに、二人のウマ娘とも連絡先を交換した。取り敢えず、友達の少ない状況を解決出来た事を喜ぶ事とした。

 

その後行き先が同じという事で、耳に赤いリボンをつけた私より少し背の高いウマ娘と一緒に教室まで行く事にした。

 

慣れないクラスで早速知り合いを作れたのは良い事としても、アイツ、シンボリルドルフが同じクラスメイトである事は正に青天の霹靂であった。

 

困ることは無いが何となく居づらさを感じてしまう。飛躍した表現ではあるが、親友の仇と同じクラスで仲良く授業を受ける必要があるのだ。

 

横を歩くウマ娘にもそう伝えると彼女は少し可笑しそうに笑いながら答えた。

 

「あははは、それは確かに居づらいかもねー。いやぁ、それにしてももう既にそんな絶対に負けれないライバルを目標にしてるなんて、ちょっとカッコイイね!」

 

少しキラキラした感じの表情でその様に伝えてきた彼女に、言葉が詰まる。

いや、そんな憧れられるような事では無い気がするが。

 

確かに、まだ同じレースで競うかも分からないウマ娘をライバル視していたと言うのは少し、いや結構珍しいのかもしれないが、別にまだ直接レースで挑んだ訳では無いのた。

 

まあ、それでも"カッコイイ"と言われて悪い気はしないので否定はしないで曖昧に頷く。

 

「う、うん。そうね。」

 

「シンボリルドルフさんだっけ。確か生徒会長だよね?話を聞く限り直接話したりとかはまだあんま無いんだよね?だったらそんなに気にする事もないんじゃない?」

 

その言葉に私は確かにと頷く。

先程も言ったが、此方からの一方通行な感情に過ぎない。シンボリルドルフが同じく意識してるとも思えないし、気に負いすぎる必要は無いのだろう。

 

「それもそうね。直接因縁付けられるような事が起きなきゃ大丈夫かしら?」

 

大丈夫でしょ。と気楽に笑う彼女に私の気持ちも楽になる。

そうだ。何も意識し過ぎる事は無い。私が勝つのはレース場の上だけで構わない。

 

それにシンボリルドルフが私の付近の席になる事も噂に聞く限り品行方正で成績優秀な生徒会長が私に喧嘩を売る訳も無いだろう。

 

そんな食堂よりも軽くなった心持ちで歩いてると「2ーC」と書かれた教室の名札が目に入る。

私達は教室に入ると自分達の席の場所を確認するべく席の並びが書かれた紙を眺めるのだった。

 

左上から見て、二人づつ並んで五十音順で席が決められてる様だった。

 

1列飛ばして私の2列目の中央の列を見ても私の名前が無く、どうやら名前の並び的に私は教室の窓側、それも1番後ろの席らしい。

 

隣で席を確認する彼女からは遠く、クラスメイト第1号とは離れてしまいそうだ。

そんな事を考えながら私は自分名前を確認した後、他はどうでも良かったので早速席に行こうとする。

 

「あ。」

 

不意に横の彼女が声を上げた。何か自分の席に不備でもあったのだろうか。

目が悪いのに席が後ろとか…ウマ娘ではあまり聞かない話だが。

 

「じゃ、私自分の席行くわね。今後もよろしく。」

 

「え、あよ、よろしくね!」

 

何か言いたげに彼女の手が私に向けて挙動不審に動いていたが、本当に何があったのだろうか。

 

気になりつつも、彼女もそこまで気にした様子は無く自分の席へと向かってくのを確認して、私も自分の席で始業まで過ごすことした。

 

席に座るとそれなりに早く来たのか、周りの席に他のウマ娘は居なかった。

 

「ふあぁ…。」

 

座った途端、私は思わず欠伸をする。

 

窓側ということもあって陽の光が当たるこの席。昨日は遅くまで学生証を探していたからあまり寝れていなく、眠気が襲ってきた。

 

時計を見て始業まで時間がまだある事を確認して少し仮眠をする事にした。

まぁ、時間になったら隣の席の人が起こしてくれるでしょう。

 

チラリと誰も居ない隣の席を見てから私は両手を枕にするようにして頭を机の上に置くと、目を閉じた。

 

ぼうっとしていく頭だが仮眠であるため完全に意識が閉じる事は無い。

 

目を瞑った事で今日の朝からの出来事が自然と振り返られた。

朝食、2人組のウマ娘、気づいた衝撃の事実、新しい友達、教室、席…。

 

…何か見落としてるような。

思い出してて記憶の隙間に何かが落ちてしまってる感覚に陥る。

 

別に気にするような事でも無い気がするが、本能が何かを忘れてると訴えてくる。

考えてみても何か思い出せず、時間と共に少しづつ教室内のザワついた声が大きくなっていく。

 

そろそろ皆教室に集まる頃だろうか。

しかしまだ若干眠いため自分から起きようとはせず、限界までこの体勢を続けることを決めた。

 

まぁ、もう少し付近に人数も増えれば分かるだろうし、それから起きるか。

周りが打ち解けてく中、このまま会話無しと言うのは寂しいし、次に自分の近くに誰かが席に着いたら起きて挨拶をする事を決心する。

 

コツ、コツ、コツ。

歩いてるこの教室の生徒達の足音が小さく響く中、1つの足音のリズムが此方、窓際の教室の隅へと向かうよう大きくなってる事に気づく。

 

む。この足音の音源が記念すべきクラスメイト1号…では無く2号かしら。

仮眠の体勢のまま待ってると、その足音は確実に大きくなっていく。

 

どうやら目覚めの時らしい。

足音が横で止まり、鞄を置いたりする準備の音が耳に入る。

 

「む。君は…。」

 

横から少し低い、と言うか同年代にしては落ち着いた声色の声が聞こえる。

 

どうやら私の姿を見て困惑してるようだ。

まあ、教室に入ってきたら登校初日からガン寝してる生徒が自分の隣の席に居るのだ。

 

それは、困惑もするだろう。

このまま放っとくのもおかしな話だし、私は閉じていた瞳を開けると、睡眠体制を解除して首を起こす。

 

「あー、ごめんなさいね。ちょっと昨日遅くて。改めて初めまして、私の事、は…。」

 

先ずは寝ていた理由を話してから、それから挨拶をして綺麗に新教室デビューを迎えようとしていた私のスタートダッシュは不発に終わった。

 

「な、な、な、なんで。」

 

思いもよらない目の前の情報に頭がロードに時間がかかってるらしい。

 

「…すまない、先に名乗るべきだったかな?」

 

そこには、今私が最も話しかけづらいウマ娘が居た。

 

人差し指を顔に向けてフリーズする私とは対照的に、悠然と立ちながらこちらを見るソイツは名乗った

 

「今日からこのクラス、2ーCの生徒となったシンボリルドルフだ。前途洋洋、これからよろしく頼むよ。」

 

まるでこちらの事情を知らないと言った態度で朗らかな笑みを浮かべる皇帝(シンボリルドルフ)がそこには居た。




▫席の並びイメージ

秋田 秋山 │道│

飯田 海野 │道│


シンボリルドルフ 私│道│

↑こんな感じ。

投稿時間は何時がいい?

  • 朝(6:00〜8:00)
  • 昼(12:00〜14:00)
  • 夕方(16:00〜18:00)
  • 夜(19:00〜21:00)
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