よくある、スカウト失敗したトレーナーの話 作:ヒメノリ
「…。」
「…。」
あれから一分経ち、私と隣の席の間には非常に気まずい空気が流れていた。
顔を合わせない様に目を逸らした先には、仲良さげに話し合う他のクラスメイト達が目に映った。
こんなはずではなかった。
左手を支えにして掌の上に顎を乗せたまま、目だけ横を見てみる。
視界の先には、心の中で後悔してる私の事なんて知らないであろうシンボリルドルフが此方を見ていた。
「…何よ。」
ずっと見られてのだろうか。見られてる事を自覚して黙っておくのもおかしい話だ。
私は沈黙を破り、シンボリルドルフに話しかけた。
「いや、私は名乗ったが君からの返事が無いなと…。」
隣の席になる者とは自己紹介をするのがセオリーと聞いたんだが、と顎に手を当てて、誰から聞いたのかも分からない論理を展開するシンボリルドルフ。
もしかしてこの1分間私からの返事待ちだったの?
「あっそ。…私、見てたら分かるかもしれないけど、眠いから。」
ずっとむず痒いのに手が届かない、そんなチグハグなままの感情は言葉にも影響する。
どうにも仲良くする気にはなれなかった。話してみるとやはりと言うか、真面目な堅物の要素を感じた。
もう真面目な堅物は1人で手一杯なのだ。私は自分のトレーナーの姿とシンボリルドルフを照らし合わせる。
昔から一緒に過ごしたと話していたが…どうやって会話をしていたのだろうか。
この2人とか、一言も話が続くとは思えないのだが、特にトレーナー。
真面目な奴同士案外話が合うのだろうか。
兎に角、私にコイツの相手は重役すぎる。前から思っていたが私はシンボリルドルフとは多分相性が悪いのだ。
両腕を枕に再び机の上で俯く私とずっと返事待ちなシンボリルドルフとの間には不自然な沈黙が流れる。
「…まだ始業まで時間があるみたいだね。」
「…。」
あー、眠いなぁー。
「…今日は目立った授業も無く、オリエンテーションで終わる予定らしいね。」
「……。」
…とってもねむーい。
「…今日は天気も良く…」
「いや、もういい、いいわ。分かったから、アンタがどうしようもなく会話下手くそなのは分かったから。」
いよいよ天気の話をしだしたシンボリルドルフに耐え切れなくなった私は顔を上げた。
天気って、本当に話す事無い時の話題だからね。
「む、そこまで言う事も…いや、そもそも君が私の話に応じてくれて無かったではないか。」
「ぐっ…。」
痛いところを突かれた。いや、客観的に見たら初対面のクラスメイトからの挨拶を無視し続ける嫌なやつだし。
確かに前情報が変に作用して、私の中にはシンボリルドルフに対する苦手意識が芽生えていたのかもしれない。
1度コイツに対する偏見を自分の中から取り除いてみることにした。
目を瞑り深呼吸をする事で意識を切り替える。
そうだ、今日から私は2ーCの生徒。横に座るのは品行方正で誰もが憧れる素晴らしい生徒会長様。
そしてそんな生徒会長様と隣の席になれた私は幸運。
なるべく明るい気持ちで挑もうと心の中で鼓舞をする。
いざ勝負と私は目を開けてシンボリルドルフの顔を真っ直ぐに見る。
弧を描くような白が鹿毛の髪の毛の上に浮かび上がっていた。
「…ほう。」
私がよろしくと声を出そうとする前にシンボリルドルフが呟いた。
何が合点がいったのか、ニヤリと笑みを零すと声を洩らした。
「よろ…やっぱやめた。」
笑い方がムカついたので、私は再び顔を俯かせて耳を倒す事で拒否の態度を示した。
ダメだ、やっぱり慣れないことはするものじゃない。
「おっと、気を悪くしたのならすまなかったね。君の顔が少し興味深かったもので。」
…やっぱりコイツ私と仲良くする気とかないでしょ。
さっきから一方的に私が無視をしていた様に見えたかもしれないがそれは勘違いだ。シンボリルドルフが的確に私に嫌われに来てるのだ。
何が品行方正の素晴らしい生徒会長様だ。ただ顔がちょっと良いだけの性格の悪い奴ではないか。
「お気に召したようで何よりね。」
机に声が反響してくぐもった様な音になった。皮肉を込めてそう伝えると、シンボリルドルフは変わらぬ口調で言葉を続けた。
「おや、これは少し怒らせてしまったかな。」
最初から結構怒ってるわよ。
声にするのも面倒くさくて無言で耳を絞る。
「度重ねてすまなかった。君の顔が面白いとの意は無かったのだが、少々言葉不足だったらしい。」
フワリと何かが動いた気配を感じ、私は机に伏せたまま目を開き横目で確認する。
気配の正体はシンボリルドルフが頭を下げた事で垂れた髪の様だった。
「…で、結局なんで笑ったのよ。私の顔見て。」
ここまで謝られては私に立つ瀬は無かった。一応は許す事にしてシンボリルドルフとの会話を続行させる。
私の言葉に顔を上げたシンボリルドルフは先程とは違う、会った時と同じ様な朗らかな笑みを浮かべた。
「いや、君はそんな表情をするのだとね。」
表情。そんなに以外な表情をしてたろうか。トレーナー程でないが私は顔には出にくい性質だと思ってる。と言うより目つきが悪いのかいつも不機嫌だと思われてる節がある。
そもそもシンボリルドルフと直接会ったのも話したのも今日が初めてだ。
以外も何もコイツからしたら私の表情が全て新鮮な筈だが、一体どこに興味を持ったのか。
「表情って、どんなのよ。」
「ふむ。」
聞くとシンボリルドルフは少し考え込むように視線を落とした。片手で顎に触れて少し考えた後目線を上げこちら見た。
「例えるなら勝負だろうか、いや、挑戦に近いかもしれないな。」
そう言ってシンボリルドルフは人差し指を立てながら話を始める。
「挑戦?」
勿体ぶったような話に腹が立つと同時に興味も惹かれた。シンボリルドルフは私の顔を挑戦と例えたが、一体全体どう言う感性をしているのか。
「ああ、君が伏せていた顔をこちらに向けた時、その表情がまるで何かに立ち向かう時の様に見えたんだ。」
顔を向けた時、私が意を決してコイツに挨拶をしようとした時だろうか。
しかし、そんな遠回しな表現をされても分かりづらくなるだけだし、理解出来なかった。
「より一層意味が分からないわ。何で私の立ち向かう表情を見てアンタが喜ぶのよ。」
その一点に尽きた。さっきから爽やかな笑顔で話してるシンボリルドルフの表情を見ても私は全く面白くないのだが。それが何でシンボリルドルフからすると興味に値するのか。
「ほら、私達はこのクラスの生徒だろう。とすれば、君がこれから挑むレースも予想出来る。」
「…それで?」
そう言いながら立てていた人差し指を下に向け、教室の床を指す。
私はその指先を眺めながら続きを促した。
「ならば、同じターフに立つ事もあるだろう。そんな競争相手の表情が一瞬…まるで
その言葉に私は自分の耳がピクリと動いたのが分かった。頭の中で有り得ない考えが過ぎる。
コイツ、私の事知ってて話し掛けてる?
有り得ないと考えていても、その言葉の裏に意図がある様に思えて仕方なかった。
私の脳裏にはトレーナーが毎日書き込み続けてる赤のファイルの姿があった。
無言で1人悩む私に対し、シンボリルドルフが変わらぬトーンで話を続ける。
「それにそんな表情を…
「…はぁー。」
もう隠す気がないのだろう。私は大きくため息をついてシンボリルドルフの方を睨む。
「で、いつから知ってたのよ。」
「私の所属するチームに君のトレーナーについて詳しい人物が居てね。」
最初からトレーナー経由で全てバレていたらしい。
そう考えると自分をスカウトしたトレーナーが断った次の日からやたら自分の走りを観察しだしたのだ。
シンボリルドルフからしてみれば気になって仕方ないだろうし、それはトレーナーの行動の理由くらい調べる。
なんだか、今までわざわざシンボリルドルフとの対面を避けていた自分がアホらしく思えてきた。
「あっそ…それでわざわざ自分が蹴ったトレーナーの担当ウマ娘に挨拶をする気分は如何かしら?」
もう自分でも露骨に眉をひそめてるのが分かる。
気分は苦手な食べ物が向こうの方から意気揚々と近づいてきたと言ったところか。
「何故君がそれを…?おかしい、あれは昔の事だし、
「アンタは何言ってんのよ。」
余裕ぶった態度を崩さなかったシンボリルドルフが急に何かを思い出したかのように焦りだした。
蹴るって、まさか物理的に蹴る事を連想したのだろうか。
てかそれをって、本当に蹴った事がある…?
いや、そんな訳ないか。
「こほん…突然取り乱してしまったな。さっきの事は忘れてくれると嬉しい。それで、私を目的とする君に会った気分だったかな?」
1人勝手に取り乱した後、シンボリルドルフは小さく咳払いをして話を切り替えた。
「率直に言って、少し嬉しいかな。」
その言葉に私が全身の肌が粟立つのが感じられた。
既に見ているシンボリルドルフの顔をじっとみつめる。
「やはり勝ちを争い合う敵同士でもありながらお互いに高め合える相手と言うものは大切なものだ。それにこれからレースと言う舞台を「嘘。」共に駆け…ふむ、何か間違えたかな?」
顔から前へ、目線をシンボリルドルフから外して正面を見る。
もう既に何名かグループが出来てるのか、自分の席を離れて集まり楽しそうに笑い合う集団が目に入った。
「顔。そんな事思っても無いって出てるから。」
先程から話すシンボリルドルフには笑みがあった。別にそれ自体に悪意や虚偽を感じることは無かった。
しかし、そこには本心が一切無いように見えた。
何故か動揺していた時と今笑いながら
「…。」
「…。」
また最初の時の様に沈黙が二人の間に立ち上がる。
そしてこれまた最初と同じ様に私はチラと横のシンボリルドルフを見る。
今度は無表情と言うより、真顔と言った所だろうか。何故か圧を感じてしまい少し体が強ばる。
「…驚いた。ボディランゲージには気を使ってたつもりだったんだが。」
きっとこれがシンボリルドルフの常体なのだろう。
トーンにも、口調にも変化が無いのにより一層低くなったかのように聞こえる声。
普段からトレーナーが『皇帝』と称する理由が分かった。どうにも普段は隠してるようだがこの雰囲気に親和性を抱く事は出来そうになかった。
「普段からポーカーフェイスの代名詞みたいな表情筋の持ち主が近くにいるからかしら。」
言い終える頃だろうか。より一層感じていた圧が重量を増した様にのしかかってきた。
私は一息小さく深呼吸してから再びシンボリルドルフの顔を睨むように見る。
「じゃ、もう一度聞くわ。わざわざ自分が蹴ったトレーナーの担当ウマ娘に
その言葉にシンボリルドルフはゆっくりと口を開いて答えた。
「そうだな…特に何も無いだろうか。」
「は?」
重苦しい空気を纏うシンボリルドルフがどんな言葉を告げるかと待ち構えていると、考えてなかった返答に声が出た。
何も、無い。シンボリルドルフは、コイツは確かにそう言ったはずだ。頭の中で言葉が反芻され、山彦の如くゆっくりと奥に消えていく。
私は確かにこの言葉に衝撃を受けたのだ。
「確かに事前に聞いて通り、君はトレーナー君…失礼、向窓トレーナーの指導のもと驚異的に成長してると、実際にレースも見て実感したよ。」
しかし、とシンボリルドルフが息をつぐように言葉を切った。
「実際対面してみても…大して脅威を感じ無いと言った所だろうか。」
その言葉に私は目を丸めてシンボリルドルフをみつめる。机に上に置かれていた両手は握り締められていて、それが自分の力によるものだと気づいた。
「何より向窓トレーナーの育てた担当だ。少しは因縁めいたものを感じると思ったが…やはりとっくに縁は切れていたらしい。」
そう告げるとそれが説明の最後だったのか言葉の続きは紡がれず、沈黙が場を包み出した。
しかし、今度はそんな事はそんな沈黙は気にならなかった。未だに頭の中をシンボリルドルフの言葉が彷徨い続けてるからだ。
握り締められた拳、絞られた耳、今にも立っていたら床を擦る様に動き出していたであろう脚。
ああ、自分は今怒りを感じてるのだ。何故か衝動に襲われる訳でも無く冷静に理解する事が出来た。
「そう。」
短く返事をすると私は席を立ち上がりシンボリルドルフに向き合う。
座っているシンボリルドルフは立ち上がった事で目線を少し下げる先に顔の位置があった。
「?」
突然の簡素な返事からの立ち上がりにシンボリルドルフは疑問を抱いたのだろう。
もっと他の言葉、それこそ罵詈雑言や逆にこの気にあてられて泣き出すとか、模範的な回答を想像してたのかもしれない。
私は右手を開き振りかぶるように頭の後ろに下げた後、その想像を打ち砕く様にシンボリルドルフの顔めがけ手を振り抜いた。
バシンっ…和やかな空気の教室に不相応な
私が振り抜いた掌の方向へ顔を向けるシンボリルドルフが驚いた様に口を小さく開いていた。
「…。」
「じゃ、これで因縁がついたってことで。」
そんなマヌケな顔をして此方を見るシンボリルドルフに私はそう言った。
「おーっす、ちょっと早いけど全員席つけー。今日からこの2ーCの担当になった…え、皆どうしたの。何かあった?」
ガラガラと音を立てて開いた扉から教師と思われる女性が挨拶をして教壇へと立ち、クラスの空気の異変に気づく。
シンボリルドルフの言葉に夢中になり気にならなかったが、どうやら私の行動はかなり目立ってしまったようでクラス中のほぼ全員が教室の左隅、つまり私達の方を見ていた。
…あれ?私って結構不味いことしてる?
怒りに我を忘れるとはこの事なのか。よくよく考えると私はこの学園の生徒会長に暴力をふるったのでは?
周りの奇異を見る視線の意味をようやく理解した所で同時に状況の悪さにも気づいた。
どうにか言い訳を、いや実際にビンタは終わってしまったわけだし、もう誤魔化しようも無いのだが。
私が突然訪れたピンチに宛もなく視線を彷徨わせてるとその先に1人のウマ娘が映る。
耳に赤いリボンをつけたそのウマ娘は私の視線に気づいたのかハッとさせた後教壇の方と私を3往復くらい見てから口を開いた。
「あ、あー!先生!ちょっと私とこの子頭が悪いみたいです!保健室、保健室いってきまーす!!」
少し離れた位置から今朝出会った友達が声を大きくして私の方を指さしていた。
「あ、あー、ちょっと具合がー。」
訪れた一筋の希望に便乗するように私も頭を押さえて先生へと体調の悪さを訴えた。
「そ、そうか。いや、体調が悪いなら保健室に行ってもらって構わないけど…。」
「「ありがとうございますっ!!」」
私と友達は声を合わせて礼を言うと、逃げる様に2人で教室の扉へと向かった。
ーーー
た、助かった。
何も解決しちゃいないがあのまま多数の観衆の中アイツを叩いた理由を説明させられるよりかは良いだろう。
「いや、本当にありがとう。」
そそくさと保健室のある方へと2人で歩きながら礼を告げる。
「別に良いけどさ、何があったの?私からしたら急にシンボリルドルフさんに手を上げてるし。」
「うっ。いや、本当にごめん。少し言い合いというか、怒りが溢れちゃって…。」
私の事情でホームルームを抜け出させ巻き込んでしまった事に申し訳無く思ってると、後ろから声がかかった。
「おい、大丈夫か。」
聞き慣れた声、しかしここにいる訳もない声に足を止め振り返る。
そこには、いつも通りスーツ姿のトレーナーが立っていた。
「あ、トレーナー。」
「え、トレーナー?」
私が思わず声を出すと、それに続くように隣の友達が振り返る。
私と友達を交互に見た後、トレーナーは不思議そうに話した。
「ああ、君に渡す物があって教室に来たんだが…どうやら大変な状況にあったみたいだな。」
「あ、あー、見てたんだ。あれ。」
ま、まさかトレーナーに見られてるとは…。顔が熱くなってるのを感じる。自分の失態を恥じていると、隣から困惑した声が聞こえた。
「えーと、トレーナー?さん?」
私とトレーナーを見て首を傾げながら聞いてきた。
あまりの怒涛な展開に忘れてたが、この2人は初対面である。私は2人に向けて説明をする。
「えっと、この人が朝話した私のトレーナー。ちょっと色々あって契約してるだけど、それはまた今度で、この娘は今朝食堂で会った同じクラスの友達。」
身振り手振りで2人にそれぞれの関係を簡潔に説明する。ある程度納得をしてもらった辺りで横の娘から声を掛けられる。
「えーと、つまりこの人はあなたのトレーナーさんで、たまたまさっきの現場を目撃したって事?」
状況としては概ねあってるため、私とトレーナーは小さく頷いて答える。
「じゃさ、色々大変だと思うけど私一旦教室戻ってもいい?状況、悪くならないように色々フォローしとくからさ。」
願っても無い提案に私は再び感謝の念を抱く。なんか迷惑かけてばかりだな、私。
「ああ、すまなかったな。これからも彼女の事をよろしく頼む。」
「あはは、何かこの娘のお父さんみたいなセリフだね。ほいじゃーねー!」
そう言い残すと友達は颯爽と教室へと戻るため走り出した。2人になった廊下の真ん中で顔を見合わせる私とトレーナー。
「…で、何でお父さんは私の所に?ていうか教室、変わったしどうやって私の場所突き止めたの?」
「お父さんは止めてくれ…さっきも言ったが、」
私のお父さん発言にトレーナーが顔を強ばらせて言った。その後、ズボンのポケットから何かのカードを取り出して私に見せてきた。
「あ、これ私の学生証!あんなに探しても見つからなかったのに…。」
昨日からの念願であった私の名前と写真の載ったトレセン学園の学生証が私の手に渡った。
「トレーナー室に置いてあったぞ。何かの拍子に忘れてったのだろう。届ける為にたづな女史に頼んで君のクラスを聞いて、今日ここまで来た訳だが…そこには想像を絶する光景があった訳だな。」
想像を絶する光景…もしかしなくても私とシンボリルドルフの事だろう。トレーナーからしたら何年も共に過ごしたシンボリルドルフを打つ自分の担当と言う事だ。
「なんか…色々ごめん。」
思いもよらないところでトレーナーにも不快な思いをさせていたのかもしれないと、改めて自分自身が申し訳なく思う。
トレーナーに対して頭を下げて下を俯く。
少しして、ポンと肩にトレーナーの手が当たる感触がした。
顔を上げ目線を上げて顔を見ると、普段と変わらぬ沈んだ目の色をしたトレーナーが居た。
「いや、別に大して気にしてないが。君が怪我をしてないか心配でな、蹴り跡とか残ってたら本当に保健室に世話にならないとな。」
全然気にしてないと言うトレーナーは自分の背中を親指で指しながらそう言った。
「蹴り跡…いや、手を上げたのは私からだけよ。遠回しに眼中に無いって言われちゃってね。ムカついたから一発入れちゃったわ。」
何故か背中の蹴り跡について詳しく知ってるトレーナーに触れるのはやめておいた。
私の話を聞いたトレーナーは顎に手を当てて少し考える体勢を取った。
…少しシンボリルドルフに似てると思った事も黙っておこう。何かムカつくし。
「眼中に無いか、まぁそうだろうな。それは良いにしても、実際ルドルフに危害を与えてしまったしな。…先輩に会ったら何か言われそうだな…。」
何故か遠い目をして呟くトレーナーの言葉に私は少し引っかかった。
「良いにしてもって…私それのせいでここまで苦労したんだけど。」
「ん?いや今のままで勝てないのは事実だしな。それより同じクラスメイトなら謝罪位はしておくべきだろう。」
…ぐぬぬ。トレーナーはそう言いそうだと思ったけど。もうちょっと気遣いとか…いや、
「わ、分かったわ。ぐぬぬ…。」
思わず声にも漏れてしまった。
学生証を受け取った私は、特に保健室に行く理由も無いし、教室帰る事にした。
「それじゃあまた放課後に。ああ、それと。」
教室に向かい背を向ける私にトレーナーが話しかけた。
「
その言葉に私は自分の身体がピクリと動きを変えた。
今はまだ…ね。
別れる直前、私は振り返りトレーナーに一言告げる。
「ええ、これからも
トレーナーが僅かに驚いた後、少しだけ喜んだのが分かった。
少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。
ーーー
「えーと、シンボリルドルフさんにも非があったと…うーん、本人が言うなら間違いは無いと思うけど。」
「ええ、少し私も言い過ぎました。なので、あまり彼女を責めないで欲しい。先生だけでなく、他の皆にもお願いしたい。」
他のクラスメイト達や担任の先生に囲まれるようにして私は先程の経緯を説明していた。
しかし、彼女の評判を下げないよう、なるべく事実からは乖離するように変えて。
「まぁ、シンボリルドルフさんがいいなら。ほら、じゃあ皆、今度こそホームルーム始めるわよー。席つけー。」
先生の理解も得られ、皆が指示の元ワラワラと席につき始める。そんな中、この騒ぎの火種、もちろん私もだがもう1人のウマ娘が訪れた。
「あー…すんません、頭別に悪くありませんでした。席、戻りますね。」
そそくさとバツが悪そうに私の隣の席へと戻る彼女。周りをキョロキョロと見渡した後、やがて自分の席へと腰を下ろした。
ホームルーム活動として点呼が始まり、各ウマ娘の名前が呼ばれる中彼女をちらりと見る。
吊り目であるからか少し高圧的に見える彼女は何処か嬉しそうにも見えた。彼女を見てると、その後ろに見えてしまいそうで再び視線を正面に戻す。
彼女に叩かれた頬を触り、思い出す。
この道に、間違いは無い。
誰も踏み入る事を許さないし、それこそが
けれどもこの頬の痛みがを忘れることは出来そうに無かった。それは怒りにも、喜びにも似ていた。
投稿時間は何時がいい?
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朝(6:00〜8:00)
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昼(12:00〜14:00)
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夕方(16:00〜18:00)
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夜(19:00〜21:00)