よくある、スカウト失敗したトレーナーの話   作:ヒメノリ

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起源が良い日のこと

ただ、広い場所に居た。

広がる空は、どこまでも美しく、自然的で、どうも本物には思えなかった。

 

不自然な程切りそろえられた自然な芝も、周りの彩りを絶やさないための無意味な花たちにも。

 

あまり、興味がそそられなかった。

 

そんな人工の美しい風景の中、両親や、その他血の繋がりのある他人の後ろを三歩ほど離れながらついて行く。

 

まだ、この足では歩く一歩が、彼等に追いつくことは無かった。

 

だけど、その歩幅が合わせられる事など無く、適度に速度を上げては戻し、それを繰り返し一定のリズムと距離を保ちながら歩いていた。

 

ザッ、ザッ、ザッと、耳触りすら計算されたように、心地よい音が足元から聞こえる。

 

「はぁ。」

 

思わず、息を零す。

今、自分の前を歩くこの人達は、何を喜び、ここを歩いているのだろうか。

 

いや、それこそ彼等に喜びはあるのか。

 

普段から眉間に皺を寄せている父、冷たい瞳で角度を付けてこちらを見る母。

 

彼等が喜んでる姿を見たことはある。

しかし、何故か想像することは出来なかった。

 

単に、幼い頃から家族団欒やらからは遠い世界で生きていたからか。

 

顔を見ることが出来ない背中を追いながら、俺は思い出す。

今日は、どうやら俺の一族、向窓家と古くから関係のあるシンボリ家とやらに赴くらしい。

 

レースが嫌いだ。だけど、

 

昔から、トレーナーになる為に教育を受けて来た俺だ。

それ以前に、両親から嫌という程教えこまれてきた家の名前だ。

 

今の俺なら、この家の血統も、全て答えられるだろう。

尤も、それが何だと言う話だが。

 

一昨日、丁度外にも出歩けるようになって、それがわかってすぐにここを訪れるよう予定が組まれた。

 

しばらく歩き、息が上がってきた頃、少し遠くに家が見えてきた。

 

家、といっても想像しているものよりも大きく、館と形容した方が伝わりやすいかもしれない。

 

どうせなら、ここまでの道程を車にでも乗せてもらいたかったが、どうやらここら一帯の芝を崩さないよう、ここに来るまでは歩く必要があるらしい。

 

ウマ娘の名家、というのは本当らしい。

今更ながら、そう実感した。

 

自分の1歩が進む度、向かう家が大きくなっていくように錯覚する。

 

しかし、どうしてか陰鬱でならない。

理由は、なんだろうか。

 

今まで、自分を縛り付けてきたその正体だからか。

 

親からの愛情を奪ってきたその本体であるからか。

 

それとも、これからの自分が磔となる未来であるからか。

 

不意に、何処からか吹いてきた風が頬を撫でる。

どうでもいいくらい、細くて、でも力強い風だった。

 

あまりに広かった庭であったためか、今まで見逃してたらしい。

 

向かう目的地の家。その横から道が続くよう、そこはあった。

 

道の先は、自然を残してたまま、素人目に見ても走りやすいであろう形状に整えられた、簡易的なレース場だ。

 

しかし、ウマ娘がレースを行うには少し短すぎる位で、でも、一般的な家庭の感性からするとあまりに大きすぎる庭兼レース場に、彼女は居た。

 

吹く風の向こう側、使用人であろう何人かに見守られる中、小さな少女が駆ける姿が見かけられた。

 

俺は、その姿を忘れることは無いだろう。

 

早い走りだ、しかし、速いとは言えなかった。

それは当たり前の話だが、その少女がウマ娘としてはまだ幼く、現役のウマ娘達と比べてしまうと劣るからである。

 

そして、もう1つ。

そんな幼い少女にしてはとても早期の段階、早熟しているという事だろう。

 

「おお。」

 

その光景を見ていた、俺の前を歩いていた両親達も気づいたのだろう。小さく、感嘆の声をあげる。

 

きっと、彼等もその早さに驚いているのだ。

 

だが、そんな事も気にならない程に、俺の目は一点を見つめ続ける。

 

今、自分の前を駆け抜けた1人のウマ娘へと向けられる。

 

「何をしてる!」

 

先程まで、その走りを見て素晴らしいと一言漏らしていた誰かが、静止の意を伝えるべく、声をあげていた。

 

そして、その対象は紛れもなく自分に向けられていた。

 

気づくと、俺の足はその少女の元へと向かっていた。

歩くだけで上がっていた息は、足の加速に合わせてさらにそのテンポを上げる。

 

レース場としての区切りをつけるための低い柵を乗り越えようとして、大きく転げる。

 

ドテン、と音が鳴ったことで近くにいた親族らだけでなく、少女の周りを囲うようにして居た使用人達もこちらを見る。

 

乗り越えるのは無理と判断して、周りからの腫れ物を見るような、紛れ込んできた異物を訝しむような視線を無視し、柵の下をくぐり込む。

 

手を触れる芝の感触が伝わる。

その後、自分の目の前にその少女が映るまで、走り続ける。

 

「なに、この子?」

 

困惑する、声が周りから漏れ出す。

 

その少女を囲むようにしていた使用人達は、ヒソヒソと、しかし動揺が伝わる声量で話し出す。

 

後ろからは、聞き慣れた声がしていた。

きっと、この奇行を目の当たりした父が急いで止めに来ているのだ。

 

だけど、そんな事はどうでもよかった。

今、ここにいる少女以外に俺の、全ての価値はひっくり返ってしまった。

 

「…なんで。」

 

少女は、特徴的な弧を描くような白い髪を、その鹿毛の景色に浮かべでいた。

まるで、三日月のようだ、そう思った。

 

賢さというものは声から分かってしまうのだろうか。

少なくとも、発せられる疑問の声からは、年不相応な落ち着きが含まれていた。

 

今までの人生で、今ほど必死になってることは無いと断言できた。

必死に呼吸を続けながら、少女に伝えるべく、声を引き絞る。

 

「…っはぁ、はぁ…。おれ、俺の、俺に…」

 

その日から、確かに俺の日々は変転をした。

灰色の日々は、唐突に少女を中心として彩を戻し、それが失われるまでの夢のような日々が始まったのだ。

 

レースが嫌いだ。だけど、

 

「君の走りを…見せてくれ!!」

 

こんな輝きがあるのなら、少しは夢見てもいいかもしれない。

 

例えそれが、覚める事の想定されてない、幼稚で、馬鹿げた夢であっても。

 

空は、確かに青かったことを覚えていた。

 

ーーー

 

秋というのは、どこか愁いを感じてしまう。

それを美しいと判断するか、悲しいと思うかは人それぞれだが、そんな秋に俺は親近感を覚えていた。

 

秋が好きである、という事だ。

 

「……。」

 

秋になると言うことは、冬が近づくという事だ。

太陽と地球の傾きにより、昼は短く、夜の足が早くなる。

 

暗い夜の中、机の上に置かれた人工的な灯と、薄く自分の顔を照らすパソコンのブルーライトがトレーナー室を照らしていた。

 

「…はぁ。」

 

普段なら、カタカタとなるキーボードの音は、妙な間隔をおいてどこか不安なリズムだ。

 

ため息をついて、キーボードに無気力に置かれた手を、一旦自分の首の後ろに移す。

 

自分の掌と、椅子の背もたれにもたれ掛かるように、少し天井を見上げて、考える。

 

思い出すのは、暑い夏の日。

ルドルフのデビュー戦を見に行ったあの日だ。

 

観衆の目が集う中、自分と彼女のやり取りを思い出す。

もとから感情的であることは把握していた。

 

気性が荒いとは本人の弁であり、日常での彼女の様子を見ても、大人しい方で無いことは理解出来た。

 

しかし、それは自分ではなく、彼女の方だ。

 

『勝てるよ、いや、勝たせてみせる。』

 

柄にもなく、感情的になる声の自分が居た。

 

思い出すと、少し恥ずかしくなって首を支えている手を片方頭に当て、髪を掻く。

 

何で、あんなことを言ったのか、自分でも理解が出来ない。

 

いや、動機は分かってる。

 

キュー、クエスチョン、勝たせると言え。

 

エー、アンサー、勝たせる。

 

至極簡潔で、理論的な回答だ。

その回答者が自分でなく、解答用紙が紙でなく自分の担当に伝えてる事を除けば。

 

「はぁ。」

 

今度は、思い出してその恥ずかしさを誤魔化すように息を吐き出す。

 

トレーナーとして、自分の担当を勝たせると宣言することの何がおかしいか。

 

そう、自分に言い訳をする。

 

あの後、結局信号は赤に再び変わり、我に返り周りからの視線に気づいた俺達は、お互い妙に距離を置いて、目線を少し下げながら帰りの便を無事掴んだ。

 

「いや、ちょっと、その…。」

 

帰り際、彼女を学園のウマ娘寮へと送り、別れる時、何かを言いたげに口籠もる彼女であった。

 

きっと、彼女からしても衝動的だったのだろう。

頬を恥ずかしそうに赤くして、指をワナワナと震わせながら立ち尽くす彼女の姿は新鮮であった。

 

「はぁ。」

 

そして、そんな彼女を思い出し、また、ため息が零れる。

 

うだうだと考えても仕方ないと思い、トレーナー室の時計を見ると、何時の間にか0時を超えていた。

 

キーボードに再び左手を置き、ディスプレイを再び睨み返し、右手でファイルを開き、置く。黄色である。

 

黄色のファイルの表紙には、彼女の名前が。

中身には、ここ直近までの成長の様子を細かに記録してある。

 

パソコンでは、その情報をもとに、今後の彼女の育成トレーニングの検討や、数値的な計算を行っている。

 

そして、その数値こそが今の俺を悩ます原因の一つでもある。

 

今日も、トレーニングであった。

8月のルドルフの仕上がりを見て、それからの練習を練り直した。

 

後半での差し合いで土俵に上がれるよう、筋力を。

 

距離の長いレースになっても適応できるよう、スタミナを。

 

そして、そんなレース展開に着いてこれるよう、強靭な脚と精神を。

 

様々な角度で、ルドルフを仮想敵として据えたトレーニングを、ここ何週間も行ってきた。

 

その結果、彼女の能力は上昇をした。

日々のトレーニングの中で、確かな実力と知識を積み上げている彼女である。

 

そう、実力は向上したのだ。

 

ここまで、一見何も問題が無さそうに思えるだろう。

事実、彼女に起こった変化は前向きなもので、自分の担当が強くなった事をシンプルに喜ぶべきかもしれない。

 

しかし、その上がり幅が異様なのだ。

 

パソコンの画面には、彼女の成長度を数字に変換し、さらにグラフで表したデータが表示されてる。

 

ちょうど、8月を超えたあたりから、そのグラフの線が急激に形を変え始めた。

 

本来、トレーニングを行っての成果よりも、何倍よりも高い能力の上昇量。

 

自惚れでなければ、俺は自身の分析力が高いと自覚している。

 

その上で断言できた。この結果は異常だと。

いや、現在彼女の同期で彼女よりも強い、ステータスの高いウマ娘はいるだろう。

 

しかし同時に、現在で彼女より成長速度の速いウマ娘はいないとも断言出来る。

 

そしてこれは、ルドルフを超える事を目標としてる彼女と俺にとって喜ばしいことである。

 

現状、ルドルフと大きな差がある彼女がそのままのペースで成長を遂げても、ルドルフも同じよう成長をするのだ。

 

勿論、その差を極限まで詰めきって勝てるようにするのが俺の仕事であるのだが。

 

そう、俺の仕事であるからこそ、今この状況に苦しめられているのだ。

 

仮にだ。このまま彼女がこのペースを維持し続け、皐月賞まで乗り切ったとしよう。

 

この異常な伸び幅から考えると、ルドルフの成長が予想通りであるのならば、彼女にも勝機は十分以上にあるだろう。

 

だが、これが続けばの話だ。

 

ここ数日間彼女とのトレーニングや、作戦会議では表向き平静を装っているが、放課も過ぎ、夜が訪れると俺はこの部屋で何日もパソコンと睨めっこである。

 

そう、原因が分からないのだ。

 

ウマ娘の生態や、特徴。コンディションの素晴らしい時のウマ娘の身体に起きる変化等、養成学校で培った知識では全く解決が出来ないのだ。

 

今の現状、ここ最近の伸びを前提にしてトレーニングを組む方が効率も上がるし、そうすべきだろう。

 

だが、この右肩上がりのグラフが明日急に下がり始める可能性を考慮しない訳にはいかない。

 

今夜徹夜で今の彼女の調子を存分に活かしたトレーニングメニューを組んだとして、肝心の彼女の調子が下がっていたら、そのトレーニングの効果は十分に発揮されず、かえって身体を痛めてしまうだろう。

 

だから、今俺がするべき事はこの好調の原因を調べる事、そして、その情報をもとに効率的なトレーニングを組むことだ。

 

そうして、俺は机に積み上げられた何冊もの参考資料の中から一冊をつまみ上げる。

 

もう何度見た資料の中身に目を通しては、ため息をつく時間が過ぎていく。

 

気づくと、時間は長くを過ぎていて、脳も眠気を訴えてきていた。

 

一刻も早くこの原因を突き詰める事が最優先だと分かっていても、体の変化には抗えない。

 

一息着いた後、とりあえず今日はやめにしようと、既に組んである明日のトレーニングメニューに目を通してから、椅子を立つ。

 

ずっと座っていたからか、ごきり、と背中の辺りから音が聞こえる。疲労の音である。

 

トレーナー寮に戻るのも面倒で、ソファで寝てしまおうかとも思ったが、そのソファが彼女のお気に入りである事を思い出す。

 

流石に、現役女子学生が普段から愛用するソファを、成人済み男性が寝床代わりとするのは如何なものかと考え、結局さっきまで座ってた椅子に腰掛け、バッグからアイマスクを取り出す。

 

最近は、ここで寝る事も増えてきたため、常時鞄に入れてる市販の使い捨てアイマスクで目を覆い、眠ることに努力する。

 

寝心地は最悪だが、仕方がない。

不健康だが、不健康な事が出来てるうちは健康と言えるだろう。

 

そう言い訳をして、俺は頭の片隅でグラフを思い浮かべながら、眠りについた。

 

ーーー

 

「トレーナー、臭い。」

 

朝、最近は習慣化して来た朝の練習を行うため、第3グラウンドを訪れていた。

 

そして、後になりやって来た自分の担当が訝しむような表情を浮かべた後、鼻を動かしたかと思うと、開口一番そう言ったのだ。

 

「…臭いか。」

 

他者からの評価を過敏に気にするたちではない。だけども、若い学生の女性にそれを言われるのは、少し、いや、かなりショックである。

 

臭い。客観的に考えれば、俺及び俺の身辺から不快な匂いがしたということだろうか。

 

「うん、結構ね。なんか、苦い匂いがちょっと腐った感じ。」

 

ウマ娘は、五感がヒトよりも優れている。そのため、自分ではそこまで感じなくとも、彼女等には感知される事もあるのだ。

 

確かに、ここ数日間は彼女とのトレーニングを終えると昨日のようにトレーナー室に籠りきりになっていた。

 

普段から入らない訳では無いが、シャワーを浴びる頻度も減っていた。

 

苦い匂い、と言うが恐らく毎夜飲んでるコーヒーの匂いでもついたのだろう。

 

「あー、すまない。次に君に会うまでには匂いを落としておく。」

 

しかし、これは単なる清潔感の問題でもない。行き過ぎた悪臭はウマ娘の体調にも関わるし、俺は吸わないが煙草などの匂いが出るものも学園内だけでなく、勤務に関わる場面や時間なら原則禁止だ。

 

俺の返事に、彼女がその目を吊り上げてこちらを覗き込むように表情を伺う。

まるで、何かを怪しんでるようだ。

 

「…ねぇ、トレーナー。」

 

そうして、彼女は何かに勘づいたかのように言った。

 

「最近、トレーナー室に籠ったりしてるでしょ。」

 

ビンゴである。

思わず、身体が動きそうになるのを抑える。

 

「やっぱりね。」

 

しかし、俺の隠蔽も虚しく、彼女にはあっさりとバレてしまった。

何故だろうか、彼女には時々メンタリストの側面を感じる。

 

「…その通りだ。ここ最近はトレーナー室で過ごす事が多い。」

 

どう言い逃れようか、トレーナー室での睡眠等、生徒でも理解出来る違反行為である。

 

そもそも、トレーナーは与えられたトレーナー寮で寝るべきなのだ。

これは、ウマ娘生徒に置き換えるなら、外泊届けを提出せず無断で一夜を過ごした様なものだ。

 

「まぁ、私はそこまで規律に厳しく言う様な出来たウマ娘では無いので。で、何でそこまで夜遅くまでいるの?」

 

彼女は、呆れたようにこちらに視線を向けながら、そう言うと、なにかに気づいたように目を見開いた。

 

「ん?という事はトレーナーはトレーナー室で寝てるのよね?」

 

彼女は確かめるように言った。

 

「ああ、そうだが。」

 

俺の返事に少しづつ何かに勘づいた表情を浮かべる彼女。

 

「…って言うことは、トレーナー、寝る時は私のソファで…うわぁ。」

 

少しづつ気付いたような彼女の声は、確信に変わると、今度はドン引いたような表情と声を出した。

 

不味い。いらぬ誤解を産んでしまった。

このままでは俺は自分の担当に変態の烙印を押されてしまう。

 

そして自分が犯罪者として裁かられる所まで想像して、俺は焦って声を出した。

 

「ち、違うぞ!俺は君に気を使ってソファは使わないようにしている。昨日だって作業を終えた後は椅子を寝床にしたさ。」

 

俺の必死の弁論が彼女に届いたのかは分からないが、それでも彼女は表情を変えず、まるでゴミを見るような目付きであった。

 

「…変態。」

 

どうやら、俺のトレーナー人生はここで終わるようだ。

幸運を、なんて送り出してくれた秋川理事長になんて説明したものか考えてると、彼女は声色を変えて言った。

 

「なーんて、冗談よ。別に、大して気にしてないわよ。」

 

冗談。辞職の危機を乗り越えたことで、思わずほっとする。彼女は同年代の子と比べて大人っぽい顔立ちをしているため、冗談すらも本当に思えてしまう。

 

ふふっと笑う彼女の顔に険しさは無く、正しく悪戯が成功した表情を浮かべる彼女の姿があった。

 

その姿に、樺咲先輩が頭を過り、それが何となく腹が立ったので、誤魔化すように言った。

 

「冗談でもよしてくれ…心臓に悪い。」

 

ここ最近、このようなやり取りが増えた気がする。彼女が楽しい分にはいいのだが。

 

学生時代、大した青春を謳歌してこなかった俺にとって、彼女等学生のノリには振り回されるばかりだ。

 

「ごめんなさいね、でも、作業をしてるのは本当なのね。」

 

切り替えるように彼女は言った。

 

作業の事、特に言う必要も無いと思い、彼女には伝えていない。

 

といっても、彼女の好調を彼女自身に伝えることで近頃の伸びが絶えることを危惧して意図的に伝えていない。

 

それに、何となく調子がいい事は彼女自身も自分で理解してるだろう事が普段の言動から分かる。

 

ウマ娘は、思ったよりも普段の姿にコンディションが現れやすい。

 

耳なり尻尾なりで判別はつきやすいので、覚えておいて損は無い。

 

「あぁ、今の君の状態についてね、現状まだ分からない事もあるからな。」

 

そのため、直接は伝えないよう暈して伝える事にした。

 

「分からない事、ね。何でもいいけど、それで睡眠時間を削ったりしちゃ損よ。」

 

また、言い当てられた。睡眠時間が減ってる事も彼女には伝えていないはずなのだが。

 

「損では無いだろう。君を勝たせるんだ。それ位やらなくては。」

 

事実、成長期を終えたこの身体で睡眠時間をさほど気にする必要も無いだろう。

いや、睡眠は仕事のパフォーマンスをあげるのに必要であるのだが。

 

「…。」

 

しかし、何故だろうか。

俺の言葉を後に、彼女は急にポカンと口を開く。

 

何か、おかしな事を言ったろうか。

 

「どうかしたか?」

 

体調がおかしいのなら、心配である。それに、これまでの好調にも繋がるかもしれない。

 

少し不純でもあるかもしれないが、今の彼女の変化は貴重だ。少しでも情報が欲しい。

 

「な、何でもないわよ。」

 

そう言う彼女は恥をかいた時のように頬の色と声色を少し荒らげてそう言うと、背を向けた。

 

何か、彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか。

 

「…まぁ、良い。よし、じゃあ、今日のトレーニングメニューだが…」

 

それから、朝練も終え、いつも通りに彼女は授業に、俺はトレーナー室へと向かった。

 

体調に変化はなく、むしろ、昨日よりも質の良い練習が出来たように感じた。

 

一体、何が彼女の体に変化を与えているのか。

一日中悩んでみても、分からなかった。

 

女子学生の心情とは難しい。

 

 

 

 

 




向窓トレーナーのヒミツ①
実は、自分では冷静で感情が表には出ないと思ってるが、結構表情に出やすい。

投稿時間は何時がいい?

  • 朝(6:00〜8:00)
  • 昼(12:00〜14:00)
  • 夕方(16:00〜18:00)
  • 夜(19:00〜21:00)
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