なかなか難しいです
第三話
06:05 quarter“caster”
(なんだこいつは…)
『敵』‐アサシンがキャスターの本拠地である廃病院に現れてから約2分が経過していた。
アサシンと相対しているキャスターこと土御門春虎の式神・角行鬼は本物の鬼である。
鬼。
人を超えた力を振るいしもの。だが、それほどの桁外れな力を持つ角行鬼でさえも‐眼前のアサシンを仕留めきれずにいた。否、圧倒されかかっていた。
アサシンが右手の剣を角行鬼へと投げつける。
角行鬼はそれを見切り、完全によけるがアサシンは驚異的なスピードで即座に詰め寄り、どこからか出した右手の剣三本を爪の様に持ち、横なぎに振るう。
「ッ!」
角行鬼は腰を反り、すんでのところで躱し、即座に拳を突き出す。
拳はアサシンの体に文字通り突き刺さった。通常ならこの時点でアサシンは戦闘不能となり、撃退に成功したことになる‐はずだった。しかし。
「…またかよ、クソが」
アサシンは角行鬼の腕を掴み、凶悪な笑みを浮かべる。
さらに驚くべきことに、角行鬼によって完全に破壊されたはずのアサシンの体が、再生していくのだ。
そう。
角行鬼が苦戦した理由はただ単に、アサシンの体術が人間離れしていることだけでない。
この『再生能力』こそが角行鬼が苦戦している原因だったのだ。
アサシンが剣を振り上げる。
(マ、ズッ)
いくら角行鬼が鬼であっても、その耐久性にも限度がある。
アサシンの刃が角行鬼に今まさに当たろうとする、その時だった。
「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ!」
凛とした声が響き渡った。
それと同時にアサシンが動きを止める。
不動金縛りの術。
術を放った春虎の元いた世界では対処法が確立していることから、強敵との戦いではあまり効果がなかったこの術だが、対処法を知らぬアサシンに対しては、大きな効果を与えた。
「さて…俺たちも来たばっかりで混乱してるんだ。‐このまま2対1で戦うか、逃げるか。どっちにする?」
春虎が呪符を取り出し、構えると、
「ぬぅ…」
とだけアサシンは唸り、無数の紙をばら撒く。
それだけでアサシンは闇へと消えていった。
「…来るのが遅えぞ」
「悪いな。こんなに苦戦してるとは思わなかったからさ」
「…皮肉か?」
09:00 quarter“rider”
「おおっ!この世界にもあるじゃねえか!やっぱりマッグは偉大だな!」
自転車であるデュラハン弐号を巧みに(?)乗りこなすライダーこと真奥貞夫は元の世界で自身も働いていた大手ハンバーガーチェーン店・マグロナルド深山町支店の前で仁王立ちしていた。
なぜ彼がマッグの前に立っているのかというと、とある重大な問題が発生したからであった。
06:00 quarter“rider”
「おなかが減ったわ。何か持ってきなさいよ下僕」
「……」
毒を吐く戦場ヶ原と、いかにもドン引きといった感じの表情で黙っている真奥。
異世界エンテ・イスラの人々を恐怖のどん底に陥れた魔王サタンは‐『監督役』からの話ののち、ただの女子高校生に下僕扱いされているのでった。
「あのなぁ…これでも俺は魔王だぞ!?なんだその呼び方は!せめて真奥さんとかでもいいからもうちょっと敬えよ!」
という真奥の切実な懇願に
「あら、知らないわよ。貴方がたとえ魔王でも勇者でもフリーターでもニートでも私のサーヴァント‐即ち下僕には違いないわ」
極寒にして冷酷無比のツンドラ少女・戦場ヶ原ひたぎは揺るがない。
「違うわ!あと俺はニートじゃないし、勇者とか言語同断すぎだッ!」
「フリーターは否定しないのね」
彼らの共通点。それは。
あまり裕福ではないこと。
というかむしろ彼らは二択で選ぶと貧乏のカテゴリーである。
加えて真奥は給料日直前だったのだ。
片や給料日前の貧乏フリーター。
片や莫大な借金を抱える家の一人娘。
これでお金を持っている方が逆に不自然である。
ここ、冬木市は幸い真奥が元居た世界とは違い、『魔法』の概念があるらしく、魔力を補給することによって、真奥が飢えることはあり得ない。
しかし、ただの女子高校生である戦場ヶ原はそうもいかない。
そして彼女の空腹は六時の時点で既に限界に達そうとしていた。
働かざる者食うべからず。
日本人にとってはとても馴染みやすいこの慣用句の意味通り、物を食べるには働くことで得られるお金が不可欠である。
実際には魔力を使って食べ物を盗むこともできるのだが、真奥はそれを良しとしない。
不幸にも、一緒に転移してきた機動デュラハン参號には燃料が入っておらず、動かすことができない。
真奥はデュラハン弐号で人力でバイト先を探すことになったのであった。
09:30 quarter“rider”
マグロナルドを見つけてから僅か三十分。
真奥は早くも接客を任されていた。
真奥は催眠能力を使いうことでマグロナルド深山町支店でアルバイト出来るようになったのだ。「催眠もあまり褒められたことではないのでは?」という疑問には目をつぶっていただこう。
「いらっしゃませ!ご注文がお決まりの方から一列に並んでお待ちください!」
自称小市民の真奥はこの緊急事態においても結局労働でいい汗をかくのであった。
ガハラさんの毒舌は難しいですね
原作は少ししか読んでませんが西尾維新先生の会話のセンスには驚嘆の限りです。