超昂大戦SS ヴァルハラに咲く紅い花〜ユカ、未来への槍撃 作:環 藍河
閂市郊外の山中、その洞穴の奥深く、光も届かない深淵。
今、一人の超昂戦士が洞穴からの脱出を目指し、倒れた仲間を背中に背負い、迫りくる敵をなぎ払いながら地上を目指していた。
「こ…のっ、くたばれっ、ドブネズミどもがあっ!」
エスカリバースこと、十文字ユカ。
右腕のパルシオン・ランスはここまでの戦いと救出作戦で酷使され、必殺技、ヴァルハラ・エスカレーションを放つどころか、今や単なる重く硬いガントレットでしかない。
それでもリバースは、持てる力と技、そして精神力の極限を振り絞って、襲いかかるフーマンやクレイドの返り血をものともせず、背中に背負う息絶え絶えの仲間…エスカ・ルビーとともに、光の差す方へしゃにむに前進を続ける。
…
……
この日、ダイビートは十数人の戦士を出動させ、スポットと呼ばれる幻魔の出現ポイントの予兆を調査中だった。
そのさなか、各戦士を急襲するクレイドたち。
別々のポイントで、サファイアが、閃忍が、箱船の魔女が、反撃に成功し、調査を再開しようとしたときだった。
《た…助けてっ…きゃあああっ!!》
〘ダメっ、爆発する! …ええいっ!〙
通信はこの直後、爆発音とともに途絶える。
運悪く、幻魔から逃げ遅れた女の子をかばいながらの戦いになってしまい、反撃の手が鈍ってしまったのは、エスカ・ルビー。
遂に追い詰められ、洞穴の入口を背に、二人は三方を囲まれる。
にじり寄るクレイドは、自爆攻撃型。
やむなくルビーは、残る全力を振り絞ったストライク・エスカレーションでクレイドを吹き飛ばし、すぐさま反転。
少女を抱きかかえて洞穴へと飛び込む。
他にも何体か、自爆型クレイドがいたのだろう。
誘爆が重なり、その爆風は幾度も幾度も、少女をかばうルビーの背中を焼き払った。
「『きゃああああっっ!!』」
そして、洞穴は落盤を起こす。
…
……
「お…おねえちゃん…。」
「ぶ…無事だね…、良かった…。
…あっ、うぐううっ!」
少女は全身を強く打つものの、かばったルビーのおかげで、命に別状はない。
だが、無事と引き換えの、ルビーの重傷。
落盤は数十メートルに及び、吹き飛ばされた二人はそのまま、岩盤に閉じ込められてしまった。
通信端末をランタン代わりに灯し、夏でも氷点下の地下で凍える女の子を抱きしめて温め、自身は残り僅かのD2エネルギーで命を保つルビー。
(今の私じゃ…出口を塞ぐ岩を…どかす力は…残ってない…。長官が救出部隊を出して…ここまで掘り進むには…一昼夜はかかる…かも…)
背中の熱傷で、ルビーのスタミナもギリギリ。
襲う絶望感を必死に振り払い、仲間を信じる。
…
……
地下牢に二人が落ちて、もう数時間。
少女はルビーの献身の甲斐あって、恐怖と極寒に耐え、束の間まどろむ。
だがルビーはもはや痛覚も麻痺し、自らの体温もバイタルも限界に。徐々に酸素も薄れ、このまま何時間も持ちこたえるのは困難。
今や、薄れる意識を保つのが精一杯だった。
(あきらめ…ない…っ…)
…ずしん。……ずしん。
(…あっ…。)
どがっ…どごおっ…!
(…これは…?)
地響きが少しずつ大きくなる。
天井から粉塵が降り注ぎ始め、遂に。
ズガガガガッ、ドガーーーン!
二人を幽閉する岩戸に、遂に亀裂が入り。
砕けた瞬間、光と風が差し込む。
「おいコラ、ルビー! くたばってんじゃねえぞ!」
「…まだ、生きてる?」
救出部隊とは思えない物騒な物言いで、にじり口ほどの岩盤の隙間から語りかけるのは、チーム・リバースの二人。
レスキュー機能を持つダイビートの救援部隊を派遣しての救出には時間がかかりすぎると判断したトキサダは、近隣で救出能力を持つエスカリバースとハルカリバースに、ルビーの救出を指示していた。
「ったく、オレのパルシオンは削岩機じゃねえっての」
「…そう言いながら、堂に入った杭打ちぶりだったけど」
「ああん? 言ってろ!」
「ユ…ユカさん…春霞さん…」
「…ああ?」
「この子が…かなり、衰弱してます…」
ルビーが抱きとめた小さな少女は、エスカリバースが開けたばかりの小さな穴でも通せる。
「おら、引き上げてやっから、ガキのケツ、そのまま押し込めっ!」
「お…お願い、します…! 1、2、3、」
「『せえいっ!』」
ルビーとエスカリバースが、合図で少女を狭い穴からリレーする。
「よし、春霞、こいつ先に連れ出せ。」
「…貴女も、早く。」
「おっしゃ、ルビー! てめえも離れろ!」
「…あっ、はひゃっ!!」
慌てふためきながら、後ろでんぐり返りのように後ずさるルビー。
「ヴァルハラ・エスカレーションっ!」
僅かな助走から、右手の槍状に伸びるガントレットを振り抜くエスカリバース。繰り出す螺旋の旋風が、ルビーたちを囚われにした岩扉を粉砕し、跡形もなく吹き飛ばす。
「よし、ルビー、立てるか…?」
「…ありがとう、ございま…す…」
這いつくばり爆風を逃れたルビーだが、背中の熱傷と、少女をかばうために自らが極寒に耐えたダメージが大きすぎた。
チームリバースの到着と、少女を護り抜いた安堵の中、ルビーは意識を消失した。
「けっ、だらしねえ。」
エスカリバースは毒づきながら、息絶え絶えのルビーを背負い、洞穴の脱出を目指す。
だが。
「しつっけえんだよ、このドブネズミどもがああっ!」
洞穴を出口までびっしり塞ぐ、クレイドとフーマンとザイン。洞穴の入口は、応援に駆けつけたサファイアや魔女たちがガードし、敵を寄せ付けないのだが、スポットがよりによって洞穴の中に直接生まれてしまった。
既にそこかしこに転がるフーマンたちの残骸は、救出の際にユカを掘削に専念させるため、春霞が討ち倒した分と、少女を救出するための脱出中にやはり春霞が倒した分だろう。
それでも虫の如く湧いて次々に行く手を塞ぐ敵は、雑魚とはいえ、数でユカたちをねじ伏せんとする。
ぼんっ! バリバリバリバリッ!!
「ぐああああーーーっ!!」
パルシオン・ランスが爆煙を上げ、漏れたエネルギーがユカの右手から全身を貫く。
無理もない。
岩盤を砕き続け、数時間ひっきり無しに酷使したパルシオンは、とっくに耐久限界を超えていた。
「ぐうっ…畜生っ!」
それでも、ユカはパルシオンを放さず。
小回りの利く左手のクローで、敵の喉笛を掻き斬り、みぞおちから臓腑を引き裂き、眉間を眼球ごと貫く。
急所攻撃で怯ませては、蹴りで、体当たりで、頭突きで岩壁へ突き飛ばし。
もはや金属塊でしか無くなったパルシオンの尖端を突き立て、一体、一体、とどめを刺して行く。
その紅き羅刹の勢いに、本能的に怯むクレイドが、一斉攻撃に走る。
「クソがあっ!」
だが、それがかえってユカの思う壺。
位置取りを変え、数体を一直線に捉え。
「おおらああああアッ!!」
文字通り、串刺しにした。
攻撃力を失い、崩れ落ちるクレイドからパルシオンを引き抜くユカ。
吹き出すクレイドの体液は、泥水なのか血液なのか、はたまた脳漿なのかもわからない。
その右腕に、胸に、時に頭から、どす黒い液を一身に浴び、クリムゾンレッドのボディスーツと、ポニーテールのロングヘアーがその彩りを失う。
…
……
薄れる意識を時折取り戻し、背中から羅刹の大立ち回りを間近で見つめるルビー。
だが、ユカの瞳にルビーが見つけたのは…
虚しさと、哀しみ。
(ユカさん…消えちゃいそう…)
死中に活を求め、戦いの先に何かを掴み取ろうとするでもなく。
護るべき仲間のために、自分を犠牲にするでもなく。
むしろ、この戦いで自分が消えてしまうことを自ら希み、そうなるように敵の群れへ身を投じているような。
未来の見えない、ユカの拳に、爪に。
ただ虚ろに、眼前の敵を脊髄反射で捕捉する瞳に。
ルビーに流れ込むユカの虚無は、洞穴よりも、その闇夜よりも、遥かに深く、昏く…。
…
……
浴びに浴びた汚れをシャワーで落とし、談話室でソファーへ体を預けるユカ。
戦闘のアドレナリンが引いた今も、その心にはさざ波が立ち、ユカの心の奥深く、敏感なところへ繰り返し打ち寄せる。
「ユカさん…生きて…ください…。」
洞穴からの撤退救出中。
背中越しに聞いた、ルビーのうわ言だった。
(助けられてんのは、てめえだろうに…。
そんな虫の息の奴からも、オレは死に急いでるように、見えたんだろうな…。)
おばんです。筆者の環藍河より、ご挨拶申し上げます。
今回はエスカ・リバースとルビーのふれ合いから始まる、十文字ユカの物語を、前中後編+閑話の4話構成でお送りします。
「【活動報告書】新たなる超昂戦士たち」シリーズに単話で入れてもおかしくないSSですが、4編それぞれ意味を区切って書くことになりましたので、単独の4話連載形式で参ります。
エスカリバースを中軸にSSを書くことは決めていたのですが、書き始めたストーリーが途中で座礁し、3本くらいボツになっています。その難産の末、うまく纏める要素が執筆途中で2つくらい降りてきて、何とか形になりそうです。
中編以降のあらすじができている通り、すでに全体形は固まっています。可能ならば4夜連続掲載できるよう、練り込んで参ります。
それではまた、中編でお会いできますことを。