超昂大戦SS ヴァルハラに咲く紅い花〜ユカ、未来への槍撃 作:環 藍河
ネタバレになってしまう方は、原作メインストーリー閲覧後にお読みいただくことをお勧めします。
…
……
護りたかった。
鉄臭い返り血と、薄汚れた獣の汗と、よだれと、臭い鼻息とにまみれて。
それでも、汚れきったこの身だけど、いつか再びあの人のもとへ。
昨日も今日もその先も、それだけを希い、更なる汚濁の中に身をやつした日々。
弱かった。
あるときは卑劣な敵に屈し、囚われ、蹂躙され、軍に救出され。
しかし味方のはずの軍からも嘲り笑われ、もう一度背中から蹂躙され。
二度の涙をシャワーで隠し、それでもまた屈辱の地へ立った。
倒れて、汚されて、辱められて…それでも。
今はビデオフォンで、かろうじて絆を繋ぐだけでも。
ただ一人の護りたい人を胸に想い、戦い続けた。
それなのに…!
その日、私はまた敗れた。
目覚めたのは病院のベッド。
(…ここの、ICUだよな…)
包帯の拘束をかなぐり捨て、松葉杖ももどかしく、ユカは最上階を目指す。
ああ、逢いたい。
肌も髪も汚濁に染まり、心もどす黒く淀み。
もう無垢でも純粋でもない、私だけど。
やっと。やっと。
辿り着いたICUは、空っぽ。
その前にたたずみ、ユカは与えられた通信端末でビデオフォンをかける。
「なあ、頼みがある。窓の外を…お前が見てる景色を、見せてくれないか?」
空っぽの部屋で、無人カメラがモーター駆動し、画角を窓へ向ける。
映り込むユカが、ユカの端末に像を結んだ。
(あ…あれっ? ユカが…ユカが…マドニ…?)
馬脚を露わした画像の人物は、バグってフリーズ。
たちの悪い、ディープフェイクのAI画像だった。
全ての血液が凍り、逆流する感覚。
あの人は、もう、いない。
…
……
『仕方ないじゃないか!
お前の男は死ぬ運命にあったんだ!
むしろ我々はよく延命させた方なんだぞ!!』
〘事切れて、馬鹿正直に話す奴があるか!
めそめそ泣く時間さえ許されねえんだよ!
奴等に滅ぼされたら、全てが終わるだろうが!〙
…隠蔽がバレたことを知った国防軍の科学者たちが、ビデオフォンに強制割り込みして、弁明と逆切れをわめいているが、耳には入らない。
今際の瞬間さえ、知ることが叶わなかった。
さようならの一言さえ、伝えられなかった。
たったひとつの希いさえ、奪われた。
共に地球を、人類を、同胞を護るはずの人間によって…!
私に…いや。
オレに弔いの一時すら与えず闘わせ続け、侵略者を根絶やしにさせて、軍と人類が生き延びる未来を作る。
軍のクソ共は、てめえらが生き延びたいだけの屁理屈を、君の為だ、人類の為だと、おためごかしで正当化。
ほざけ。
お望み通り、ダイラストはまず、ぶっ潰す。
お前らさえ来なければ…。
そして。
もう、人類はどうでもいい。勝手に生き延びろ。
だが、国防軍よ。
保身とムラ論理で腐った頭と、
頭に盲従して、よろしくオレを慰み者にし続けた、豚みてえな図体の下っ端と。
侵略者さえ消し飛べば、無条件で自分達は生き延びられる…ああ、都合のいいこったなあ。
だったらそのお花畑な思考回路、脂ぎった禿頭ごと、風穴開けてミンチにしてやるよ。
…
……
「な…何だこの破壊力、このスピードはあ!」
「ありえん! 従来のエスカレイヤーのデータから、乖離しすぎている!」
「こんな…こんな急激なパワーアップ、個体の耐久値が保つものか! 自滅前提か…!?」
「そんなことは、どうでもいい!
止めろ! 誰でもいいっ、止めんかあああっ!
…あ、ああっ、ぐああああっっ!!」
【…ほどなく、修羅と化したユカの単騎吶喊によって、侵略者・ダイラストは壊滅した。】
【だが。
返す刀をユカが突きつけたのは、国防軍。
そして、軍を牛耳った政府。
さらには大政翼賛で軍をけしかけた国会議員たち。
…総理大臣以下、与党野党関係なく。
全て、すべて、槍と爪の錆と消えた。】
【その後、青い地球を護った紅き戦士の姿を見た者は…いないとされている。】
…
……
こっちの世界は、生ぬるく。
アルダークとやらの侵略もろくに進んではいなければ、国防軍も前の世界のように、瀬戸際へ追い詰められ、超昂戦士を徴兵して酷使する様子も無い。
じゃあ、どっちも知らないわけだ。
戦場の狂気が、人をモノ扱い、犬っコロ扱いさせ、オレみたいな異物を…劇毒を作り出すことを。
オレの同一存在は、別の地球では勝ち組になったと聞いた。
良かったな。敵も自軍もお花畑で。
その同一存在に憧れ、そいつみたいになりてえ、と言って戦士を志願し、エスカを名乗るひよっ子ども。
お花畑でコスプレしたくて、のこのこ戦場まで遠足ってか。
バカか。
だから、暴れる。
こいつらまとめて、オレの見た汚泥まみれの世界に引きずり込んでやるよ。
ディストバーンは使うだけ使ったら、いつでもぶちのめせる。せいぜい今のうち地球征服でも妄想しておけ。
国防軍は、また眼の前に呑気に出てきやがったら、真っ先に潰す。
エスカレイヤーは…アルダークが飛ばしちまったからな。また出てきたら、虐め抜いて這いつくばらせてやる。
その前に、ダイビートのエスカチームか。あのコスプレ野郎…とりわけ、あの赤い奴のカマトトぶりには、ヘドが出る。
エスカ・ルビーって言ったな。
正義だ、仲間だ、護るんだ、なんて砂糖菓子みてえなことを二度と言えなくなるまで、
潰して、砕いて、ぶち抜いて。
その甘ったれた精神、へし折ってやるよ。
…
……
そんな粋がりも、長くは続かなかった。
ワケのわからねえエネルギーを無理やりねじ込まれ、オレは暴走。
挙げ句、あれだけ侮っていたルビーが、捨て身でオレを助けに入り、暴走を止められ、ダイビートに担ぎ込まれるなんざ…かっこ悪ぃ…。
それからは…気まぐれで。
気まぐれで、ダイビートで戦士ごっこの片棒を担いでる。
…仕方ねえ。
助けられた借りは、まだ返してる途中だからな。
返済相手のルビーも…オレが何をやっても、何を言っても、嬉しいだの、ありがとうだの…鬱陶しい。
…正直に言えば、悪くねえ。
どいつもこいつも、利用できるか屈服させられるか、その二択でしかオレを見てこなかった、あの世界に比べれば。
…でもよ。
『悪くねえ』は、『良い』じゃない。
こんなぬるま湯で、来る日も来る日も、くたばりかけのババアみてえに湯治の日々。
…命は、ある。
でもよ…。
…オレは、生きてねえんだろうな。
おはようございます。筆者の環藍河です。
今回は閑話として、エスカリバースの別世界での戦いから、ダイビートに合流してからの経緯と心情の描写をお届けします。
原作をしっかり読まれている方には「今さら?」「クドい!」とお叱りもあるかも、ですが、再定義は重要、ということで。
前編・中編・閑話とお届けしました、このSS。次回(今晩または翌朝)、完結の後編をリリース予定です。
本来の意味での「後書き」も、その際に。それではまた。