超昂大戦SS ヴァルハラに咲く紅い花〜ユカ、未来への槍撃 作:環 藍河
ダイビートのスポット調査ミッションが完了し、ルビーと少女を救出した、その夜。
まどろむユカは、記憶の空の下にいた。
思い出すことさえ忘れていた、最後の日。
〘変だな…昨日もその前も、ずっと毎日見てきた、夕焼け空のはずなのに…今日はずっと綺麗だ…〙
『ああ…俺たちが小さい頃から、変わらない空だ…。』
ユカの隣にいるのは、在りし日の柳瀬恭一。
幼なじみであり、将来を誓った二人は、しかし明日、別々の道を往く。
恭一は集中治療室へ、ユカは国防軍へ。
〘恭一…私、本当は…〙
『その先は、言っちゃダメだろ。オレじゃ、もうお前の力にはなれないんだ。』
〘力なんか…あんな力なんかより、私は…!〙
『ごめんな。もうじき、こうやってお前の隣を歩くことさえ、難しくなりそうなんだ。』
〘そんなこと…絶対に無い! そのために特別入院するんだろ!
恭一…勝ってよ! 病魔になんか、負けるな!〙
『ああ…それじゃ、ユカも勝て。ダイラストなんかに、負けるな。そのための国防軍入りだ。』
〘…その言い方はズルいぞ。〙
『ユカ…お前は不器用だからな。小さい頃から、みんなにキツい奴って誤解されて、味方も寄り付かなかった。』
〘…放っといて。
じゃあ、何で恭一は寄り付いたんだよ…?〙
『でも…お前のそのキツさは、みんなを護る、強い決意の力だ。
ユカ…みんなを護るお前が、俺は世界中で一番、大好きだ。
だから…どんなにひどい戦場で、お前がひどい目に逢って、今のままでいられなくて、どんなに変わってしまっても…
俺は絶対に、今日の不器用なユカを、忘れない。怖がられても嫌われても、踏まれても倒れても、真っすぐ立ち向かうユカを…ずっと忘れない。』
恭一には、わかっていた。
明日からのユカの戦場が、筆舌に尽くし難い悪辣な世界であることを。
侵略者は日々、残忍さと狡猾さを増し、あらゆる責め苦でエスカレイヤーを捩じ伏せようと襲ってくる。
国防軍は、帰投するたびにユカにDチャージを強要するだろう。戦車に燃料を満タン補給するのと同じ感覚で。
そんな狂気の泥沼に、ユカを突き出さなければならない不甲斐なさを悔やむのは、誰より恭一であった。
想い人を戦場に送り出す男が、何の痛痒も感じず平気なはずがない。
それでも…地球の戦況が日に日に悪化している今、送り出す言葉は。
『ユカ…必ず、帰って来い。
どんなに傷ついても、どんなに汚されても…、
俺はお前を、変わらずに、待ってる…!』
せめて、ユカの帰る場所を示すことだった。
…ユカにも、恭一の無念が、痛いほどわかっていた。
だから、絶対、泣かない。
ダイラストなんか一撃でふっ飛ばして、こんな簡単なミッション、とっとと終わらせてやるから。
…泣いてしまったら、永遠の別れになりそうだから。
最後のキスを、切なく重ねて。
最後のデートは、迎えの国防軍隊員により、終わりを迎えた。
…
……
(…んっ…?)
いつしか自分以外、誰もいなくなった談話室。灯りも落とされ、全てがぼんやりと像を結ぶ。
(…チッ、このオレが寝落ちか…。
それにしても…未練がましく、まだこんな夢をみるのか、オレは…)
まどろみから醒めきらないまま、照明のスイッチへと体を起こすユカ。
一瞬、よろけて。
改めて見渡した周囲は。
拡がる澄んだ青に、茜雲のまじる空の下。
地平線はユカの四方全てに限りなく拡がり。
群生する花々が、金色を、紫を、真珠色をたたえ。
その中でユカは一人、一面に広がる紅蓮の花々の中にたたずんでいた。
「な…何だよこりゃ…。また…夢か?」
足許の花々は、燃え盛る業火のように真上に伸び上がる、細長く真っ赤な花びらを堂々と咲かせ、そして凛と涼しげな夏の草花のような香りを放つ。
「うっ…!」
夕陽ともつかない閃光がユカの視界に差し込み、思わず顔を背ける。
眼を慣らしながら、光の差す方を覗く。
一歩、一歩。
光の向こうから近づく人影に、一瞬身構えるユカ。
悲しみとも、きまり悪さともつかない、儚げな表情を辛うじて認め…
やがてユカは警戒を解き、呆然とたたずむ。
逆光の向こうでもわかる、その人のたたずまいが、仕草が、放つ波長が。
「…あ…っ、ああ…!」
堕ちきった自分には、その資格が無いと、一瞬ひるむも。
湧き上がる衝動に導かれ、
込み上げる情動に突き動かされ。
ユカは光の中へ飛び込み、力強く両腕で、心のままにその人を求める。
だが、人影は…。
足元の花と同じく、焚き上げるような花びらの、しかし汚れも曇りも無い、純白の花を一輪だけ託し。
ユカの胸の中へ、溶けて消えた。
(…えっ? きょ…恭一…?)
問いかけても、呼びかけても。
声も面影も、何も返ってはこなかった。
だが、ユカは悟る。
「ははっ…そうか。
お前…ホントに待っていて、くれたんだな…。
変わっちまった、こんなオレを…。」
託された白い花を、慈しむように確かめ、
人影が溶け込んだ、心の臓の辺りをそっと掌で包み込み、
ユカは自分の中に眠る人を、愛おしいその面影を、確かに感じていた。
…
……
明くる日、ダイビート基地に一人の珍しい客。
「やっほー、エリマルー!」
「ス…ストナっ!?」
箱船ヴィクトリア派の魔女、ストナ・ヒュッケバイン。死神の二つ名を持ち、バトルでは大鎌を振り回し死の恐怖を撒く、敵からも味方からも恐れられる存在…なのだが。
「なーんか、スポットの解析情報、うちの上層部が欲しがってさー。トキサダパパ、いるー?」
「んもー、長官くんなら司令室にいるから。その『パパ』っての止めなさいっ!」
ひたすら軽く能天気なギャル。これで伝統第一・頭ガチガチの保守勢力・ヴィクトリア派でやっていけるものか、とつくづく思う。
ともかく、ストナの背中を押し、厄介払いのようにトキサダへ押し付けようと、司令室方面へストナを差し向けるエリー。
「…なあ、エリー。一つ教えろ。」
「ユカさん? …ああ、あの子は魔女の…」
「そうじゃねえ。…その…あいつの髪飾り。」
「…? ツインテールを纏めた、あれ?」
「…あの紅い花、何て言うんだ?」
それは昨夜、ユカが立ち尽くした群生の紅い花。
「…ああ、曼珠沙華ね。」
「まんじゅ、しゃげ…」
「仏教では、お釈迦様が祝福に降らせる、紅い天界の花なんだって。日本じゃ、秋のお彼岸頃に咲くのと、毒を持ってて墓地に害獣除けに植えることから、彼岸花って呼ばれて忌み嫌われたりもするわね。」
「嫌われる、花…。」
「…花言葉、知りたい?」
「…ガラじゃねえけど、頼む…。」
「ネガティブな方だと『悲しい思い出』『諦め』。でも、『情熱』『独立』って意味も持つわ。燃えるような、空を突き刺すような紅い花びらに、ぴったりよね。」
(…そうだ、あいつのくれた…!)
「なあ、白い曼珠沙華って、あるのか?!」
「え? うん、あるわよ。」
「そ…そっちの、花言葉は、何だよ…?」
顔を赤らめ、呼吸を乱しながら、問う。
「ホワイト・リコリスの花言葉はね…」
貴方一人を、想います。
「…そうか。」
愛したあの人は、もういない。
でも。
愛されたあの日々は、確かにあった。
過去は、変えられない。
でも。
過去をどう受け止めるかは、変えられる。
『ユカ…お前は咲き続けろ。
周りに誰も近づかなくても、真っ赤な花びらを誇らしく天高く突き上げる、あの花のように…』
…わかったよ、恭一。
オレの中に、お前がいるなら。
お前の生きた証になれるなら。
オレの命、もう少しこの世界で燃やしてみるよ。
この日、十文字ユカに、生きる意味がもう一度生まれた。
…
……
「こらっ、ユーノさん!」
「あら、バレた?」
「人には超えられない過去や悲劇に、神様が介入しちゃダメでしょ! 反則ーっ!」
「私だって、勝手に彼女の想い人を偽造したりはしてないわよ。
私がしたのは、ユカちゃんが心を整理整頓するための、本棚を準備しただけ。
ちゃんとあの子は、自分の持つ過去から、自分で答えを見つけた。…それだけ。」
《時を司りし、天駆ける我が子達よ。
今、ここに在る迷い子の、
正しき時の道標とならん…》
ユーノは昨夜、ソファーでまどろむユカに寄り添い、心の深層の書庫整理を手助けた。
(けっ、余計なお世話だっての。)
ユカが知ったら、きっとそう返しただろうか。
それでも、ユカはもう、いたずらに自分の命を粗末にすることは無いだろう。
護りたい人が、その身に息吹くのだから。
…いかがでしたでしょうか。
筆者の環藍河よりご挨拶と、お読みいただけました御礼を申し上げます。
ユカは原作では第2部でも登場、希望を持って気丈に頑張っています。だけど、その前に逡巡し、心の整理があったのかな…? なんて気になっていました。
そこに、巷で話題のリコリス…しかも超昂大戦でも近日登場すると!
「リコリスって、なーに?」と調べ始めたら、
(…これ、ユカに重ねて描けるよね?)
という着想で、書き上げた次第です。
あ、来週、超昂大戦の新作ストーリーでリコリスネタが描かれる予告がありますが、大変はじけた内容のようでして…少なくともこのSSとはかぶらないでしょう、うん。
そんなわけで、本作はここまで。
また次作でお会いできますことを…!
※6月末から2ヶ月、全力フルパワーで執筆してきました。
10作以上書けるとは思いませんでしたが、いよいよガス欠かも?
現在、SSはストックどころか、プロットも底をつきました…!
マジで1ヶ月くらいブランク空くかも、ですが、
充電して必ず帰って参ります。